ピアノを自宅へ迎える際、ピアノ本体にはこだわっても、椅子に関しては店頭ですすめられるがままに購入する方が多いもの。

なんとなくで決めようとしているのであれば、ちょっと待ってください。実は、ピアノ演奏の快適性やパフォーマンス向上において、椅子選びは極めて重要です。

そこで今回は、見落としがちなピアノ椅子の重要性や、選ぶ際のポイント、おすすめの6モデルなどを紹介します。

案内人

  • 古川友理名古屋芸術大学卒業。
    4歳よりピアノを始め、伊藤京子、深谷直仁、奥村真の各氏に師事。
    地元愛知県三河地方を中心に器楽、声楽、合唱伴奏者として活動する傍ら、島村楽器音楽教室等でピアノ講師として勤める。

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ピアノ椅子にはパフォーマンス向上のためにこだわろう

冒頭で述べた通り、自分に合うピアノ椅子を選ぶことで、安定したフォームや高い集中を維持でき、パフォーマンスの向上につながります。

逆に、合わない椅子だと腕や手首に余計な負荷がかかり、スムーズな演奏に支障をきたすだけでなく、ケガをしてしまうかもしれません。

楽しみながら上達できるのはどちらか、これはもう言うまでもなく。ですので、ピアノ本体と同じぐらい椅子にもこだわりましょう。

ピアノ椅子の選び方

ピアノ椅子を選ぶ際に押さえるべきポイントは、次の7つです。

  • 椅子のタイプ
  • 高さ
  • 安定性
  • クッション性
  • 座り心地
  • 値段

それぞれ詳しく解説していきます。

背付きタイプ or ベンチタイプ

ピアノ椅子は、トムソン椅子とも呼ばれる「背付きタイプ」と、横長の「ベンチタイプ」に分類されます。それぞれの機能や特徴は以下の通り。

背付きタイプ

ベンチタイプ

背もたれ

あり

なし

クッション性

高さ調節

つまみで目盛りに合わせて調節

レバーやハンドル操作によって無段階で調節

価格

ベンチタイプに比べやや高価

1万円以下のリーズナブルな製品もある

背付きタイプの場合、背もたれによって椅子の重心が後ろに保たれ、前へ体重をかけた際に足が浮きにくいというメリットがあります。が、背もたれは不要という人も多く、この点については好みでよいでしょう。

大事なのは次の項目からです。

クッション性

クッション性のない椅子に長時間座っていると、腰やお尻に負担がかかります。筆者の知り合いには、硬い椅子で練習に励んだ結果、お尻にタコができ、クッションやタオルを敷いて痛みを我慢しながら練習されていた方も。これでは、練習がただのストレス源になりかねません。

かといって、柔らかすぎたり厚みがありすぎたりしても、姿勢が安定しづらくなります。

一般的に、背付きタイプはクッション性が低め、ベンチタイプは高めとなっていますが、メーカーによって差はありますし、自身の体重によっても沈み方が異なります。この点については、実際に座ってみて確認するようにしましょう。

高さ

一般的な背付きタイプは、後ろにあるレバーを操作し、目盛りに合わせて座面の高さを変える方式です。ミリ単位の調節はできませんが、素早く調節できるというメリットがあります。

ベンチタイプの高さ調節には、ハンドル式とガス圧式(油圧式)の2種類があります。いずれも無段階調節が可能ですが、ハンドル式は時間がかかること、ガス圧は体重の軽い子供だと上手く作動しないことがデメリットです。

また、子供の場合は足が椅子から浮くかもしれません。その際には足台を置いて対策しましょう。

ベンチタイプは、背付きタイプの2倍ほどの幅があるため、小さなお子さま同士や親子での連弾の際、一つの椅子で一緒に演奏することも可能です。

ただし、これはあくまで練習でのお話。発表会や演奏会本番では必ずピアノ椅子を2つ並べて演奏します。

ご自宅で省スペースで連弾の練習をしたい場合や、お子さまの横に座って練習の補助をしたい場合は、ベンチタイプが向いているといえるでしょう。

安定性

ピアノの演奏中は、客席からの見た目以上に激しく重心が移動しています。ですので、体を支えるための椅子の安定性は非常に重要です。

軽い椅子だと体重を支えられず、体に余計な負荷を与えてしまいます。パフォーマンスに悪影響が出るのはもちろんのこと。

演奏会などでは20kgほどの椅子が使用されます。練習用でも10kg前後のものであれば、安定性に困るシーンは少ないでしょう。

また、折りたたみ式や電子ピアノ付属の椅子はコンパクトに収納できる分軽く、足も不安定になりがちです。正しい姿勢で演奏の基礎をしっかり身につけたいのであれば、別途椅子を購入されることをおすすめします。

