クラシック音楽を愛好していると、興味はあるけどなかなか飛び込めない「現代音楽」。本記事ではそんな「現代音楽」の世界を紐解くべく、その一種である「ミニマルミュージック」についてご紹介します。

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  • 板谷祐輝大学では作曲・音響デザインを専攻し、CDショップ・エンタメ小売業界でマーケティングに就く。仕事の傍らピアノ演奏・劇伴作曲も手掛け、CD評等のライター業も行う。

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ミニマルミュージックとは

そもそもミニマルミュージックとはどういった音楽を指すのでしょうか。

簡潔に述べると「短い音素材を、繰り返して作り上げる音楽」と言えます。

重要なキーワードは「短い(小さい=Minimal)」と「繰り返して」です。一般的にクラシック音楽は第1主題やモティーフといったメロディの単位があり、それらがソナタ形式や変奏曲形式など大きな作りを構成しています。

ミニマルミュージックはこの音楽の単位が文字通り小さく、数音や数秒分であったりするのが特徴です。そして単位が小さいから曲が短いわけではなく、その短い単位の音を基本的に繰り返して作り上げるのも、もう一つの特徴と言えます。


こちらはミニマルミュージックの代表作であるスティーブ・ライヒ作曲の「ピアノ・フェイズ」という楽曲です。

「ミ-ファ#-シ-ド#-レ-ファ#-ミ-ド#-シ-ファ#-レ-ド#」という12音から構成される小さな素材を二人のピアニストがひたすら繰り返すだけの音楽。ところが二人のピアニストは最初合わせて弾いていたところを少しずつずらして演奏していきます。これにより際立っていた音が少しずつ変化していき、まるでメロディ自体も変わっているかのような有機的な変化をもたらします。

繰り返しているのに変化している、このなんとも言えない変化は過去のクラシック音楽にはない音響効果を生み出しているのです。

ミニマルミュージックの魅力

「小さな」素材を「繰り返して」作曲するミニマルミュージックですが、そこに作曲家が様々な要素を足して発展していきました。

例えば最初期のミニマルミュージックであるテリー・ライリー作曲「in C」では53のフレーズを一つずつ繰り返しながら順番に弾いていくのですが、演奏者の任意のタイミングで次に行っていい良いという偶然性を取り入れました。

またラ・モンテ・ヤングはたった一つの音をただただ弾き続ける「ドローン」という手法を用いており非常に瞑想的な音楽を残しました。
https://youtu.be/lszrDRmK-Cw
このように作曲者によってアプローチが違い、一括りに「繰り返しの音楽」と言い切れない多様性があるのが大きな魅力です。

また「小さな」メロディを用いるという特性から非常にメロディックで調性的な音楽が多く、現代音楽が苦手だという人でも聴きやすい音楽が多いというのも魅力の一つかもしれません。

ミニマルミュージックの歴史

ミニマルミュージックは二十世紀の中頃、1950〜1960年代にアメリカで発祥したと言われています。先にご紹介したアメリカのラ・モンテ・ヤングやテリー・ライリー、スティーブ・ライヒなどがこの手法を用いて作曲を始めました。

その後様々な国の作曲家がこの手法を広めていきました。エストニアのアルヴォ・ペルト、イギリスのギャヴィン・ブライヤーズ、日本では久石譲や坂本龍一などもミニマルミュージックの作曲を行なっています。

これらの音楽を「ミニマルミュージック」と言語化したのはイギリスのマイケル・ナイマンと言われています。1968年、美術の世界で用いられていた「ミニマリズム」の考え方を音楽評に使用しました。

さらにクラシック/現代音楽の世界から離れてロックやポップスの世界にもこの手法は浸透していきます。映画「エクソシスト」の音楽としても有名なマイク・オールドフィールド「チューブラ・ベルズ」はプログレッシブ・ロックの名盤ですが音は正にミニマルミュージックそのものなのです。

まず聴いておきたいミニマルミュージックの代表的な作曲家

ミニマルミュージックを聴く上で、絶対に外せない作曲家をご紹介します。

スティーブ・ライヒ/Steve Reich

ミニマルミュージックと言えば外せない先駆者、それがスティーブ・ライヒです。前述の「ピアノ・フェイズ」の他にも多数の楽曲を残していますが、特に有名なのが「18人の音楽家のための音楽」です。

