いよいよ「吹奏楽の甲子園」、全日本吹奏楽コンクールが10月20日に栃木県・宇都宮市文化会館で開催される。

出場するのは全30校だが、最後に決まった2枠が東京都代表だった。全国大会の約1カ月前の9月22日という、例年より遅い東京都大会の開催だった。

そこで、都大会を振り返りつつ、全国大会に出場する2校の意気込みをお届けしたい。

取材・文

  • オザワ部長世界でただひとりの吹奏楽作家。神奈川県立横須賀高等学校を経て、早稲田大学第一文学部文芸専修卒。在学中は芥川賞作家・三田誠広に師事。 現役時代はサックスを担当。現在はソプラノサックス「ヤマ和(やまお)」(元SKE48の古畑奈和が命名)とアルトサックス「セル夫」を所有。好きな吹奏楽曲は《吹奏楽のためのインヴェンション第1番》(内藤淳一)。

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東京都吹奏楽コンクール・高等学校の部をレポート

今年の都大会は、例年会場だった東京の吹奏楽の聖地・府中の森芸術劇場が改修工事のため、江戸川区総合文化センターでの開催となった。

出場は全12校。うち都立高は3校。青山学院高等部ブラスバンド部が初出場だった。

激戦の都大会

東京都吹奏楽コンクール・高等学校の部をレポート

いきなりプログラム1番に昨年の全日本吹奏楽コンクールで5大会連続金賞を成し遂げた東海大学菅生高校吹奏楽部が登場。自由曲《巨人の肩にのって》(ピーター・グレイアム)では圧巻のサウンドで観客の度肝を抜いた。

3番には、かつて埼玉栄高校を何度も全国大会金賞に導いている大滝実先生の指揮で岩倉高校吹奏楽部が自由曲《ハウ・トゥー・トレイン・ユア・ドラゴン》を演奏。歌心たっぷりに感動的な演奏を披露した。

9番で登場した、「赤ブレ(赤いブレザー)」がトレードマークの東海大学付属高輪台高校吹奏楽部は全国大会で2年連続金賞受賞中だ。自由曲は6大会連続で福島弘和に委嘱。今年は《シンフォニエッタ第6番「息吹の花」》で、圧倒的な完成度の高さとサウンドのきらめきで観客を魅了した。

10番の八王子学園八王子高校吹奏楽部は自由曲に《吹奏楽のための交響曲「モンタージュ」より》(ピーター・グレイアム)を演奏。個々の部員の力量の高さを活かしたソロの数々が素晴らしく、ライブ感のある演奏が有機的に溶け合って感動を与えた。

11番の国本女子高校吹奏楽部は、55人まで出られるA部門に半分以下の27人で挑んできた。もちろん、今大会最少だ。しかも、ジェームズ・バーンズの《「交響曲第3番」作品89より》というシンフォニーへの挑戦。冒頭のチューバソロが素晴らしく、また、一人ひとりの技量もしっかりしていて、いつしか国本ワールドに呑み込まれてしまった。

12番の都立片倉高校吹奏楽部は全国大会に15回出場。前回代表に選ばれた2019年と同じ西村朗作品から、《秘儀IV「行進」》を選んでの挑戦。片倉の雰囲気にマッチした選曲で、緊迫感と高揚感のある演奏だった。

2024年吹奏楽コンクール東京都大会高等部結果

全12校はどこもレベルが高く、そのせいか表彰式の開始が予定よりだいぶ遅くなった。審査員の間でもいろいろと議論があったのかもしれない。

結果は8校に金賞、4校に銀賞。銅賞はなかった。審査員も12校すべての技術・表現の高さを評価したのだろう。

そして、全国大会に出場する代表には、東海大学付属高輪台高校と八王子学園八王子高校が選ばれた。

会場には東海大学菅生高校が選ばれなかった驚きが広がっていたが、代表が2枠しかない状況で、これだけ実力差が拮抗していると、金賞受賞校の中ではどこが代表に選ばれても不思議ではなかっただろう。

個人的には、東京都代表はもう1枠以上ないともったいなく感じた。それほど、全国の吹奏楽部員や吹奏楽ファンに知ってもらいたい名バンドが東京にはある。なお、八王子学園八王子高校は6年ぶりの全国大会出場決定で、ステージに出ていた男子2人は抱き合って喜び、観客から温かい拍手を浴びていた。

