【マーキュリーレコード 伝説のプロデューサー】ウィルマ・コザート インタビュー

インタビュー
[最終更新日]: 2020/03/12
                       

音楽が生まれる現場にいる臨場感を、“You are there”のうたい文句で1945年、シカゴに設立されたマーキュリー・レコード。モノラル時代から中心的役割を務めた、伝説的プロデューサーに話を聞きます。

Wilma Cozart Fine: Universal Music Group

ウィルマ・コザート・ファイン(1927〜2009年)
マーキュリーレコードのクラシック部門で、録音エンジニアの夫(ボブ・ファイン)と共に、1950年代から60年代にかけて、数え切れない程の歴史的名録音に携わった。鋭い「ワシの聴力」、手堅く実利的なビジネスセンス、妥協のない仕事ぶりで、マーキュリー精神の守護神となる。死後の2011年、その功績によりグラミー賞を受賞。

  • インタビュアーはシカゴのブロードキャスター、ブルース・ダフィー。クラシック音楽専門ラジオ局Classical 97で、1975年から2001年まで、1600人を超える音楽家のインタビューを行ない、1991年に米国作曲家作詞家出版者協会のディームズ・テイラー・ブロードキャスト賞を受賞しています。インタビューの日本語版は、ブルース・ダフィー本人の許可を得て翻訳したものです。

*インタビュー 1995年11月20日、シカゴにて

 

オリジナルマスターの再現こそが目標


ブルース・ダフィー(以下BD):マーキュリー・リヴィング・プレゼンスのコレクションはLPで手に入った時期があり、それから一時期なくなり、今また戻ってきました。

オリジナルのカタログのすべてが戻ってくるまでに、時間がかかるのでしょうか。

ウィルマ・コザート・ファイン(以下WCF):その方向で進んでいることは確かなの。

オリジナルのテープの劣化や状態によって、難しい問題が出るものもあるかもしれない。

実際のところ、すべてのレコーディングのプロジェクトがそうであるように、オリジナルがあって、聴衆がそれを望んで買いたいと思うかぎり、リリースしていくと思う。

マーキュリー・リヴィング・プレゼンスの再リリース計画は、フィリップス*にとって高くつくものだからね。

世の中の人が私たちのやってることを評価して、レコードを買ってくれれば、目録を増やし続けていくことができる。熱心なコレクターの大きな層を持っていることは恵まれたことだし、再リリース計画がスタートしたのも、そういった人たちの要望によるものでもあるの。

その人たちは、何度も何度も繰り返し、要望の手紙をよこしたわね。

だからその人たちは、マーケットの状態を良くする助けになっているし、新たなファンの獲得にも役立っているの。

*フィリップス:マーキュリー・レコードは1961年にフィリップスに買収され、その後、親会社が何度か変わり、現在はユニバーサルミュージックの傘下にある。

BD:最初にLPにプレスしたオリジナルのテープからCDをつくるとき、音のバランスとか音響などを変えたいという願望はあるんでしょうか?

WCF:その正反対よ。わたしが目指していること、成し遂げようと努力してきたことは、オリジナルの3トラックのマスターのサウンドを、2チャネルでできる限り再現することなの。

それが常にLPを録音してリリースするときの目標だったし、CDの目標にもなっている。

BD:あなたはいろんなところで、指揮者が最終決定権を持っていると言明しています。指揮者はどの録音の場合も、リリースされたLPに満足していますか?

WCF:もし指揮者が満足でなければ、リリースはしませんよ。

いつも指揮者が音楽的な許可をしたし、私たちも指揮者にプレイバックをたくさん聞いてもらって、どれを選ぶかできるようにしてたわね。

私たちはあとでLPやCDにリマスターするときに使うのと同じ三つのスピーカー*と同じテープレコーダーを使ってた。だから指揮者がプレイバックを聞くときは、私たちがスタジオで使っているのとまったく同じ装置で聞いていたわけ。

*同じ三つのスピーカー:マーキュリーでは録音の際、三つのトラック(左、中央、右)を使っており、プレイバックのときも、それぞれのスピーカーに三つのトラックを当てている。またリマスターの際も、同様の方法を取っていた。

 

耳を信じること、それがすべて

BD:レコーディングをしているとき、聴く人がリビングとか寝室とかまったく違う音響空間で、音を耳にしていることを意識するのでしょうか。

WCF:ああ、それはそうですよ。

実際のところ、私たちはいつも、聴く人とともにあるの。

わたしがずっとやってきたことは、LPやCDのマスタリングでもプレイバックでも同じ装置でやろうとすることで、それはオリジナル・セッションで録音を始めたとき以来、わたしがずっと使い続けてきたものなの。

