ノクターンとはどのような作品なのか?
本記事ではノクターンの定義や成り立ち、ノクターンと比較されることの多いセレナーデとの違いを解説します。

ノクターンの代名詞ともいえるショパンの有名作品や、ショパン以外の作曲家が残した珠玉のノクターンもあわせてご紹介しますので、ぜひお楽しみください。

案内人

  • 古川友理名古屋芸術大学卒業。
    4歳よりピアノを始め、伊藤京子、深谷直仁、奥村真の各氏に師事。
    地元愛知県三河地方を中心に器楽、声楽、合唱伴奏者として活動する傍ら、島村楽器音楽教室等でピアノ講師として勤める。

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ノクターン(夜想曲)とは

辻井伸行/ショパン ノクターン第2番

ノクターンとは、ラテン語の「nocturnus(夜の)」を語源とする、自由な発想・形式で書かれた作品のこと。19世紀初頭にピアニスト兼作曲家として活動していたアイルランド出身の作曲家、ジョン・フィールドによって創始された抒情的な小品で、日本語では「夜想曲」と表されます。

クラシックには、3拍子の「ワルツ」のほか、提示部・転回部・再現部で構成された「ソナタ」など、特定の拍子や形式を用いて書かれた作品が存在しますが、ノクターンには特有の形式はありません。そのため、作曲者が「夜を想う・想わせる曲」としてノクターンと名付ければ、どのような拍子・形式であっても、その作品はノクターンとなります。

ノクターンとセレナーデ(小夜曲)の違い

夜

ノクターンと同じく「夜」を連想させる楽曲として、「セレナーデ」を思い浮かべる方も多いでしょう。

セレナーデは、ラテン語の「serenus(穏やかな)」を語源とする音楽ジャンルのひとつ。
日本語では「夜曲」「小夜曲」と表され、ノクターンとは次のような違いがあります。

つまり、「夜」そのものが曲のテーマとなっているのがノクターン、「夜に演奏するのに相応しい曲調」をテーマに作曲されたのがセレナーデです。紀元前の古代ギリシアで夕暮れ時に親しい人や愛する人のために屋外で演奏されていた音楽が起源と言われています。

その後、17世紀のバロック時代には声楽と器楽による合唱形式の「セレナータ」、18世紀には大規模な合奏曲「セレナーデ」と変化を遂げ、その代表曲とされるモーツァルトの『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』等の名曲が生まれました。

ショパンとノクターン

ジョン・フィールドによって創始されたノクターン。これをより自由でロマンチックな作品へと発展させたのが、ピアノの詩人フレデリック・ショパンです。

ショパンは、20歳の頃から晩年までの約20年にわたり、21曲もの美しく抒情的なノクターンを作曲し続けました。

つまり、ショパンの作曲家人生は、自身の代表的作品ともいえるノクターンとともにあったといっても過言ではないのです。

ショパンの有名な夜想曲作品

ショパンのノクターンはいずれも、定型の伴奏の上に重ねられた甘美で流麗な旋律が印象的です。ここでは、そのなかでも演奏される機会の多い2つのノクターンをご紹介します。

夜想曲第2番 変ホ長調 作品9-2

ショパンが残した21曲のノクターンのなかでも特に有名で人気の高い『夜想曲第2番 変ホ長調 作品9-2』。8分の12拍子で刻まれる規則的な伴奏の上で、異なる旋律を挟みながら主題が繰り返されるロンド形式風のノクターンです。

ノクターンの創始者、ジョン・フィールドの影響が色濃く残る初期の作品ですが、主題が繊細な装飾音によって少しずつ変化しながら繰り返されることで、ショパンらしいロマンチックな小品に仕上げられています。

夜想曲第8番 変ニ長調 作品27-2

オーストリア駐仏公使夫人であったテレーズ・ダボニー伯爵夫人に捧げられたことから「苦婦人の夜想曲」とも呼ばれる『夜想曲第8番 変ニ長調 作品27‐2』。夢見心地な旋律が聴く者の心に深く響く、温かく感動的な作品です。

