ピアノ奏者なら一度は憧れる、高度なテクニックや表現力を要する難曲の数々。世の中には、それこそ飛び抜けた難易度の曲もあり、プロでさえ完璧に弾き切ることは困難とされます。

本記事では、そんな難曲たちをランキング形式でご紹介。ピアノ独奏用の作品の中から、現役ピアニストたちの意見も交えて厳選した10曲です。選出の理由や曲にまつわるエピソードなどもあわせて解説しますので、ぜひ最後までお楽しみください。

案内人

  • 古川友理名古屋芸術大学卒業。
    4歳よりピアノを始め、伊藤京子、深谷直仁、奥村真の各氏に師事。
    地元愛知県三河地方を中心に器楽、声楽、合唱伴奏者として活動する傍ら、島村楽器音楽教室等でピアノ講師として勤める。

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難しいピアノ曲の定義ってなに?

はじめに、ランキング化にあたって、その基準を明らかにしておきます。一般的に「難しい」とされるピアノ曲には、次のような要素が含まれています。

  • テンポが速い
  • 音数が多く指が忙しい
  • 音の高低が一気に動く
  • 頻繁にテンポや拍子が変わる
  • 技術だけでなく表現力も問われる

難しく感じるラインは人それぞれですが、これらの基準をもとに、現役奏者目線でピックアップしていきます。

この世で最も難しいピアノ曲をランキング形式で紹介!

第10位|M.ラヴェル/夜のガスパール(Gaspard de la nuit)

「夜のガスパール」は「オンディーヌ」「絞首台」「スカルボ」の3曲で構成された、M.ラヴェル作曲のピアノ組曲です。

フランスの無名の詩人アロイジュス・ベルトランの64篇からなる散文詩集の中から、幻想的で強烈な印象を放つ3篇をラヴェルが厳選。詩から放たれるメッセージやイメージを拡大させながら、情熱的なピアノ作品に仕上げました。

中でも「スカルボ」は、速いテンポで正確に音の粒を揃える高度なテクニックと、詩を深く理解したうえでの高い表現力が求められるため、難易度の高い曲として知られています。

第9位|F.ショパン/練習曲 作品10-2(Etude Op.10-2)

「指練習」という練習曲の概念を超えた芸術性の高いエチュード全27曲を残したショパン。難易度に関してはさまざまな意見がありますが、今回は作品10-2をご紹介します。

ピティナが実施した調査でも、作品10の12曲の中でもっとも難しいと回答する方が多かった作品です。右手の1と2の指で重音をとらえつつ3-4-5の半音階をなめらかに操るのは至難の業と言われています。

この曲の難しさは実際に指を動かしてみて初めてわかるので、ぜひワンフレーズだけでもチャレンジしてみてください!

第8位|R.シューマン/トッカータ ハ長調 作品7(Toccata C-Dur Op.7)

トッカータ作品7は、シューマンが19歳の頃に作曲し、改訂を重ね1833年に出版された作品です。ピアニストを志していたシューマンらしい高度な技巧を要する作品で、ピアニスト泣かせの難曲のひとつとされています。

トッカータとは、速いパッセージや細かい音形の変化を伴う即興的な楽曲のこと。シューマンのトッカータには、終始スピード感をもって細かく動き続ける音形だけでなく、声部の弾き分け、転調による色の変化、オクターブの細かい連打によるメロディーなど、さまざまな要素が組み込まれています。

第7位|F.ショパン/バラード第4番 ヘ短調 作品52(Ballade no.4 f-moll Op.52)

ショパンのバラード4曲のうち、もっとも難易度が高いとされる4番は、ショパンの最高傑作のひとつであるポロネーズ第6番「英雄」と同時期に作曲された作品です。

バラードはもともと古いヨーロッパの詩の様式を指す言葉。ショパンが詩人ミツキェヴィッチの詩からインスピレーションを受け作曲したことで、「バラード」が新たな音楽ジャンルとして認識されるようになりました。

心洗われる穏やかな冒頭部分からは想像できない、高速のパッセージや重音の連続が次々と襲いかかり、高度な演奏技巧を要するコーダまで緊張感を途切れさせません。

第6位|F.リスト/パガニーニによる超絶技巧練習曲 S.140 R.3a より 第3番「ラ・カンパネラ」(La Campanella)

