クラシック界では30代はまだまだ若手。今回は若く魅力的なこれから10年、20年後に大ヴァイオリニストになると予想される、才能豊かな9人を選んで紹介します。
案内人
- 吉原久美子50歳でスペイン、アンドレス・セゴビア・コンセルバトリーに入学し本格的に弦楽器を学ぶ。ハエン・オーケストラに娘(フルート)と一緒に参加。スペイン赤十字の協力でチャリティコンサートを企画。
目次
デイヴィッド・ギャレット David Garrett
デイヴィッド・ギャレットは1980年生まれドイツ出身のヴァイオリニスト。4歳でヴァイオリンを始め、あっという間にコンサートをするほどのレベルになります。
11歳のとき、ドイツ大統領に招待されて演奏した後、「ストラディヴァリウス・サン・ロレンツォ」を提供され、13歳のときにはドイツとオランダでのテレビ出演での演奏などすでに人気を得ました。
17歳でアメリカ合衆国のジュリアード音楽院に入学しますが、このとき初めて家族から独立し、モデルをして学費や生活費を稼ぐようになります。
そのためかっこいいヴァイオリニストというイメージがありますが、もちろんテクニックもトップレベルです。
また、ヴァイオリンを弾く速さはギネスブックに2度掲載されたほどの実力。ロシアの作曲家リムスキー=コルサコフの「熊蜂の飛行(Flight of the Bumblebee)」を1回目は66秒56、2回目は、65秒26で演奏し、ギネスに掲載されました。
1秒間に13音をはっきりと聞き分けられるように弾いたのです。速いだけではなく、演奏の表現としても素晴らしいです。
常に多くの話題を提供するデイヴィッドは、映画にも出演しています。2013年ドイツ映画「パガニーニ 愛と狂気のヴァイオリニスト」にて、主役のパガニーニ役を務めました。
パガニーニ役には美形すぎますが、パガニーニようにヴァイオリンを弾き、女心を揺さぶるヴァイオリニストは他にいないでしょう。また、映画主演だけではなく、製作総指揮・音楽を担当しています。
このときの演奏はアルバム『Garrett vs Paganini』に収録されています。またクラシックだけではなく、ロック音楽のアルバム『Rock Revolution』をリリースするなどさまざまな分野で活躍しています。
アンタル・サライ Antal Zalai
アンタル・サライは1981年にハンガリー、ブダペスト生まれ。曽祖父の代から家族は皆音楽家で、アンタルも5歳になると父親にヴァイオリンを習い始めます。
早熟なヴァイオリニストで12歳の時、モニカ・ベルッチ主催のユネスコ・ガラで演奏し、RAI(イタリア放送協会)で放送されたました。
2005年フリッツ・クライスラー国際コンクールでは第4位、2004年ロドルフォ・リピツァー国際ヴァイオリン・コンクール第1位、2007年第2回モンテカルロ・ヴァイオリン・マスターズ第2位を獲得するなど、賞歴も豊富。切ない音色が特徴のヴァイオリニストで、演奏を聴いていると思わず泣いてしまうファンも多くいます。
ウクライナ出身の伝説的なヴァイオリニストであるイーゴリ・オイストラフは、「サライの演奏は、成熟した表現で品格がある」と絶賛しています。
サライは自身のYouTubeチャンネルを持っており、音だけではなく、見事な動きの指をしっかりみることができることも人気の秘密。ヨーロッパはもちろん、メキシコ、ブラジル、クウェート、ロシアなど世界中で演奏しています。
http://www.antalzalai.com/index.html
クリスティアン・スヴァルフヴァル Christian Svarfvar
クリスティアン・スヴァルフヴァルは、1982年生まれのスウェーデンを代表するヴァイオリニスト。
両親がプロの音楽家だったため、小さいうちから音楽に触れて育ちました。12歳のときにスウェーデン室内管弦楽団との共演でメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲を演奏し注目を浴びた、早熟なヴァイオリニストです。
16歳でストックホルム音楽大学に入学するとともに、ソリストとしての活躍がますます増え、その後アメリカ合衆国のジュリアード音楽院を経て、ヨーロッパに戻ってからはECHO(European Concert Hall Organization)によってライジングスターに選ばれました。
ハヤ・チェルノヴィンやハワード・ショアなど第一線の音楽家とのコラボも多く、前衛的な奏者と誤解されることもありますが、伝統的な切ない曲を弾くとクリスティアンの右に出る人はなかなかいないのではないかと思います。技術だけではなく、彼の思慮深さが演奏から伺えます。
チャーリー・シーム Charlie Siem
