今年の吹奏楽コンクール課題曲は小編成での演奏を意識した曲が多いですね。これまでのような大編成でダイナミックな曲ではなく、いかに繊細に丁寧に演奏するかが問われています。

課題曲Ⅱはまさに小編成バンドが輝ける楽曲と言ってもいいでしょう。少人数だからこそ作れる音楽を味わうことができます。

今回はそんな課題曲Ⅱ「風がきらめくとき」について、作曲者の想いや、演奏ポイントについて詳しく解説していきます!

案内人

  • 川島光将指揮者・作曲家・編曲家 元・中学高等学校音楽教員、吹奏楽顧問 吹奏楽指導者協会・認定指導員 音楽表現学会会員 K MUSIC GROUP代表 現在はオーケストラ、吹奏楽、合唱、声楽など音楽全般の指導にあたる。

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風がきらめくとき|2024年度吹奏楽コンクール課題曲

『「風光る」という春の季語があります。春の到来の喜びを風に託した言葉です。その風景や感情は何かがきらりと光る瞬間がある…、そんなことを思いながらこの曲を作りました。』
※作曲者コメント

この課題曲は良い意味で、これまでの課題曲らしくない曲だと言えるのではないでしょうか。
演奏会でも聴いてみたいようなとても魅力のある音楽だと筆者は思います。

作曲家・近藤 礼隆について

東京藝術大学をご卒業されており、これまでに第52回JBA「下谷賞」受賞、21世紀の吹奏楽第22回”饗宴”入選、第12回日本管打・吹奏楽学会作曲賞佳作など多くの実績をお持ちの作曲家です。

大学では、シアターピース(演奏者の行為(演技)を中心に計画される音楽作品)の創作を中心に活動されていたとのこと。現在は会社に勤めながら、個人として音楽活動を続けているそうです。

演奏のポイント

この課題曲は大変綺麗で素敵な曲です。

ただし、この音楽を作っていくにはある程度音楽の知識が必要です。作曲者も曲についてコメントされていますが、和声進行がものすごく重要となります。

ポイントになってくる音のひとつが倚音(いおん)です。
倚音を調べてみると「和音の上で非和声音として現れ、隣の和音構成音へ移動する音」と解説があります。

重要なのが「倚音は緊張感が高く、内音に向かって解決される性質を持っている」ということ。その緊張と緩和で音楽の流れを作っているわけです。

テンポもメトロノームで一定にすれば良いのではなく、鼓動やパルスと考えて自然な演奏を目指したいですね。

それでは順番に解説をしていきます。

出だし

最初の表記は「Amabile」です。
愛らしく、優しく演奏しましょう、といった意味なので、固くするどい音にならないよう注意です。こういった表記は音色づくりのヒントになるのでチェックしていきましょう。

他の曲でも言えることですが、この曲は絶対に演奏者全員がスコアを見るようにしてください。
自分のパートだけ見てもどんな音楽が作り上げられているか分からないからです。

また、音楽を横の流れで見るようにして、小節線にとらわれず、あくまで大きなフレーズで音楽を聴くようにすると見え方が変わってきます。例えば、出だしであれば3小節単位で音楽が成り立っていますよね。

そして、最初に話した倚音が5小節目の3拍目に登場。 テヌートがついた音、これがまさに倚音です。

テヌート、そしてデクレシェンドは、和音の音のぶつかり、そして音をおさめることを表し ています(言葉での表現が難しい……!) 。

ですので、単純に「テヌートは音を保つ」、「デクレシェンドはだんだん弱く」ということでは なく、不協和音からの協和音におさまることを意味しています。 この表記は曲全体を通して何度も出てきますので、必ず和音の流れを意識するようにしましょう。バンド全体がひとつの楽器です。

グロッケンの役割はものすごく重要ですね。
3 小節目のような音の飾りから、5〜6小節目のようなメロディの重なりまで、グロッケン の魅力がたっぷり詰まっています。

AからC

ここでもテヌートが出てきています。
和音がどう進んでいるか耳で確かめましょう。

最初に提示されたモチーフ(クラリネット、サックス)がどんどん展開されていきます。 3度音程、5度音程、さらに楽器も加わりどんどん表情豊かな音楽になっていきます。

12小節目のように上行する音楽に対して、下行する音(ここではテナーサックス、ホルン) がありますよね。このように音楽が、音色・音程などを踏まえてどんどん広がっていくのです。

