いよいよ2022年吹奏楽コンクールに向けて、各校の練習が始まりましたね。
今年はどの学校が全国に行くのか。
どんな曲を演奏してくれるのか。
ワクワクしますね。
今年の大会をより楽しむために、まずは復習として去年の全国大会金賞団体の名演を振りかえってみましょう。今回は『高校編』です。
本記事は強豪校を知りたい方だけでなく、良い演奏がしたいと思っているプレイヤー・指導者・指揮者の皆さま必見です。
ぜひ最後までご覧ください。
案内人
- 川島光将指揮者・作曲家・編曲家 元・中学高等学校音楽教員、吹奏楽顧問 吹奏楽指導者協会・認定指導員 音楽表現学会会員 K MUSIC GROUP代表 現在はオーケストラ、吹奏楽、合唱、声楽など音楽全般の指導にあたる。
目次
柏市立柏高等学校
東関東支部・千葉県代表の誰もが知っているレジェンド校です。
全国大会に31回出場、そのうち18回金賞を受賞しています。そのうち銅賞はたった一回のみ。その一回も名演と言われています。
短時間で効率の良い練習を率先して研究されていて、全国の吹奏楽部の手本を示してくれています。
課題曲IV : 吹奏楽のための「エール・マーチ」 (作曲:宮下秀樹)
冒頭からとても心地よいサウンドを聴かせてくれます。
音楽が立体的に作られていて全体のバランスが良く、ハーモニーや副旋律が生き生きしています。
トリオがものすごく綺麗!なんて素敵な演奏なのでしょう。
Maestosoに入る前のrit.のところも素敵ですね。
スネアの音量バランスも完璧。打楽器も他の楽器に溶け込んでいて、音色に対するこだわりが分かります。
自由曲:交響詩《ヌーナ》 (作曲:阿部勇一)
平成29年度 第50回 JBA下谷賞受賞作品。《ヌーナ》とは約19億年前、地球上に最初に出現したといわれる超大陸の名称のようです。
冒頭の破壊的な和音も音量バランスを気にして作られています。力任せになっていないところがさすがですね。
そのあとの各パートの超絶技巧もさすが!全く乱れていません。ここまでたどり着くのにどれだけ練習を重ねたのでしょうか。
音の高低が各パートに引き継がれていくところも、なんて自然なのでしょうか。基礎練習の段階から、上のパートから音階で下のパートに引き継ぐ練習をしていた成果ですね。伸びている音も一切ブレません。これも普段のロングトーンの成果でしょう。
どのパートも本当に上手い。テクニックだけでなく音色の混ぜ方が素晴らしい。
筆者個人的には、毎年新しい曲を発掘してチャレンジしている柏高等学校に大変好感をもっています。ブラボーです!
玉名女子高等学校
九州支部・熊本県代表の近年最も勢いのある学校です。
全国大会は12回出場。2012年からなんと連続金賞記録を継続中。
その美しい響きは他の学校には真似できません。チューニングの音を聴いただけで泣けてくるなんて話も。毎年名演が期待されています。
課題曲I : トイズ・パレード (作曲:平山雄一)
パートのバランスがやや不自然なところはありますが、音色とピッチはさすがです。曲が進むにつれてどんどん各パートのバランスがマッチしてきます。
ハーモニーの作り方はやはりとても綺麗ですね。後半の盛り上げも素敵です。
演奏する人数と曲のバランスを合わせるのは難しいものです。もしかしたら思ったよりこの課題曲は演奏しにくいのかもしれません。トリオからのテンポキープも難しそうです。
玉名女子でも完璧に仕上げるのが困難な曲…恐るべし!
