木材の枯渇が世界的な問題となって久しく、その影響は、木材を原材料とする楽器に、ゆっくりと影響を与えてきました。そして2016年9月24日~10月4日まで開催されたワシントン条約第17回締約会議で、ブビンガ属(Guibourtia)の3種、西アフリカのプテロカルロス・エリナケウス(Pterocarpus erinaceus)、ツルサイカチ属(Dalbergia)全体がワシントン条約付属書Ⅱ(特定の動植物を保護する目的とした条約)に掲載されることが決定し、業界を震撼させました。特にツルサイカチ属には、ローズウッド(紫檀)及びそれに準ずる木材が分類されており、楽器に使われる木材が多く含まれていたのです。
付属書Ⅱへの掲載は国際間取引を規制し、将来的に資源を永続させるためのもので、今すぐ取引及び使用が制限されるものではありません。また、既に国際間取引が完了している在庫については規制対象外です。
しかし、将来的にハカランダ(ブラジリアン・ローズウッド)のように、大規模な輸出規制が行われる可能性は否めません。

ギターやエレキベース、ウクレレなどの楽器業界ではこう言った情報が大ニュースとなり、代替材の検討や木材保護についての声が上がるなどしていますが、筆者が気になっているのは、その他の楽器、特にクラシックでの使用が主なオーボエやクラリネット等の界隈ではあまり話題になっていないことです。ライトミュージック系の弦楽器界隈では、原材料がトピックに上がることが多いため、業界全体としてはむしろ過剰な反応に映るのかもしれません。
しかし、材の枯渇問題はすぐそこまで迫っています。本稿ではクラシックでよく使用される楽器に焦点を当て、その未来について考えてみたいと思います。

クラシックの花形、オーボエ属

クラシックにおいて花形楽器というイメージが強いオーボエ。その構造から、木管楽器の中でも習得が難しいと言われています。
そんなオーボエ属の楽器には、伝統的にグラナディラ(アフリカン・ブラックウッド)が使用されています。その他、ローズウッドやキングウッドというような木材も使用されています。
残念ながら、これらの木材はすべて今回の締約会議で付属書入りしたものです。今後の資源枯渇が不安視されています。

スイングジャズでも活躍 クラリネット属

クラシックだけでなく、ディキシーランドジャズやスイングジャズでも使用されたクラリネット。こちらも木製の楽器です。
オーボエ属と同じく、伝統的にグラナディラ(アフリカン・ブラックウッド)が使用されています。その他にはローズウッド、ココボロ等が使用されます。
残念ながら、これらもすべて今回の締約会議で付属書入りしています。

バロックや民族音楽に 木製フルート

現在主流のモダンフルートは貴金属で作られることが多いですが、中世では木製が主流でした。当時の音楽の再現の為に使用され、また、アイリッシュ等の民族音楽でも使用されます。
金属製とは違う独特な音色が魅力ですが、その材として使われるのは、やはり固く強靭で、狂いの少ない木材。
エボニー(黒檀。今回の規制より前に付属書Ⅱ入り)、グラナディラ(アフリカン・ブラックウッド)が最適とされ、次いでココボロ等です。
また、ボックスウッドという木材も使用されることが多いです。この材は海外では生垣用の木として知られ、まだまだ豊富に存在に存在します。樹高が低く、フルートの様に小さく細い楽器にしか適していないのが難点です。

ここまでの楽器の代替材について

主に木管楽器の材について紹介して参りました。どの楽器もグラナディラがメインで使われることが多いですね。材の性質が管楽器の形状、音の特性に合っているのでしょう。ついでローズウッドやエボニー、ココボロ等が使用されていますが、これらの共通点は木目が真っ直ぐで、固く強靭であることです。流通量の多いメイプル材などでは代替材にはなりえないでしょう。
そんな中、現在フルートにはよく使われるコーカスウッド(グラナディーロ。グラナディラと名前が似ているが、分類的には全く違う材)が、他の木管楽器でも使われる可能性はあります。コーカスウッドは規制対象ではありませんが、先に述べた木材と非常に近い性質を持っています。
また、特にギター業界では木材と樹脂を融合した新素材が開発されており、木管楽器も将来的には、そういった材に頼らざるを得ない状況が起こりえるでしょう。そのような変化を、伝統に重きを置くクラシック楽器の奏者が受け入れることができるかが、課題になってくるかもしれません。

さいごに

木製の楽器とその材の枯渇についてお話してきましたが、いかがでしょうか?
木管楽器の材には共通点が多く、そのほとんどが規制対象となってしまっていることが分かりますね。
後半では更なる木製楽器と、その代替材となっていくであろう木材の紹介をしていきます。ご期待ください。

【管楽器比較】モダン・フルート VS フラウト・トラヴェルソ編