フラウト・トラヴェルソって何?

フルートといえば、あの、金属でできた横笛のこと。金属製なのに木管楽器。どうして?と思われた方もいるはず。実は元々木製だったのです。そう。それがフラウト・トラヴェルソ。トラヴェルソとはイタリア語で「traverso(横向きの)」という意味。フラウトとは「flauto(笛)」ですから、「横笛」ということですね。バロック以前は、単に笛といえば縦笛、リコーダ―のことだったので、今で言うフルートは「横向きの笛」といわなければわからなかったのだということのようです。写真のように、フラウト・トラヴェルソは木でできていました。時代によって、金属キーの数が違いますね。4分割できるものと3分割のものがあるようです。材質はつげ、グラナディラ、となっていますね。ちなみにグラナディラはクラリネットにも使われる材料でもあります。

J.H.Rottenburgh 1740年頃 R.Tutz作 つげ 415Hz & 440Hz

青島由佳 ―AOSHIMA MUSIC WORKS― より
http://yuka-aoshima.com/flutetraverso/

G.A.Rottenburgh 1760年頃 R.Tutz作 つげ 415Hz

青島由佳 ―AOSHIMA MUSIC WORKS― より
http://yuka-aoshima.com/flutetraverso/

8キー H.Grenser 1810年頃 R.Tutz作  グラナディラ(アフリカン・ブラックウッド) 430Hz

青島由佳 ―AOSHIMA MUSIC WORKS― より
http://yuka-aoshima.com/flutetraverso/

どんな音色なの?

J,S,バッハのフルート・ソナタ BWV1030 を Musica ad Rhenum の演奏で聞いてみて下さい。

どうでしょうか、チェンバロに対して音が小さいような気がしますよね。音質も少しこもったような物足りない感じがします。でも素朴な快さがありますね。

どんな曲があるの?

上でご紹介したBWV1030はフルートとチェンバロのためのソナタでしたが、何と言っても代表曲は同じJ.S.バッハの「無伴奏フルートソナタBWV1013」でしょう。また、テレマンという作曲家による「無伴奏フルートのための12の幻想曲」も名曲です。どちらも難曲として知られています。その他にもたくさんの作曲家がフラウト・トラヴェルソの曲を書いています。この楽器がいかに人に愛されていたかということを知ることができます。

J.S. Bach: Partita in A Minor, Allemande BWV 1013; Kate Clark, baroque flute
(無伴奏フルートソナタBWV1013)

どんな演奏家がいるの?

バルトルト・クイケン(ベルギー)

1949-
フラウト・トラヴェルソ奏者として古楽器オーケストラ「ラ・プティット・バンド」と共演するかたわら、数々の室内楽コンサートや、各地でマスタークラスの主宰を続けている。1986年よりしばしば指揮活動に専念して、テレマンやヘンデル、バッハ、モーツァルトの作品を上演してきた。
ブリュッセル王立音楽院およびデン・ハーグ王立音楽院にてフラウト・トラヴェルソの教授を務めている。

国枝俊太郎(日本)

東京都出身。リコーダーを安井敬、フラウト・トラヴェルソを中村忠の各氏に師事。1995年開催の第16回全日本リコーダー・コンテスト「一般の部・アンサンブル部門」にて金賞を受賞。これまで東京リコーダー・オーケストラのメンバーとしてNHK教育テレビ「ふえはうたう」「トゥトゥアンサンブル」に出演、またCD録音にも参加する。ムシカ・フラウタのメンバーとしても、NHK-FM「名曲リサイタル」にも出演する。現在はバロック室内楽を中心に、リコーダー・アンサンブルによるルネサンス~現代までの作品や、ギターとのアンサンブルによる19世紀のサロンピースの演奏、さらには古楽器オーケストラによる数々の演奏会に出演するなど、幅広く活動している。

おすすめCDは?

上でご紹介したクイケンのバッハ:フルート・ソナタ全集はいかがでしょうか。

バッハ:フルート・ソナタ全集作曲: バッハ
演奏: クイケン(バルトルド), アンタイ(マルク), クイケン(ビーラント), レオンハルト(グスタフ)
作曲: バッハ
CD (2005/6/22)
ディスク枚数: 2
レーベル: BMG JAPAN
収録時間: 101 分
ASIN: B0009I8UJG
JAN: 4988017632185

モダン・フルートって何?