「悪魔に魂を売り渡した」といわれるほどの超絶技巧を有した天才ヴァイオリニスト、ニコロ・バガニーニのヴァイオリン協奏曲の主題を編曲して書かれた誰もが知る名曲です。

私たちのよく知るラ・カンパネラは、1851年に作曲された「パガニーニによる大練習曲」の第3番。実は、1838年にリスト自身が作曲した「パガニーニによる超絶技巧練習曲」の第3番を改訂した作品なのです。

両作品は、パガニーニのヴァイオリン協奏曲の主題の引用部分などに大きな違いがあり、有名な鐘の主題は共通しているものの、全体としてはまったくの別物に感じるほど。テクニック面においては、改訂前の作品の方がより難易度が高いとされています。

第5位|F.リスト/スペイン狂詩曲 作品254(Rhapsodie espagnole S.254)

演奏旅行で訪れたスペインの印象を音楽に表した自身作曲の「スペインの歌による演奏会用大幻想曲 S.253」と同じ旋律を用いて作られた作品です。

スペインの「フォリア」や「ホタ」といった舞曲の要素が取り入れられており、独特のリズム感やテンポ変化をつかむのが難しいとされています。

10度(1オクターブと3度)の右手の重音が続くフレーズなどは、ピアノの魔術師リストの作品ならでは。演奏効果が高く、国際コンクールなどで演奏されることも多々ありますが、その難解さからコンサートプログラムに組み込むピアニストは少ないのだとか…。

第4位|I.ストラヴィンスキー/ペトルーシュカからの3楽章( Trois Mouvements de Pétrouchka)

ストラヴィンスキーが作曲したバレエ音楽「ペトルーシュカ」をもとに、自身がピアノ独奏用に編曲した作品です。ピアニスト、アルトゥール・ルービンシュタインの依頼により作られ、1921年に献呈されました。

原曲がオーケストラであるため、多くの楽器の音を10本の指でカバーしなければならず、かなりの技巧を要する難曲です。

「過去のどの曲よりも難しくしてくれ」というルービンシュタインからの要求通り、強靭な体力と高度な技術がなければ演奏不可能な作品となっています。

第3位|M.バラキレフ/東洋的幻想曲「イスラメイ」

この作品はロシアのカフカス地方への旅行後に着想され、1曲を長期間かけて仕上げるバラキレフには珍しく、わずか1か月で書きあげられました。

イスラメイは、ロシアに根づく民俗舞曲のひとつ。自由なソナタ形式の中には、旅行中に出会った人々からヒントを得たさまざまなロシアらしいパッセージが鏤められています。

その難しさは、超絶技巧のピアニストとして名の通っていたバラキレフ本人でさえ、自分の手に負えないパッセージがあると認めていたほど。演奏困難な部分が多いことから、多くの版で弾き方の別案を添えて出版されています。

第2位|F.リスト/超絶技巧練習曲 S.139 R2b 第4番「マゼッパ」(Mazeppa)

最高難度のテクニックを必要とする作品が集められた超絶技巧練習曲のなかでも特に難しいとされている難曲です。

超絶技巧練習曲は、初版からリスト自身の手によって幾度も改訂が重ねられました。特に第二版は難易度が高く「演奏不可能」とされ、それを受け現在おもに演奏されている第三版が出版されましたが、やはりピアニスト泣かせの難曲であることには変わりはありません。

マゼッパには、オクターブの連続や幅広い跳躍、音数の多さ、テンポの速さなど、さまざまな難曲の条件が揃っています。

第1位|F.リスト/超絶技巧練習曲 S.139 R2b 第5番「鬼火」(Feux follets)

世界最高難度と称されるピアノ曲といえば、超絶技巧練習曲第5番「鬼火」でしょう。

鬼火とは、ヨーロッパに古くから伝わる夜の墓地などに出現する謎の光のこと。音楽の題材としてはシューベルトの歌曲集「冬の旅」で初めて取り入れられ、リストもこの正体のない怪奇的な現象を「鬼火」で音楽に昇華させました。

半音階、重音、跳躍のパッセージが高速のテンポの中で交錯するさまは、まさに暗闇で怪しい光が行き交うよう。ピアニストの華麗な手さばきに注目しながらお聴きいただきたい、世界最高難度の名曲です。

まとめ

ピアニストでも弾きこなすのが困難な名曲たち。いずれもただ難しいだけでなく、曲の内容が深く心に沁みるピアノ曲ばかり。ピアニストによってテンポや表現方法も異なるため、いろいろな演奏を聴き比べてその違いを楽しむのもおすすめです。

ご紹介した曲の中には著作権フリーで楽譜を無料ダウンロードできる作品もあります。
ぜひ目と耳両方で超難曲をお楽しみください!