10か月にも及ぶ妊娠生活、壮絶な出産、そして出会えた我が子!あふれる喜びに包まれてお母さん、お父さんなって気づくこと。それは、子どものことを気遣う自分です。「子どものために何をしてあげたらよいか」と考えることがずいぶん増えたのではないでしょうか。どんなおもちゃが喜ぶか、どんな食べ物がからだによいか・・・そして、そのひとつに「音楽」も。

音楽は「情操教育」に効果的だと言われます。「情操教育」とは、子どもにわくわくするような体験をさせることで、心を豊かに育てるというものです。また、幼児期に音楽に触れることが脳の発達に良い影響を与えるという研究結果もあります。音楽を生活に取り入れて、お子さんと楽しい時間を過ごしてみませんか?

絵本を開くと始まる親子の時間。「楽器」が登場する絵本3冊

あったかい子どもをひざにのせて絵本を読んであげる時間。親子のふれあいのひと時であり、絵本の世界に引き込まれる楽しさがあります。しかし絵本の数は膨大で、どの本を読めばいいか迷ってしまうこともありますよね。そこで「楽器」が登場する絵本を3冊選んでみました。絵本を楽しむついでに、「音楽」にも触れてしまおうという提案です。

①『おーちゃんのオーケストラ』

これは、「ミッフィー」の作者ディック・ブルーナが描いた絵本です。彼の作風は、美しい色彩とシンプルな形を追求したデザイン性の高さで定評があります。この作品でも、はっきりとした色合いで楽器を演奏する子どもを描いています。インテリアとして額縁に入れて飾っておきたくなるような絵ばかりです。ひとつの見開きに対してひとつの楽器が登場し、演奏する様子がやさしく短い言葉で表現されています。

②『もりのなか』

こちらも昔から読み継がれる名作です。『おーちゃんのオーケストラ』の鮮やかな色使いとは対照的に、鉛筆で描かれる白黒の世界です。しかし色がついていなくても、ほほえましい楽しげな空気が漂っています。主人公の男の子が森の中でらっぱをふいて散歩していると、次々に動物たちに出会うというストーリーです。楽器を手にすることで誰かとつながり楽しい時間を過ごすことができるのだと素直に感じられます。

③『ねずみくんとおんがくかい』

最後は、「赤いチョッキ」がトレードマークの「ねずみくん」シリーズの一冊です。ねずみくんがらっぱを吹こうとしますが、なかなか音が出ません。らっぱと他の動物が持っている楽器との交換を試みますが、なかなか交換してもらえません。果たして、ねずみくんは音楽会ができるのでしょうか。ねずみくんを応援しながらいろいろな楽器を目にすることができます。

「楽器」の出てくる絵本3冊のご紹介でした。お子さんの成長に合わせて、①②③の順で読んでいくのがおすすめです。絵本という身近なアイテムからお子さんが音楽への関心を持つきっかけとなれば幸いです。

information

■『おーちゃんのオーケストラ』ディック・ブルーナ作、まつおかきょうこ訳、1985年、福音館書店

■『もりのなか』マリー・ホール・エッツ作、まさきるりこ訳、1963年、福音館書店

■『ねずみくんとおんがくかい』上野紀子・絵、なかえよしを・作、1987年、ポプラ社

「音楽」の基礎知識。そもそも「オーケストラ」って何だろう?

絵本の紹介を『おーちゃんのオーケストラ』から始めましたが、「音楽」から連想されるもののひとつに、「オーケストラ」があります。しかし、そもそもオーケストラって何でしょうか?ぼんやりとしたイメージをはっきりさせるために、ここで改めてかんがえてみましょう。

オーケストラは「管弦楽団」と言い換えられます。耳にしたことがある言葉ですね。もう少し具体的に捉えると「管弦楽団」とは、以下4つの要素からなります。①弦楽器(Strings)②金管楽器(Brass)③木管楽器(Woodwind)④打楽器(Percussion)です。

それぞれ見ていくと、「弦楽器」とはもちろん、弦が張っている楽器です。弦に刺激を与え振動させることで音を出します。弦楽器に含まれるのは、バイオリン、ビオラ、チェロ、コントラバスなどです。これは小さい順に並んでおり、小さければ小さいほど音域は高くなります。

金管楽器は唇の振動で音を出す楽器です。吹いて空気を送り込むだけでは音は鳴りません。演奏者の唇の振動があって初めて楽器として成立します。具体的には、トランペット、ホルン、ユーフォニウム、トロンボーン、チューバなどです。

木管楽器は、名前からすると「木製の楽器」だと思われるかもしれませんが、「金管楽器以外の楽器」という定義です。つまり、唇の振動で音を出さない、“吹く”楽器ということになります。

具体的には、リコーダー、フルート、オーボエ、クラリネット、サクソフォーン(=サックス)などです。

打楽器は読んで字のごとく、叩いて音を出す楽器なので種類も多いです。オーケストラによく使われる楽器ですと、ティンパニ、小太鼓、大太鼓、シンバル、トライアングル、カスタネットなどです。

ちなみに、『おーちゃんのオーケストラ』で「ハープ」が出てきますが、「ハープ」は4つのグループのどこにも属しません。しかし、オーケストラではよく用いられる楽器です。ピアノをはじめとする鍵盤楽器もまた同じことが言えます。少し基礎知識があるだけで、オーケストラへの関心が高まります。よりわくわくして音楽を楽しめると素敵ですね。

子どもと聴いてみたいクラシックの楽曲『ピーターと狼』

「オーケストラ」で演奏される「クラシック」をお子さんと聴いてみたいと思ったとき、まずは聴きやすい曲を選びたいところ。そこで、おすすめしたいのは、『ピーターと狼(Peter and the Wolf)』という楽曲です。タイトルからして、親しみやすそうな響き。この楽曲は物語になっていて、主人公の男の子「ピーター」と動物たちの「狼」を巡るひと騒動が描かれています。しかも、朗読が入るという珍しい形式です。