だから聴衆にとってどんな作品であれ、彼らが過去にどんな環境で音楽を聞いてきたとしても、今も信頼に足るものだと思ってるわけ。

レコーディングやリマスターをするのに、他に方法はないということを考慮に入れておかなくてはね。

わたしにできる唯一のことは、演奏に対して誠実なレコーディングをして正確に再現させること。

家で聞く場合、ラジオで流される場合、車の中で聞く場合の問題は、プロデューサーや製造者にはコントロールできないわね。

私たちは演奏の誠実な複製として、それぞれの家に手渡したいということ。

BD:どのようにして各家庭の装置で聞くか、ブックレットで伝えた方がいいんでしょうか?

WCF:そうね、ハンドブックについての質問の答えではないけど、レコードを聞く楽しみの一部だと思うのは、聞く人の耳はそれぞれ違うということね。

私たちが何を伝えようとするかに関わらず、聞く人が何を求めているか知る道はないし、その人が心から楽しむかどうかもわからない。

こちらは熱心なレコード・コレクターが家で、注意深く音楽を聞いてくれることを望んでいる。そうやって彼らの好むものに到達するんじゃないかしら。

もし充分な時間それを聞けば、音楽がどのように装置を整えればいいか教えてくれる。

同じことが、録音のとき、私たちがどこにマイクを置くべきか、音をどう扱えばいいかがわかる方法でもあるの。音楽を聞くこと。

それが私たちの知る方法であり、熱心なリスナーも設備の選定や設定のときに、同じことをしていると思う。

 

45年前のテープを呼び戻す

BD:あなたは当時のレコーディングの時に関係していて、再リリースにも立ち会っているわけですね。

現在、新たなレコーディングに関わっているんでしょうか?

WCF:いいえ、今はないです。人は一度に一つのことしかできないでしょ。

あらゆる記録活動がそうであるように、保管のためのプロジェクトは多大な時間がかかるし、厳しさや責任を伴うから。私たちが最初のレコーディングをした時と同様にね。

そして今、45年近く棚にしまわれていたテープを呼び戻そうとしているわけ。

私たちがこのテープを作ったとき、これが40年もつかどうかなんて、誰にもわからなかったの。例がないわけで。

テープは当時新しいもので、それを使うことも初めての経験で、それがどれくらい持つものなのか私たちにもわからなかった。

幸運なことに、使用されたテープの多くは、非常にいい状態を保っている。

問題になるのは、私たちが使っていたテープの繋ぎにあることが多くて、それはテープが重なる接着剤のところでダメージになるの。

でもそれはテープそのものじゃなくて、接着剤がなければとてもいい状態なの。とは言っても、扱い上の注意は必要ね。CDを企画したとき、最初にわたしがやることになったのは、マスターの保管場所をつきとめること。

アメリカにあるもの、オランダあるものとあったから。

マスターがどこにあるのか、それを探し出す必要があるし、録音当時のオリジナルのマスターを手に入れる必要があるの。

そしてその状態がどうなのか、査定するわけ。

BD:多くの録音は、三つのマイク設定なんでしょうか?

WCF:そのとおりね。

BD:3チャンネルのものをどうやって2チャンネルに分配するんでしょうか。

WCF:マーキュリーのレコードには、中心部があるように聞こえるかもしれないけど、実際にはそれはないの。左と右が混ざりあっているの。

ステージで錯覚が起きるのと同じようになっている。

別の言葉で言うと、そこに音の穴*はないってこと。

オーケストラがステージ上で通常の位置にいるとき、管楽器は中央にいるでしょ。

わたしは演奏時にマイクが捉えたものを、正確に再現しようとする。

いつも同じようにはいかないし、ホールの音響によってどこまでできるかもあるわね。

個々のマイクをどれくらいの近さに置くかは、ホールの音響によって変わってくる。思ったようにはいかないわね。

*音の穴:通常管楽器は、オーケストラの中央(弦楽器の背後)に位置していて、3本のマイクで録音される場合、真ん中のマイクで収録される。マーキュリーのように3トラックで録音されたものを2チャンネルに分配する際、中央マイクの音を左右の音にバランスよくミックスしないと、その部分が穴として欠落してしまう。

 

CD対LPの論争は意味がない

BD:LPに信頼を置いている人たちが今もいます。彼らはデジタルより音が温かいと言ってます。

あなたはそうは感じてないでしょう、そうでなければ、LPで再リリースしようとするでしょう。

WCF:考え方において、この議論には間違いがあると思うのね、まずは。これについて議論の余地があるとは思えないから。

二つの手法は全く違うものよ。

BD:ではLPとCDの両方を作ったほうがいい?

