晴れて音楽学校に入学するとレッスンに向けて常に練習漬けの、そして周囲の学生にも大きな刺激を受けつつ過ごす日々が始まります。
学内での演奏の機会としては同じ門下生を集めた発表会や試験・コンクール等が考えられ、またより高みを目指すなら、学外のコンクールやオーディションなどのお話が先生や仲間内からも出てくるものです。
しかしピアノなどの鍵盤楽器を除いて、声楽や管弦楽器専攻ではほぼ必ずピアノ伴奏者が必要になります。
その場合どの様な人を探し、また謝礼はどの位をどの様に支払うものなのでしょうか?
経験が無いと見当もつかないものの絶対に避けては通れないこのお話、実は右往左往する人も多いのです。
そこで謝礼についての基本的な考え方や支払いスタイルについて、普段なかなか人には聞けない点をまとめてみました。
どの様な場面で伴奏者が必要になるのか?
学生が伴奏のピアニストを必要とするシーンとしては、以下が考えられます。
・学内の定期試験・前後期試験
・学内のコンクール
・卒業試験(結果が成績証明書に残る)
・同じ門下生によるコンサートなど
更にアクティブに取り組んでいる人の場合は、以下が想定されます。
・外部のコンクール
・外部のオーディション
・海外著名演奏家などによる公開マスタークラス(楽器店などの主催が多い)
ただ声楽も管弦楽器も、歌そのものや自分の専攻楽器での演奏こそが一番大切なのは言うまでもありません。
自分の専攻がまず十二分に出来ていることが何よりも大切です。
しかしその上で、伴奏のピアノも上手いに越したことはなく、また影響を与えてくるのも事実。
専攻実技が一番大切とは言っても、全体で一つの演奏・音楽であることを考えると自然なことですね。
それでも学生が学内の試験を受ける際は、伴奏者はまずピアノ科の学生の中から探すのが基本的姿勢と言えるでしょう。学生なのですから当たり前と言えば当たり前です。
謝礼を支払って伴奏を依頼するのは本当にどうしてもピアニストが見つからない場合のお話、ということになるかもしれません。
そして試験などの本番に向けて学内でのレッスンを受ける訳ですが、伴奏者にとってもピアノ以外の楽器のレッスンから学べることは非常に多いものであり、勉強になることです。
ピアニストにとっても、レッスンと本番経験をより積んで伴奏のレパートリーを増やしていくことは、実力と人脈を育て、ゆくゆくは後の仕事(収入)に直結するお話にもなるので、学内で臆せず声をかけてみましょう。
一方で卒業試験など、試験の結果が成績証明書に残る様な場面や学外での演奏の場合は、多少事情が異なります。
殊に外部の催しの場合は審査や公開のイベントとしての性格から、実力があり更に経験を積んだピアニストに伴奏を務めてもらうのが理想です。
・ただ弾けるだけではなく、作品の形式を理解しそれを実現した演奏ができること
・人前に立っても動じず、ソリストと互いに聴き合えること
まずは上記条件を備えている人であれば安心して本番を迎えられるでしょう。
どのレベルの人に伴奏を依頼するのか(学生・ピアノ教師・セミプロなど)
ではどのレベルの人に伴奏を依頼すると、どの位謝礼が必要になるのでしょうか?
