第1楽章:『結婚できない男』について語って悪いか!

皆さんは『結婚できない男』というドラマをご存知でしょうか?主演の阿部寛の代表作として根強い人気を誇るコメディタッチの名作です。なぜこのドラマを取り上げようと思ったか?答えは簡単、「主人公の趣味がクラシック音楽鑑賞だからです。ストーリー自体もかなり面白いですが、クラシックを聴く主人公の行動がツッコミどころ満載なのです。というわけで、今回は『結婚できない男』の主人公にツッコむという形式で、話を進めたいと思います。なお、「~で悪いか!」という見出しは同作のサブタイトルにちなんだものです。
それでは、ご存知ない方向けにこのドラマのあらすじを簡単にご紹介しましょう。個人事務所を営む建築家・桑野信介(演・阿部寛)は40歳目前。評判も良く、ルックスも悪くないものの頑なに独身を貫く「結婚できない男」。皮肉屋で空気を読まない偏屈な性格で、高級マンションに住み独身貴族を謳歌する毎日。ある日、腹痛に苦しむ信介は、隣に住むOL・みちるに助けられ病院に搬送。しかし、大腸検査にビビった信介は、腹痛が治まるや担当女医の早坂夏美の忠告にも耳を貸さず、とっとと帰宅してしまいます。しかし、40歳の誕生日に腹痛が再発し、またも病院に搬送された信介は、夏美に容赦なく服を剥ぎ取られ検査を受ける羽目に。これが「結婚できない男」信介の出会いへとつながります。
以上がドラマの大筋です。主人公信介の趣味がクラシック音楽鑑賞は前述しました(他にレンタルDVD鑑賞、模型作り、独り人生ゲーム、独り焼肉、独りビアガーデンなど)。それと関連してか、劇中のクラシック音楽で主人公の心情を表現するというしゃれた演出。選曲が信介の気分と微妙にリンクしており、面白さがにじみ出ています。

第2楽章:クラシックを大音響で聴いて悪いか!

主人公・信介は前述の通りクラシック音楽が趣味ですが、選曲が他の追随を許さない中身の濃さなのです。自宅でショスタコーヴィチ「交響曲第5番」終楽章を大音響で聴き、独り指揮で陶酔(これについては後述)。かと思えば、ワーグナー「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕前奏曲をBGMに独り人生ゲームへ熱中。個人事務所ではシューベルト「魔王」(日本語バージョン)で、仕事に励むという強烈さを見せます。シューベルト「アヴェ・マリア」もかけますが、これは阿部寛と「アヴェ」をひっかけたスタッフのお遊びでしょうか。他にもエルガー「威風堂々」、スメタナ「モルダウ」(「我が祖国」から)、ムソルグスキー「展覧会の絵」などが選曲されているので、興味のある方はドラマを見てください。
さて、ここで一つ想像してみてください。自分の職場で「おとぉ~さん、おとぉさん、それそこにぃ魔王のぉ娘がぁ~♪」というBGMがかかっている状況を。しかも大音響で。これはかなり異常な光景ですよ。どんなに名曲でも仕事に集中できないのが当たり前。当の本人は音楽に酔いしれて最高の気分でしょうが、周囲はたまったものではありません。高尚な音楽も大音響でやられてはただの騒音、完全な迷惑行為。しかし、我が道を行く桑野信介、そんなことなど意にも介しないのはさすがです。
小生にとってツボだったのが第1話。隣人が男とイチャついている(実際は飼い犬と戯れているだけ)と誤解した信介は大音響でショスタコーヴィチを鳴らし、自己陶酔に浸るのです。嫌がらせ以外の何物でもありません(実際、CDをセットしてせせら笑う信介の表情は、どう見ても嫌がらせ)。隣人がうんざりして壁を叩いたり蹴ったりするシーンから、何回もこの曲をかけていることがうかがえます。どうやら、信介がお隣にムカついたときにかけているらしいのです(もっとも、高級マンションで隣の音が聞こえるという設定が信じられませんが)。某動画サイトではこの曲が「隣人がうるさい時に流すBGM」なるタイトルでアップされており、ドラマでの認知度の高さを物語っています。
小生もショスタコーヴィチ「第5番」を聴くことがありますが、このドラマの影響で『結婚できない男』のテーマとして焼き付いてしまいました。余談ですが、この曲は「革命」のサブタイトルで呼ばれますが、作曲者自身がそのような名称を付けた事実はありません。CDセールス対策のニックネームと考えればよろしいかと思います。その意味ではベートーヴェン「運命」と似通ってますな。

第3楽章:独り指揮をして悪いか!

「独り指揮」。傍から見ると、「こっけい」、「ドン引き」、「関わり合いになりたくない」などと言われること請け合いの姿ですな。音楽を聴きながら、瞑想風の表情で両手を振り回す光景を想像してみてくださいよ。確実に「他人の振り」をしたくなりますから。それほど恥ずかしいものですな。しかし、周囲からネタ話として笑われようとも、信介の独り指揮ぶりは我が道をまっしぐらなのです。
自宅のチェアでくつろぐ信介は、半ばうっとり半ば瞑想と言う表情でクラシック音楽を満喫。第1話ではマーラー「交響曲第5番」終楽章で独り指揮を初披露。その後、「第5」つながりかショスタコーヴィチ「第5番
へスイッチ、当てつけ攻撃に突入していくのです。いっそう大きな身振り手ぶりで独り指揮にハマる姿は、まさか帝王カラヤンをイメージしているのか?後ろのアングルから見ると、チェアでの指揮姿はかなりシュールです。しかし、当てつけへの天罰が下ったか、にわかの腹痛で病院送りと言う憂き目に遭うのです。
それでも懲りない信介、最終回ではチェアから立ち上がっての指揮姿を披露。「ショルティよりバレンボイムなんだよな」というセリフもあるように、信介のクラシックへのハンパないこだわりを物語っているのでしょう。独り指揮がいいか悪いかはともかく、どこか愛すべき人物であるのは間違いありません。最後になりますが、このドラマはストーリーも何度見ても面白いです。ドラマ内のクラシック音楽とストーリーとの関連を感じ取ってみるのも違った面白さの発見につながると思いますよ!

以下、『結婚できない男』関連のYouTubeリンクを抜粋。

●ショスタコーヴィチ交響曲第5番 終楽章 ※信介が大音響で鳴らすアレです

●結婚できない男(口笛) ※サムネで信介の独り指揮が見られます

他にもYouTubeで探せばまだまだ出てきますので、皆さん探してみてください!