秋深まる杜の都仙台で、「せんくら」の愛称で親しまれる仙台クラシックフェスティバル2022が3日間にわたり開催された。

68のホール公演に加え、地下鉄駅コンサートや街なかコンサートなど計102公演が行われ、豪華アーティストの公演をはしごできるまたとない機会に延べ25,000人を超える観客が来場。

今回は、実際に現地で「せんくら2022」の感動と熱気を味わった筆者が、臨場感そのままにコンサートの様子をほんの一部お届けする。

案内人

  • Reiko Mishima音楽WEBマガジン(Cheer Up!)主宰。エレクトーン歴26年、吹奏楽団でのパーカッション歴10年を経て、現在はドラムを習得中。

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9月30日(金)の公演レポート

夕方、会場の一つとなる日立システムズホール仙台に入るなりクラシックファンによる熱気が感じられた。

会場内レストランでは「せんくら限定メニュー」のカボチャシチューをメインにしたセットが提供され、夜遅くまで音楽を楽しむための腹ごしらえをしようと長い行列ができていた。

日立システムズホール仙台では4つのホールを行き来してコンサートを楽しめるのが便利なところだ。

鈴木 優人チェンバロ・リサイタルⅡ

画像提供:せんくら事務局

会場に入ると円形の舞台に、美しい装飾を施したチェンバロが鎮座している。
TVの音楽番組でおなじみ、バッハ・コレギウム・ジャパンの指揮者であり、オルガンやチェンバロの名手である鈴木優人が穏やかな微笑みをたたえて現れると、一瞬にしてその場の空気が変わった。

画像提供:せんくら事務局

鈴木氏の演奏が始まると、典雅なチェンバロの響きと心地良い装飾音符に心が整っていく感覚をおぼえた。まるで宮廷でドレスを身にまとい優雅な演奏会を楽しんでいるような錯覚を感じるほど音楽に集中できたのだ。

本公演は14時45分から開催の「鈴木優人チェンバロ・リサイタルⅠ」と対を成しており、2公演でJ.S.バッハの「6つのパルティータ(クラヴィーア練習曲第1巻)」全てを聴けるようになっている。実際、鈴木氏が「先ほどの公演もいらした方は?」と尋ねると、多くの聴衆が挙手していた。

パルティータとは器楽曲ジャンルの一つで、バッハの時代では変奏組曲といったところか。一曲ごとに違う表情を魅せるパルティータの奥深さに老若男女が魅せられたひとときだった。

<演奏>
鈴木 優人(チェンバロ)

<曲目>
J.S.バッハ/
パルティータ 第3番 イ短調 BWV827
パルティータ 第5番 ト長調 BWV829
パルティータ 第6番 ホ短調 BWV830

次期仙台フィル指揮者太田弦が奏でる神尾真由子×仙台フィル

画像提供:せんくら事務局

約800席を擁するコンサートホールは満員だった。

地元仙台で長年活躍している仙台フィルハーモニー管弦楽団は2023年に創立50周年を迎える。本コンサートの指揮を務めるのは、2023年4月より仙台フィルの指揮者となる太田弦だ。20代という若さで数々のオーケストラから引っ張りだこの太田氏。冒頭の《エフゲニー・オネーギン》より〈ポロネーズ〉で、重厚なオーケストラの響きにたちまち惹き込まれた。

続くバレエ音楽《くるみ割り人形》では、お馴染みの曲が繊細かつ流麗に奏でられ、一足先にクリスマス気分に。特に〈花のワルツ〉では、冒頭ハープのカデンツァの美しさ、続くホルン、弦楽器の響きに魅せられ、こうして生演奏を聴ける嬉しさにただひたすら浸っていた。

画像提供:せんくら事務局

最後はピンクのドレスをまとったヴァイオリニストの神尾真由子が登場。第13回チャイコフスキー国際コンクールヴァイオリン部門で優勝という経歴を持つ神尾氏の登場に客席の期待が高まる。
ヴァイオリン協奏曲といえばこの曲が好き!という人も多い、チャイコフスキーの「ヴァイオリン協奏曲 ニ長調」。何度となく耳にしている曲だが、超絶技巧と華麗なるオーケストラとの協演を目の前にし、ただただ鳥肌が立ちっぱなしだった。これまた生演奏を味わえる嬉しさに包まれ至福の時間となった。

圧巻の演奏に会場は興奮冷めやらず。割れんばかりの拍手がいつまでも会場に響き渡った。

<演奏>
神尾 真由子(ヴァイオリン)、太田 弦(指揮)、仙台フィルハーモニー管弦楽団

<曲目>
チャイコフスキー:
《エフゲニー・オネーギン》より〈ポロネーズ〉
バレエ音楽《くるみ割り人形》より〈小序曲〉、〈行進曲〉、〈花のワルツ〉
ヴァイオリン協奏曲 ニ長調
(アンコール)パガニーニ:《24のカプリース》より 第5番

10月1日(土)の公演レポート

10月とは思えない暑さの仙台。朝から多くの公演をはしごしようと、日立システムズホール仙台は人とすれ違うのも窮屈なほど大勢の客で賑わっていた。

帰宅時に乗ったタクシーのドライバーによると、宮城県外から来ているお客も多いとのこと。今回体調不良で急遽出演できなくなった前橋汀子の演奏を楽しみにしていただけに残念がっていたお客の話題も。

自身もクラシックファンだというドライバーから仙台のコンサートホール事情などを聞き、仙台にもいかにクラシックファンが多いかを実感した。

3人の実力派ピアニストによる豪華ピアノ・ガラ・コンサート

1人ずつのリサイタルを聴きたくなるような人気ピアニスト3人のミニ・リサイタルを1時間で堪能できるという、せんくらならではの企画。コンサートホールはやはり満員だ。

画像提供:せんくら事務局

最初に登場したのは阪田知樹。第14回ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクール最年少入賞、2021年にはエリザベート王妃国際音楽コンクール第4位入賞など、数々の国際コンクールで高い評価を得ている。

