演奏会で眠ってしまう人に朗報!―J.S.バッハ ゴルトベルク変奏曲~

2017/12/27
クラシック

クラシックの演奏会に行き、冒頭ですぐに眠りに落ちてしまった経験を持つ方は多いのではないでしょうか。かくいう私もその一人。目が覚めると最後のクライマックスだったということもしばしばあります。周りの演奏家に話を聞いてみると「気持ちよくて眠ってくれるならいい」とのことですが、やはり何かいけないことをしたような気になってしまいます。今回はそんなあなたに朗報です。眠るための音楽、不眠症の人のために書かれた曲をご紹介します。

J.S.バッハの「ゴルトベルク変奏曲」。チェンバロのための「クラヴィ―ア練習曲集」第4巻。

子守歌とは違って、一時間もある長編の曲ですので、演奏会でもしばしば取り上げられます。この曲、元々の名前は「2段鍵盤付きクラヴィチェンバロのためのアリアと種々の変奏」。なぜ公然と寝てしまえる曲なのか。その答えは後についた「ゴルトベルク変奏曲」という名前にもつながっています。

 

不眠症の伯爵

時は18世紀前半のドイツ。ゴルトベルクというハープシコード・オルガン演奏家がおりました。彼はそのオルガンの才能で、当時のザクセンのロシア駐在大使、カイザーリンク伯爵のお気に入りとなります。伯爵は不眠症に悩んでおり、ゴルトベルクは伯爵が眠りにつけるよう毎夜演奏をしていました。

伯爵は若きゴルトベルクにバッハの指導を受けさせようと、ライプツィヒに連れて行きました。ある日、伯爵はバッハに頼みごとをしました。
「眠れない夜を明るく穏やかに過ごせるような曲を書いてくれないか。」
そこで書かれたのがゴルトベルク変奏曲というわけです。
変奏曲という形式はバッハの作品には珍しいのですが、不眠症対策として、パターン性をもって書かれたのでしょう。

また、この曲はよく眠るためのものだと思われがちですが、睡眠導入曲というよりは、眠れない夜を明るく過ごすための音楽なのです。とはいえ、不眠症の改善にも一役買っていたのかもしれませんね。伯爵はこの曲をたいそう気に入り、バッハは金貨100枚という莫大な報酬を受け取ったのだとか。(このエピソードは、18世紀後半に活躍した音楽学者ヨハン・ニコラウス・フォルケルが「バッハ伝」という著書に記したもので真偽は不明ですが、火のない所に煙は立たぬと言いますから、似た事実はあったのかもしれません。)何にしても、リラクゼーション効果を狙って書かれたわけですから、演奏会で眠ることについては大義名分となるかもしれません。

 

さらなる謎

このエピソード以外にも、この曲については様々な議論がされてきました。そもそもこの曲のアリアは、バッハ自身による作曲なのかという嫌疑がそれです。様式や手法がバッハらしくないのだとか。しかし現在では研究が進むにつれて、アリアも、バッハの手によるものだろうということに落ち着いたようです。さらに、構成が宇宙観と結びついているという説もあったり。話題に事欠かない曲ですね。

 

聴く前に知っておきたいこと

試聴するまえに、曲の構成についてお話します。曲に関する知識を少し知っておくと、コンサートをより楽しめるのではないでしょうか。

この曲は、2つのアリア(旋律)がそれに基づいた30の変奏曲を挟むという形になっています。それぞれの変奏曲は2部構成。基本的にはト長調(G dur)ですが、調や拍子が変化をします。アリアは(バッハが妻に送ったとされる)「アンナ・マグダレーナ・バッハのためのクラヴィーア小曲集」第2巻にも載っています。

 

実際の演奏

さて、それでは演奏を聴いてみましょう。最も有名なのはやはりグレングールドの演奏です。バッハは非常に精密な作曲をしたため、往々にして堅苦しい演奏が多いのですが、グールドは独自の大胆な解釈で躍動感のある演奏をしています。そのためか、評価も分かれがちですが、とてもキャッチーで、聴きやすいと思います。

いかがでしょうか。緩やかな始まりや軽いタッチがとても心地よいですね。メロディーが動く部分はとても元気な演奏です。
チェンバロの演奏も聴いてみましょう。カール・リヒターの演奏です。伯爵もこのような音を聴いていたのかと想像が膨らみます。

ピアノと異なり、強弱表現などが難しいチェンバロですが、独特な音色が素敵です。幾重にも紡がれる音のハーモニーがとてもゴージャスに聴こえますね。
この曲は映画にも使われています。「羊たちの沈黙」やアニメ「時をかける少女」など。機会があれば、どこのシーンで使われているのか探してみください。

 

おわりに

いかがでしょうか。思った以上に活発な部分もあり驚いた方もいらっしゃるかもしれません。眠るためのものではなく、夜を明るく過ごすための曲であることに納得できたのではないでしょうか。しかし、さすがバッハ、全体的には落ち着いて聞くことのできる安定した美しい曲です。演奏会では必ずと言っていいほどうとうとしてしまう私も、この曲の合間だけは「不眠症の人のために書かれたのだからリラックスできるのだ」という大義名分とともに、安眠ができそうです。

 

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