2024年も暑くて熱い吹奏楽コンクールの夏がやってきた。7月から各地で地区大会がスタートし、現在は県大会の結果も出始めているところ。

そこで、すでに県大会を突破して支部大会への出場が決まっている下記の強豪3校の顧問に、県大会で演奏した印象と支部大会・全国大会への意気込みを聞いた。

・活水高校吹奏楽部(長崎県)
・愛媛県立伊予高校吹奏楽部(愛媛県)
・秋田県立秋田南高校吹奏楽部(秋田県)

取材・文

  • オザワ部長世界でただひとりの吹奏楽作家。神奈川県立横須賀高等学校を経て、早稲田大学第一文学部文芸専修卒。在学中は芥川賞作家・三田誠広に師事。 現役時代はサックスを担当。現在はソプラノサックス「ヤマ」(元SKE48の古畑奈和が命名)とアルトサックス「セル夫」を所有。好きな吹奏楽曲は《吹奏楽のためのインヴェンション第1番》(内藤淳一)。

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全国大会4連続出場の活水高校がコロナに苦しむ|活水高校吹奏楽部

活水高校吹奏楽部
©活水高校吹奏楽部

活水高校吹奏楽部は長崎県長崎市にある私立の女子校。2015年に全日本吹奏楽コンクールに初出場し、昨年まで4大会連続で出場中。また、全日本マーチングコンテストにも6大会連続で出場しており、吹奏楽が盛んな九州の中でも強豪の一角となっている。

今年は部員数54名と決して多くはなく(つまり、部員全員がコンクールメンバー)、うち24名が1年生という構成だ。

課題曲はIII《メルヘン》、自由曲には松下倫士作曲《ル・シャン・ドゥ・ラムール・エ・ドゥ・ラ・プリエール(愛と祈りの歌)》を選んでいる。

活水は県大会を突破して九州大会出場を決めているが、顧問の杉町たまみ先生は県大会での演奏をこう振り返る。

「正直、県大会の演奏は良くなかったです。部内でコロナが広がり、全部員が揃ったのが大会5日前。予定していたホール練習もできませんでした。トランペットのトップ奏者の3年生もコロナにかかってしまい、普段は冷静な子なのに本番は非常に緊張していました。課題曲の前半で珍しく音を外したので、私は『大丈夫、大丈夫』と口の動きで伝えました」

実は、今年の地区大会・県大会はコロナで苦しんだというバンドは少なくない。部員数の多くないバンドだと深刻な問題だ。

それだけに、杉町先生は8月25日に予定されている九州大会では万全の状態で出場したいと考えている。

「九州大会に向けて、ゼロスタートで練習しています。いちばん重視しているのは美しい音色で奏でること。うちは1年生が多く、ソロも1年生が演奏する部分がけっこうあるので、彼女たちの伸びしろに期待しています。例年、『活水魂』『活水プライド』という言葉を大切にしながら演奏していますが、1年生がどれだけそれを身につけて九州大会に臨めるか。一方、先輩たちは全国大会を知っていますので、先輩たちの経験と1年生の持つ無限の可能性を融合させながら進んでいきたいです」

「四国の横綱」伊予高校はパッションを磨く|愛媛県立伊予高校吹奏楽部

愛媛県立伊予高校吹奏楽部
©愛媛県立伊予高校吹奏楽部

愛媛県立伊予高校吹奏楽部は全日本吹奏楽コンクールに通算27回出場しており、「四国の横綱」とも称される。今年度の部員は75名だ。

3月に開催された全日本アンサンブルコンテストにも打楽器七重奏チームが出場し、銀賞を受賞している。

そして、コンクールには課題曲I《行進曲「勇気の旗を掲げて」》、自由曲《シンフォニエッタ第4番「憶いの刻」》(福島弘和)で出場している。

愛媛県大会で代表に選ばれた演奏について、顧問の池田努先生はこう語る。

「練習してきた成果を一定レベルで発揮できた演奏だったと思います。本番3日前くらいに緊張がピークになっていましたが、そこからは『やるんだ!』という気持ちが高まり、本番は落ち着いて演奏していました。ただ、そこが高校生の難しいところで、落ち着きが出ると、逆に音楽的なパッションが少なくなってしまうんです。今後は四国大会に向けて、冷静でありながらもパッションを強く届ける演奏を目指していきたいですね」

活水高校同様、伊予高校も県大会前にコロナに苦しめられた。

「県大会前にコロナが広まって、10人くらい欠けました。全員が揃ったのは本番前日でした。特に、うちでイングリッシュホルンを吹いているのは本来はコントラバスを担当している部員で、代わりがいないので、コロナからの復帰をみんなで待ちわびていました」

