絶対音感とは一体なんだろう?

「音楽家を目指すなら必須のスキル」「一部の天才だけが持っている特殊な能力」など、絶対音感についてはさまざまな噂が聞こえてきます。

はたして、これらはどこまで本当なのか。本記事では、ピアノ歴30年以上の筆者の体験も振り返りながら、絶対音感について解説していきます。

案内人

  • 山本知恵ピアノ歴30年以上、他にもクラリネット、ヴァイオリンの演奏経歴を持つ音楽と美術を愛するフリーライター。好きな曲はベートーヴェンのピアノソナタ第8番「悲愴」とヘンデルのオラトリオ「メサイア」。

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絶対音感とはどんな能力?

絶対音感とは、音を聞いたときにその高さを素早く正確に認識する能力です。踏切の音、チャイムの音などあらゆる音が音名で聞こえます。

幼いころからピアノを習っていた筆者は、実は、中学生くらいまで「絶対音感もどき」を持っていました。それは完全な絶対音感ではなく、長調の曲を聴いたときのみ階名が正確に分かるというものです。不思議ですが、短調の曲を聴いたときにはそういうことは起こりませんでした。

絶対音感は生まれつき?

絶対音感については今も研究が進められており、先天的な能力という説もあれば、後天的な能力であるという説もあります。

ふたつの説を重ね合わせると「ごく一部の人は先天的に絶対音感を持っているが、残る大多数の人も幼少期の経験によって絶対音感が身につく可能性がある」と言えるかもしれません。いずれにしろ、現時点では結論が出ていません。

絶対音感と相対音感の違い

ある音の高さを瞬時に正確に理解する「絶対音感」とは別に、「相対音感」というものも存在します。相対音感とは、ある基準の音の高さから、もう1つの音の高さがどれだけ離れているかを正しく認識し、音と音の距離を感じ取る能力です。

相対音感を持っている人は、1つの基準になる音を示されることで、その音から始まる音階(ドレミファソラシド)を正確に歌える場合が多いでしょう(ただし、それには「自分が思い描いた通りの高さで発声する」という別の能力も必要ですが)。

そして、相対音感は努力次第で誰でも、大人になってからでも身に付けられる能力だと言われています。

自分が絶対音感の持主かどうかが気になる方は下記ページでチェックしてみてくださいね。

絶対音感診断(easy)

絶対音感があると得すること

音楽をする人にとって、絶対音感があれば得する場面がたくさんあります。代表的な場面を紹介しましょう。

チューナーがなくてもチューニングできる

アンサンブルの準備として、絶対に外せないのがチューニングです。

筆者は中学・高校の部活動でクラリネットを、大学のサークルでヴァイオリンを演奏していたのですが、合奏前にチューニングをしようとしたときに「チューナー忘れた!」と気付くことがよくありました。この頃には絶対音感もどきを失っていたため、チューナー頼りのチューニングが必須でした。

一方、絶対音感がある人は自分の音の高さを正確に認識できるので、チューナーがなくても音を合わせられます。手ぶらでもチューニングできるなんて、とても便利ですよね。

聴いた音の音名がわかる

絶対音感があると初めて聴いた音楽も覚えやすく、すぐに楽器や歌で再現できるといいます。

街で流れている音楽やテレビで聴いた歌などを、即座にピアノやギターなどで正確に再現できたら、素敵ですよね。音楽好きな人なら誰もが憧れるのではないでしょうか。

音楽家を目指すときに有利

音大受験で行われる聴音のテスト(ピアノで弾かれた曲を聴いてそれを楽譜に写し取ること)では、絶対音感があると非常に有利です。

また、絶対音感がある人は楽譜を見ただけで、楽器を演奏しなくても頭の中でその音楽を正確に再現できます。このような能力があれば、音楽家(演奏家、作曲家、指揮者など)が仕事をするときに大変便利です。

ただし、ここが重要なポイントなのですが「音楽家になるには絶対音感が必須」というわけではありません。あくまでも「有利である」ぐらいです。

日本音響学会の学会誌では、絶対音感はひとつの能力に過ぎず、音楽的才能とは別のものだと説明されています。

*日本音響学会/絶対音感を巡る誤解

絶対音感があると困ること


実は絶対音感にはデメリットもあります。

移調楽器の演奏で気持ち悪さを感じる

移調楽器とは、基準となる「ド」の位置が、ピアノと異なる楽器です。例えば、クラリネットやトランペットで「ド」の音を出すと、ピアノの「シ♭」の音になります。

このような違いは、吹奏楽をやったことがある人ならよく知っていると思います。筆者は以前「絶対音感もどき」を持っていたので、初めてクラリネットを吹いたときに少し混乱しました。

本当の絶対音感を持っている人は「ド」の音を出しているのに違う音が出てしまう状況になかなか慣れることができず、強烈な気持ち悪さを感じるようです。

カラオケでは原曲キーでないと歌えない

絶対音感を持っている人は、頭の中にある音楽を違う高さで演奏されると違和感を感じることがあります。筆者も「絶対音感もどき」を持っていた頃の名残なのか、カラオケなどでキーを上げたり下げたりするのがとても苦手です。

高すぎて歌えない曲があるときに「キーを下げればいいのに」とよく言われますが、頭の中が真っ白になって声が出なくなるので、キーを下げても全然歌いやすくなりません…。

楽器の上達には絶対音感が必要?