第2番と同じく主題が繰り返されるロンド風の形式で書かれていますが、調性や曲想の変化に富んでいるため、よりスケールの大きな印象を受けます。  

ショパンだけじゃない!さまざまな作曲家のノクターン

「ノクターンといえばショパン」

確かに、現存するノクターンのなかでショパンの作品は圧倒的な知名度を誇りますが、「ノクターン」を作曲したのはショパンだけではありません。

ここでは、著名なクラシック作曲家が残した隠れた「名ノクターン」5作品をご紹介します。

ジョン・フィールド

『ノクターン 第1番』

ノクターンの創始者であるアイルランド出身の作曲家兼ピアニスト、ジョン・フィールドは、生涯でおよそ20曲のノクターンを作曲しました。(諸説あり)

イギリスが産業革命で劇的な変化を遂げていた時代。新型ピアノの製造も盛んに行われていたことから、よりなめらかに演奏できるようになったピアノの特性を生かせる作品として、『ノクターン第1番』をはじめとする静かで穏やかな曲調の夜想曲が生まれました。  

フランツ・リスト

『愛の夢-3つのノクターン 第3番』

歌曲として作曲され、1850年に自身の手によってピアノ独奏版が出版された、3曲から成るピアノ作品『愛の夢』。「3つのノクターン」という副題が添えられた、フランツ・リストによるノクターン作品です。

特に、ドイツの詩人フェルディナント・フライリヒラートの詩『おお、愛しうる限り愛せ』を用いて原曲が作曲された第3番は、クラシックコンサートでも頻繁に演奏される名曲です。穏やかでゆったりとした曲調でありながらも、リストらしい劇的な展開をともなうドラマチックな作品に仕上げられています。

クロード・ドビュッシー

フランス印象主義を代表する作曲家、クロード・ドビュッシーが作曲した『夜想曲(ノクチュルヌ)』は、『雲』『祭』『シレーヌ』の3曲から成る管弦楽組曲です。

第1曲『雲』では雲が空をゆったりと流れる様子、第2曲『祭』では祭典の盛り上がりと終わったあとの静けさ、そして第3曲『シレーヌ』ではギリシャ神話に登場する美しい海の怪物の姿が、流れるような美しい旋律と繊細なオーケストレーションによって描かれています。

ガブリエル・フォーレ

『ノクターン 第6番 変ニ長調 作品63』

ショパンのノクターンに次いで知名度の高い、フランスを代表する作曲家ガブリエル・フォーレのノクターン。フォーレは生涯で13曲のノクターンを残しており、その創作活動は30歳の頃から亡くなる3年前まで、およそ46年にわたって行われました。

フォーレのノクターンは、ほぼすべてが「穏やかな主題部」「対比的な性格の中間部」「主題部が変化・発展した再現部」の三部形式です。
なかでも第6番は、ロマン派から近現代への移行期に活躍したフォーレらしい、穏やかでありつつも表情の変化に富んだ作品となっています。

エリック・サティ

『5つの夜想曲』

『ジュ・トゥ・ヴー』『ジムノペディ』などの作品で知られる、フランスの作曲家エリック・サティ。「音楽界の異端児」と呼ばれたサティが残した5曲の夜想曲は、いずれも近現代的な響きをともなう和声の上に重ねられたつかみどころのない旋律が魅力的な作品です。

穏やかで優雅なショパンのノクターンとは異なり、不安が見え隠れするどこか落ち着かない雰囲気が強く印象に残ります。

まとめ

静けさに満ちた夜を想わせる曲を意味する「ノクターン」の成り立ちや、セレナーデとの違い、ノクターンの名曲をご紹介しました。

ショパンのノクターンは言わずと知れた名曲ですが、リストをはじめとする他の作曲家による作品もまた魅力的です。

作曲者によって異なる「夜」のイメージの違いを感じながら、聴き比べてみるのもよいのではないでしょうか。