しかし、これだけ素晴らしくまとめ上げているのは玉名女子ぐらいではないでしょうか。
自由曲:マードックからの最後の手紙 より (2021年版) (作曲:樽屋雅徳)
この作品は玉名女子高等学校吹奏楽部の委嘱により加筆した改訂版で、2021年の全日本吹奏楽コンクールにて初演されました。
普段から歌心を大切にされているそうで、冒頭のメロディの歌わせ方も工夫がありますね。木管の高音ピッチは本来かなり合わせにくいのですが見事に揃えてきています。
アッチェレランドのかけ方も素敵です。ちゃんと指揮者と奏者が一体となって音楽を作っています。
各パートのソロとピアノの掛け合いがものすごく綺麗ですね。ゲーム音楽のような速いパッセージもこなしてます。基礎力はもちろん、個人の質の高さにも改めて驚かされます。
最後の締め方もかっこいい!緩急がはっきりした音楽なので、聞き応えも十分にありました。
習志野市立習志野高等学校
東関東支部・千葉県代表の大ベテラン校。
全国大会出場34回、そのうち金賞が24回です。
長年顧問を務められた石津谷治法先生が、2021年5月より一般財団法人全日本吹奏楽連盟理事長になったことが話題になりましたね。
そのため顧問が織戸弘和先生に代わり、新生習志野高校として最初の吹奏楽コンクールということで注目されていました。
課題曲IV : 吹奏楽のための「エール・マーチ」 (作曲:宮下秀樹)
出だしが綺麗ですね。一気に聴いている側を惹きつけます。
審査員は出だしでほぼ点数をつけてしまうと言われるくらい、冒頭の出来は審査に大きく影響します。
テーマから各パートのバランスを整えるのはものすごく難しそうですが、さすが習志野高校。バランスの良い演奏に仕上がっています。しかし、バランスにこだわりすぎているのか、音楽が停滞ぎみに聴こえてしまうのが残念です。
トリオの前のファンファーレは極上です。この美しさはまさに習志野サウンドですね。
全体的にもよくまとめられている分、たまにピッチの悪さや音を外した時が目立ってしまうのが気になりました。
自由曲:楽劇《サロメ》 より 7つのヴェールの踊り (作曲:R.シュトラウス (編曲:織戸弘和))
吹奏楽全国大会では、もう何度もいろんな学校が演奏してきた「サロメ」。しかし、今回は習志野オリジナルバージョンです。『顧問の先生が自由曲を編曲する』流れは、前任の顧問の引き継ぎなのでしょうかね。
こちらもサウンドは大変素晴らしく、各パートの演奏技術も高いです。
しかし、課題曲と同じで音楽の進行がやや停滞気味なのが気になります。
部分的には仕上げているのですが、和声進行や曲の構成など全体の流れを作っていけるとより素敵な演奏になる気がします。
とはいうものの、高校生でここまで演奏できるのはすごい!聴いている側を幸せにしてくれる習志野サウンドは今も健在です。
埼玉県立伊奈学園総合高等学校
西関東支部・埼玉県代表の大ベテラン校です。
全国大会出場22回、そのうち金賞16回という快挙を成し遂げています。
自由曲の選曲も独特で、ディズニーソングやミュージカルの曲を選曲することもしばしば。聴いているだけでワクワクさせてくれる演奏が特徴です。
課題曲IV : 吹奏楽のための「エール・マーチ」 (作曲:宮下秀樹)
和声進行が意識された、伸び伸びとした演奏です。やはり音楽作りは理論の部分も大事になってきます。
和声進行がしっかりしていると音楽が自然に流れていきますよね。他の団体ではなかなか演奏が難しいと感じたこの曲も、伊奈学園の手にかかれば魔法のようなサウンドに仕上がります。音楽解釈が素晴らしい。
これぞ吹奏楽のあるべき姿!目指すべきサウンドといったお手本のような丁寧で素晴らしい演奏です。
自由曲:ミュージカル《レ・ミゼラブル》 (作曲:C.M.シェーンベルク (編曲:森田一浩))
伝説のミュージカル「レ・ミゼラブル」の音楽をメドレーのような形でまとめたものです。この自由曲は2013年にも演奏され、大きな話題になりましたね。
打楽器の使い方が上手い。
中間部のアンサンブルが少し乱れてしまいましたが、各パートのソロは素敵でした。
全体的にもっと大胆に表現しても良いと思うところはありました。また、メドレーなので展開が早すぎるのももったいない…。もっとゆっくり長時間聴いていたい…!