1800年ごろになると、音楽ホールやオーケストラの編成も大きくなってきて、楽器の音量も今までにない大きなものが求められるようになってきたわけです。フルートも例外ではありませんでした。フラウト・トラヴェルソは半音をだす指使いが複雑で大変ですので、ある程度決まった調性の曲しか演奏できません。高い音域は不安定になりがちでしたし、何と言っても音量が小さいことは致命的な欠陥だと思われるようになってきたのです。
そこで、1830年ごろ、ドイツ人フルート奏者で、製作者でもあったテオバルト・ベームと言う人が改良したフルート、ベーム式フルートを開発しました。この改良により、音量の問題が改善され、半音も簡単な運指で表現することができるようになり、音質のムラも低減したのです。それ以降も様々な人達によって改良が加えられていますが、基本的には、今もこのベーム式の楽器が使われています。改良初期は木製だったようです。今は金属製のものが多いですが、木製のものも残っています。

1874年に制作された円錐木管のフルート★木目が美しいコーカスウッド
フルート専門店 テオバルト
http://theobald.jp/

金属製の楽器
パールフルート
http://www.ishibashi.co.jp/windpal/pearlfluteshowcase/

どんな音色なの?

ランパルの演奏で、ハチャトリアンのフルート協奏曲第一楽章を聴いてみましょう。

大編成オーケストラをバックにしても負けない音量、複雑で早い運指、フラウト・トラベルソではできない表現があることがわかりますね。

どんな曲があるの?

まず思い浮かぶのがビゼー作曲「アルルの女」のメヌエットではないでしょうか。誰でも一度はきいたことがあるのではないかと思います。ドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」でもフルートが活躍しています。

Bizet: L’Arlésienne Suite No. 2 – Menuet

どんな演奏家がいるの?

ジャン・ピエール・ランパル(フランス)

1922年-2000年
マルセイユに生まれ、音楽院教授であった父ジョセフにフルートの手ほどきを受ける。はじめは医学の道を志し18歳で医科大学に進んだが、第二次世界大戦の影響で1943年にパリ音楽院に入学し、わずか5ヶ月でプルミエ・プリを得て卒業した。パリ音楽院ではガストン・クリュネル[1][2]に師事した。 1946年からはヴィシー歌劇場管弦楽団のメンバーとなり、1947年にジュネーブ国際コンクールで優勝しソロで活動を始める。1956年からパリ・オペラ座管弦楽団の首席奏者となる、1962年に退団後はフランス最高のフルート奏者として世界各地に演奏旅行の傍ら、フランス管楽五重奏団とパリ・バロック合奏団を組織したりした。78歳で逝去した。

ジェームズ・ゴールウェイ(アイルランド系イギリス)

1939-
「黄金のフルートをもつ男」(Man with the Golden Flute)の通称で知られる。ソリストとして数々の名声を獲得し、現在最高のフルート奏者の一人。エリザベス2世より1979年に大英帝国勲章を、2001年にはナイトの称号を授かっている。
ロンドン交響楽団、ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団の首席フルート奏者を経て、1969年、ヘルベルト・フォン・カラヤン率いるベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の入団試験を受け合格し、1969年から1975年まで首席フルート奏者を務めた。一時期の不和の末に、退団しソリストとして活動することを決断し、カラヤンを驚かせ戸惑わせた。

おすすめCDは?

ランパルのハンガリー田園幻想曲です。

ハンガリー田園幻想曲(期間生産限定盤) Limited Edition
CD (2016/9/21)
ディスク枚数: 1
フォーマット: Limited Edition
レーベル: SMJ
収録時間: 61 分
ASIN: B01HLDYRCK
JAN: 4547366267532

同じ曲を聴き比べたら?

それでは、同じ曲の演奏を、フラウト・トラヴェルソとモダン・フルートで聴き比べて見ましょう。
バッハのブランデンブルグ協奏曲第五番の一楽章を、まずはフラウト・トラヴェルソでの演奏から。

J.S.Bach – Brandenburg Concerto No.5 in D BWV1050 – Croatian Baroque Ensemble

次にモダン・フルートでの演奏。

Brandenburg Concerto No.5/Emanuel Pahud

フラウト・トラヴェルソの古雅な音色、モダン・フルートによるクリアで現代的な解釈による華やかな演奏、どちらも魅力的でしたね。
フラウト・トラヴェルソによる演奏では、バッハが生きていたころのサロンの雰囲気を感じ取ることができました。一方、モダン・フルートによる演奏では、バッハ自身が考えもしなかったような、自由でしなやかな奏法による新しいバッハが生まれたことを知ることができます。
フラウト・トラヴェルソのような古楽器のために作曲された現代音楽というようなものもあるのでしょうか、モダン・フルートで古楽を演奏できるように、フラウト・トラヴェルソで演奏する現代曲があっても良いような気がします。古楽器の特性を生かした新しい楽曲を聞いてみたいですね。