アコーディオンでクラシックを。ソロ演奏家の第一人者が語るロバート・デヴァイン

                                   
インタビュー
公開日時:2019/12/11
 
更新日時:2020/04/19
                       

アコーディオンの柔らかで親しみやすい音色は、人の心を解きほぐし、遠い過去の思い出、あるいは未知の国への想いをかきたてる力があります。1980年代にバンドネオン奏者のピアソラが、クラシックやジャズの要素を取り入れたヌエボ・タンゴで旋風を起こしましたが、ほぼ同世代でアメリカ生まれのロバート・デヴァインも、アコーディオンのクラシック音楽における可能性を大いに高め、広めた演奏家として知られます。R・デヴァイン、68歳のときのインタビュー。

ロバート・デヴァイン(1924~2001年)
10歳のとき、デンバーにやって来たスパニッシュダンスの一団が演奏するアコーディンを目にし、耳にして夢中になる。この楽器に取り憑かれたデヴァインは、その後、大学で出会った音楽教師たちに励まされ、この楽器では例を見なかったソロ奏者として活動を始める。また、デンバー大学レイモント音楽学校のアコーディオン学科の創設者として、長年にわたりアコーディオン教育に貢献した。

  • インタヴューアーはシカゴのブロードキャスター、ブルース・ダフィー。クラシック音楽専門ラジオ局Classical 97で、1975年から2001年まで、1600人を超える音楽家のインタビューを行ない、1991年に米国作曲家作詞家出版者協会のディームズ・テイラー・ブロードキャスト賞を受賞しています。インタビューの日本語版は、ブルース・ダフィー本人の許可を得て翻訳したものです。

*1992年4月27日、シカゴにて

 

アコーディオンは息をする楽器

ブルース・ダフィー(以下BD):あなたは自分の演奏している楽器が、コンサート用のものであって、『スペインの姫君*』のためじゃないと、どうやってわからせているんでしょうか。

*スペインの姫君:トルチャード・エヴァンス作曲による、1931年のポピュラーソング。

ロバート・デヴァイン(以下RD):多くの人がアコーディオンにできるのは『スペインの姫君』タイプの音楽だけ、と思ってるんですから、難しいことですよ。それを打ち消すには、一番いいのは、出ていってコンサート用の曲を演奏することだね。ライブで演奏したり、レコーディングしたりすること以外の方法はないでしょ。

BD:新しい楽曲以外に、編曲ものもやるんでしょうか?

RD:ええ、そうね、やりますよ。

BD:自分でも編曲をします?

RD:いくつかやったし、出版されたものもありますね。

BD:ピアノ曲やオーケストラ曲からアコーディオンにもってくることで、難しいことは何でしょう。あるいはやりやすい方法は。

RD:難しさというのは、当然ですけど、オーケストラ曲を使う場合、作品にある和声や対位法的な手法をできるだけ取り入れたいですよね。でも多くのケースで、それはできません。音楽の持つ特性によるんです。あとアコーディオンには適さない手法、ショパンのような曲があります。またバラードも、ちゃんと演奏するのがほとんど不可能なものでしょうね。

BD:どうしてです? どこがうまくいかないんです?

RD:左手でアルペジオを弾いたり、ピアノのペダルがいるようなものですね。アコーディオンはオルガンのような音色で、たとえばバッハのプレリュードみたいなね。こういう曲はうまくいきますよ、オルガン曲であればなおのことね。あまり変える必要はない。

BD:アコーディオン は、基本的にリード・オルガンですね。

RD:フリーリードの楽器ですよ、木のブロックに金属リードをセットして、振動させるとある高さの音が出ます。半音階に調律されます。リードは片方の端がしっかり固定されて、もう一方の端が振動します。その原理は紀元前300年の中国の笙*にあります。

*笙(Sheng):17本の竹管を使った中国のフリーリードの楽器。日本の笙(しょう)は奈良時代に中国から伝わったとされる。

BD:オルガンでは、空気圧を保持できるのに対して、アコーディオンでは歌い手のように息を吹き込む必要がありますね。

RD:そのとおり、100%そうです。息をします。木管楽器や弦楽器の弓のように考えてもいいでしょうね。考え方は同じです。圧によって音の性質がまったく変わってきます。リードにどれくらいの強さで空気を送り込むか、ですね。

