吹奏楽コンクールの課題曲は、毎年素晴らしい作品ばかり。例に漏れず今年も負けていません!
なかでも課題曲Ⅲは注目です。
なんたって超売れっ子大ベテラン作曲家の作品ですからね。
本記事では作曲家についての紹介はもちろん、演奏ポイントについて吹奏楽指導者協会・認定指導員の筆者がどこよりも詳しく解説します!
案内人
- 川島光将指揮者・作曲家・編曲家 元・中学高等学校音楽教員、吹奏楽顧問 吹奏楽指導者協会・認定指導員 音楽表現学会会員 K MUSIC GROUP代表 現在はオーケストラ、吹奏楽、合唱、声楽など音楽全般の指導にあたる。
目次
2022年吹奏楽コンクール課題曲Ⅲ【ジェネシス】
有名作曲家が”吹奏楽課題曲とはどんなものか”を考えて作られた「バイブル的」課題曲です
(2022年度全日本吹奏楽連盟委嘱作品)。
作曲者:鈴木英史(すずき えいじ)
演奏時間:約3分
作曲家、鈴木英史について
吹奏楽に関わったことがある人なら誰もが知っているであろう鈴木英史先生。
多数の名曲を生み出している鈴木先生が、“吹奏楽コンクール課題曲“というものに向き合い、指導者にとっても演奏者にとっても、ひと夏かけて成長できる素敵な課題曲を生み出してくださいました。
演奏のポイント
作曲家からのコメントにも多くのヒントが書かれています。
和声、形式、カデンツ、旋律、リズムなど…。
実はこの課題曲に関しては、解説するのにものすごく勇気が必要でした…!
そのくらい多くの要素を含んだ課題曲です。
まずはスコア、楽譜に書かれていることをじっくり読み解きましょう。
参考音源だけでなく、楽譜から演奏を考えるということにチャレンジしてみてください。
これを機に楽曲分析をしてみるのも良いですね。
演奏者もスコアを用意して、自分のパートがどんな役割をしているのかチェックしましょう。
出だし〜8小節目
出だしのファンファーレから、とてもカッコいいですね。冒頭のシンバル一発がかなり大事になってきます。まずはアーティキュレーションを正確に演奏しましょう。
解説には和音を感じて跳ねないようにと書いてあります。指揮者や学校の先生は和音分析もしていると思いますが、演奏者も必ず行うようにしましょう。基本の3和音(根音、第3音、第5音)だけでなく、これを機にセブンスやサスフォー、ディミニッシュやオーギュメントあたりは覚えておくと良いです。
実際に楽譜で見たほうが分かりやすいと思うので、まずは調べてみてください。
ただ大事なことは、それがどんな意味を持つ和音で、どんな効果を生み出しているかという点です。
この和音はなんか硬い感じがするな…とか、これは緊張感がある…。このように実際にピアノなどで音を聴いて感じてみてくださいね。
9小節目〜63小節目
和音分析だけでなく大事なのは、和声進行です。
その中のひとつカデンツは、音楽を作る上でとても重要になってきます。
分かりやすいところでいうと、32小節目から33小節目にかけてはコードがB♭7→E♭となっており、分かりやすいⅤ7→Ⅰのカデンツになっています。
ただこの部分はそれだけではありません。作曲者がスコアに*階梯(かいてい)導入と書いていますね。
*声部が模倣され次々に入ってくる部分のこと
少し説明が難しいですが、たとえば「カエルのうたが〜」というメロディがあるとすれば、そのメロディが高い音や低い音で入ってきたり、さらにはちょっと音程を変えたり暗いメロディになって演奏されることをいいます。
あとこの作品の面白いところは、出だし以外は具体的なテンポ数字が書いていない点です。
オーケストラ楽譜では当たり前のことですが、吹奏楽の最近の課題曲で書いていないのは珍しいかもしれません。
じゃあどうやってテンポを設定すれば良いのでしょうか?それは楽譜に書かれてある音楽記号から考えるのです。
Animato(アニマート)…活き活きと、元気に
Cantanbile(カンタービレ)…歌うように、表情豊かに
Broadly(ブロードリー)…幅広く、伸びやかに
con anima (コン アニマート)…アニマートをもって(アニマートと同じ意味)
Affettuoso(アッフェットオーソ)…愛情を込めて、優しく
leggiero(レッジェーロ)…軽く、優美に
espr.(エスプレッシーヴォ)…表情豊かに
テンポというものは、その曲にとってどのテンポがふさわしいかを考えて演奏する必要があります。もちろん、具体的に数字で書いてあるならそれに従いますが、本来であれば『その表現、音楽に合ったテンポがこの速さだからこの速さで演奏する』が正しいでしょう。
ですので、それぞれ音楽表現を考えて演奏団体によってテンポ設定が変わるのは良いと思います。
64小節目〜最後まで
Jからのエンディングもバッチリ決めたいですよね。
ここでは打楽器のアクセントの位置に気をつけましょう。木管とともに複合拍子のような記載になっているので、パートによるリズムの感じ方のズレを楽しみたいところです。
鈴木先生の楽譜のすごいところは、楽器が鳴るように計算されて作られているところです。
音域だけでなく、それぞれの楽器の良さが最大限発揮されるようツボがしっかり押さえられています。また、オーケストレーションも計算されていて、バンド全体の響きが良くなるように考えられているのです。
まさに最初から終わりまで、鈴木英史先生マジック全開のお手本のような課題曲です。
こんなバンドにおすすめ!
この課題曲は、パートが揃わない少人数の団体でも演奏できるのが最大のポイントです。今まで人数が少なくて大編成のコンクールを諦めていた学校にとっては、非常に嬉しい課題曲なのではないでしょうか。
表面上の楽譜レベルは高くないですが、ぜひ強豪校にもバンバン演奏してもらってそれぞれの個性を出してほしいところです。
まとめ
今回は吹奏楽作曲家としてすでにレジェンドとなっている鈴木英史先生の課題曲を紹介しました。
この曲の完成形はひとつではないと思います。
ネットやコンサートで聴いた演奏を真似するのではなく、楽譜から音楽を作っていきましょう!