18度目の全国決定!東海大学付属高輪台高校にインタビュー

全国大会出場が決定した東海大学付属高輪台高校にインタビュー
©東海大学付属高輪台高校

今回が18回目の全国大会出場になる東海大学付属高輪台高校。終演後に顧問の畠田貴生先生に感想を聞いた。

「今日の演奏は完璧でした。子どもたちがよく頑張って、特に大きいミスもなく、練習どおりにできました。僕も子どもたちも、いい緊張感と高揚感を持って本番に臨めたと思います。苦労したのは、都大会の開催日が例年より遅かったので、そこの調整ですね。予選からだいぶ日にちが空いたので、モチベーションを保つのが大変でした。今年は予選がルネこだいら、今日が江戸川区総合文化センター、全国大会が宇都宮市文化会館、とすべての会場が例年と違っていますが、それぞれの会場での演奏を楽しみながらやっています。全国大会の目標は、もちろん金賞です。子どもたちと一緒に楽しんできます」

高輪台高校の部長でホルン担当の藤川七美さん(3年)は、喜びに目を潤ませながらこう語ってくれた。

「今日はすごく緊張感があって、本番を待つ舞台裏ではみんな表情も固まっていました。でも、出番が近づいてくるにつれて緊張が和らいで、ステージで1音目を出した瞬間には『うまくやりきれるな!』と思いました。その後はすごく楽しくて。一つ一つの音に思いを込めながら演奏していたんですけど、演奏が終わると『もう終わっちゃったんだ!』と思いました。表彰式は、開始がすごく遅くなって、審査員の方たちが悩んでいるのかなと思うと少し心配になりましたけど、結果は代表に選ばれて嬉しさが込み上げてきました。全国大会では、出だしの音を聴いただけで『これは金賞だ』『このバンドは日本一だ』と思っていただけるような演奏がしたいです。そして、感動と感謝を伝えられるよう、磨きをかけて本番に臨みたいです」

7度目の全国大会出場決定!八王子学園八王子高校にインタビュー

全国大会出場が決定した八王子学園八王子高校にインタビュー
©八王子学園八王子高校

2018年以来、7回目の全国大会出場が決まった八王子学園八王子高校。同部の卒業生でもある顧問の高梨晃先生は喜びの笑みを浮かべながら語ってくれた。

「今日は硬くならず、リラックスして、すごく音楽的に演奏ができたと思います。今年の部員たちは自発性が非常に高くて、部員たちがやりたいことにある程度委ねたところがありました。新しい挑戦もありましたが、『やってダメならしょうがない!』という精神でやってきました。私のほうから『それは違う』とダメ出ししたこともありますが、部員たちも簡単には引かず、お互いに意志をぶつけ合って気持ちを寄せ合っていたのがよかったように思います。代表と発表されたときは、私は部員たちと客席にいたんですが、思わず『わーっ、やったー!』とみんなと抱き合ってしまいました」

実は、前日の練習時にこんな心温まるシーンがあったという。

「男子が雰囲気を盛り上げようと寸劇を披露したんですが、よく部内で歌っている《大切なもの》という合唱曲を歌い始めたんです。そのうち男子が肩を組みだし、どんどん部員たちに広がっていって、全員で肩を組んで感動的な合唱になりました。なんて可愛い子たちなんだろう、と。この子たちを全国大会に連れていきたいと心から思った瞬間でした。ただ、代表に選ばれた後、高輪台高校の余裕の様子を見て、『あ、これは通過点なんだ、今度は全国大会に向けて東京代表として恥ずかしくない演奏をできるように頑張らなきゃいけないんだ』と思いました」

表彰式で、ステージ上で抱き合ったひとり、部長でコントラバス担当の飛川希君(3年)は代表決定の喜びをこう語った。

「表彰式前は緊張しすぎて舞台裏でしゃがみ込んでしまったんですが、代表と発表され、反射的に後ろにいた学生指揮者の田代海人に抱きついてしまいました。僕たちの代は高1のときから一度も全国大会というものを経験できず、悔しい思いをし続けてきました。ようやく夢を叶えることができ、嬉しくて幸せな気持ちです。ただ、全国大会に向けて東京の代表という責任は大きいと思います。誇りを持ちながら、精いっぱい頑張ってきます」

八王子学園八王子高校
©八王子学園八王子高校

さいごに

全日本吹奏楽コンクールは15校ずつ前後半に分かれて行われる。高輪台高校は後半9番、八王子高校は前半13番目の出場が決まっている。

ぜひ2校には東京のレベルの高さを観客に感じてもらえるような演奏を期待したい。

なお、チケットは売り切れているが、朝日新聞の「吹奏楽プラス」でライブ配信が行われる。高輪台高校や八王子高校のほか、全国から集まる代表校のハイレベルな演奏にぜひ耳を傾けてみていただきたい。