BD:すると大きな音を出すために、空気をたくさん送り込もうとすると、違う音に移るのに時間が足りなくなるんじゃないでしょうか。

RD:さらなる空気を必要としますし、レジストレーション*にもよるでしょう。もしすべてのリードを振動させようとすれば、小さな音で演奏するのと比べて、かなりの量の空気を使います。

*レジストレーション:リードのグループ(列)のこと。音色の違い・オクターブ変化を操作する。

BD:レジストレーションとおっしゃいました。オルガンのように、違うリードのセットで演奏できる、いくつかの制御があるんですね。

RD:そのとおり。標準的な楽器では、四つのリード・セットが右手にあって、計算上、10の違うストップ(レジストレーション)が使えます。楽器に備えられているもので、自分で用意する必要はありません。

BD:右手には鍵盤状のものがあって、左手にはボタンの列がありますね。

RD:標準的な楽器の場合、ボタンは単音のバスと、コードのセット(長三和音、短三和音、属七、減三和音)の組み合わせです。

BD:すべての調で?

RD:そう。ボタンを一つ以上使えば、他のコードも出せる。一つのボタンにとどまってる必要はないんです。で、コードのバスを一音で弾いて、それからその和音をやってもいい。そういう風にかなりの響きの変化を得ることができます。フリーベースのアコーディオン、バセッティとも呼ばれてる楽器があって、右手で弾くのと同様、左手でも単音が出せます。またコードも弾けます。左手で幅広い音域が、3オクターブから4オクターブ半まで出せるんです。

by Michael Pieracci (CC BY-NC-ND 2.0) / エクセルシオールのアコーディオン(1930s)

 

幸運な出会いによって道が開かれた

BD:アコーディオンは、あなたが最初に手にした楽器でしょうか。

RD:いいえ、最初はピアノを弾いていました。そのあと、子ども時代ですが、アコーディオンに魅了されたんです。

BD:どうしてそっちに引っ張られたのか、聞きたいですね。

RD:まずは単純にその外観でしょうか、楽器の見てくれに心を奪われました。この楽器を弾いている人を見て、夢中になったんです。それにもちろん音もですけど。子どものわたしはその音を忘れることができず、どんどんとりつかれていきました。学校放送で弾いていましたし、行事でもいつも演奏してました。言うまでもなく、そういうことで人気が出ますし、そういう場で演奏することをとても楽しんでいましたね。

BD:どんなきっかけで、ポピュラーな曲からクラシック音楽の演奏へと変わったんでしょうか。

RD:ハイスクールの終わりの方でしょうか、幸運なことにとてもいい先生に恵まれて、たくさんの編曲作品に出会いました。当時、アコーディオン用の曲はあるにはあったのですが、芸術的なものとは言えませんでした。ところがノースウェスタン大学で、室内楽の授業をとったときのこと。それを教えていた先生は、素晴らしいビオラ奏者でした。彼がわたしに何の楽器をやっているか聞いてきたので、トランペットですけどアコーディオンも大好きです、と答えました。

先生はアコーディオンの可能性を探すことを、心から励ましてくれました。彼はベルギー出身で、そこではアコーディオンが、民謡だけでなくコンサート音楽にも使われていると話してくれたんです。またノースウェスタンのアンドリュー・リゾのもとでも学びましたが、当時、彼はアメリカでも一二を争う良い先生でした。この先生も、アコーディオンとはどういう楽器かについて、わたしの目を開いてくれましたね。

BD:アコーディオンのソロ曲や室内楽曲を書きたい作曲家に、どんなアドバイスをしますか。

RD:アコーディオンの曲をどのように書くか、という意味でしょうか。

BD:もし誰かがやって来て、「あなたのために曲を書きたいんですけど、どこかから始めましょう」と言ってきたら。

RD:最初にやることは、その人と語る場をもって、もしこの楽器についてよく知らなかったら、楽器のメカニズムを説明しようとするでしょうね。どうやって音が出るのか、どういう問題点があるか、手を鍵盤やボタンから離したら、音が消えるといったね。

BD:オルガンと同じですね。

RD:そのとおりです。それから音域について話しますね。左手で半音階を弾くことは、鍵盤でやるより難しい、といったこともね。こういったことがまずあって、それからすでにアコーディオンのために書かれた曲を、弾いてみせます。そうすればどんな楽器なのか、そしてもちろん、どんな音が出るのか、知ることができます。

BD:譜面はどういうものでしょう。ピアノの楽譜のような2段の楽譜ですか?

