「ヴァイオリンやギターは知っているけど、マンドリンは正直よく知らない」
 
マンドリンについて質問されると上記のように思われる方も多いのではないでしょうか。
 
マンドリンはヴァイオリンと同等の歴史を持つ伝統ある楽器にも関わらず、まだまだ知名度が低いという現状は、マンドリンを愛する筆者としては悲しい限りです。
 
そこで今回はマンドリンの歴史や種類についてご紹介します。
この記事を読んで是非一度マンドリンの世界に触れてみてください。

 

案内人

  • 久保慎太郎
  • 久保慎太郎大阪在住のマンドリン愛好家。幼少期にピアノを始め、学生時代にマンドリンやクラシックギター、コントラバスに出会い嗜むように。社会人になる際にはマンドリンオーケストラを自分で立ち上げて指揮者を務めるなど、常に音楽と過ごす人生を送ってきました…

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マンドリンの歴史

17~18世紀:マンドリンの発祥と様々な種類のマンドリンの登場

マンドリンは8本の弦を持つ複弦楽器(2本1セットで調弦)で、17世紀前半のイタリアで生まれました。
ギターと同じくリュートを祖先に持つとされています。
 
初期のマンドリンは12本のガット弦を持つバロックマンドリンと呼ばれ、イタリアを中心に発展を遂げていくことになります。
 
当時のイタリアではナポリ型、ローマ型、フィレンツェ型、シチリア型、ジェノヴァ型、ミラノ型といった、地域それぞれの特色を持った多くの種類のマンドリンがどんどん製作されていました。
 
この中でも特に音の鮮やかさに定評のあったナポリ型とローマ型が徐々に主流となり、現代に引き継がれました。
 

19世紀:マンドリンの発展とフラットマンドリンの登場

19世紀に入ると、マンドリンは3つのポイントを経て大きく発展します。
 
まず1つ目の重要なポイントが、19世紀中ごろに行われたマンドリンの改良です。
 
これまで使用されていたガット弦ではなく鋼鉄製の弦を張ったものへと改良され、ほぼ現在のマンドリンの形になったと言われています。
 
2つ目の重要なポイントとして、19世紀後半の演奏面での発展が挙げられます。
 
現代にも通じる演奏法が確立され、さらに「マンドリン、マンドラ・テノーレ、マンドロンチェロ、マンドローネ、クラシックギター」という現代におけるマンドリンオーケストラ編成も考案されました。
 
そして最後の重要なポイントがフラットマンドリンの登場でしょう。
 

 
19世紀後半にアメリカへと渡ったマンドリンは、ギブソン創業者のオービル・ヘンリー・ギブソンによって、背面がほとんど平らで少し膨らみを持つ形状に改良され、フラットマンドリンとして生まれ変わることになります。
 

20世紀:マンドリンの隆盛と衰退

19世紀後半から20世紀にかけては、当時のイタリア王国王妃マルゲリータが音楽・芸術を積極的に支援したことで、マンドリン音楽が最盛期を迎えます。
 
しかしその最盛も長くは続かず、第二次世界大戦で敗戦国となり王政が廃止されると、その影響を受けマンドリンも一時的に衰退してしまいます。
 
とはいえ20世紀初頭から日本をはじめとして様々な国でもマンドリン音楽は愛好されていたことから、現在に至るまでその歴史が続いているのです。
 

マンドリンの特徴と種類

ここからはマンドリンの特徴と種類についてみていきましょう。

マンドリンの特徴

マンドリンの最大の特徴はトレモロ演奏でしょう。
 
マンドリンはギターと同じく撥弦楽器。
そのためヴァイオリンのように音を持続させることが出来ません。
 
そこでピックを小刻みに上下させ単音を連続させることにより、疑似的に音を持続させる演奏手法がとられます。
 

 
トレモロによる音色は独特の哀愁があり、マンドリンの魅力の一つにもなっています。
 
また複弦を持つため倍音成分にも富み、他の弦楽器にはないユニークな響きがあるのも特徴と言えます。
 

マンドリンの種類

マンドリンは大きく2種類に分けられます。
それぞれ簡単にご紹介しますね。
 

ラウンドマンドリン

ラウンドマンドリン
ラウンドマンドリン

 
クラシックやマンドリン音楽に使われるマンドリン。
 
イチジクを縦に割ったような特徴的な形をしています。
 
大学のマンドリンオーケストラや社会人演奏団体でマンドリンと言えば、基本はラウンドマンドリンを指すことが大半でしょう。
 
糸巻軸の金属棒が外に出ているナポリ型と、クラシックギターと同じくヘッドの中に糸巻軸が入っているローマ型という2種類がありますが、音色や響きにそこまで大きな違いはありません。
 

