ピアノと同じような形をしている「チェンバロ」。名前は聞いたことがあっても、どんな楽器か詳しく知っている方は少ないのではないでしょうか。実は、クラシック音楽において重要な地位を占める楽器で、ピアノの原型でもあるんです。

そんなチェンバロについて、本記事では特徴や歴史、ピアノとの違い、有名曲などを解説します。

案内人

  • 海老野みほ4歳からエレクトーンを始め、高校生の時にピアノに転向。
    音楽系専門学校に進学し、クラシック・ジャズ・POPs・作曲・アレンジなど、様々なジャンルの知識を身につけながら演奏活動を行う。
    2011年から都内の音楽スクールのピアノ講師として勤務。

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チェンバロとはどんな楽器?

上の動画を見て「この音、聞いたことがある!」と思った方もいらっしゃるでしょう。パリっとした、きらびやかな音ですよね。

チェンバロは、バッハやビバルディたちが活躍した、バロック音楽の時代から使われている鍵盤楽器+撥弦楽器です。ハープシコードとも呼ばれます。

形はピアノに似ていますが、ピアノより一回り小さく、豪華な装飾が施されたものも多くあります。

チェンバロの歴史

チェンバロが誕生したのは、15世紀ごろのイタリアです。横に張られた弦を手で弾いて演奏する楽器「プサルテリウム」に、オルガンで使われていた鍵盤を掛け合わせて発明されたといわれています。

それまで鍵盤楽器の主流だったオルガンやクラヴィコードよりも、表現豊かな音で演奏できたため、チェンバロはコンサートやサロンなどで流行しヨーロッパ全土に普及しました。

チェンバロの特性

ここからは、仕組みや音色といったチェンバロの特性を見ていきましょう。

音の鳴る仕組み

チェンバロの内部には細くて柔らかい金属の弦が張られていて、その弦を木の板に付けられたピックで引っ掛けることで音が鳴ります。

鍵盤を押すと弦を弾く感触が指先に伝わってくるので、弦をつまびくイメージで演奏します。

音色

撥弦楽器の一種なだけあって、チェンバロの音はギターや琴に似ています。

ただ、鍵盤のタッチで音の強弱をつけられないため、レジスターと呼ばれるスイッチを操作して音量に変化をつけます。レジスターは以下の3種類です。

4フィート:1オクターブ高い音をいっしょに鳴らす
バフストップ:上鍵盤の弦をフェルトで押さえて音をこもらせる
カプラー:下鍵盤を弾くと、いっしょに上鍵盤も押さえられる

通常の演奏にレジスターの足し引きも加えることで、琴のような繊細な音色からホールに響き渡る華やかな音色まで表現できるようになります。

鍵盤の数

チェンバロの鍵盤数は、作られた年代や様式、製造者によって異なります。おおよその目安としては、40鍵盤〜61鍵盤が1段〜2段になる構造です。

チェンバロはピアノの原型のひとつ

バロック時代に広く使われていたチェンバロですが、音の強弱をあまり付けられず、音量が小さいものも多かったため、ホールのような広い場所での演奏には向いていませんでした。

それに不満をもったイタリアの楽器職人が、弦を叩いて音を出す「ダルシマー」という楽器からヒントを得て、チェンバロの機構を改良したものがピアノの原型であるといわれています。

その後、弦の素材や太さ、張り方、さらにはフレームの強度なども改良され、18世紀になると今のピアノの構造がヨーロッパ全土に広まりました。

余談ですが、ピアノの普及によりチェンバロは衰退し、製造中止となった時期もあります。しかし、20世紀に入ると古楽器として価値が見直され、各国で製造が再開されました。

