貫禄のあるバッハ、不屈の魂を感じさせるベートーヴェン、そしてどこか楽し気な天才、モーツアルト!彼らウイーン古典派三大巨匠の音楽は今日でも様々な場面に登場します。中でもモーツアルトの音楽は、パトロンから注文を受けて作られた軽やかで明るい長調の曲が多くみられます。

例えば「ピアノソナタ ハ長調 K.545」は、まるできらめく春の小川がさらさらと流れるような一曲です。名古屋市営バスでは、アイドリングストップ中の車内にこの曲が流れます。エンジンの音が消えて静かなので可憐な曲調が強調され、若干恥ずかしい感じもしますが聞き慣れると癒されます。また、少し抑え目の曲調から始まり、ドラマチックに展開する華やかな曲に「ピアノソナタ 第11番イ長調 第三楽章 トルコ行進曲」があります。ピアノの手ほどきを受けた経験があれば、このトルコ行進曲を華麗に弾くことを夢見た方も多いのではないでしょうか。

今日でも愛されるモーツアルトが生まれたのは18世紀半ば、1756年です。現在のオーストリアのザルツブルグで産声を上げました。父親が宮廷作曲家・ヴァイオリニストであったことから、幼い頃より演奏旅行で異国の地を訪れたといいます。ウィーン、パリ、ロンドンまたローマやナポリなどイタリア各地を巡り、幼い頃から広い世界を見て育ち、様々な文化や音楽に触れて広く親しまれる音楽を生み出しました。

多くの名曲を世に送り出した天才のフルネームは、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(Wolfgang Amadeus Mozart)です。「アマデウス」は彼を題材にしたミュージカル(1979)や映画(1984/2001)のタイトルにもなっています。これらは、モーツアルトをライバル視していた「サリエリ(Antonio Salieri)」という人物との関係を誇張して描いた作品です。モーツアルトという一人の音楽家の存在が後の時代で新たなものを生み出す原動力となっています。今回はモーツアルトに関係あるものからそうじゃないものまで、モーツアルトがキーワードになっている様々なものをご紹介します。

花からクルーズ船まで!モーツアルトと名乗るものたち

「モーツアルト」と聞いて思い浮かぶ花は何色でしょうか。たくさんの品種があり世界中で愛されるバラの花にも、「モーツアルト」と名づけられたものがありました。バラというと花びらが幾重にも重なっているものを想像しますが、モーツアルトの花びらはシンプルに5枚。はっきりとしたピンク色で中央が白いので、やわらかな印象を合与えます。5月頃に小さめの花が房状にいくつも咲いて、風に揺れる姿はまるで少女のよう。軽やかなモーツアルトの曲にぴったりです。

モーツアルト生誕の地ザルツブルグにあるのが、その名も「ホテルモーツアルト(Hotel Motart)」です。近くにはモーツアルトが暮らした住まいが博物館になった「Mozarts Wohnhaus」があります。このホテルの宿泊プラン「Fortresses and castles」には、世界最古のレストランでモーツアルトの曲を楽しめるディナーコンサートがつきますよ。そしてモーツアルトと名の付くホテルはザルツブルグのみにあらず!彼が活躍した地、ウィーンにもありました。家族経営のちょっと古めかしい「ホテルモーツアルト」には、手動でドアを開けるエレベーターが!(賛否両論ありますが、個人的には味わいがあって好きです。)地下鉄とトラムの駅に近い利便性と広めのお部屋に定評があります。モーツアルトが演奏旅行でよく足を運んだ、イタリアにあるのが「ホテルモーツアルトローマ(Hotel Motart Rome)」です。オードリーヘップバーンが『ローマの休日』でジェラートを食べたスペイン階段のそばにあります。屋上テラスから見るローマの街並みと美味しい朝食が自慢のこじんまりとしたホテルです。

ホテルの名前として人気のあるモーツアルトですが、最後にご紹介するのはクルーズ船です。クリスタルクルーズ社が所有する船、「クリスタル モーツアルト」で楽しめるのは、ドナウ川を行くリバークルーズです。オーストリア、ドイツ、スロバキアのクリスマスマーケットを巡る船内は、スタイリッシュな客室で全てがスイートルーム!2018年のプランには、ウィーンのベルベデーレ宮殿の貸し切りコンサートや、ドイツのパッサウ大聖堂でのオルガンコンサートが組み込まれています。モーツアルトと名のつく贅沢なリバークルーズで旅と音楽を楽しむなんて、何とも素敵なお話です。

広島の老舗洋菓子店バッケン「モーツアルト」

一度聞いたら忘れられないインパクトのあるネーミング「バッケンモーツアルト」は、1974年創業の広島の洋菓子店です。地元に愛され全国にもファンが多い理由は、素材にこだわった身体にやさしくて美味しいお菓子を追求し続けているから。もともとは喫茶店として始まり、ウイーンにあるカフェテラスの名前にちなんで名づけらたといいます。「バッケン」とはドイツ語で「パンを焼く」という意味で、当初の主力商品はパンでした。しかしパンよりも人気を集めたのが手作りチーズケーキだったので、洋菓子店として生まれ変わったのです。