筆者個人的には、伊奈学園のイメージにないような、あえて違う雰囲気の曲に挑戦してみるのも面白いのではと思いました。
岡山学芸館高等学校
中国支部・岡山県代表のベテラン校。
全国大会出場18回、そのうち金賞が7回です。
とくに最近は全国大会での成績が良く、2017年からは連続で金賞を受賞しています。
他の学校に比べて海外の作品を演奏することが多く、正統派な印象があります。
課題曲IV : 吹奏楽のための「エール・マーチ」 (作曲:宮下秀樹)
クリアなサウンドで発音が良く、曲全体が生き生きしていますね。
これぞマーチといったサウンドです。
マーチをよりマーチっぽくするには、木管の発音にヒントがありそうです。各パートのバランスが非常に良いので聴き心地も最高。中音域の安定感もばっちりです。
最初から最後まで安心して聴いていられる演奏でした。
自由曲:ドラゴンの年 より (2017年版) (作曲:P.スパーク)
スパークの代表作の1つで、元々はブラス・バンドのために書かれた作品です。2017年版は打楽器、低音木管群、ストリングベースなどが加えられ吹奏楽編成用になっています。また、オーケストレーションやソロなども書き直されているようです。
冒頭からキラキラしたサウンドを聴かせてくれます。
昔はこういったドラマチックで繊細な響きの作品が全国大会でもよく演奏されていました。
ダイナミクスも素晴らしい。勢いではなく、理論的に練られて音楽を作っているのが分かります。
中間の超絶技巧部分もとてつもない安定感です。各パートがものすごく上手い!納得の全国大会金賞です。
東海大学菅生高等学校
東京支部・東京都代表の強豪校です。
全国大会出場8回、そのうち金賞を3回獲得しています。
東京支部は非常に代表争いが激しいのですが、東海大学菅生は2018年から3年連続全国大会金賞という快挙を成し遂げています。
課題曲V : 吹奏楽のための「幻想曲」-アルノルト・シェーンベルク讃 (作曲:尾方凜斗)
2022年に廃止が決まっている、課題曲Ⅴのいわゆる現代音楽枠です。
吹奏楽の編成と現代音楽は比較的相性が良いですよね。
この演奏も楽譜を忠実に再現しており、かなり洗礼されたサウンドになっています。
でもちょっと真面目すぎるかも。コンクールなのであまり大胆なことはできませんが、せっかくなのでその学校にしかできない表現をしても良いかと思いました。
丁寧な音楽の作りなので、参考音源としておすすめです。
自由曲:吹奏楽のための交響曲《ワインダーク・シー》 より I. II. III. (作曲:マッキー)
吹奏楽作曲家として大変人気のあるジョン・マッキーの作品です。
古代ギリシャ神話『オデュッセイア』をテーマにした全3楽章にわたる一大抒情詩となっています。
冒頭のファンファーレがもっと安定していると、さらに聴き手を惹き込んだでしょう。やや不安定に始まってしまったので、聴いている筆者がドキドキしてしまいました。
綺麗にまとめるのがものすごく上手いのですが、もう少し各パートの音色を際立たせると、より立体的な音楽になったと思います。ただ、こんな難曲を演奏できるだけでもかなりすごいですね。
大阪桐蔭高等学校
関西支部・大阪府代表の大人気強豪校。
全国大会出場12回、そのうち金賞5回です。
2019年にまさかの全国大会出場ならずで吹奏楽ファンに衝撃が走りましたが、2021年は見事に全国大会の舞台に返り咲いて金賞を受賞しました。
メディア出演も多く、Youtubeでも演奏を披露しているエンターテイメント集団です。
課題曲:V : 吹奏楽のための「幻想曲」-アルノルト・シェーンベルク讃 (作曲:尾方凜斗)
ネリベルサウンドのような独特なアーティキュレーションの付け方が良いですね。
現代音楽は楽譜では書き表せない表現がありますから、こうやって各学校が工夫して演奏しているのを聴くととても楽しくなります。
