子どもの習い事として王道ともいえるピアノ。幼少期の習い事ベストテンでも常に上位にくいこむ人気を誇ります。
では、ピアノを習うことの効果はご存知でしょうか?今回は、ピアノを習うことによるさまざまなメリットをご紹介いたします。
子供の頃からピアノを習うと頭がよくなる?
科学者たちが興味を持つテーマのひとつに、音楽が子どもに与える影響というトピックがあります。
音楽や楽器に触れることが、子どもたちの知的能力の発達を促すのではないかという説は、科学者を惹きつける研究であるだけではなく、親にとっても重要なテーマです。
音楽と子供をテーマにした研究で最も知られたものは、1997年にF.ラウシャーとG.ショウという科学者によるものです。研究ではまず、78人の未就学児童を3つのグループに分けました。
グループA ピアノのレッスンを受ける。
グループB コンピュータを学ぶ。
グループC 習い事をしない。
数か月後、これらの状況に置かれた3つのグループの子供たちは、心理や技術に関するテストを受けました。
その結果、グループAのピアノレッスンを受けていた子供たちは、推論力において他のグループの子どもたちより30パーセントも高いことが判明しました。推論力に秀でることは、数学の分野で圧倒的に有利とされているのです。
この研究は、その後の類似テーマを調査するうえでのベースにもなりました。幼少期に音楽を習った子供たちは、学校の成績も優れている可能性があるというのが学者たちの見解なのです。
また、2014年にアメリカ児童思春期精神医学会(Journal of American Academy of Child & Adolescent Psychiatry)が発表した声明によれば、ピアノをはじめとする楽器演奏の教育を受けた子供たちは、実行力や感情の処理に関する領域において、より発達していたことが明らかになりました。
なぜピアノなのか
それでは、次はピアノに焦点を当てたメリットを見てみましょう。
まずピアノはバイオリンなどの弦楽器とは異なり、指で鍵盤を押しさえすれば正しい音が出るという特徴があります。これは、とにかくハードルの高い楽器習得の初期においては大きな長所といえるでしょう。
さらに、ピアノは88の鍵盤を両手を使って演奏します。左右の手の動きが異なるうえ、上達すれば足でペダルを操作するという作業も加わります。ピアノの演奏は、迅速に複数のことを同時進行させる必要があるのです。
また、姿勢の維持、楽譜の解釈、リズムの保持などなど、ピアノ演奏については脳を最大限に駆使し、それによって、神経細胞は鍛錬され、論理・創造・視覚・聴覚・感情・運動機能などをつかさどる脳の領域に刺激を与えることにつながるのです。
自分の学生時代を思い返しても、ピアノを習っていて成績が悪い子はいなかったように思います。
読書よりもピアノ?読解力に大きな影響
ピアノを習うことで培われる能力のひとつに、言語能力があります。これは、2018年にマサチューセッツ工科大学によって研究発表され、大いに世間の耳目を集めました。
まず、実験は次のように行われました。
4歳から5歳の子ども75人を、3つのグループに分けました。
グループA 週3回ピアノのレッスンを受ける
グループB 読書のトレーニングを受ける
グループC いずれのレッスンも受けない
6か月後、研究グループはこの子供たちの言語識別能力を分析しました。
まず母音に関しては、ピアノのレッスンを受けたグループと読書トレーニングを受けたグループが断然優位でした。しかし、子音に関してはのはピアノのレッスンを受けたグループの子供たちのみ、という非常に鮮明な差が出たのです。
読書よりも、ピアノを弾くことのほうが、読解力の涵養につながることも、研究によって報告されています。
子供がピアノを続けるための”6つのコツ”
とはいえ、ピアノを始めるうえでの鬼門は、習得初期にあるといってよいでしょう。いくら、ピアノを習うことで数学や英語ができるようになると説明しても、子どもに対して説得力を持つとはかぎりません。
とくに、スマートホン世代の子供たちにとって、白と黒だけのピアノは無味乾燥と映つるのも当然かもしれません。ピアノのレッスンが子供たちに与えるもの、それは楽譜とピアノだけでしかないのです。
①子どもの性格に合った教師を見つける
どこの音大を出たとか過去にどんなキャリアを持っているかよりも、子どもと円滑にコミュニケーションができる教師が望ましいです。また、ネガティブな発言を多用しない教師も、子どものレッスンにとっては重要な条件になってきます。
②親子で小さなフラストレーションを乗り越える
これは、どんな習い事にも共通していますが、楽しみよりも苦労の多い習い事の初期では、子供たちのフラストレーションが甚大となります。親子でこれに向き合い、乗り越えることはピアノを習うこと以上に、ポジティブな経験となるでしょう。
③家での練習時間は短めに切り上げる
経験を積んだピアノの教師たちによれば、家での練習は長時間行うよりも、15分ほどの練習を1日2回行うほうがはるかに有効とのこと。長時間の練習時間は、成長を遅らせることもあるうえに、練習に飽きて集中力を欠いてしまいます。
④新しい曲が仕上がった時は過剰に褒める!
現実には、ピアノを習い始めて、すぐにショパンやベートーベンを楽しんで演奏できるわけではありません。習い始めの当初は、退屈な練習曲が続くことも多いでしょう。
ですから、子どもが1曲を仕上げた場合には惜しげのない賛辞を与えてあげましょう。親に誇らしく思われることは、子どもにとってなによりも大切なことです。
⑤モチベーションを保つ仕組みをつくる
小さな報酬を用意することもピアノのレッスンを続けさせるには有効です。
ゲーム時間を少し延長する、週末に少しだけ夜更かしをするなどなど、練習することや曲を仕上げることでポイントを貯めるスタイルを作るのもいいかもしれません。
⑥練習のためにタブレットも活用する
現代の子供たちにとって、スマホやタブレットはもはや生活の一部。
ピアノの練習においても、クイズ形式にしたり、楽譜の読み方をタブレットを使って学ぶのもひとつの手段です。
まとめ
ピアノが身近にあったからとりあえず習い始めた、という方も多いかもしれません。あまり深く考えずに、子どもたちをピアノ教室に通わせている方もいらっしゃるでしょう。けれど、ピアノ教育には、サイエンスの見地からもさまざまな効果があることが研究で明らかになっています。
スマホ世代の子どもたちだからこそ、楽譜を読み演奏する喜びは大きな経験になるのかもしれません。そしてなによりも、自分が心から好きだと思える曲を演奏できる喜びこそが、ピアノを習うことの醍醐味ではないでしょうか。
言語能力の発達や脳への刺激は、それに付随する枝葉にすぎません。子どもたちがより楽しく音楽に触れることができる、その機会を与えてあげることは、私たち親自身の幸福でもあるのです。
ライター:Sachiko Izawa