作曲編曲家の大ベテランである水口透先生の作品であるマーチ 「ペガサスの夢」。吹奏楽という現場をよく知る水口先生はいったいどのようなマーチを誕生させたのでしょう。

本記事では、演奏ポイントについて深掘り解説していますので、奏者の方はぜひ参考にしてみてください。

案内人

  • 川島光将指揮者・作曲家・編曲家 元・中学高等学校音楽教員、吹奏楽顧問 吹奏楽指導者協会・認定指導員 音楽表現学会会員 K MUSIC GROUP代表 現在はオーケストラ、吹奏楽、合唱、声楽など音楽全般の指導にあたる。

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2023年吹奏楽コンクール課題曲Ⅳ【マーチ 「ペガサスの夢」】

長年、課題曲のマーチは4/4拍子で比較的若い作曲家の作品が多かったのですが、今回は6/8拍子の正統派のマーチ課題曲が選ばれました。筆者個人としては大変嬉しく思っています。

作曲者:水口透(みなくち・とおる)
演奏時間:約3分30秒

作曲家・水口透について

水口透先生は、作曲家・編曲家、トランペット奏者そして吹奏楽指導者としても大変有名な方です。現場で活躍されている先生なので、今回の課題曲も小編成に配慮された作品となっています。

都道府県によっては大編成のみの地区もあるので、人数が少ない学校にとってはこういった作品は非常に助かりますね。

吹奏楽奏者にとってのツボを熟知している水口先生は、どのような作品を作りだしたのでしょうか。さっそく演奏ポイントを見ていきましょう。

演奏のポイント

先述したように、近年の課題曲のマーチは4/4拍子が多かったため、6/8拍子のマーチに馴染みがない奏者も多いかもしれません。

そういった方には、実際にマーチをたくさん聴いて、6/8マーチの感覚をまず掴んでみることをおすすめします。

それでは解説に進みましょう!

出だしからCまで

出だしは1拍目にアクセントがついていますが、もちろん大事なのは最初の入りの音。アクセントがないからといって、はっきり演奏しないというわけではないので注意です。

曲全体でフレーズを作りたいので、出だしの木管、スネアの音型とその後のサックス、トランペット、ホルンのスピード感を揃えましょう。

アーティキュレーションに注目です。
1小節目や3小節目のメロディは8分音符にスラーやスタッカートがついているわけではないので、勝手につけないよう気をつけてください。

2小節目の低音、シンバル、バスドラは音が長くならないように注意です。入りのアクセントが目立つようその前の音の処理を短くしましょう。
グルーピングとしては、2小節目から3小節目の頭、4小節目から5小節目の頭となっています。音の向かうエネルギーを作りましょう。

5小節目のメロディはスラーの位置に注意です。ついつい小節をまたいでスラーをつけてしまいそうになりますね。

この曲は全体を通して打楽器が音楽を作っています。
7小節目のスネアの叩き方、そしてシンバル、バスドラの音色はとても重要です。スネアはしっかり右手左手をどう使うか、そしてストロークの使い分けをしっかりしましょう。

Aからのメロディは王道マーチですね。
スコアを上から下まで見ていくと、同じ動きをしているパートがそれぞれあります。

  • メロディ(クラリネット、サックス)
  • 支え(テナーサックス、ユーフォ)
  • 表うちリズム(トロンボーン、チューバ、バリトンサックス、バスクラ、ベース、バスドラ)
  • 刻み(ホルン、スネア)

作曲した水口先生は少ない人数でも対応できる楽譜を意識して、このようにそれぞれの役割を明確に作っているのでしょう。

23、24小節目の打楽器はバランスよく演奏したいですね。ここの響きでマーチらしさが出るか分かれるところです。

40小節目の2連符は面白いところですね。楽譜どおり演奏すれば問題ないでしょう。

39小節目からメロディは急にユニゾンになります(オクターブの関係ではありますが)。
ピッチの乱れが目立ちやすいので注意です。その分、和音の刻みのセクションの音を目立たせて曲の終始感をしっかり出しましょう。