WCF:LPの市場は、熱狂的なファンがいるとしても、小さなものだから、そうするのは難しいでしょうね。

でもLPはクラシック音楽の選択肢として、市場にとっていい部分になるわね。

数が小さいからと言ってみくびるんじゃなくて、LPはLPとしてあるわけで。ただCDがLPよりいいという論争は、わたしの考えでは議論にならないと思う。

この問題のポイントは、繰り返しになるけど、オリジナルの録音にこそあるの。

もしどっちが技術的に優れているか、家庭に持ち込まれるまでのところで判断しようとする場合も、すごくたくさんのことが影響してくるわけだから。

もしCDがLPのようにはいいと思わないと言った場合、あるいはCDの方がいいと言った場合も、そう言えるだけの具体的な演目と関連づけていなかったわけで、そこに根拠はないの。

二つは同じ環境、同じ装置を通して聞かれているわけじゃない。

アナログ録音は、今ある中で最高のものだと思うし、そこに疑問の余地はないと考えてる。

絶対的に素晴らしいと思うけど、家で聞こうとするときにより良いとは思わない。

それは何を使って聞いているかを含めて、いろんなことが違ってくるから。

レコードをかけるとき、表面にキズをつけてしまうこともある。

買ってすぐ取り出したときに起きなかったとしても、次に出したときとかね、最初に通して聞く前に傷つけてしまうことがある。

マーキュリーのCDが質的に高いことの理由の一つは、アナログの音源を使っているからだと思ってる。

もう一つの理由は、CDをつくる際、真空管を通して変換しているから、トランジスターじゃないの。

この二つは音に決定的な影響を与えるわけで、私は音源がアナログのオリジナルから来てることがとても嬉しいわね。

 

音楽の仕事は子どもの頃からの夢だった


BD:もしあなたが未開の島にいたとして、オリジナルから取ったLPとCDのどちらかを選べるとしたら、どっちを持っていきます?

WCF:マスターリングしているときは、いつもLPを使うわね。

最初のチェックはもちろん、テープそのものだけど。

わたしがデジタル方式に行くときは、アナログのオリジナルを聞いてチェックするし、LPとも比較する。

LPはオリジナルに近いけど、CDはLP以上にオリジナルに近いの。

いくつかのことで比較ができるし、バランスが同じかどうか見ることができる、でも意味がないと思うの。

それはわたしのCD制作では、CDのバランスの方がいいことがあると知ってるから。

それに多くの場合、CDの方が水準が高いということもわかってる。

その一方で、CDを作るとき、LPと同じ音質にするために相当な努力をしたというケースもある。でもその努力を続けてる。

やり終えたと思えるまで、とにかくやり続けるの。

レコードを買う人たちはLPでもCDでも買えて、運がいいんじゃない。

率直に言って、今は、以前手に入らなかった(新たに作られた)LPを買うことができるわけで、とても丁寧に作られたマーキュリーのLPを買うことができる。

両方を買ってもいいわけで、もし好きなアルバムであれば、どっちの様式が気にいるか比べることもできるでしょ。そういうことを考えるわね。

BD:一つ思うのは、あなたの作ったCDは他のCDにはないものがありますね、愛が。

WCF:わたしがCDの市場を独占したとはまったく思わないけど、愛があるのは確かね。

BD:あなたは自分のキャリアがここまで来たことを喜んでいます?

WCF:あー、それはそう。素晴らしい時間を過ごしてきたわね。

何年間もの間、素晴らしい音楽家たちと仕事ができて、彼らと知り合えて、とても幸運だったと感じてる。

音楽同様、直接知り合えたこともね。レコーディングの時はいつもそれを学ぶわね。

それは録音に関わるすべてを見渡しながら、ひとたび音をバラして、また一つに戻さなければならないからよ。

わたしは心から音楽を愛してるし、音楽の仕事をしたいって、子どもの時から思っていたの。

この仕事ができる特権を手にして、考えられないくらい自分が幸運だと感じてる。

最初に始めた時と同じように今も楽しんでいるわね。

BD:これから先もずっとそうなんでしょうね。

WCF:世の中がマーキュリー・リヴィング・プレゼンスを好きでいてくれる限り、素晴らしい協力者やフィリップスの支援で、これを続けられたらと願ってるの。

彼らはこのシリーズにとても力を貸してくれていて、この目録を誇りにもしてると思ってる。

BD:いろいろお話しいただいて、感謝してます。

WCF:こちらこそ、楽しい時間でした。

 

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