音楽家に絶対音感が必ずしも必要でないのと同じく、楽器の上達においても絶対音感が必須というわけではありません。ただし、絶対音感があれば楽器を練習するときに便利ではあるでしょう。

とくにヴァイオリンやチェロなどの弦楽器では、指を正しい位置に置けているかを瞬時に判断できるのでとっても便利ですね。

ですが、楽器の上達にはリズム感や表現力、周りの演奏に合わせる力、そして何より根気など、さまざまな力が求められます。絶対音感だけが優れていたとしても、それだけで楽器が上達するとはいえません。

絶対音感が身につくのは幼少期のみ

絶対音感は、幼少期からピアノなどの楽器を習うことで自然と身につく場合があります。

ただ、この「幼少期に」というのがポイントで、なんと、絶対音感は幼少期にしか身に付けられないといわれているのです。

実際、日本教育心理学会の『教育心理学研究』に掲載された論文では、6歳を超えると絶対音感の習得が困難になると述べられており、加齢によって音の高さの捉え方が絶対的なものから相対的なものに変化していくとも説明されています。

*教育心理学研究/なぜ絶対音感は幼少期にしか習得できないのか?

相対音感は大人になってからでも習得可能

幼少期にしか習得できない絶対音感とは異なり、相対音感は大人になってからも身に付けられます。

そもそも相対音感は、程度の差はあれど誰しもが持っているものです。そして、日々楽器に触れ、音の高さを意識して過ごすようにすれば、この能力をさらに伸ばせます。大事なのは継続です。毎日少しでも良いのでトレーニングを続けましょう。

相対音感のトレーニング方法

絶対音感を持っていないからといって、音楽の道をあきらめなくても大丈夫!

代わりに相対音感をしっかりと身に付けましょう。ここでは、相対音感の習得に有効とされるトレーニングを紹介します。

ソルフェージュの練習をする

ソルフェージュとは、ドレミで歌を歌うことです。きちんと調律されたピアノなどを使って正しい音程を確認しながら、繰り返し練習しましょう。ソルフェージュの本を1冊買っておくと、初めての人でも練習しやすいですよ。

音あてクイズをする

楽器の音を聞いて、その音名を答えましょう。誰かに手伝ってもらってもいいですし、ひとりで目をつむってピアノを弾いてみるのもいいですね。単音を当てられるようになったらメロディーへ進みます。

絶対音感のトレーニング方法

前述の通り、絶対音感は幼少期にしか身に付けられません。「自分の子供に絶対音感を身に付けさせたい」という方のために、絶対音感のトレーニング方法を簡単に紹介します。

専門の教室に通う

絶対音感は体得できる時期が限られているうえに、トレーニングを受けたからといって必ず身に付くものでもありません。なので、後悔のないように専門の教室に通わせるのが最もおすすめです。

さまざまな音楽教室が、絶対音感を身に付けるための幼児向けクラスを開設しています。近所にないか探してみましょう。

通信教育を利用する

1番は教室に通わせることですが、近所に教室がなければ通信教育を利用する手もあります。プロの先生に相談しながら進められるため安心です。

【おまけ】絶対音感を持つ芸能人・有名人

最後に、絶対音感を持っていると言われる芸能人や有名人を3名紹介します。

松下奈緒

NHKの連続テレビ小説『ゲゲゲの女房』への出演等で知られる松下奈緒さんは絶対音感の持ち主だそうです。

女優としてだけでなく、音楽の才能を生かしてピアニスト、作曲家、歌手としても幅広く活躍しています。

みやぞん

お笑いコンビANZEN漫才のみやぞんさんも、絶対音感の持ち主といわれています。

楽譜は読めないけど、1度聴いた曲はすぐにギターで再現できるのだそう。生まれつき絶対音感が備わっていた、天才タイプのようですね。

モーツァルト

3歳でチェンバロを弾き、5歳で作曲をしたといわれるオーストリアの音楽家、モーツァルトも絶対音感の持ち主だったようです。

小さいころから音楽に親しんで育ち、35歳で亡くなるまでに600曲以上もの作品を残しました。このように多くの作品を生み出せたのは、絶対音感を持っていたからだと考えられます。

まとめ

絶対音感は、幼少期にしか身に付けることができず、音楽を学ぶ際に「有利」になる特別な能力です。
ただし、絶対音感がない人でも、日々の努力によって相対音感を習得すれば、音感でのハンデを乗り越えられます。

音楽に「遅すぎる」ことはありません。まずは今できることから挑戦していきましょう!