ラストに響きわたる魂の協奏が、永遠にあなたの心に鳴り響く。

今なお続いているイスラエル・パレスチナ問題。戦争が絶えない両国間の若者たちが一同に集まってオーケストラを形成する。果たして彼らは互いの存在を認め、歩み寄ることができるのか。

実話から生まれた感動の作品

© CCC Filmkunst GmbH

世界各国の映画祭において4つもの観客賞に輝いた『クレッシェンド 音楽の架け橋』が2022年1月28日に公開となる。実話から生まれた本作品は、政治的対立と音楽をテーマに真に音楽の力が問われる作品となっている。

決して夢物語ではない作品

© CCC Filmkunst GmbH

物語の中でイスラエルとパレスチナの才能ある若者たちが狙うのは世界的に有名な音楽指揮者エドゥアルト・スポルクが率いるオーケストラの座。しかし、問題なのはイスラエルとパレスチナが「世界で解決が最も難しい」国々であることなのだ。
結成当初からお互いの顔も見ず、何かと乱闘を繰り返す楽団員たち。コンサート以前に練習さえ困難な状況に不安は募るばかり。
しかし、何回にも及ぶグループワークを通して彼らは徐々に他者を認識し、存在を認めるまでに成長する。

© CCC Filmkunst GmbH

前代未聞で実行不可能に思えるオーケストラであるが、実は実在するモデルが存在する。ユダヤ人ピアニストであり巨匠指揮者と謳われるダニエル・バレンボイム率いる「ウェスト=イースタン・ディヴァン管弦楽団」である。
この楽団はバレンボイムとパレスチナ系文学者であるエドワード・サイードによって1999年に設立された。団員はイスラエル、パレスチナ、ヨルダン、レバノンなどの対立関係にあるアラブ諸国の才能ある若き音楽家たちだ。2005年にはパレスチナ自治区のラマラにおいて厳戒態勢の中でコンサートを行い、音楽が国境を越えたことを全世界に感動と共に知らしめた。

ラヴェル、パッヘルベル、ヴィヴァルディの名曲揃い

Eduard Sporck(Peter Simonischek)© CCC Filmkunst GmbH

ボレロ、カノン、四季(冬)など、劇中に登場する曲の数々はクラシックファンならばお馴染みのものばかりである。
しかし『クレッシェンド 音楽の架け橋』が他の映画音楽と違う点は、団員の音の不一致が対人ではなく、イスラエルとパレスチナという対国が引き起こしたアイデンティティの不一致だという点だ。だからこそ国同士で敵対関係にある彼らが、相手と息を合わせて演奏するまでに成長した姿には心揺さぶるものがある。劇中に披露されるヨハン・パッヘルベル作曲『カノン ニ長調』の不協和音とアントニオ・ヴィヴァルディ作曲『四季(冬)』のハーモニーの違いに注目してほしい。

タイトルの『クレッシェンド』に込められた監督の思いとは

© CCC Filmkunst GmbH

この作品はドロール・ザハヴィ監督なくしては作られなかったであろう。なぜならザハヴィ監督自身、映画の舞台として登場するイスラエルのテルアビブ出身だからだ。

監督は今回メガホンを取るにあたってラヴェル作曲の『ボレロ』に強いこだわりをもっている。演奏冒頭でpp(ピアニッシモ)で奏でられる旋律が次々と異なった楽器に引き継がれていく。そして徐々にクレッシェンドした旋律は大音量でフィナーレを迎える。監督はインタビューでこのクレッシェンドに「成長」の意味も込めているという。

平和よりも拒絶を選んでいた若者たちが、しっかりと相手の目を見て堂々と演奏する姿に、音楽のもつ可能性を信じずにはいられない。

映画情報

『クレッシェンド 音楽の架け橋』

(原題:CRESCENDO #makemusicnotwar)

公開日

2022年1月28日(金)

配給:松竹

宣伝:ロングライド

監督

ドロール・ザハヴィ

脚本

ヨハネス・ロッター、ドロール・ザハヴィ

出演

ペーター・シモニシェック(『ありがとう、トニ・エルドマン』) 

 ダニエル・ドンスコイ (「ザ・クラウン」「女王ヴィクトリア 愛に生きる」)

 サブリナ・アマーリ