金属で作られている管楽器『金管楽器』の中で、スライドと呼ばれる演奏システムを持つトロンボーン。オーケストラ・吹奏楽・JAZZなどあらゆるジャンルで活躍するトロンボーンは、大きさや形、音色や音域もさまざまです。
今回は、万能楽器であるトロンボーンの種類や特徴について、プロ奏者である筆者が詳しく解説します。
案内人
- 武崎創一郎広島交響楽団バストロンボーン奏者。
演奏家をつとめる傍ら、メディアへの寄稿やSNS運用も手がけている。
自身のTwitterとブログではオーケストラ奏者×子育てのセキララを発信中。
目次
オーケストラや吹奏楽で使われるトロンボーンの種類
トロンボーンの前身であるサックバットが誕生したのは15世紀ごろ。教会で賛美歌と一緒に演奏していたサックバットには、すでにソプラノ・アルト・テナー・バスの4種類の楽器が存在していました。
現代ではオーケストラや吹奏楽、ポピュラージャンルに活躍の場を広げたトロンボーン。よく使われているのは下記の3種類。
- テナートロンボーン
- F管付きテナートロンボーン(テナーバストロンボーン)
- バストロンボーン
それぞれの音色や音域の違い、見た目について説明していきます。
テナートロンボーン
3mほどの長さの管を2回曲げただけの、最もシンプルな形のトロンボーン。単純な作りと楽器の軽さによって抜けのいいはっきりとした音が出やすいのが特徴で、おもにJAZZやポピュラー音楽で多く使われています。トロンボーンといえばこれを思い浮かべる人が多いでしょう。
開放ポジションでB♭の音が出る楽器で(これをB♭管と言います)、金管楽器の仲間であるトランペットより1オクターブ低い音域を持っています。
F管付きテナートロンボーン
B♭管のテナートロンボーンに迂回管(Fアタッチメント)を取り付けた楽器で、一般的にはテナーバストロンボーンと呼ばれています。多くのものが直径のやや大きい「太管」と呼ばれる管で作られていて、テナートロンボーンよりも豊かな響きをもっているのが特徴です。
そのため、より力強い音色が求められるオーケストラや吹奏楽で活躍しています。
レバーを引くと迂回管の長さが追加され、完全4度低いF管に変わり、テナートロンボーンでは出せなかった低い音を演奏できます。
なによりの強みは、テナートロンボーンでは演奏しにくい6番ポジションの音が、F管の1番ポジションで出せることです。遠いポジションまでスライドを動かす必要がなくなるので、背丈の小さい演奏者や子供にも扱いやすい楽器と言えるでしょう。
バストロンボーン
テナートロンボーンと同じB♭管ですが管がさらに太くなり、低い音も演奏しやすくなった楽器がバストロンボーンです。どのジャンルでも使われていて、おもに音楽全体を支える土台として活躍しています。
ほとんどのバストロンボーンが迂回管をふたつ備えていて、その両方を使うとF管よりも低いD管やE♭管になります。F管付きテナーでも出せなかった低い音が出せるようになりました。
ほかにはこんな種類のトロンボーンも
演奏する機会は限られますがトロンボーンの仲間はほかにも。音を聞く機会があったらあなたはとてもラッキーです。
音域が違うだけでなく、音色や得意なジャンルなどそれぞれの持ち味があるので、詳しく紹介していきます。
ソプラノトロンボーン
テナートロンボーンよりも1オクターブ高い、トランペットと同じB♭管のトロンボーンです。
15世紀にはソプラノサックバットが活躍していたそうですが、現代ではほとんど使われなくなりました。同様にソプラノトロンボーンも活躍の機会はほとんどありませんが、一部のJAZZプレイヤーがライブで使用しています。
アルトトロンボーン
テナートロンボーンよりも完全4度高いE♭管のトロンボーンで、煌びやかな音色が特徴的です。モーツァルトのミサ曲やベートーヴェンのシンフォニーで登場する楽器なので、オーケストラのコンサートでは時折見かけます。
ベートーヴェンの師アルブレヒツベルガーや、モーツァルトの父レオポルドがソロ曲を作曲していて、これらはトロンボーンの貴重な古典のレパートリーとして愛されています。
コントラバストロンボーン
コントラバストロンボーンはバストロンボーンよりもさらに低い音を演奏できるトロンボーンで、バストロンボーンよりも完全4度低いF管、もしくは1オクターブ低いB♭管があります。
スライドが長すぎて手が届かないポジションがあるので、金属製のハンドルがついていることもあります。
ワーグナーの歌劇や、リヒャルト・シュトラウスのアルプス交響曲などで使われますが、演奏機会はあまり多くありません。
トロンボーンの種類ごとの見分け方
よく使われているテナー、F管付きテナー、バスの3種類のトロンボーンは、すべて同じ音域をもつB♭管の楽器です。マウスピースからベルまでの長さも全く同じなので、種類を見分けるには迂回管の数に注目してみてください。
迂回管がひとつ付いていたらF管付きテナー。ふたつ付いていたらバストロンボーンです。
まれに迂回管がひとつしかないバストロンボーンを使う場合がありますが、その場合はベルの大きさを見てみましょう。バストロンボーンのベルはF管付きテナーよりも2.5cmほど大きいのが一般的なので、並べてみるとすぐにわかるはずです。
トロンボーンは管の太さにも種類や違いがある
トロンボーンは楽器ごとに管の内径が違います。この違いによって音の軽さや音色、吹きやすさも変わります。
それぞれのメーカーとモデルによってとても細かくサイズが設定されていますが、ここでは大きく分けて3つのタイプについて解説します。
細管
JAZZやポピュラー音楽でよく使われるテナートロンボーンは、細管で作られています。音の立ち上がりがよく、高い音を演奏しやすいのが特徴です。
マウスピースはスモールシャンクのものを使います。
中細管
細管よりもわずかに(1mmにも満たないほど)太くなったのが中細管です。
テナートロンボーンの反応の良さや明るいサウンドに、テナーバストロンボーンのクラシカルな響きを取り入れたような楽器です。
Fアタッチメントがついていることがほとんどで、マウスピースはスモールシャンクを使います。
中細管はあまりポピュラーなタイプではありませんが、Vincent Bachの36シリーズやヤマハのYSL -640は根強い人気があります。
太管
管の直径が13mm後半のものは太管と呼びます。息の流れの良いラージシャンクのマウスピースを使えることもあり、豊かで太い音を出すことができます。この音色がオーケストラや吹奏楽などクラシックジャンルで好まれます。
管が太いぶん楽器を鳴らすにはたくさんの息が必要になるため、ある程度の経験や体格が必要になります。
まとめ
トロンボーンと一言で言っても、形や大きさ、得意なジャンルなどそれぞれに違いがあります。
本記事でご紹介した特徴をチェックしながら、クラシックやJAZZなどあらゆる音楽シーンで活躍するトロンボーンの音色にぜひ耳をかたむけてくださいね。その中からあなたのお気に入りのトロンボーンを見つけてもらえたら幸いです。