RD:そうです、そのとおり。

BD:ということは上に単旋律があって、下にコードがあるような。

RD:ええと、コードである必要はないんです。右手も左手も単旋律でも構いません。そういうものはカール・ハインリヒ・グラウンのコンチェルトにはたくさんあります。オルガンのためのもので、バロック後期ですね。バスは多くが単旋律で、1、2箇所程度コードになっている場所があります。ですからほとんどが二つの旋律が流れていく感じですね。

 

軽音楽をやる人たちとの距離

BD:あなたはコンサートで演奏し、教えてもいます。年にどれくらいのコンサートをするのでしょう。

RD:ここ最近の演奏は、デンバー大学の一員としてですね。どこの大学でもそうですが、そういう場では、新たな楽曲の実験ができます。ですからコンサートが次々あるわけではないです。ツアーをしている演奏家のように、やってはいませんね。年に6回とか8回とかになるんじゃないでしょうか。

BD:ではアコーディオンの生徒をどれくらい持ってますか?

RD:今はそれほど多くはないです。一時期は18人いましたけどね。アコーディオンはもうあまり人気があるとは言えませんし、年ごとに生徒数は変化します。いまは大学院生が一人いて、あとは音楽が専門ではないけれど、アコーディオンを学んでいる生徒が数人います。ただ、アコーディオンがとても人気があった一時期のようではないですね。

BD:それは恐竜のように死滅していってるのか、それとも一時的な落ち込みで、また回復するのか。

RD:そう答えられたらいいですね。こう尋ねられますよ、「どうしてなんでしょう?」とね。理由はいろいろあると思いますけど。人気が戻ってくれるといいですね。アコーディオンが好きな人、楽しむ人はいつも存在します。演奏する人もいますし、聴くのが好きな人もいます。人気のある楽器として、生きた楽器としてよみがえってほしいですよ。

BD:あなたはポルカタイプ*のバンド・プレイヤーからは、どう見られているんでしょう。

*ポルカタイプ:軽い調子のポルカを踊るための音楽で、アコーディオンを中心とする小さなグループで演奏される。

RD:よく知らないんですよ。わたしはポルカをやらないので、彼らとのコンタクトがほとんどないんで。

BD:あなたは「アウトサイダー」あるいは「コンサート演奏家」として知られているのではないかな、と。

RD:そうね、そうかもしれない。彼らは「あの人はわれわれのような音楽をやらない、やってるのはコンサートものだ」と言ってるんじゃないかな。彼らがどう思ってるか、ちょっとわかりませんね。顔をつき合わせて、話し合ったことがないんでね。

BD:あなたの方は、彼らをどう見てます?

RD:彼らが自分たちのやってるものでいい仕事をすれば、それは素晴らしいと思います。彼らはああいうタイプの曲を楽しんでいるわけで、そこでいい仕事をするなら、素晴らしいでしょうね。あっちにもとてもいい演奏家がいますからね。

BD:あなたはアコーディオン演奏について、楽観的でしょうか?

RD:(大きく息を吐き出して) そうですね、一方ではそうです。もう一方では、疑問も持ちます。それはわたしの経験から言うと、それほど多くの人がこの楽器で、芸術性のある音楽をやろうとはしてないですから。おそらく、様々な民族的な音楽を通して、もっと親しまれるものが人気を博すようになるかもしれない。ザディコ*のバンドがいくつかあって、ルイジアナ州のケイジャン*みたいな、フランス系クレオールの音楽で使われています。またメキシカン・バンドでもね。そういうものがきっかけになるかどうか、わからないですけど。今日では、シンセサイザーで複製できる楽器がたくさんありますし。シンセサイザーで、アコーディオンはうまく再現できるのではと感じてますけど、実際のところ、わかりませんね。もっと肯定的に答えられたら、と思いますが。

*ザディコ:ルイジアナ南西部で生まれた、アコーディオンを中心とするクレオール系黒人たちのフォーク音楽。
*ケイジャン:ケイジャン(北米東部のアカディア地方に入植したフランス系移民)によって始められたダンス音楽で、アコーディオンやフィドルなどで演奏される。

BD:あなたがエヴァンストンにまたコンサートで来てくれて、とても喜んでいるんですよ。

RD:ありがとう。ノースウェスタン大学が演奏するよう、わたしを呼んでくれたことは嬉しいですし、誇りに思ってます。明日の晩のコンサートが楽しみです。こういう風になったことのすべてにワクワクしてるんです。

 

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