木管がもっと大胆に表現しても良かったかも。しかしそうするとピッチが乱れるので、そのギリギリを狙ったのかもしれません。
大変安定感のある演奏でした。
自由曲:吹奏楽のための協奏曲 (作曲:高昌帥)
人気作曲家、高昌帥先生の作品。吹奏楽で使われるほぼ最大規模の編成を用いて、全5楽章・25分を要する大作です。
冒頭の安定感が素晴らしいです。会場いっぱいに広がるようなサウンドは、音の鳴りもそうですが、各パートのピッチ・音色・吹き方が重なることで美しい響きが生まれます。どの学校も目指したい響きですね。
各パートの演奏技術が高く、後半の超絶技巧は聴きごたえたっぷり!上手いです。
光ヶ丘女子高等学校
東海支部・愛知県代表の強豪校です。
全国大会出場19回、そのうち金賞が3回です。
現代音楽を得意としており、毎年刺激的な演奏を聴かせてくれます。
どんな自由曲を選ぶかにも注目です。
課題曲V : 吹奏楽のための「幻想曲」-アルノルト・シェーンベルク讃 (作曲:尾方凜斗)
やはり光ヶ丘といえば、課題曲Ⅴですよね…!楽器の鳴らし方は、もう完全にこういった曲用になっています。
綺麗にまとめ上げるというよりは、やや荒く激しいサウンドをぶつけてきます。こういう現代音楽は、あえてバランスを調節しない方が合っているかもしれませんね。
ハーモニーも普通なら根音や三音、五音など基本的なところは音量調節しますが、こういった曲はそのまま同じ音量の方が良さが出ます。
自由曲:いざ咲き匂はざらめやも (作曲:長生淳)
人気の吹奏楽作曲家・長生淳さんの名曲のひとつです。
この曲はもともと千葉県立幕張総合高等学校への委嘱作品だったようです。
やはり自由曲も現代音楽!これぞ光ヶ丘ですね。曲づくりも大変素晴らしく、曲と相性が非常に良いと思います。
実はコンクールにおいて選曲はものすごく大事で、こういった自分たちのバンドの良さが出る曲を選ぶセンスも必要です。
現代音楽を自分たちのものにできている学校はかなり少ないと思います。これができる光ヶ丘はさすがですね。
精華女子高等学校
九州支部・福岡県代表の超強豪校。
全国大会出場23回、そのうち金賞14回です。
先ほどの大阪桐蔭と同じで、2019年にはまさかの代表落ち。その雪辱を果たすべく2021年は見事に全国大会出場、金賞受賞となりました。
2015年に長年務められていた顧問の先生が代わり、どうなるかと心配もされましたが全然問題なかったですね。毎年勢いのある演奏を聴かせてくれます。
課題曲I : トイズ・パレード (作曲:平山雄一)
やはりマーチングをしているからなのか、この手の曲は安心して聴いていられますね。行進しながら演奏している様子が目に浮かびます。トイズ・パレードらしさを最も表現している演奏なのではないでしょうか。
ピッチを合わせる、縦の線を合わせる、ダイナミクスを整える、和声進行を考える、などいろいろ音楽作りに大切なことはありますが、身体にリズムを染み込ませることはすごく大事です。
体内リズムが全員で共有できていると、このように非常に安定感があり前に進んでいく感じの音楽を作ることができます。
自由曲:巨人の肩にのって (作曲:グレアム)
出だしのトランペットが上手い!これだけ綺麗に発音できるのは素晴らしいです。途中のトランペットソロもお見事。すっかり魅了されてしまいました。
そして精華女子といえば、やはり打楽器の安定感。超絶技巧もびっくりするほど上手い。それがちゃんと音楽の流れに乗っていて、音楽の大事な要素であるリズムが完璧に曲とマッチしています。とても完成度の高い演奏でした。
ノリノリサウンドは精華女子が群を抜いて素晴らしかった。これは文句なし。ブラボーです!
まとめ
改めて聴いてみると、2021年の全国大会も名演揃いでしたね。
今年の演奏を聴くのがますます楽しみになりました。
コンクールの金賞団体に限らず、純粋に吹奏楽ファンとして今後もいろんな学校を応援していきましょう!