マリンバと聞くとどんな楽器を想像しますか?
木琴(シロフォン)と違い、滅多にお目にかからない楽器というイメージがあるかもしれませんが、近年では奏者も増え、実は身近な音楽にも度々登場しているのです。

そんなマリンバの歴史や魅力について、プロ奏者が詳しく説明します。これを読めばあなたもマリンバの奥深さに魅了されるでしょう。

案内人

  • 北村萌吹奏楽にて12歳より打楽器を始め、14歳からは学外でマリンバの個人レッスンを受ける。
    神戸山手女子高等学校音楽科を経て同志社女子大学学芸学部音楽学科演奏専攻管弦打楽器コースを卒業したのち スイスに渡り、
    Conservatorio della Svizzera Italiana(スイス・イタリア音楽院)にて研鑽を積む。(修士課程)

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マリンバってどんな楽器?

マリンバは、小学校の音楽室によくある木琴(シロフォン)とよく似た形をしています。

名前の由来には諸説ありますが、マリンバの起源とされるアフリカ、バントゥー語群の言葉から生まれた説が一番有名です。

マ=「多くの」
リンバ=「木の棒」

つまり”多数の木の棒から成る楽器”を意味しています。

マリンバの歴史

アフリカが起源のマリンバ。楽器ができた紀元前当時は今のような形状ではなく、音を響かせるための穴を掘り、木の板を並べて演奏していました。

その後、木の板の裏にひょうたんをぶら下げるようになり、木を打った音をひょうたんで響かせるスタイルに変わります。今でいう共鳴管の役割を果たしていたのでしょう。

さらにこの楽器は中南米に渡り、ひょうたんから木の共鳴管へ。19世紀後半にはメキシコや中南米で民族楽器として広く親しまれる楽器となりました。
そして今より100年ほど前、アメリカへ渡ったマリンバはディーガン社が鍵盤をピアノと同じ並びにし、共鳴管を金属製に変えるなどの改良をして、現在の形へ統一されました。

当時は民族楽器やポップスのジャンルで活躍する楽器でしたが、現在ではクラシック音楽の楽器としても親しまれています。

マリンバの構造

マリンバの先祖に当たる楽器は紀元前からあったとされますが、現在に至るまでさまざまな改良や研究がなされ、その形状も大きく変化しました。

これから解説するような構造になってからは実は100年ほどしか経っていません。
良い音を鳴らすために改良が重ねられ、今現在はどのような作りになっているのかを見ていきましょう。

各パーツの名称と役割

■音板
マリンバを演奏する際にマレットで打つ場所です。
低い音の音板は大きく、高い音の音板は小さく切られて調律されています。ピアノの鍵盤と同じ配置で並べられており、音程も同じです。

■共鳴管
音板のすぐ下に設置されている金属製のパイプで、楽器の音をより響かせる役割を担っています。
音板一つにつき一本のパイプが取り付けられており、低い音は長く太く、高い音は短く細くと音程によって形が変えられています。

もしこの共鳴管がなければ、木を打ち鳴らした時の残響のない「ポコッ」というような音が鳴るだけになってしまいます。マリンバ特有の柔らかい温かみのある音色を作り出すために共鳴管は欠かせません。

■フレーム
音板と共鳴管の両方を支えるフレーム。音盤と共鳴管はかなりの重量があり、演奏中に激しく振動するため、それに耐えうるしっかりとした土台が必要になります。
弱弱しい土台だと振動に耐えられず音の響きが逃げてしまうため、マリンバの音作りにとって実はとても重要な存在なのです。

音の出る仕組み

マレットを使い音板を打ち鳴らした後、そのすぐ下の共鳴管の中で響いて楽器の外へより深みのある音となって解き放たれます。

音程感を作る音板。響きを作る共鳴管。振動を逃がさないように支える土台(フレーム)全てがそろって初めて美しい音が出るのです。

マレットについて

マレットとは、マリンバをはじめとする打楽器を演奏する際に使用される撥(ばち)のことです。細長い柄の先に丸い玉がついたもので、さまざまな種類が存在します。

玉の部分は芯が木やゴムであることが多く、たいていの場合毛糸や棉などで巻かれています。
数千種類と存在するマレットは、玉の部分や柄の素材の組み合わせによって出せる音色が違うので、奏者は演奏する曲に合わせてマレットを選別しなければなりません。