チェンバロとピアノの違い

時代が下るにつれ、チェンバロがピアノへと移り変わっていったわけですが、ここで両者の具体的な違いを比較してみましょう。

音の出る仕組み

チェンバロ

鍵盤を押すと、楽器内部のピックが弦を弾いて音を出します。打鍵の強弱で音にニュアンスを付けることは、できなくはないものの難しいです。

ピアノ

鍵盤を押すと、楽器内部のハンマーが弦を叩いて音を出します。ピアノでは、打鍵の強さで音のコントロールが可能です。

音色

チェンバロ

ピックが弦を弾くという仕組み上、ギターや琴に近い音です。

ピアノ

ポーンというような、鐘の音を優しくした感じの音色です。ハンマーにはフェルトが貼られているため、音に角はありません。

音色を変える機能

チェンバロ

チェンバロには「レジスター」という、弦の配列を変えて音色や音量をコントロールする機能が付いています(前述)。

ピアノ

ピアノには、足元にペダルが付いています。音を伸ばすダンパーペダルや音を柔らかくするソフトペダルなどがあり、付属するものはグランドピアノとアップライトピアノで異なります。

鍵盤の見た目

チェンバロ

下の鍵盤が黒、#・♭を担う鍵盤が白になっているものや、すべての鍵盤が木目調になっているものなどさまざまです。

ピアノ

下にある鍵盤が白く、#・♭の鍵盤は黒というのが一般的です。

鍵盤の数

チェンバロ

作られた年代や様式、製造者によって鍵盤数が異なります。おおよそ40〜61個の鍵盤が、1段ないし2段に設置されています。

ピアノ

ピアノの鍵盤数は88となっており、年代やメーカーによって変わることはありません。

弾き方・演奏法

チェンバロ

チェンバロの鍵盤は軽いため、力をかけず指先をよく動かして演奏します。

ピアノ

弦を叩くハンマーが重く、そのハンマーと連動する鍵盤には抵抗感があります。そのため、指先だけを使うのではなく、腕全体の重さを使って演奏するのが基本です。

調律

チェンバロ

チェンバロの弦は柔らかく、その分音程が変わりやすいため、毎日~数日おきの調律が必要です。ただ、ピアノに比べて作業が簡単なため、チェンバロ奏者は自分で調律をしています。

ピアノ

半年〜1年ほどの間隔で調律が必要ですが、個人が自分で行うのは困難です。よって、調律師と呼ばれる専門の職人に依頼するのが一般的です。

バッハも弾いていたチェンバロ

音楽の授業でほぼ必ず出てくる大音楽家、バッハ。彼の作品はピアノ曲が多いと思われがちですが、実はバッハの生きた時代には、まだピアノは普及していませんでした。

彼が演奏や作曲に使っていたのは、オルガンとチェンバロです。つまり、チェンバロについて理解する上で、バッハの曲はうってつけの教材といえます。例として以下に3曲ピックアップしたので、一度聞いてみましょう。

バッハの有名なチェンバロ名曲3選

《イタリア協奏曲》BWV971 第1楽章

「イタリア協奏曲」は「クラヴィーア練習曲集第2巻」に収録されている一曲で、全3部構成となっています。中でも第1楽章は、明るく華やかな冒頭部分が印象的です。

《平均律クラヴィーア曲集》第1巻 第1番ハ長調〈プレリュード〉

「平均律クラヴィーア曲集」は、すべての調の練習曲が収録されている曲集。そして、本曲はアルペジオで構成されていて、メロディーがありません。和音の響きだけで場面の移り変わりが表現されています。

《チェンバロ協奏曲》 第1番 ニ短調 BWV1052 第1楽章

マンガやTVドラマで大ヒットした「のだめカンタービレ」でも使われているため、ご存知の方も多いのではないでしょうか。細かく動き続けるチェンバロパートでは、奏者の技巧が試されます。

チェンバロは販売されてる?

現在でも世界中の工房で、新しいチェンバロが製造されています。

日本における価格は100〜400万円ほど。グランドピアノと同じぐらいです。

ただし、大手楽器店ではなかなか取り扱われないため、大抵の場合、工房や専門業者から購入することになります。

まとめ

今回はチェンバロについて、特性や歴史、ピアノとの違い、代表的な曲などを紹介しました。

購入のハードルは高いものの、レンタルスタジオであれば気軽に演奏できます。興味を持たれた方は、ぜひ一度、実物に触れてみてください。古典音楽の雰囲気を、ピアノとは違う角度から味わえるはずですよ。