Bの5小節目からも大変面白い音楽です。 スラーはフレーズを表していますので、このスラーを必ず守り、各セクションでフレーズを揃えていきましょう。

打楽器の役割もかなり重要ですね。サスシンの飾りが音楽を躍動させます。全体的に言えることですが、ダイナミックは大きく小さくではなく、より豊かにより繊細に ときにはより柔らかくというように音量以外のニュアンスも意識してください。

Cからは臨時記号が多くソルフェージュ力が問われてきます。
管楽器は指が合っていればそれなりに音は出せますが、やはり正確な音程で演奏するには頭 の中で正確な音程が鳴っていることが大事です。歌ってみるなどして自分のパートの音を確認していきましょう。 意外と半音が広すぎたり狭すぎたりします。

テクニック的にもCは難易度が高いです。
35小節目のrit.は繊細に。 落ち葉がひらりひらりと舞うように、自然なrit.にしてください。

DからE

ここではシンプルなモチーフで音楽が展開されていきます。
今までが複雑だったため。こういったシンプルな箇所がより際立って聞こえますね。

Dのトランペット、トロンボーン、ユーフォのアンサンブル、綺麗に揃えたいところ。シンプルだからこそ演奏レベルが問われるところです。

Eではソロのパートも出てきます。打楽器が非常に効果的に使われていますね。ここでも綺麗なアンサンブルを作りましょう。

この曲は拍子がころころ変わりますが、音楽の流れは非常に自然で綺麗です。このような拍子の変化は、合唱作品ではよく見られます。

合唱の場合は言葉のアクセントで拍子を変えることが多いですが、本曲もまさに同じ作曲技法と言えるでしょう。メトロノーム的な拍感ではなく、あくまで音楽の流れやフレーズを意識することが大切です。

Fから最後

Fからはさらに各セクションが絡み合い、豊かな音楽が生まれています。
小さな波、大きな波を意識しましょう。具体的にはクレシェンドの部分です。

小さなダイナミクスの変化、そしてもっとフレーズを大きく捉えて大きなダイナミクスの変化が求められていますね(例:3小節目や6小節目)。

そして「Brillante(華やかに、輝かしく)」と書かれたGです。
ここでこの曲初めての「ff」。物語の1番の盛り上がりの部分ですね。グロッケンが非常に効果的に使用されています。

さらに、トランペットやトロンボーン、ユーフォの表現も面白いですね。Ffからのデクレシェンドでfとなっています。合唱の楽譜でいえばテヌートアクセントのような部分です。
最初の音にエネルギーがあり、自然に引いていく流れですね。

ここは各セクションで求められている役割が違うので、正確に楽譜を見て演奏するようにしてください。ここでも打楽器が大活躍。音楽の流れを作る重要な役割をになっています。

71小節目のffpは入りの音を大きくしてsubito p、そしてクレシェンドです。サックス、ホルン、ユーフォなどの動きのある音をしっかり聴かせてくださいという意味を指しています。

73小節目のラレンタンドはだんだん遅く、エネルギーを溜めていくイメージです。

74小節目で大きなエネルギーの解放があるからこそ、その後のHがいきてくるわけですね。

HはTranguilloで、静かに物語は閉じられます。ここでのグロッケンもかなり重要。最後の最後まで気が抜けませんね。

まとめ

「風がきらめくとき」は、吹奏楽というカテゴリーで最大限個々の楽器の魅力を発揮できる課題曲です。だからこそ個々に求められる音楽性は高く、音色や表現力、音楽理論など様々なことが要求されています。

もちろんコンクールなので自由曲にかける時間もかなり必要になると思いますが、こういった課題曲でしっかりと音楽作りを学ぶことも大切なのではないでしょうか。

小編成でも十分な魅力を発揮できる曲なので、各団体がどのような演奏をするのかとても楽しみです!