オーケストラと言えば指揮者とおよそ60人の楽器演奏者からなる集団ですが、じつは演奏家以外にもなくてはならない役職があるのを知っていますか?

コンサートの数が多いプロオーケストラの楽団員は、毎日持てる時間のほとんどを楽器の練習や楽曲の勉強にあてています。そのため、演奏家が100%音楽(演奏)と向き合える環境を作るための、縁の下の力持ちが必要となるのです。

本記事では、そんな「演奏家ではないけれどプロフェッショナルなオーケストラメンバー」を紹介します。

案内人

  • 武崎創一郎広島交響楽団バストロンボーン奏者。
    演奏家をつとめる傍ら、メディアへの寄稿やSNS運用も手がけている。
    自身のTwitterとブログではオーケストラ奏者×子育てのセキララを発信中。

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コンサートの準備はこんなに大変!

オーケストラを聴きに行く方が体験するのは、実際に演奏が行われる1〜2時間とその前後にホールの客席やロビーで過ごすわずかな時間だけでしょう。ですがコンサート本番に至るまでには、やらなければならないことがたくさんあるのです。
簡単に説明していきます。

コンサートをするためには、まず日程を決めてホールを予約します(早ければ1年半〜2年ほど前に)。
場所が決まったらコンサートをPRするためのチラシを作って宣伝していきます。「聴きに行くよ!」と言ってくれるお客様には直接チケットを販売することも。

プロオーケストラは前年度の年末くらいには次年度の公演スケジュールを発表するので、この時点では演目や指揮者・ソリストが決まっていなければなりません。たった数時間のコンサートを開催するために、これだけ前もって準備を始める必要があるのです。

オーケストラになくてはならないスタッフ達

オーケストラには大きく分けて3つの役職があります。

  • 事務局スタッフ
  • ライブラリアン
  • ステージマネージャー

どれも専門的な知識と経験がなければ務まらない仕事です。
それぞれの役職がどんな活躍をしているのか、詳しく解説していきます。

事務局スタッフ

コンサートや楽団そのものの運営のほとんどをこなすのが事務局スタッフです。その業務は多岐に渡り、量も多く、とても煩雑です。

前項で紹介したホールの手配やチラシデザインの発注、チケットセンターへの登録やお客さん・スポンサー企業さん・依頼公演のクライアントとのやりとりも事務局の仕事です。

リハーサルやコンサートのスケジュールを組んだら指揮者・ソリストと連絡を取って、ホテルや移動手段を手配することもあります。楽団員だけでは人数が足りずエキストラ奏者を呼ぶ場合には、その発注もしなければなりません。演奏旅行ともなればスタッフを含めたメンバー全員の移動手段や宿を確保する必要があり、大仕事になります。

私たち楽団員から見えているだけでもこれだけの仕事があるので、見えていない部分も含めたら相当な業務量でしょう。ずっと楽器の演奏だけをしてきた私たち音楽家には、想像もつかないような激務です。事務局がある方角には足を向けて寝られません。

ライブラリアン

オーケストラや吹奏楽で演奏をする人でなければあまりピンとこない役職かもしれません。ライブラリアンとは、一言で言えば「楽譜を管理する役職」です。ライブラリアンの仕事もまた煩雑で、その仕事には専門的な知識が必要になります。

音楽家が演奏するためになくてはならないとてつもなく大切なものである楽譜。その楽譜を管理するといっても、コンサートで使う楽譜を揃えるというような単純な作業ではありません。

指揮者と連絡をとり、スラーやアクセントといったアーティキュレーション、強弱やテンポの指示、弦楽器の弓順などを書き込まなければならないのです。ほかにも譜めくりができるように楽譜の製本を変えたり、音符を書き足したりすることもあります。

この仕事をこなすにはオーケストラのレパートリー全般の編成や演奏例、オーケストラで使うすべての楽器の特徴や記譜の仕方など、広い範囲の知識が求められます。

さらに海外の指揮者を呼ぶ際は少なくとも英語で対応しなければなりませんし(英語が苦手な外国人指揮者もいます)、著作権がまだ有効な楽曲を演奏する場合は著作権管理団体とやりとりをする必要もあります。音楽以外にも、たくさんの知識を要することがわかりますね。

オーケストラの曲のことなら誰よりも詳しいのがライブラリアンであり、その理解の深さは指揮者にも引けをとらないほど。
ライブラリアンの支えによって、演奏家はオーケストラ作品の楽譜を深く読みこむことができるのです

ステージマネージャー

ステージマネージャーもまた、オーケストラが演奏するためになくてはならない存在です。

何十人という演奏者が一堂に会するオーケストラでは、それぞれの楽器のプレイヤーが座る場所はあらかじめ決まっています。それを決めているのがステージマネージャーなのです。

たとえば打楽器群をステージ後方に配置するのか、上手や下手に配置するのか。ひな壇を設置するのか、その高さはどれくらいにするのか。こういったことを指揮者に提案したり相談して決めています。

どの楽器をどこにどうやって配置するのかは、オーケストラから出てくる音に直接影響します。そのうえ演奏するホールによって音響や動線も変わってきますから、ステージマネージャーの段取りしだいでコンサートの質も変わるでしょう。
しかもステージマネージャーはコンサートの進行につき添って舞台の転換なども行いますから、演奏家の頼れるパートナーとも言えます。

それにくわえて楽器庫からコンサート会場への楽器の運搬、その経路をあらかじめ確認したり会場のスタッフと打ち合わせをしたり、マイクやスピーカーなどの音響設備を設置したりという仕事もあります。

まさに縁の下の力持ちといった存在であるステージマネージャー。この役職なくしては演奏家は椅子に座ることもできません。

オーケストラはステージマネージャーの力強いサポートがあってはじめて、演奏だけに集中できるのです

ステージマネジャーについては下記記事で詳しく紹介されているのでぜひ併せてご覧ください。

演奏者・指揮者だけではオーケストラは成り立たない

オーケストラの演奏を支えてくれる、頼もしいスタッフについて解説しました。
どの役職も、特別な知識や経験、技術をもったプロフェッショナルです。
演奏家や指揮者だけではコンサートは成り立たず、彼らの活躍があって初めてオーケストラが音を出せるのです。

実際に音を出すことはない彼らもまた、プロオーケストラの一員、プロの音楽家と言えるでしょう。