【歴史から紐解く】日本の音楽教育のシラナイこと

2018/04/16
クラシック

日本では、どこの学校でも音楽の時間があり、そこで初めてクラシック音楽に触れた方もいらっしゃるのではないでしょうか。また、ピアノなどの習い事を通してクラシック音楽に親しんだ方も少なくないはずです。ただ、それらは必ずしも心楽しいものではなかったかもしれません。音楽そのものは好きでも、楽器の練習や学校の音楽の時間は嫌いという子供が多くいます。今回はそんな、日本独特の音楽教育を掘り下げていきたいと思います。

 

1 子供の音楽教育

冒頭で述べたように、日本の音楽教育の2本柱は習い事と学校教育です。

楽器を習う

習い事では、ピアノが人気ですね。ピアノを習うことがブームとなった1980年代と比べて販売台数・生産台数共に減少傾向にありますが、現在でもヤマハは年間約1~2万台を販売しています。ピーク期にピアノを習っていた世代が大人になり、先生もたくさんいらっしゃいます。

ピアノの他に習い事としては、ヴァイオリンや吹奏楽が好まれるようです。ただ、個人での練習は大変で楽器を嫌いになってしまったり、受験を機にやめてしまう子も多くいます。発表会では、小中高と年齢が上がるにつれて参加人数は少なくなっていきます。

本格的に楽器を習う人の中には、コンクールに参加する人々もでてくるでしょう。全本学生音楽コンクール(毎コンなどとも呼ばれます)や、ピアノに限れば、ピティナ・ピアノ・コンペティション、JPTAピアノ・オーディションなど。いずれも地区予選、本選、全国大会など数回の選考を経て賞が決まります。全国大会には、プロの音楽家の卵が集まってきます。

コンクールに出るとなるとますます重要になるのが先生選びです。優しい先生と厳しい先生、どちらがいいのでしょうか。優しい先生の下で音楽を好きになることから始めるほうが、その後も続く確率が高いという研究もあります。年々、曲の難易度や求められる完成度は上がりますから、やはり楽器を好きであることが続ける秘訣なのでしょう。また、音楽の世界は狭いですから、さらに良い指導を求めるとなると、先生のそのまた先生を紹介してもらうというケースが多いようです。こうして、一人の偉い先生を中心に門下が出来上がっていきます。

 

音楽の時間

学校の音楽の時間にはどんな思い出がありますか?歌やリコーダーの練習を中心とした授業だったかもしれません。教育芸術社の小学校1年生の教科書では、ヨハン・シュトラウスのラデツキー行進曲を取り上げています。ほとんどの日本人が、学校の音楽の授業でクラシックに触れるのです。

小学校の間はわらべ歌や民謡が多いものの、中・高になると、オペラ鑑賞も登場します。最近ではポップスの歌も載っていますが、これはさまざまなジャンルの音楽をバランスよく学習させる傾向にあるためです。新しい音楽との出会いが設けられているわけですね。

ところで、このような音楽の授業は楽しかったでしょうか?私はあまり好きではありませんでした。楽しいのは、習っていたピアノを活かして伴奏ができるときだけだったように思います。なぜ、好きでもない曲や楽器を学ばなければならないのでしょうか。鑑賞すれば必ず感想文を書かされるのも嫌でした。音楽の苦手な子には苦痛ですらあるのではないかと子供心に感じたものです。

学習指導要領によると、教科の目標は「表現及び鑑賞の活動を通して,音楽を愛好する心情と音楽に対する感性を育てるとともに,音楽活動の基礎的な能力を培い,豊かな情操を養う。」となっています。確かに音楽の授業で知ったことがきっかけでクラシックが好きになったり、ある程度なじみを持ったりすることもあるでしょう。音楽界や合唱コンクールでクラスに団結が生まれるといった効果があるのも事実です。

しかし、なぜ、音楽を「勉強」しなければならないのか。また、なぜ、西洋のものであるクラシックを日本で学ぶのか。その理由を次項から解明していきます。

 

2 クラシックを聴くことの科学

まず、脳の発達に良いという科学的な理由があります。

通常、人間の脳は、左脳が理性を、右脳が感情をコントロールします。音楽は主に右脳で処理されるといわれています。しかし、音楽を学んだ人は左脳でも音楽を処理するという研究報告があるのです。これはつまり、理性(左脳)で感情をコントロールすることにつながります。

また、音楽はコミュニケーション能力の向上にもつながるといわれており、最近では、発達障害を持つ子供に音楽療法を行う取り組みも行われています。

 

3 歴史的な背景

歴史的に見れば、明治維新の折、西洋から取り入れた最初の音楽は、軍楽と教育の分野でした。日本初の音楽学校である東京音楽学校(今の東京藝術大学)は、音楽教師の養成機関として作られ、西洋音楽教育に力を注ぎました。邦楽も少しはあったようですが、当時の日本では邦楽=「子女が手習いとしてするもの」「身分の低い者の仕事」として軽視されていたようです。そのようなわけで、文部省唱歌やわらべ歌の多くは、実は西洋音楽をお手本に作られたものなのです。

 

4 プロになるためには?

学校教育や習い事など子供時代の経験を経た後、音楽を続けるためには、プロの音楽家を志す、または趣味として続けるかの二通りの選択肢に分かれますね。ではプロになるためには何が必要なのでしょう。

まずは練習。楽器にもよると思いますが、一日何時間も練習します。筆者の知人にも大学でピアノを学んでいる人がいますが、一日5時間の練習はが普通で、8時間~一日中の時もあると言っていました。進学先としては、日本の音楽大学・大学院か海外留学です。日本の学校に行って留学するという人も多くいます。実績作りのために海外コンクールに出る人も多いです。

このように、プロを目指すには練習時間だけではなく、お金もとてもかかることがわかります。学校、コンクール代、楽器代、先生へのお礼等々、他にも挙げればきりがありません。しかも、それらが必ずしも報われるとは限らないのです。途中で音楽以外の道を選んだり、音楽教師になる人のほうが多いくらいです。技術のうえに経済力や運、そして収入が不安定になりがちな音楽家としてやっていく度胸を必要とするのが、プロへの道なのです。

 

5 音楽の生涯教育

趣味として音楽を続ける人はたくさんいます。昨今、音楽を「聴く」だけではなく、参加するための機会・場所が増えています。年末恒例の第九の合唱はよい例ですね。大人になってから楽器を始める人も多く、例えばヤマハは「大人の音楽教室」と銘打って楽器のレッスンを開いています。高齢化社会において、老後の趣味としても音楽が人気になっています。

高齢者や要介護者のケアサービスとしても音楽が用いられることも多いようです。前述した科学的根拠から、脳の活性化に役立つのです。リズムを刻むことは、リハビリテーションにも効果があるようです。同じ理由で、就学前の幼児にも音やリズム遊びをするリトミック教室が増えています。

 

6 終わりに

日本では、多くの人が、子供の頃に習い事や音楽の授業でクラシックに触れる機会があります。そして、興味を持ちさえすれば、そのあとも、クラシックに触れることのできる機会がたくさんあることがわかります。音楽の時間に苦手意識を持つ人は多くても、様々な音楽に出会っておくことが、将来の音楽愛好の種となり、日本の音楽文化を支えているのです。

こうしてみていくと、音楽を「学ぶ」ことには3つの意義があるようです。脳の活性化という科学的意義、西洋音楽の導入という歴史的意義、そして日本の音楽文化を維持するという社会的意義です。

如何でしょうか。この記事を読んで、なんとなく受けていた音楽教育が、より意味のあるものに感じていただけたら幸いです。

 

 

 

 

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