文字通り18人の演奏者がフレーズを繰り返し重ねて演奏する、「ミニマルミュージックと言えばコレ!」と言える音楽なのです。

フィリップ・グラス/Philip Glass

アメリカの作曲家であるフィリップ・グラスは自身としては「ミニマルミュージックというカテゴリ」に否定的のようですが、語る上で外せない作曲家であることに間違いはありません。

オペラや弦楽四重奏曲、最近ではピアノソナタの様なクラシック音楽を作る一方で、デヴィット・ボウイの楽曲を交響曲にする等ジャンルレスな作曲家です。このグラスワークスは1981年に発表された室内楽の曲集で、「より幅広い聴衆に向けて」作曲するという非常に意欲的な作品です。

マイケル・ナイマン/Michael Laurence Nyman

映画音楽の世界で活躍しているイギリスの作曲家、マイケル・ナイマンもミニマルミュージックの巨人です。

映画「ピアノ・レッスン」の音楽がとりわけ有名ではありますが、この2005年に発表された「The Piano Sings」は他の映画音楽をナイマン自身がピアノで弾いているベストアルバムの様な豪華な一枚です。

久石譲/Joe Hisaishi

スタジオジブリの音楽をはじめとする映画音楽が著名な久石譲ですが、20代はミニマルミュージックの作曲を主に行なっていたと本人は語っています。

ミニマリズムと題されたこのアルバムのシリーズは、そんなミニマルミュージック作曲家としての一面を感じられます。

ミニマルミュージックにハマったら、これを聴いて通の仲間入り!

ミニマルミュージックを深めたくなったら次にこちらを聴いてみてください。「知る人ぞ知る」アーティストに触れて、今日からあなたもミニマルミュージック博士です。

シャルルマーニュ・パレスティン/Charlemagne Palestine

ミニマルミュージックの祖、ラ・モンテ・ヤングと並ぶミニマルミュージックの巨匠…なのですが、大量のぬいぐるみを並べてパフォーマンスするという一種異様な演奏活動のイメージが強く、鬼才と呼ばれる一方であまり現代音楽の作曲家としては名前が挙がりません。

しかし代表作であるこの「Strumming Music」は文字通りピアノをひたすら激しくかき鳴らすことによって陶酔に近い音像を描きます。圧倒的であり純然たるミニマルミュージックのパワーを感じられる名盤なのです。

シメオン・テン・ホルト/Simeon ten Holt

オランダの作曲家であるシメオン・テン・ホルトの傑作「カント・オスティナート」は、ミニマルミュージックを象徴する作品です。オスティナートとは同じフレーズを執拗に繰り返すという手法ですが、まさにミニマルミュージックと言えるわけです。

この作品は人気が高く、ピアノ独奏版や複数台版、あるいは他の楽器による版など複数の演奏が様々な演奏家により録音されています。本アルバムは現代アーティストとしても活躍している日本人ピアニスト、向井山朋子による演奏です。

イェルーン・ファン・フェーン/Jeroen van Veen

自身も優れたピアニストであるオランダの作曲家、ファン・フェーンも現代を生きるミニマルミュージック作曲家です。ショパンやラフマニノフらが書いた「24の前奏曲」という形式に、ミニマルミュージック的手法でアプローチしたこのミニマルプレリュードをはじめ様々な作品を書いています。

その一方で前述のシメオン・テン・ホルトやマイケル・ナイマン、坂本龍一などの作品を積極的に取り上げ録音しており、作曲活動と演奏活動の双方で活躍しています。正に「ミニマルミュージックの伝道師」とも呼ぶべきアーティストなのです。

結びに

「小さな」音素材を「繰り返す」だけの音楽であるはずのミニマルミュージックの世界は、これ程にも多様的で楽しい世界が広がっています。少しでもこの世界に興味を持っていただき、聴いていただければ幸いです。是非、自分のお気に入りの一曲を見つけてみてください。