マリンバとシロフォン(木琴)の違い

マリンバも木琴の一種として分類されることが多いですが、木琴というとやはりシロフォンのイメージが強いですよね。
どちらも木で作られた音板があって、その下に共鳴管がついています。とても似ているように思われますが、実は決定的な違いがあるのです。
次項から詳しく解説していきます。

起源

今では兄弟のように見た目がそっくりな二つの楽器ですが、起源は全く別のところにあります。

マリンバは前述の通り、アフリカが起源の楽器でこちらの楽器はバラフォンという名前です。当時は金属製のパイプは付いておらず、ひょうたん共鳴管として使用していました。

対してシロフォンの起源はヨーロッパにあると言われているストローフィドルです。マリンバのご先祖楽器と違い、共鳴管の役目を果たすパーツはついていません。

音域

マリンバの音域は、楽器にもよりますが3オクターブ半から最大で5オクターブ半の音域です。
シロフォンは一般的に3オクターブ半の音域を持ち、マリンバより高い音域を多く受け持ちます。また、シロフォンは楽譜に実際に書かれている音を弾くと、それよりオクターブ高い音が鳴ります。

調律法

少し専門的な話になりますが、調律の際には「基音」と「倍音」というものが重要になってきます。
例えば「ド」の音を作ろうとしたとき、まずはだいたいドの音になるように木を削っていきます。これが「基音」です。

マリンバに限らず他の楽器での演奏の際も「ド」を鳴らした際に、実は細かく「ド以外の音」が鳴っています。これが「倍音」というもので、マリンバとシロフォンではこの部分の調律が違うのです。

マリンバの場合は偶数倍音で、基音(ド)と4倍音(高いド)と10倍音(さらに高いミ)を使って調律します。
一方、シロフォンの場合は奇数倍音での調律となり、基音(ド)と3倍音(高いソ)が使われます。(メーカーによって変わるときもあります)
かなり専門的な内容なので細かい倍音の説明は割愛しますね。

音板の調律だけではなく、低音域の音板の裏側を見てみると、マリンバは中央が大きくえぐれていて、シロフォンは波打っています。このような音板の調律と形状の違いによって、マリンバは柔らかな音、シロフォンは硬質で目立つ音とそれぞれの個性ある音が生まれるのです。

マリンバの魅力とは

誕生からいろいろな国を巡り、進化を遂げてきたマリンバの魅力について迫ります。

表情豊かな音色の幅

マリンバは低音域になるほど大きな音板が使われます。これにより、非常に伸びが良く余韻のある心地良い音を生み出すのです。

また、マリンバの音と言えば『木のぬくもりを感じられるあたたかな音』が代表的ですが、実はそれだけではありません。
祈りや悲しさといった静寂を表現する音から、華やかで燃えるような激しい音も表現できる表情豊かな楽器であることが魅力の一つです。

複数の役割を一人で演奏することができる

さまざまな音色に加えて幅広い音域をもつマリンバ。その音域は個体にもよりますが、ソロ演奏の際に使用される一般的な楽器は5オクターブの音域をもっています。

マレットを片手に一本ずつ計二本で演奏する奏法だけでなく、片手に二本ずつの計四本持って演奏できるほど広い音域があるため、非常に幅の広い楽曲を演奏をすることができます。なんと時には合計六本のマレットを持つときもあります。

打楽器に分類されるマリンバですが、演奏スタイルはピアノなどにも近く、伴奏とメロディ・ハーモニーを一人で演奏できちゃうところも魅力的です。

演奏者の思い描く音が素直に出る楽器

マリンバは、奏者自身が思い描く音や、感じるままの腕の動きがダイレクトに伝わる楽器です。たとえば、マレットを音板に少しあてるだけですぐに音が鳴るため、自分の腕の使い方次第で表現が自由自在となります。また、「この曲にはこのマレットを使おう」と自分自身で音色を選別して演奏できるのです。

打楽器でありながら”打つ”楽器ではなく”弾く”楽器であると筆者は感じています。

まとめ

紆余曲折の歴史を持つマリンバは、古くも新たな発見のある個性豊かな楽器です。
知れば知るほど、あなたもきっと虜になってしまうでしょう。

本記事が読者の皆様にとってマリンバの世界への入り口になれば幸いです。