演奏が始まるなり自身の世界へと聴衆を誘う存在感。荘厳な中に華のあるバッハは聴きごたえがあった。作編曲にも力を入れているという阪田氏。1曲目の「アダージョ」はバッハの「トッカータ、アダージョとフーガ」のアダージョ部分を自身で編曲したもの。もっと演奏を聴きたい!と思わせるところで舞台を後にした。

画像提供:せんくら事務局

続いて登場した津田裕也は仙台出身。2007年第3回仙台国際音楽コンクール第1位を受賞、せんくらの常連だ。モーツァルト「きらきら星変奏曲」、シューマン作曲/リスト編曲の「献呈」など親しみやすい選曲に会場もほっと和む。津田氏の「お客さんと一緒の空間を味わえるというのは尊いこと」という言葉が心に沁みた。

画像提供:せんくら事務局

トリを務めるのは牛田智大。12歳の若さでデビューアルバム『愛の夢』をリリースして話題となってからちょうど10年。22歳となった牛田氏の演奏はパデレフスキ《6つのフモレスケ》より 〈サラバンド〉から始まった。切なさや哀しみを感じる楽曲。続く《ミセラネア》より 〈メロディ〉〈ノクターン〉も大変美しく、馴染みの無かったパデレフスキへの興味が湧いた。続くシベリウスの「樅の木」、リストの「愛の夢 第3番」とピアノの魅力を堪能させてくれた牛田氏に心から拍手を送りたい。

画像提供:せんくら事務局

最後は3人揃って挨拶。それぞれの個性がきらめく彼らの演奏を、近いうちにまたじっくり聴きたいと思わせられた。

<演奏>
阪田 知樹(ピアノ)
津田 裕也(ピアノ)
牛田 智大(ピアノ)

<曲目>
[阪田 知樹]
J.S.バッハ/阪田 知樹編:アダージョ
J.S.バッハ/F.ブゾーニ編:《パルティータ》 第2番より 〈シャコンヌ〉

[津田 裕也]
モーツァルト:きらきら星変奏曲
シューマン:アラベスク
シューマン/リスト編:献呈

[牛田 智大]
パデレフスキ:
《6つのフモレスケ》より 〈サラバンド〉
《ミセラネア》より 〈メロディ〉、〈ノクターン〉
シベリウス:樅の木
リスト:愛の夢 第3番

加羽沢美濃×廣津留すみれ『情熱の炎』

画像提供:せんくら事務局

TV番組出演でお馴染みの加羽沢美濃(ピアノ)、廣津留すみれ(ヴァイオリン)は意外にも本公演が初共演だという。2人とも演奏の実力はさることながらトーク力も抜群。息の合ったトークで会場を沸かせながらコンサートが進行した。

ヴァイオリンの音色の美しさが際立つドビュッシーの「月の光」、ヴァイオリンのハーモニクス奏法に注目してほしいというバルトークの「ルーマニア民俗舞曲」ですっかり2人の演奏のとりこになった後は、声を揃えて「リクエスト祭りー!!」。会場からジャンルを問わずリクエスト曲を募り、それらをメドレーにして2人で演奏しようというコーナーだ。

南こうせつの「神田川」、モーツァルトの「アイネクライネナハトムジーク」、ベートーヴェンの「スプリングソナタ」、BTSの「ダイナマイト」という、なんとも統一感のないリクエスト曲を、2人はほんのちょっと話し合っただけで見事にピアノとヴァイオリンによるメドレーにアレンジ。即興力の見事さに割れんばかりの拍手が送られた。

スリリングな「チャールダーシュ」であっという間のコンサートが終わり、アンコールに応えて演奏されたのは、宮城県ゆかりの復興支援ソング「花は咲く」。2人から音楽の贈り物を受け取ったような気持ちで私は会場を後にした。

<演奏>
加羽沢 美濃(ピアノ)
廣津留 すみれ(ヴァイオリン)

<曲目>
ドビュッシー:月の光
バルトーク:ルーマニア民俗舞曲
リクエスト祭り!
加羽沢美濃:マジャールの刻印
モンティ:チャールダーシュ
(アンコール)菅野よう子:花は咲く

地下鉄駅コンサート


せんくら2022では、9/24(土)9/25(日)10/1(土)10/2(日)の4日間にわたり、地下鉄駅構内で個人・団体によるクラシックコンサートが開催された。内容はピアノ、オカリナ、アコーディオン、マリンバ、津軽三味線と多岐に渡り、事前公募で決定した70名28組がクラシック曲の演奏を披露した。

私が足を止めたのは、エレクトーンとヴァイオリンによるデュオ「シュシュフルール」によるコンサート。高校時代から演奏活動を共にしているという2人は、エレクトーン1台によるオーケストラにのせて朗々としたヴァイオリンを響かせ、中でも圧巻だったのはサラサーテ作曲の「ツィゴイネルワイゼン」だ。せんくら観客のみならず通行中の人も次々足を止め、コンサートが終わる頃には狭い地下鉄駅構内に200名程度の客が集まり、2人に惜しみなく拍手を送った。

やっぱり、ライブがいいね!

今年のせんくらコンセプトの通り、音楽はやはりライブがいい。

この3年間、コンサートに行くのを控えていた人も多いだろう。だからこそ、名演奏家たちによる珠玉の音楽を生で聴ける「せんくら」は貴重なイベントであり、なくてはならないものである。

今後も、ますます盛り上がっていくことを願ってやまない。