そして登場人物(登場動物?)に対して、短いテーマ曲と楽器が割り振られています。例えば、主人公ピーターのテーマは、弦楽器で演奏されます。かわいらしい小鳥の調べは、フルートです。恐ろしい狼にはフレンチ・ホルンの和音が用いられます。楽器の音が聞き分けられるので、分かりやすいですよね。お子さんと音楽を聴きながら「あっ、これが小鳥さんだよ。小鳥さんはフルートっていう楽器が使われているんだって」などと声をかけてあげられます。大きくなったお子さんは、ストーリーをたどっていくことも楽しめそうです。

せっかくなので、作曲者についても触れておきましょう。『ピーターと狼』は、ロシア人のセルゲイ・セルゲーエヴィチ・プロコフィエフ(Sergei Sergeevich Prokofiev)によって作曲されました。ロシアが社会主義国となるきっかけとなったロシア革命の時代を生きた音楽家です。代表曲の一つ『騎士たちの踊り(Dance of the Knights)』は、CMで聞いた方も多いはず。1891年生まれで61歳で亡くなっています。

プロコフィエフは数多くの楽曲を作曲しましたが、どんな子どもだったのでしょうか?作曲を始めたのが、なんと5歳です!彼がピアノで弾いた小曲を母親が譜面におこしたといいます。幼いころから音楽の才能に秀でていたのですね。そして、9歳でオペラの曲を作曲しました。13歳から23歳まで名門サンクトペテルブルク音楽院に在籍して、作曲科、ピアノ科、指揮科を修了しています。

『ピーターと狼』は、1935年にプロコフィエフが息子たちを連れて訪れたモスクワ児童劇場に端を発します。その劇場の支配人が「幼い子どもたちが楽しめるように、言葉をいれたおとぎ話の作品を作れないか」とプロコフィエフに提案したそうです。この考えに賛同したプロコフィエフは、『ピーターと狼』のピアノ版をわずか4日で書き上げました。翌年1936年にオーケストラによる演奏が披露されたということです。父親でもあったプロコフィエフが子どもたちを思って創りあげた楽曲。是非一度聴いてみてください!

ファミリーコンサートに行ってみよう!

音楽鑑賞というと、どうしても敷居が高いイメージがあります。チケットを買いたいと思って注意書きを見ると、「未就学児お断り」の文字にがっかりしてしまうことも多いです。子どもに本格的なオーケストラを聴くチャンスをあげたい、という親の思いはたびたび打ち砕かれます。ただ一方で、演奏中に子どもが泣き出してしまうと、他のお客さんの観賞の邪魔になってしまうことも否めません。

それでも、音楽を生で聴くという体験は素晴らしいものです。楽器が奏でる迫力ある音、空気の揺らぎ、体が包み込まれるようなメロディー。、お子さんはもちろん、大人も感動できると思います。一般向けのものは難しいですが、「ファミリー向け」と銘打ったものもたくさんあります。全国各地で開催されていますので、お子さんを連れて足を運んでみてくださいね。具体的にどんなものがあるか少しご紹介します。

【交響楽団によるもの】例:オーケストラと遊ぼう0歳からの広響ファミリーコンサート

全国各地の交響楽団でも、ファミリー向けのコンサートが企画されています。地元の交響楽団のコンサートの予定を調べてみてください。ご紹介した「広響」とは、1963年に創立した「広島交響楽団」のことです。「Music for Peace ~音楽で平和を~」を理念に掲げ、子どもに向けた音楽活動にも力をいれています。このコンサートも取り組みの一つで、「お子さまが泣かれたり、授乳やおむつ替えで席を立たれても構いませんのでご安心ください」と温かい言葉が添えられています。2017年のプログラムを見ると「アンパンマンの楽器紹介」といったコーナーもあり、子どもも喜びそうですね。

【イベントやお祭りで】例:パシフィック・ミュージック・フェスティバルのピクニックコンサート in 札幌

イベントやお祭りの中で、ファミリー向けのコンサートが組み込まれているケースもよくあります。一例を挙げたパシフィック・ミュージック・フェスティバル(Pacific Music Festival/PMF)とは、札幌で行われる国際教育音楽祭のことです。オーディションで選ばれた若手音楽家が世界中から集まり、教育を受ける「PMFアカデミー」を中心に活動が行われています。このPMFによる野外ステージでのコンサートは、芝生の上で食べ物や飲み物を自由に口にしながら音楽を楽しむことができるのです。開放的な雰囲気で「赤ちゃんから大人までそれぞれのスタイルで音楽に浸ることができる」素晴らしい機会です。

【個人によるもの】例:「赤ちゃんからのコンサート」

子どもに音楽を届けたいと願う方やグループが小規模で気軽なコンサートを企画しています。ショッピングモールなどで目にされることもあるのではないでしょうか。「赤ちゃんからのコンサート」は、ピアノとリトミックに精通している山崎綾子さんが2013年から開催しているコンサートです。愛知県、岐阜県の各地で40回以上コンサートを行っており、好評を博しています。ご自身もママでいらっしゃるので、桟敷席が用意されているなど配慮が行き届いています。また、演奏される曲はクラシックとこだわっていながら、40分というコンパクトなプログラムになっていますので、子どももたちも飽きずに楽しむことができます。

上記以外にも、企業が企画するファミリーコンサートもあります。情報をこまめにチェックしておくと、意外と近所で音楽に触れる機会を発見できるかもしれません。是非お子さんと音楽に浸る幸せな時間を共有してみてください。