チャーリー・シームはイギリスはロンドン出身、1986年に生まれ。
父親はノルウェーの実業家で億万長者のクリスティアン・シーム。3人の姉妹もヒーリングアーティストやミュージシャンで、芸術に溢れた環境で育ちました。
イートンカレッジ、ケンブリッジ大学を経て王立音楽大学(RCM)でイーツァク・ラシュコフスキー(Itzhak Rashkovsky)に、2004年にRCMを卒業後はシュロモ・ミンツに師事。
チャーリー・シームは、ノルウェーで有名な作曲家・ヴァイオリニストのオーレ・ブルとは遠縁の関係で、家族も音楽教育には熱心でした。
「貴公子」という言葉がこんなにぴったりの男性はいないというくらい、エレガントで、Dunhill LondonやHugo Bossのモデルもしており、人気をさらに高めています。
また、文化的な慈善活動にも積極的で、文化団体への寄付をしているほか、プリンス・トラストのアンバサダーとしても活躍しています。
他にも、リーズ音楽大学(英国)と南京芸術大学(中国)の客員教授を務めるほか、ロンドンの王立音楽大学(ロンドン)やフィレンツェの音楽院などでマスタークラスを行っています。
奏法が古臭いという一部の批判がありますが、それは今時珍しいエレガントな装いからくる偏見です。シームは確実な技術でクラシック音楽の魅力を現代的にアレンジし、クラシックファン以外も楽しめるコンサートを提供しています。
アレクセイ・セメネンコ Aleksey Semenenko
アレクセイ・セメネンコは黒海に面した美しい街オデッサで、1988年に生まれたウクライナ人。
6歳でヴァイオリンを習い始め、たった1年後にはオデッサ・フィルハーモニー管弦楽団と共にヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲イ短調を演奏しました。
その後、モスクワ・ヴィルトゥオージ、キエフ国立管弦楽団、ケルンのヤング・フィルハーモニー管弦楽団、ハンガリー交響楽団とソリストとして共演し2012年にはヤング・コンサート・アーティスト・インターナショナル・オーディションで優勝し、アメリカ合衆国の主要ホールでも演奏を始めます。
アレクセイ・セメネンコの演奏は、感情を押し付けない繊細な演奏が人々の心を揺さぶります。そっと囁くような、それでいてきちんとフレーズを相手に届ける優しい演奏がセメネンコの魅力。
室内楽にも熱心でストリアースキー弦楽四重奏団のメンバーとして、ロシアやウクライナだけではなくヨーロッパ各地で演奏しています。
レイ・チェン Ray Chen
レイ・チェンは、1989年に台湾・台北で生まれ、現在オーストラリア国籍を持つヴァイオリニスト。
4歳からスズキメソードでヴァイオリンを習い始め、5年でレベル10まで修了しました。わずか8歳のときにクイーンズランド・フィルハーモニー管弦楽団と共演し、ソリストとしてデビューしています。
賞歴も華やかで、1999年にオーストラリアのラジオ局4MBSが主催するコンクールでヤング・スペース・ミュージシャン・オブ・ザ・イヤーに選ばれたのを皮切りにオーストラリア全国ユース協奏曲コンクール(NYCC)、AMEB(the Australian Music Examinations Board ) といった国内の賞を総なめにしました。
その後、2008年ユーディ・メニューイン国際コンクール、2009年にエリザベート王妃国際音楽コンクールなど国際コンクールでも優勝しています。
コンクールに参加するだけではなく、2016年にはユーディ・メニューイン国際コンクールの審査員を勤めたほどの実力派で、YouTubeでは演奏以外にトークビデオもたくさんアップし、朗らかで快活な性格が人気。
ポジティブな明るさはヴァイオリンの音色にも影響し、ダイナミックな音が気持ちを前向きにしてくれるというファンが多いです。
また、ゲバのヴァイオリンケースのデザインするなど、幅広い活動で、クラシックファン以外のファンも増加しています。
ベンジャミン・バイルマン Benjamin Beilman
ベンジャミン・バイルマンは1989年生まれのアメリカ人。両親は食品産業で働くごく普通の家庭に育ちました。
しかし、ヴァイオリンへの情熱が強く、ミュージック・インスティチュート・オブ・シカゴを経て、フィラデルフィアのカーティス・インスティチュート・オブ・ミュージックで学びます。
これまでに、エイブリー・フィッシャー・キャリア・グラント、ロンドン・ミュージック・マスターズ賞など多くの賞を獲得しています。
2011年1月17日ラジオ・フランス主催、フランス・ムジーク放送での番組に出演をはじめたため、フランスを中心にヨーロッパでの方が人気があります。
