2022年で課題曲Ⅴの廃止が決定しましたね。
そのため、この作品をもって課題曲Ⅴは最後になります。

「憂いの記憶 – 吹奏楽のための」は最後にふさわしい出来栄えと言っても過言ではないでしょう!さっそく詳しく解説していきます。

案内人

  • 川島光将指揮者・作曲家・編曲家 元・中学高等学校音楽教員、吹奏楽顧問 吹奏楽指導者協会・認定指導員 音楽表現学会会員 K MUSIC GROUP代表 現在はオーケストラ、吹奏楽、合唱、声楽など音楽全般の指導にあたる。

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2022年吹奏楽コンクール課題曲Ⅴ【憂いの記憶 – 吹奏楽のための】

第13回全日本吹奏楽連盟作曲コンクール第1位作品。

作曲者:前川 保(まえかわ・たもつ)
演奏時間:約5分

作曲家、前川保について

京都府内の中学・高校を中心に、吹奏楽およびマーチング指導を行い、金賞や支部大会に導くなど、吹奏楽現場でも活躍されている作曲家です。

すでに多くの作品を発表されており、その経験が今回の作曲技法につながっているのでしょう。

かなり難解な楽譜ですが、スコアの解説はかなり丁寧に書かれていて分かりやすい。さすが吹奏楽の現場で指導されている先生だけあって、説明の仕方がものすごく親切です。

それでは曲の解説に進みましょう。

演奏のポイント

現代音楽が苦手な方も、演奏するコツさえ掴めば大丈夫。そのコツとはズバリ「音楽の軸」を見つけることです。

カオスな世界を演出するためには、軸を作らないといけないのです。無秩序に感じるのは、ある一定の秩序があるから。演奏者も指導者もその音楽の軸を把握していれば演奏可能です。

出だし〜11小節目

出だしは特に問題ないですね。それぞれのプレイヤーが楽譜通り演奏すれば成り立ちます。
しかし、こういった作品を演奏するのは、個人のプレイヤーの力量が試されます。

それぞれバラバラのことをしていますが合わせてみたら出来上がっていた、という音楽です。料理でいうと、それぞれの素材をしっかり準備、調理しておいて最後にエイっと混ぜたら美味しいものが完成した、といった感じでしょうか。

だから素材=プレイヤーの技術がとても大事になってきますね。

2小節目はまだまだ複雑レベル1です。各自が譜面通り演奏してください。
6小節目は変拍子です。
スコアにちゃんと(2+2+3)と書いてくれていますね。

なので数え方は単純に「1ト 2ト 3トト」で大丈夫です。
molto retard.(かなり遅くしていく)なので指揮者は8分音符で振り分けても良いですね。

冒頭で「音楽の軸」の話をしましたが、この軸とは簡単にいうとこの音楽の骨格のことです。多くの音符が並んでいますが、冷静に見るとやっぱり普通の楽譜なのです。

例えば5小節目なんかは木管楽器はかなり複雑な動きをしていますが、打楽器のT-Bellはただの4分音符を演奏しています。これが「音楽の軸」なのです。

ですからこの軸が安定していれば、かなり複雑なことを各パートがやっていても全体がブレないのです。

7小節目〜27小節目

もうひとつ「音楽の軸」として大事なのは、「決め所」です。
各自で好きなことをやっていても、ここは必ず揃えるという箇所があります。

例えば7小節目の頭なんかは必ず全員が揃えなくてはいけないところです。ここに向かって音楽は動いているわけですから。

各自バラバラ→全体揃える
という動きはこの作品にかなり多くみられます。

カオスで無調な世界も、やっぱり安定を求めているんですよね。

さて、7小節目のAからはかなり複雑ですが、ここでも焦らず「音楽の軸」を見つけましょう。サックスは拍の頭で音が入ってくるので、軸として非常に感じやすいですよね。

クラリネット、フルートパートに拍感を無くした演奏をするよう指示があるので、だからこそ「音楽の軸」を見失わないようにしましょう。

こういった部分は筆者は小学校の休み時間のようなイメージを持ちます。それはこんな感じです。

7小節目に入って休み時間になりました。

各生徒は好き勝手遊びます。
教室でおしゃべりする子、図書館で静かに読書する子、校庭に行きドッチボールする子など。

かなりカオスな状態ですが、「音楽の軸=休み時間」は決まっています。

そしてどんなにバラバラのことをしていても休み時間が終了のチャイム=9小節目の頭には全員しっかり戻ってきます。

拍感はなくても時間軸は存在しており、まとまった演奏となるのです。

9小節目も変拍子ですが、先ほどと同じように
(3+2+2+2)を「1トト 2ト 3ト 4ト」と数えてください。

10、11小節目もしっかり音楽の軸を見つけましょう。
10小節目はチューバ や打楽器で、11小節目はシロフォンでリズムを作ると安定するでしょう。

12小節目からは、各パートがちゃんと拍を数えて演奏すれば問題ないです。
22小節目の4拍目に入るスネアがかなり重要。そのあとの音楽をコントロールするのも、スネア、タムとなります。

26小節目の頭はお決まりの、全員が揃うところです。

28小節目〜最後まで

28小節目からに関しては、作曲者がスコアに丁寧に解説を書いてくれています。
それに従って演奏していけば問題ないでしょう。

54小節目のHからは、まるで「春の祭典」のような変拍子です。
おそらくオマージュでしょう。ここもスネアを軸にすれば問題ありません。

中間地点が特に複雑だったので、最後は開放感あふれる演奏になりそうですね。

こんなバンドにおすすめ!

この課題曲はかなりの演奏技術が必要です。個々のパートで経験豊富なプレイヤーがいるバンドが演奏したほうが良いでしょう。

また、丁寧な解説があるので初めて課題曲Ⅴに挑戦する団体にもおすすめです。

より高みを目指すバンドはぜひチャレンジしてみてください!

まとめ

数々の名作を残してきた課題曲Ⅴ枠。
それがなくなってしまうのは、やはり寂しさを感じますね。

今年のコンクールでは例年以上に課題曲Ⅴを演奏する団体が増えそうです。
多くの名演が誕生しそうな予感…。ワクワクしますね!