「クラシック音楽」と聞くと、難しい、取っ付きにくい、そんな風に感じてしまう人も多いかもしれません。いまはいろんなジャンルの音楽があって、さまざまなミュージシャンが時代の空気に合わせた音楽を作っています。クラシックなんて古臭いし、堅苦しいし、すぐに眠たくなる、そう思って受けつけない人もいることでしょう。

でも、決してそんなことはありません。わたしたちはクラシック音楽を身近に接していて、様々な機会に聴いているものなのです。小学生のとき運動会で流れていたあの曲は、誰が作っていてなんていう曲なのか?川平慈平が出演しているヘパリーゼのCMに流れている曲は?

(正解はオッフェンバックの「天国と地獄」と、ブラームスの「ハンガリー舞曲第5番」)

作曲者や曲の名前を知らなくても、わたしたちはすでにたくさんの曲を耳にしています。そしてそれに気づいたときが、まさに入り口、スタートなのです。

少しでも興味が出てきたら、次におすすめしたいことがあります。
実際にコンサートホールに足を運び、生の演奏を鑑賞することです。クラシック音楽の醍醐味は、何といっても生演奏にあります。奏者の細かな息使いや、指揮者とのアイコンタクト、音源だけでは感じることのできない、舞台ならではの緊迫感を楽しめます。でも、コンサートなんてたくさんあるし、一体どれに行けばいいのか分からない・・・。今回は、そのような人たちにお勧めしたい音楽祭を、ピックアップしました。

別府アルゲリッチ音楽祭について

別府アルゲリッチ音楽祭は、今年で21回目を迎えます。
アルゼンチン出身の世界的ピアニスト、マルタ・アルゲリッチが総監督を務め、「育む」「アジア」「創造と発信」という3つのテーマを掲げて、クラシック音楽の発展を目的とした音楽祭です。

東京でも大阪でもない、別府という地でアルゲリッチの冠がついた音楽祭が開かれるということに疑問を持つ人もいるかもしれません。そこには、アルゲリッチと古くから親交のあった、日本人ピアニストの伊藤京子と当時の別府市長との運命的な出会いがありました。

音楽祭の始まり

アルゲリッチと伊藤京子の出会いは1977年のことでした。2人の親交は長く続き、ピアノの演奏を共にする仲でもありました。

1992年別府市の依頼によって、伊藤は市の教育課指導係顧問に就任します。当時の別府市には別府コンベンションプラザの建設が進んでいて、別府市長は、世界に発信できる取り組みを行いたい、そう考えていました。

伊藤もこの取り組みを成功させるためには、真に世界に通用する人材が必要だと考えました。そこで親交にあるアルゲリッチに白羽の矢が立ちました。しかし、アルゲリッチはこのときすでにスーパースターであり、多忙を極めていました。まさかアルゲリッチが首を縦に振ることはないだろう、そう思われていました。

だが、大方の予想に反し、アルゲリッチはこの話を快諾しました。のちにアルゲリッチは、なぜ別府なのか?という問いに対しこう答えています。

「京子がいたからよ」

別府市は本格的な音楽祭をスタートさせるべく、地元の人に協力を仰ぎました。プレコンサートなども頻繁に行い、実に3年もの準備期間を要しました。そのあいだに、地元の人たちの理解も少しずつ深まっていき、ボランティア活動に協力する人たちも増えていきました。そして1998年、ついに第1回目の開催に至ったのです。

こうした取り組みは徐々に実を結び、やがて多くの人が参加するようになりました。途中、開催時期が変わるなど、紆余曲折があったものの、地域に根差した温かみのある音楽祭は、今年も21回目を迎え、別府の地で熱く繰り広げられます。

別府アルゲリッチ音楽祭の見どころ

例年さまざまなゲストが来て、別府の地を盛り上げてくれます。アルゲリッチの演奏はもちろんのこと、彼女と付き合いのある多くのアーティストが来日します。ここでは現在までに決まっている、出演アーティストをご紹介します。

・ミッシャ・マイスキー
イスラエル出身の世界的チェリスト。流麗で豊かな音色のチェロは世界各国で多くのファンを持つ。アルゲリッチとの共作も多数あり。ベートーヴェンのチェロ・ソナタでは、個性あふれる両者が激しくぶつかり合う熱演を演じている。現代屈指の個性派チェリスト。娘であるリリー・マイスキーとも共演を行う予定。

・竹沢恭子
愛知県大府市出身のヴァイオリニスト。3歳からヴァイオリンを始め、スズキ・メソードの山村晶一氏に師事。第51回日本音楽コンクール第1位、1986年第2回インディアナポリス国際ヴァイオリン・コンクールで優勝。これまで世界の主要オーケストラと多数共演し、国際的に高い評価を受けている。ブラームスのヴァイオリン協奏曲では、芯の通った力強い演奏で、非常に高い評価を受けている。

・イム・ドンヒョク
イム・ドンヒョクは1984年韓国ソウル生まれ。モスクワ音楽院でレフ・ナウモフ、ドイツの音楽大学でアリエ・ヴァルディに師事。2000年イタリアのブゾーニ国際ピアノコンクールで5位入賞。2000年浜松国際ピアノコンクール第2位入賞。2005年ショパン国際ピアノコンクールで3位入賞。その才能はアルゲリッチから高く評価され、韓国を代表するピアニストの1人として活躍をしている。

またアルゲリッチの演奏はもちろんこと、ほかにもさまざまなイベントがあります。

・大分県出身の若手演奏家によるコンサート
・芥川賞作家の平野啓一郎さんによるベートーヴェン談話
・アルゲリッチの過去の演奏を上映する、フィルムコンサート
・公開チェロマスタークラス

クラシック初心者~経験者まで楽しめる、非常に楽しいラインナップとなっています。

アルゲリッチ音楽祭に足を運ぼう

別府と聞くと、温泉街ばかりがイメージされるかもしれませんが、世界的スーパースターが別府の人々と産み落とした、素晴らしい音楽祭があるのです。第21回別府アルゲリッチ音楽祭は、2019年5月12日~6月2日に開催されます。
是非とも直接、その空気に触れてみてはいかがでしょう。

参考URL アルゲリッチ音楽祭
https://www.argerich-mf.jp/

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