クラシック音楽は好きだけど「近代・現代音楽ってなんだか難しそう。」という方も多いはず。かくいう私も、聴かず嫌い(?)をしていた一人でした。

しかし、近代・現代音楽がどのような仕組みで作られているのかがわかってくると、楽曲への理解が深まり、今よりもっと楽しく聴けるようになります。

そこで今回は、これから近代・現代音楽のことを知りたい方、さらに学びを深めたい方にも役立つ、基礎的な10の音楽用語をご紹介したいと思います。


 

そもそも近代音楽、現代音楽とは?

西洋クラシック音楽とは、古代に始まり、17世紀から19世紀の間に調性、形式、和声などの様式を完成させた、規範的な音楽を指します(*1)。

時代と共に調性は崩壊し、20世紀に入るころには伝統的な様式から脱却した、近代音楽が誕生しました。

無調を突き進む表現主義(シェーンベルク)、バロックや古典派時代の音楽に立ち返る新古典主義(ブゾーニ)、力強いリズムに工夫を凝らす原始主義(ストラヴィンスキー)らが現れ、それぞれの表現を磨いていきました。

その後、第二次世界大戦前の音楽を “近代音楽”、戦後のものを  “現代音楽”と呼ぶようになりました。

*1) Britannica, https://www.britannica.com/art/music

1)多調(英:polytonal)

多調とは、その名の通り2つ以上の調が同時に使用されること、またはその状態です。古くは中世の多声音楽から、厚みを持たせ立体的にするために使われていました。

近代の音楽では、調性を曖昧にする事で、幻想的かつ多次元的な世界観を演出する場合にも用いられます。

ストラビンスキー:『ペトルーシュカ』3楽章より1921

2)4度和音(英:quartal  harmony)

4度音程で積み重ねる和音のことです。

例えば、ド(C)から数えて4番目の音であるファ(F)、ファ(F)から4度目のシ(Bb)という手順で音を順に上に重ねてみます。

すると、ド(C)–ファ(F)–シ(Bb)–ミ(Eb)–ラ(Ab)–レ(D)…となり、根音のド(C)に対して不協和音となるシ(Bb)、レ(D)が含まれるため、どこか不安定でミステリアスな響きが出来上がります。

ジャズやロックではおなじみの和音ですが、クラシックではバルトーク、アイヴズなどの作品によく見られます。

バルトーク:『ミクロコスモス』第5巻 Op.131, 1926-39

チャールズ・アイヴズ:Kz 75, 『檻(かご)』Kz 75, 1906

3)無調音楽(英:atonal music)

ご存知のように、機能和声とは、例えばハ長調の場合「ドミソ」「ソシレ」「ファラド」のように役割ごとにグループ分けし、それらをつなぎ合わせて曲を作る、という考え方です。

しかし、無調音楽にはそのような機能和声の概念がありません。また、調性(長調、短調)や、決まった主音が存在しないので、これまでにない感覚的で鋭い音楽が新しく生まれました。

その背景として、世界が大戦に向かっていたことが無関係ではなかったようです。これまでの社会を失う不安や恐れが高まる中、シェーンベルクは『月に憑かれたピエロ』を発表しました。これは第一次大戦が始まる2年前のことでした。

シェーンベルク:『月に憑かれたピエロ』1912

4)12音技法(英:twelve-tone music、dodecaphony)

20世紀初頭に、シェーンベルクが無調音楽から発達させた作曲技法。主音がなく、平均律の半音階12音を全て平等に扱います。

作り方はシンプルで、まずドからシまでの12音を1つずつ使って音列を作り、その音列ごと高さを変えたり、逆行させヴェーベルンたりして曲を作ります。シェーンベルクの弟子であるヴェーベルンは、 独特の方法で12音技法を洗練させました。

(ウェーベルン):『ピアノのための変奏曲 』Op.27 より第1曲  1903-04

5)セリエル音楽(英:serial music)、トータル・セリエリズム(英:total serialism)