まず、学内での試験でピアノ科の学生に頼んだ場合は、金銭の授受が仮に発生するとしても相手も学生であり、万単位になることは基本的に考えられません。
この場合の謝礼には、ちょっとしたプレゼントや何かご馳走するなどの形も良いでしょう。
次に、ピアノ教師などをしている人にお願いした場合ですが、一概には言えないものの、その曲を初めてさらうのか或いは既にレパートリーに入っているのかで、提示金額が変わってくる様です。
一曲を仕上げるにはそれ相応の時間と労力が必要なことを考えれば、非常に明確な理由ですね。
この場合学外の人にお願いしている訳ですから、学校でのレッスンにも付き合ってもらうことにもなるでしょう。
すると更に時間が、そして交通費もかかります。
曲の難易度も大きな要素ですが本番に辿り着くまでの副次的要素も考えると、やはり謝礼には数万円は見ておくべきでしょう。
一方で、リサイタルなどをする際にもし伴奏経験を多く積んできたピアニストに依頼した場合、相場は最低でも10万円~となる様です。
余談ではありますが、それぞれの楽器の主要レパートリーを名実共に押さえ伴奏を務められるピアニストとは、実はとても貴重な存在です。
・ピアノの確かな技術が当然ある
・自分の専門以外の楽器・歌に関する知識と経験を備えている
・ソリストと互いに聴き合うことが出来る
・絶え間ない研鑽を積んでいくことが出来る
これらの条件に当てはまる伴奏者が自身の回りにいた場合は、大切にしたいものです。
支払い方法について
もちろん支払方法も相手と場合によって変わってきます。
ただ大まかには以下のケースが考えられます。
・金額提示、双方合意 → 伴奏合わせとレッスンへの同行 → 本番終了後、一括で支払い
・金額提示、双方合意 → 予め数千円など、一部支払い → 伴奏合わせとレッスンへの同行 → 残金支払い
端的に言えば、交通費を前払いするかどうかの違いと見て良いでしょう。
実力と経験があるピアニストに伴奏を依頼したいという人はやはり多いものです。
すると何件も依頼を受けている伴奏者は、レッスンへの同行だけで多額の交通費を自費で賄うことになってしまいます。
こうした伴奏者の負担過多を防ぐ意味で、予め一部を支払うことは非常に現実的なお話です。
やはり人と人とのお付き合いである訳ですから、良い関係を長く維持できる様に工夫していくことはソリストと伴奏者にとっても非常に大切です。
また地方で開催のコンクールなどを受ける場合、当然同行してもらう伴奏者の交通費や宿泊費も生じてきます。
日数のかかる催しであれば、大きな金額になるでしょう。
その際、同じコンクールを受ける数人で伴奏者を一人雇い、皆でその費用を分担するというケースもある様です。お財布はとても助かりますね。
ただ同じコンクールを受ける人、それも地方開催のものを受ける仲間を見つけることはなかなか難しいことかもしれません。
それでも豆知識として、こうしたケースもあることを知っておくことは損にはなりません。
最後はお互いの胸三寸
さて、ここまで音楽学校の学生を対象に想定した、伴奏の依頼についての基本的な考え方を見てきました。
あくまでアウトラインではありましたが、この件は金銭の絡むデリケートなお話であるにも関わらず
非常に情報が不足している、また情報収集が困難な内容でもあります。
何故か?
・・全てはお互いの合意の上に成り立つものだからですね。特に第三者に話す必要もありません。その結果いつも極端に情報は不足しています。つまり経験を積んでいく中で、大まかな相場や不文律を知っていくことになるのです。
身の回りにこうした業界内の事情に通じた人がいればいいのですが、そうでは無い場合は本当に皆目見当がつかず不安になってしまいますよね。
「提示された金額は妥当なものなのか?」
この点一つ取っても、疑念を持ちながらでは伴奏合わせやレッスンへの同行、果ては肝心の本番がお互いにとって辛いものとなってしまいます。
そうならない為には、専攻実技の先生、副科の先生、過去にピアノ等を習ったことがある先生、また周囲の同級生や先輩等からもできる限り情報収集してみることが大切です。
一つ一つは断片的であったとしても実際の経験談からはこの件の、そしてこの業界の大まかな習慣や構造が見えてくることでしょう。
お金の動きとは、その業界の常識・非常識を端的に映すものでもあります。
そこから常識を探り、また信頼できる人を見つけることも出来るでしょう。
最終的には音楽の世界でどの様に身を処していくかのヒントも得られるはずです。
絶対のルールがなく途方にくれるお話であるからこそ・・・自我がむき出しになりやすい金銭のお話だからこそ・・・逆に得られるものも多いはずです。
皆様が良い伴奏者と出会い、充実した演奏をされていくことを心から願っています。