昨年11月19日に大阪城ホールで開催された全日本マーチングコンテスト・高等学校以上の部で2年連続で金賞を受賞した東海大学付属高輪台高等学校吹奏楽部。その裏側にあったドラマを名物顧問の畠田貴生先生に聞いた。
取材・文
- オザワ部長世界でただひとりの吹奏楽作家。神奈川県立横須賀高等学校を経て、早稲田大学第一文学部文芸専修卒。在学中は芥川賞作家・三田誠広に師事。 現役時代はサックスを担当。現在はソプラノサックス「ヤマ」(元SKE48の古畑奈和が命名)とアルトサックス「セル夫」を所有。好きな吹奏楽曲は《吹奏楽のためのインヴェンション第1番》(内藤淳一)。
東海大学付属高輪台高校吹奏楽部の軌跡
東京の強豪バンドとして知られる東海大学付属高輪台高校吹奏楽部は、10月に行われた全日本吹奏楽コンクール・高等学校の部に17回目の出場を果たし、12回目の金賞を受賞した。
そんな高輪台が翌月には、行進やパフォーマンスをしながら演奏するマーチングの全国大会、全日本マーチングコンテストに参加。通算9回目の出場で5回目の金賞に輝いた。
なぜプッチーニだったのか
マーチングの際に演奏される曲の基本は当然ながらマーチ(行進曲)だが、高輪台が昨年に続いて採用したのは、《トスカ》《蝶々夫人》などオペラの作曲家として知られるジャコモ・プッチーニの名曲だった。
名物顧問として有名で、全国大会では指揮も担当した畠田貴生先生はその理由をこう語る。
「昨年はプッチーニのいくつかの曲を取り入れた演奏でしたが、今年は《トゥーランドット》だけで構成しました。オペラでマーチングというと意外に思われる方もいるかもしれませんが、オペラの曲には強いメッセージ性があり、一瞬で観客を音楽の世界にいざなう力があるため、マーチングの指導を主に担当してもらっている島川真樹先生とも相談して6分間の演奏・演技で《トゥーランドット》を表現することにしました」
金賞受賞の裏にあったドラマ
高輪台は冒頭から圧倒的なサウンドを巨大な大阪城ホールいっぱいに響かせるとともに、キビキビした動きで観客を魅了した。どれだけ体を動かしても音楽が崩れない安定感もあった。文句なしの金賞受賞だったが、その裏にはドラマがあったと畠田先生は言う。
「ソロを演奏する子が、最初の音を外したんです。でも、ほかの部員たちがそれをカバーするように力を合わせて演奏してくれたおかげで、カンパニーフロント(全員が横一列になってゆっくり前進するマーチングのクライマックス)が感動的なものになりました。終わった後、そのソロの子は落ち込んでいたんですが、みんなが『大丈夫だよ』『よかったよ』と慰めているのが素晴らしかったですね。僕自身はとにかく感動して、東京都大会でも全国大会でも涙が出ました」
練習段階でも、たくさんの努力や苦労があったと畠田先生は言う。
「部員たちはみんなマーチングが好きなんです。でも、マーチングは座奏と違って体力も削られますし、つらさがあります。運動神経がいい子もいれば、苦手な子もいる。コンテ(マーチングの動きの設計図)をすぐ覚えられる子、なかなか覚えられない子もいる。そこで一人ひとりが弱音を吐かず、チームワークによってつらさを乗り越えられた。マーチングをしていく中で、部員たちの人間的な成長が見えました。それが最終的に良い演奏・演技につながり、金賞をいただけるものになったんだと思います。僕は驕りでも自信過剰でも何でもなく、これは金賞だなと素直に感じていました。もちろんそれも嬉しいですが、何より部員たちの成長、学びが感じられたのが嬉しかったです」
マーチングを通して得られたもの
実は、畠田先生はもともとはマーチングが好きではなかったというから驚きだ。
「マーチングは音が荒くて、演奏が雑になるのではないかと思っていました。でも、きちんと気をつけて演奏すれば、部員たちは驚くほど伸びます。それに、吹奏楽をよく知らない人たちも一目見て楽しんでくれますし、声援ももらえる。生徒たちは演奏する喜びを感じられて、さらに伸びる。いま、高輪台にとってマーチングは必要不可欠です」
全国大会金賞という結果に注目が集まりがちだが、東海大学付属高輪台高校吹奏楽部の部員たちと先生にとっては、そこに至るまでの過程と築き上げたチームワーク、観客に感動を与える演奏・演技をできたことにこそ大きな意味があった。そんな高輪台の金賞受賞に改めて拍手を贈りたい。