第二次世界大戦後、12音技法をさらに発展させたものとして、セリエル音楽が生まれました。メシアンによって提唱され、音の高さだけでなく、長さ、 強弱、音色の4つのパラメーターを操作して作曲する技法です。

どちらかというと数学的に音を扱うので、どこかで聞いたメロディーを無意識に使ってしまう、という事は起きないのですが、「複雑すぎてみんな同じように聞えてしまう!」という問題が残りました。

メシアン: 『4つのリズムのエチュード 火の島』1949-50

6)トーン・クラスター(英:tone cluster)

アメリカの現代作曲家、ヘンリー・カウエルが発明した作曲技法で、密集した音の塊を同時に鳴らすことを指します。カウエル自身が腕やこぶしなどで鍵盤を抑える実験を繰り返し、主にピアノ曲にその技法を用いました。

下の例は、アイリッシュの海の神の伝説を表現したピアノ曲です。右手の親しみやすいメロディーに対し、左手のトーン・クラスターはノイズや効果音を添えるだけでなく、伴奏として和音も添えています。

ヘンリー・カウエル:『The Tides of Manaunaun』 1917

7)ミニマリズム(英:minimalism)、ミニマル・ミュージック (minimal music)

下のスコア付き動画でみることができるように、最小化したパターン(音形)を何度も繰り返したり、引き延ばしたりする音楽のことです。

繰り返していく過程で、少しずつパターンを変化させるのが特徴で、1960年代にアメリカで生み出され、テープ音楽を始めとする電子音楽の発達と共に広がりました。代表的な作曲家としては、テリー・ライリー、スティーヴ・ライヒらが有名です。

テリー・ライリー:『In C』1964

繰り返しの中で生じるうねりを聞いているうちに、不思議とお経を聞いているような感覚になりませんか?

実際に、ミニマル・ミュージックは瞑想や睡眠の導入にも使われています。芸術としてだけでなく、セラピーとして使われる日も近いかもしれませんね。

8)ミュジーク・コンクレート(仏:musique concrète)

都会のノイズ、雨や風などの自然音、足音や話し声などの生活音などを録音・加工し、それを素材とする電子音楽のことを指します。

1940年代後半、フランスで発達しました。作曲のプロセスで書くスコアは作品として扱われず、「実際にどのように再生されたか?」までが作品とみなされるので、スピーカーの選定や配置なども作品の質に大きく関わってきます。

日本の現代音楽家では、黛敏郎、武満徹らが積極的に制作を行いました。

黛敏郎:『まんだら』 1951

9)偶然性の音楽

作曲家が楽曲を厳密にコントロールする西洋クラシック音楽への反発として、作曲や演奏に偶然性を取り入れた音楽のこと。

「作品は常に作曲家が意図したように演奏されるとは限らない」という考えを持っていたジョン・ケージ。

「音を解放する」手段として、易やサイコロを使って音の高さ、リズム、テンポを決める、チャンスオペレーションという手法を考案しました。

ジョン・ケージ:『易の音楽』Music of Changes  1951

10)図形音楽、図形譜 (英:graphic notation music)

五線譜上の音符ではなく、図形を使って表現された音楽。

現代音楽ではしばしば使われ、これまでにない新しい音楽を表現する手段とされています。

西洋クラシック音楽において、作曲家たちはどのように演奏して欲しいかを正確に伝えるために、五線譜を使ってきました。

図形譜に書かれた情報には正確さはないものの、より直感的で感覚的に音のイメージを伝えることができます。

演奏者によって解釈が異なったり、同じ演奏は2度とできないということも、偶然性を尊重する前衛作曲家たちの意図するところだったのかもしれません。
※ご紹介できる動画などがありませんでした

以上、急ぎ足でのご紹介になりました。なんとなくでも用語と曲の雰囲気を感じていただけたらと思います。

音楽家たちは常に新しい表現を求め、創造のために知恵と情熱を注ぎ続けてきたのですね。

少しとっつきにくい現代音楽ですが、知れば知る程に味わいが深まることでしょう。