せっかくなので商品を少しご紹介すると、バッケンモーツアルトの定番は「からす麦の焼きたてクッキー」です。売上NO.1を誇るさくさくの香ばしいクッキーは、アーモンドとからす麦の風味が後を引き、やみつきになりますよ。また、モーツアルト縁の地ウイーンの名物「ザッハトルテ」もあります!生チョコレートを40%以上使用した濃厚なザッハトルテは、ヨーロッパで開かれるモンドセレクションで入賞したこともあるほどです。通信販売も行っていますので、ぜひお試しください。

そして、バッケンモーツアルトについて特筆すべきなのは、「音楽」との関わりです。自身が経営するホテルで毎月第2日曜日にコンサートを開いています。2018年7月に行われたコンサートは「2つのヴァイオリンの対話」と銘打ち、バイオリンとピアノでクラシックの小品を奏でるという企画でした。毎月様々な演奏者を招いて行う演奏会には、お茶をしながら気軽に音楽を楽しんでほしいという思いがこめられています。未就学児を連れていっても大丈夫なのがまたありがたいところです。バッケンモーツアルトは過去に、レコードやピアノの演奏を楽しむ空間として「コンツエルトハウス」を経営していたこともあり、音楽へのこだわりが感じられます。美味しいお菓子と音楽の幸せなコラボレーションです。

モーツアルトの音楽で美味しいものを!

音楽と美味しいお菓子の関係をご紹介しましたが、近年注目されているのは音楽で美味しいものをつくるという発想です。モーツアルトの音楽はかねてから、心身を鎮める「副交感神経」を刺激して、活動力を高める「交感神経」を抑え、リラックス効果をもたらすとされてきました。楽曲のテンポが人間の安静時の脈拍に近いからだと考えられています。最近「モーツアルト効果」と呼ばれ注目されているのは、モーツアルトの曲が8000ヘルツ以上の高周波音とゆらぎの音がたくさん含まれていることです。この音が食品を構成する分子に振動を与えることで、分子が活性化されると言われています。

定番はお酒などの発酵食品です。例えばサントリーが販売しているのは、「モーツアルトチョコレートクリームリキュール」。厳選されたカカオ豆が原料の上質なお酒として知られ、製造しているのはザルツブルグで1954年に設立された「モーツアルト社」です。その製造工程の一つ「熟成」のタイミングで、特製のラウドスピーカーからモーツアルトの音楽を2晩お酒に聴かせます。曲目は、弦楽四重奏曲ケッヘル155(”Streichquqrtett, Kochelverzeichinis 155″)です。モーツアルト社では、音や超音波に関する独自の研究を経て、高周波数がお酒の熟成に良いことを発見しました。モーツアルトの音楽で熟成されたチョコレートリキュールは、カカオの香り高さと、とろっとした濃厚な甘さで人気を集めています。

続いてご紹介するのは、愛知県と静岡県に店舗を展開するスーパーマーケット「フィール」で販売されている「クラシックポーク」です。店頭では専用の売り場が設けられ、「モーツアルトを聴いて育った豚」とうたわれています。この豚が育てられているのは、清らかな清流と澄んだ空気が魅力の岐阜県は郡上明宝牧場です。モーツアルトの曲が流れる環境で飼育することで、豚はもちろん生産者や従業員の方もリラックスして仕事ができるそう。生産者の心を満たすことで、豚にきめ細やかな飼育をしてあげられると考えています。また、豚は人間と脈拍が近い動物で、しいては豚もリラックスして過ごしているのではないか、とのこと。実際、このクラシックポークはとっても美味しいです。やわらかく甘みがあってクラシックポークを使うと、おかずがグレードアップする印象があります。

最後にご紹介するのは、バナナです。バナナはフィリピンなどから輸入されてまだ青い状態で日本に届きます。そして店頭で見かける黄色の状態になるように、「追熟」の工程を行うのですが、その際にモーツアルトを聴かせると、バナナが美味しくなるそう。果たしてその効果はいかに、というわけで宮崎県都築市で生産される「ミュージックバナナ」で実験が行われました。普通に追熟されたバナナとの比較を行うために、スーパーの店頭でのアンケート、糖度の測定、どちらのバナナとは告げずに食べ比べをするブラインドテストの3つを行いました。結果、どの項目もミュージックバナナが優れていたということです。他に、鳥取県米子市でも「音楽熟成バナナ」が生産されています。その追熟を行う倉庫だけでなく、管理事務所の中にもモーツアルトが流れているそうです。

今回はモーツアルトを合言葉に色々なものを取り上げてみました。バラから始まりバナナで終わりましたが、中には意外なものもあったのではないでしょうか。「モーツアルト」という言葉の存在感と音楽の魅力が今日にも様々な影響を及ぼしています。改めてモーツアルトの親しみやすさと魅力を感じていただけたらうれしいです!