池田先生は8月25日に開催される四国大会の突破に向けて意気込みをこう語ってくれた。

「四国支部は代表枠が2つだけ。狭き門ですが、審査員に評価していただけるクオリティの音楽に近づける努力を続けていきたいです」

今年は全日本吹奏楽コンクール・高等学校の部は、栃木県宇都宮市の宇都宮市文化会館で開催される。

池田先生は「餃子が大好きなので、(全国大会に出場して)宇都宮名物の餃子を食べたいです」と笑っていた。

2年間のリベンジを目指す秋田の名門バンド|秋田南高校吹奏楽部

秋田県立秋田南高校吹奏楽部
©秋田県立秋田南高校吹奏楽部

秋田県立秋田南高校吹奏楽部は、全日本吹奏楽コンクールに過去32回出場。6大会連続(三出休みを挟む)で金賞を受賞したこともある、秋田のみならず東北を代表する名門バンドだ。

だが、一昨年は全国大会の直前にコロナが広がり、部長を含めた18人が欠場。37人で演奏しなくてはならないという苦しい経験をした。

また、昨年は東北大会で金賞を受賞したものの、3校に与えられる東北代表の座を逃した。今年の秋田南は2年分の悔しさを秘めながらコンクールに挑んでいるのだ。

選んだのは、課題曲がII《風がきらめくとき》、自由曲は過去3回演奏している《竹取物語》の新アレンジ版《竹取物語 第二章》(三善晃)だ。顧問で同部OBでもある奥山昇先生は、今年の選曲の理由をこう教えてくれた。

「課題曲IIを選んだ学校は少ないと思いますが、とにかくメロディがいいんです。サウンドもうちに合っていますし、生徒たちからの人気もいちばん高かったです。自由曲の《第二章》は僕がつけました。私が高校生だったころに秋田南で《竹取物語》を初めて演奏してから今年がちょうど30年。しかも、地元の秋田市で12年ぶりに東北大会が開催されます。そこで、秋田南の歴史を振り返りながら、新しいバージョンでアレンジした《竹取物語》で次世代の音楽を生み出していこう、という思いから、同じ秋田南の卒業生である天野正道先生に編曲をお願いしました」

本記事に掲載した秋田南のホール練習の写真では、課題曲の作曲者である近藤礼隆さんが指揮をし、欠席者を埋める形で顧問の奥山昇先生がサックスを演奏している。なかなかレアなシーンだ。

一方、自由曲だが、楽譜が仕上がったのが6月下旬で、地区大会の2週間前だったという。

「60分を超える原曲から部分的にチョイスして編曲してもらっており、基本的に前回とは違う内容になっていますが、ところどころ以前の秋田南が演奏したのと似たフレーズが聞こえてくるなど、特に東北の吹奏楽マニアにとってはたまらないアレンジです。ぜひ全国大会まで出場して、日本中の方に新しい《竹取物語》を聴いていただきたいです」

秋田南は、秋田県大会の際にはコロナで苦しむことはなかった。

「感染者はゼロでした。一昨年の苦い経験があるので、常に気をつけていますし、東北大会にも万全の対策を練って準備していきたいです」

県大会の演奏については、奥山先生はこんな印象を持ったという。

「極めて落ち着いて演奏できたと思います。繊細なタッチで書かれた課題曲の音を正しく埋めていく作業はなかなか困難で、大会当日の昼まで徹底的に練習しました。そのおかげで、本番はいい形で演奏できたと思います。自由曲も、あの時点ではベストパフォーマンスでした」

東北大会は8月24日。奥山先生の胸には、例年以上に期するものがある。

「この2年、コンクールで喜んでいないという記憶だけが残っています。一昨年のコロナに苦しめられた全国大会、昨年の久しぶりの東北代表落ち。今年こそは最後に笑って終わりたい。やりきった、自分たちが積み重ねてきた音楽を形にできた、という喜びをコンクールで感じたい。そのためにも、一つでも上位の大会に進みたいです。一昨年の悲しい記憶を持った当時の1年生が今年は3年生ですし、やはり全国大会には行かねばならないと思っています」

さいごに

今回、この記事で取り上げた3校だけでなく、これからコンクール本番に挑む学校はそれぞれの過去、それぞれの思いを抱えている。

望みが叶うことも、叶わないこともあるだろう。

それでも、奥山先生が語ったように「自分たちが積み重ねてきた音楽を形にできた」ならば、審査の結果とはまた違った思いが心に残るはずだ。

すべての出場校の健闘を願い、観客の胸を打つ素晴らしい演奏を期待したい。