座り心地

ピアノ椅子の座面には、一般的なモデルで合皮が、高級モデルで本革や布が使われています。それぞれのメリット・デメリットは以下の通り。

メリット

デメリット

合皮

・安価

・撥水性があり汚れに強い

・肌触りやフィット感は本革や布に劣る

本革

・フィット感が抜群

・高級感がある

・汗ばんだ際にベタつく

・フィット感が抜群

・高級感がある

・耐久性が低い

・汚れがシミとなって残る

長く使うことを考えると、座り心地とともに手入れのしやすさも重要となります。最終的には好みになりますが、メリットとデメリットも天秤にかけて選びましょう。

値段

ベンチタイプは比較的安価で、1万円弱から購入できます。ただし、コンサートで使用される本革張りのモデルは20万円以上します。

背付きタイプはベンチタイプより高価で、3万円からというのが一般的です。

ピアノ椅子は実際に座って試してみること

ピアノ椅子選びで最も大切なのは、実際に座ってみたときの感触です。フィット感はもちろん、高さ調節や手入れのしやすさ、見た目などが自分の希望と合っているかどうかです。

これらの捉え方は人それぞれなので、楽器店などに足を運び、実物を試してみるようにしましょう。長く使うものですから、複数のモデルを納得いくまで比較検討してくださいね。

ニトリにピアノ椅子はありません

Googleで「ピアノ 椅子」と検索すると、関連キーワードに「ピアノ 椅子 ニトリ」というのが出てきます。

これを見るとニトリでも販売されているかのように思えますが、実際には売られていません。

ほかの椅子で代用できる可能性はあるものの、ピアノ用ではないため機能性で劣ります。演奏のしやすさも変わってくるので、しっかり取り組みたいのであれば、最初からピアノ椅子を楽器店などで買うのがおすすめです。

ピアノ椅子のおすすめ:①背付きタイプ

ここからは、ピアノ講師を勤める筆者がピックアップした、おすすめのピアノ椅子を紹介していきます。まずは背付きタイプから。

YAMAHA/No.5A

世界一のピアノメーカー「YAMAHA」の製品で、音楽教室や学校などでも広く使用される定番モデルです。座面はやや硬めですが、座り心地の良さと安定性の高さで多くの支持を得ています。

甲南(名陽木工)/No.5

浜松のピアノ椅子メーカー「名陽木工」が作り上げる製品です。重量が7.5kgとやや軽量で、平均的な重さのモデルと比べ移動させやすいのがメリット。座面はやや硬めの作りになっています。

吉澤/5K

ピアノカバーや足台、補助べダルといったピアノ周辺アイテムの製造を手掛ける「吉澤」のピアノ椅子です。重さは9.8kgと平均的。座面部分には3年間の保証と修理サポートが付いています。

ピアノ椅子のおすすめ:②ベンチタイプ

続いて、ベンチタイプのおすすめを紹介します。

甲南(名陽木工)/V60-S

ベンチタイプでは定番のモデルです。重量が11kgあり、座面は60.5cmと広めに作られていることで、体全体をしっかりと支えてくれます。安定性を求める方のファーストチョイスにおすすめです。

RAKU/ピアノ椅子

座面表面に合皮、座面内部に高反発ウレタンが使用された、クッション性に優れるモデルです。座面下に収納スペースが設けられており、楽譜などの整理整頓に役立つのもポイントです。

アサヒピアノ/AH-2BS

幅が65cmと、かなり広めに設計されたモデルです。座面は柔らかめで、長時間練習しても腰やお尻が痛くなりにくくなっています。また、油圧式なので簡単に高さ調整ができるのも特徴です。

家の椅子はピアノ椅子の代用になる?

ここまで読んでみて「とりあえず、今家にある椅子をピアノ椅子の代用にしようかな」と考えた方もいらっしゃるでしょう。

比較検討の間や商品が届くまでのつなぎであれば、ダイニングチェアやベンチでも問題ないかと思います。しかし、ずっとそれを使い続けるのはおすすめしません。やはり、ピアノ演奏にはピアノ椅子がベストだからです。

腕の角度を適切にするための高さ調整機能、姿勢を保ったまま長時間演奏するためのクッション性と安定性など、ピアノ椅子には演奏を目的とした工夫が詰め込まれています。そして、これらを活用できるかどうかで日々の練習効率が大きく変わるのです。

繰り返しになりますが、ピアノ本体と同じぐらい、ぜひ椅子にもこだわってみてください。

まとめ

今回はピアノ椅子について、重要性や選び方、おすすめ製品などを紹介しました。

質の高いピアノ演奏には、無駄な力を要さずに体を安定させられる椅子の存在が欠かせません。ぜひ本記事を参考に、自分にピッタリの椅子を選んでいただければと思います。