ル・モンド紙には批評家マリー=ローレル・ルーによって「バイルマンは天才的なヴァイオリニスト。繊細で深みがあると同時に激しい情熱を感じさせる」と評されました。
2013年にはニューヨークのカーネギーホールやロンドンのウィグモアホールなど世界中の主要ホールでコンサートをしています。ゆったりと心に飛び込んでくる音色が人々の心に溶け込み、また彼の演奏を聴きたいと思わせます。
パコ・モンタルボ Paco Montalvo
パコ・モンタルボは1992年、スペイン・コルドバに生まれ。3歳になると父親にヴァイオリンの手ほどきを受け始めました。
5歳からユーリ・ペトロシアンやネストル・エイドラといったヴァイオリニストに師事し、6歳で初めてリサイタルを行います。
12歳で首都マドリードのRTVE交響楽団にてソリストとしてデビューしたあと、世界中のオーケストラと共演します。2006年にストラヴィバディ協会によりライジングスターに選出され、2011年4月パコ・モンタルボはわずか18歳でニューヨークのカーネギーホールで演奏しました。
21世紀に開催したカーネギーホールでコンサートをしたソリストの中では最年少だそうです。コンサートは、ジョン・ラッターの指揮、ニューイングランド・シンフォニック・オーケストラとの共演で、ニコロ・パガニーニのヴァイオリンとオーケストラのための協奏曲第1番を演奏。
アメリカの各新聞で「ニューヨークの聴衆を震撼させた」とアメリカの批評家に賞賛されました。
パコはこのようにクラシックヴァイオリンの名手でしたが、2014年にフラメンコヴァイオリンのアルバム「Alma del violín flamenco」を発表することで注目を浴び始めます。
発売して間もなくアップルのiTunesでトップ100に入り、ラテン・グラミー賞では6つの部門で賞を獲得。現在では、フラメンコ部門のヴァイオリニストとしても活躍しています。
ランドール・ミツオ・グースビー Randall Mitsuo Goosby
ランドール・ミツオ・グースビーは、7歳でヴァイオリンを始め、9歳の時にはソリストとしてジャクソンビル交響楽団と共演しました。
2010年、わずか13歳でスフィンクス・ナショナル・コンペティションで優勝。同年、カーネギーホールやエヴリィ・フィッシャー・ホールなどでコンサートを開催し、ニューヨーク・タイムズ紙で絶賛されました。
その後、2018年ヤング・コンサート・アーティスト・インターナショナル・オーディションで優勝、バッファロー室内楽協会賞、バンクーバー・ソサエティ賞など次々と受賞を続け、ジュリアード音楽院も奨学金を獲得し修了。
グースビーは多くの子どもたちがクラシック音楽を好きになるために、各地の公立小学校や小児病院でのコンサートを行うほか、ニューヨーク市の低所得者の子ども達に無料で楽器を貸し出し、ヴァイオリンを教えています。
「コンサート・イン・モーション」という非営利団体に属し、高齢者や障害がありコンサートホールに訪れられない人たちのために自宅でのコンサート活動をしています。
愛に満ち溢れたグースビーの演奏は、優しい音色でどんな苦しみも癒してくれるような繊細さを持っています。
ベンジャミン・ベイカー Benjamin Baker
ベンジャミン・ベイカーは、1998年にニュージーランドで生まれ。
2016年にニューヨークで開催されたヤング・コンサート・アーティスト・インターナショナル・オーディションで1位、2017年にニュージーランドで開催された28歳までの若手音楽家が競うマイケル・ヒル・コンペティションで3位を獲得し、国際的な知名度が上がりました。
ニューヨークのマーキン・コンサートホール、ワシントンD.C.のケネディセンター、メクレンブルク=フォアポンメルンのフェストピーレなど世界の主要ホールで次々とコンサートをして成功しています。
ロンドンのウィグモアホールでは定期的に演奏しており、ヨーロッパでの評価は特に高いヴァイオリニストです。
コンサートで彼が最初の一音を発すると、聴衆が一様に集中し始めるのを感じられます。ごく平凡な容姿で舞台に出て挨拶しているときには想像できません。
聴衆の集中力は、コンサートが終わるまで続き、文字通り「息を飲む」ようなコンサートで、聴き入ってしまう演奏です。
まとめ
これからますます輝いていくだろう海外の若手男性ヴァイオリニスト10人を紹介しました。
年齢順に紹介しているため、最後の方に紹介したヴァイオリニストの名前はまだ知らない方も多いかもしれません。しかし、すでに各地の主要ホールでコンサートをし、話題になっているヴァイオリニストばかりです。
お気に入りのヴァイオリニストを見つける一助になれば幸いです。