CからE

Cからのメロディは面白いアーティキレーションですね。
大きなフレーズは8小節で作られていますので、出だしの41小節目からどこまでが大きなフレーズかを意識して演奏してください。

45小節目は作曲者こだわりのピチカートですね。しっかり目立たせましょう。

49小節目は音が41小節目と違うのはすぐに分かりますが、大事なのはダイナミクス、そしてオーケストレーションです。作曲者の意図がはっきりと書かれています。

そしてこの箇所で最も重要なのが打楽器の音色です。54小節目から正確にカッコよく演奏したいですね。

Dからはオーケストレーションと音の高さを変えて、先ほどのフレーズが演奏されます。出てくる響きの違いを楽しんでください。
ここでも打楽器だけ素敵な仕掛けがされています。打楽器奏者にとっては、とてもおいしい場所ですね。

65からはオーケストレーションを厚くして演奏されます。
メロディラインは特にバランスに気を付けることと、低い音が残らないようにしましょう。

ここでも打楽器のキメが重要になってきます。

EからI

Eからのトリオは大きな音楽の流れができていますね。
スネアのような細かいパルスを感じながら、フレーズは大きくとるようにしてください。

グロッケンはしっかり聴かせたいところ。コントラバスのピチカートもすごく効果的です。

E→F→Gと、先ほどと同じようにオーケストレーションの変化を楽しんでください。
ダイナミクスだけでなく、少しずつ音が厚くなってきます。楽器が組み合わさることによっての、響きの変化を感じましょう。ラヴェルのボレロのように、色を混ぜる感覚です。

打楽器も少しずつ変化し、アンサンブル力が問われます。

Hからのメロディはパート内でのハーモニー作りです。こういったところは人数の少ないバンドでは作りきれないかもしれません。

逆に129小節目からのメロディはユニゾンです。ここのピッチ合わせが重要ですね。

Iから最後

Iのホルン以外の金管はとてもエネルギーのあるフレーズです。2拍目にアクセントとなっていますが、実際は最初の音にもしっかりアクセントをつけた方が良いでしょう。

木管のフレーズも出だしの音がクリアになるようにしてください。トリルと装飾音符はしっかり合わせて揃うようにしましょう。

ここでも打楽器が大活躍ですね。
打楽器の演奏だけ聴いても、そのバンドのグレードが分かってしまいます。

145小節目からは面白い進行ですが、臨時記号が多いので混乱しやすいかもしれません。

Jからのpiuf(すぐにf)の意図だけは筆者もよく分かりませんでした…!
気持ち新たに演奏する感じですかね。

後半は今までの総まとめのようなので、演奏の仕方で気を付けることを思い出して演奏しましょう。

183小節目はsfzでデクレシェンドとなっていますが、伸ばしの音の場合はsfp(音を出してすぐにp)にして、木管のフレーズを目立たせるのも良いと思います。

最後のppで終わるのは面白い締め方ですね。

こんなバンドにおすすめ!

小編成など人数が少ないバンドでも対応できるよう考えられて作られた楽譜なので、どのバンドにもおすすめです。

ただマーチの演奏という意味では非常に難しく、打楽器は特に責任重大です。
過去に吹奏楽マーチの礎を作ってくださった指揮者フレデリック・フェネルさんの演奏を聴くなどして演奏のイメージをしっかり持つと良いでしょう。

まとめ

今回の課題曲は4曲ともある意味王道で、ある意味個性的でした。

王道という点は、過去の課題曲にあったようなとんでもない楽譜はひとつもなく正当な作曲技法で書かれているということ。個性的という点は、昨年までの課題曲とは変えようという吹奏楽連盟の意図が明確に感じられたことです。

さまざまなスタイル、色々な解釈の課題曲が聴けることを楽しみにしています。

今年も「熱い」夏になりそうですね!