フラットマンドリン

フラットマンドリン

主にブルーグラスやカントリーで用いられるマンドリン。
前項の歴史でも触れた通り、背面が平らになっています。
 
洋ナシの断面のような形をしたAタイプと、渦巻の装飾のあるFタイプの2種類があります。
 
海外ではクラシックの現場でもフラットマンドリンを使う奏者がおり、アヴィ・アヴィタル氏やクリス・シーリー氏がその最たる例でしょう。
 
ちなみにスペイン・ポルトガルで独自に発展したバンドリンと呼ばれる楽器も、フラットマンドリンの一種です。
 

マンドリン属の楽器の種類

マンドリンにもヴァイオリン属と同じく、楽器の大きさや音域が異なる仲間がいます。
それぞれ特徴などを含めてご紹介していきますね。
 

マンドリン

言わずと知れたマンドリン属の代表楽器で、ヴァイオリンに相当します。
 
調弦はG-D-A-Eとなっており、マンドリン属の中で一番高い音域を持ちます。
 
最大の特徴はその鮮やかな音色。合奏では主旋律を主に担当します。
 

マンドラ

ヴィオラに相当する中音域担当の楽器です。
 
マンドリンの1オクターブ下のマンドラ・テノーレと、ヴィオラと同じくマンドリンよりも5度下の調弦(C-G-D-A)を持つマンドラ・コントラルトがあります。
 
日本でマンドラというとマンドラ・テノーレのことを指し、厳密な意味でヴィオラに相当するマンドラ・コントラルトはほとんど使われていないのが実状です。
 
人間の声域と同じくらいの音域で、マンドリンよりも丸みがある音を持ちます。
 
大きさもマンドリンより一回り大きく、その分音量も豊か。
主旋律や副旋律、伴奏など幅広い役割を受け持つことができるのも魅力的です。
 

マンドロンチェロ

その名の通りヴィオロンチェロに相当するマンドリン属の楽器です。
後述するマンドローネやコントラバスとともに低い音域を担当します。
 
マンドラより一回り大きく、ラウンドタイプとフラットタイプの2種類あります。
調弦はC-G-D-Aで、マンドラ・テノーレの5度下。
 
甘く温かみのある音色と力強い音色を併せ持っています。
余談ですが、A線の上にさらにE線があるマンドリュートという派生楽器があったりします。
 

マンドローネ

コントラバスに相当する最も低い音域をもつ楽器です。
 
高調マンドローネ(A-D-G-C)と低調マンドローネ(E-A-D-G)の2種類ありますが、日本で広く使われているのは高調マンドローネです。
 
音色ははっきり明快で、音量もマンドリン属で最大を誇ります。
 
楽器としての数が少ないこともありますが、何より熟練した演奏者が少ない影響もあり、日本のマンドリンオーケストラではコントラバスを用いられることが多いです。
 
全長136cmの大きさを持ち、マンドリン属で唯一エンドピンを使用して演奏します。
 

マンドリンの芸域はとても広い

マンドリンは初心者でも始めやすい楽器という事もあり、マンドリン音楽以外にも様々なジャンルで活用されています。
 
クラシック音楽でも度々使われており、遡ればヴィヴァルディの協奏曲やモーツァルトのオペラ、ベートーヴェンのソナチネなどが代表的ですね。
 
ブルーグラスなども有名でしょう。フィドルやバンジョーなどと共に欠かせない楽器になっています。
 
先にご紹介したクリス・シーリー氏はブルーグラスなどの方を中心に活動しておられます。
 

 
その他アイリッシュ、ケルトといった民族音楽やポップスにも取り入れられるなど、その活躍の場はとどまることを知りません。
 
芸域が広いのもマンドリンが愛され続ける理由の一つなのでしょう。
 

まとめ

知名度こそヴァイオリンやクラシックギターに劣りますが、マンドリンはそれらに勝らずとも劣らずの可能性と魅力を持った楽器だと筆者は心から思っています。
 
少しでもマンドリンに興味を持つ人が増えて実際に演奏したり、聴いてみたりしていただければ、こんなに嬉しいことはありません。