数々の有名な若手音楽家を輩出している日本音楽コンクールは、今年で第89回目を迎える伝統的なコンクールです。
新型コロナウイルスの影響により、コンサートや演奏会の中止が相次ぐ中、予定通り7月7日から応募を開始しました。
演奏者はコロナウイルスにおける不安が残る中での参加となりますが、感染防止に伴い状況によっては映像審査や、オーケストラとの共演をピアノ伴奏に変更するなど、万全の体制で開催されます。
演奏者だけでなく、観客も緊張感に包まれる格式高いコンクール。頂点を目指す音楽家たちの熱い情熱に注目が集まります。
目次
日本音楽コンクールの歴史
日本音楽コンクールは「音楽コンクール」として1932年に発足しました。戦争の激化や社会の混乱によって一時は「音楽顕奨」と名前を変更し、開催中止の危機を乗り越えて現在に至ります。
1949年にはコンクールの規模拡大や質の向上を目的とし、NHKが主催者に加わりました。
1982年、今の「日本音楽コンクール」と改称してから続々と若い音楽家たちが登場し、毎年ハイレベルな戦いをみせています。
日本音楽コンクールの特徴
予選会と本選会からなる日本音楽コンクールは、毎年4部門(ピアノ・ヴァイオリン・声楽・作曲)の審査が行われています。
管楽器は6部門(オーボエ・フルート、チェロ・ホルン、クラリネット・トランペット)から2部門ずつ順番に審査の対象となり、今年はチェロとホルンの年になります。
予選は作曲が譜面審査を2回、ヴァイオリンとピアノが3回、それ以外の部門は2回行われます。技術はもちろん、音楽的才能やモチベーションを保つ精神力も必要です。
そんな予選を勝ち抜いた者たちが集まる本選では作曲部門は非公開の譜面審査、残りは指定された曲を選択し東京オペラシティにて演奏、披露します。
会場一体が緊張に包まれる中で聴き応えのある演奏が繰り広げられ、コンクールのレベルの高さを感じることでしょう。
そして審査の結果によって第1位から第3位が決まり、最優秀者や印象深かった演奏者には寄託賞、観客による投票を行い最も優れていると判断された演奏者には聴衆賞などが贈られます。
さらに、優勝者は受賞者発表演奏会への資格を得ることができ、コンクールとは違った雰囲気の中で再び演奏することができるのです。
求められるレベルの高い日本音楽コンクール。1位を目指す演奏者の豊かな表現力と卓越したテクニックのある演奏は観客を音楽の世界へ引き込み、感動へと導きます。
日本音楽コンクール 過去の受賞者
ピアノ 樋口一朗
第85回日本音楽コンクールのピアノ部門で見事に1位を獲得した樋口一朗さんは、当時20歳で受賞した若手ピアニストです。
演奏した曲はラフマニノフのピアノ協奏曲第3番。ピアノコンチェルトで最も難曲とされる作品です。
壮大なスケールで目まぐるしいほどの高度な技巧が繰り広げられ、終わるまで一時も息を抜けません。
笑顔が素敵な優しい雰囲気を持つ人柄が、上品な音色を生み出すのでしょう。明るく粒立ちの良い音に豊かな表現力で観客の心を奪います。
全国の様々な交響楽団とも共演する樋口さん。これからの活躍にますます期待が高まります。
ヴァイオリン 東亮汰
桐朋学園大学音楽学部に在学中の東亮汰さん。高校2年生から毎年日本音楽コンクールを受けるようになりましたが、3次予選止まりでした。
そのたびに課題を見つけては次回へ備えて成長し続けた結果、第88回日本音楽コンクールのヴァイオリン部門で第1位という輝かしい成績をおさめました。
演奏した曲はブラームスのヴァイオリン協奏曲。美しい旋律に深みのある作品で、演奏難易度も高めです。
東さんの魅力は作曲家の意図をしっかりくみ取り演奏する豊かな表現力。本選では緊張を楽しさに変えて、堂々とした演奏をみせました。
お母様が趣味でヴァイオリンを弾いていたことで、幼少期より音楽に興味を持っていた東さん。アマチュア・オーケストラの練習を見学した際、指揮者に憧れたことをきっかけに4歳でヴァイオリンを始めました。
最初は指揮者になるためにヴァイオリンを勉強していましたが、今では好きでヴァイオリンを演奏しています。
フルート 瀧本実里
瀧本実里さんは第85回日本音楽コンクールのフルート部門で第3位、第88回でニールセンのフルート協奏曲を演奏し見事1位を獲得しました。
ニールセンの作品は2つの楽章で構成され、室内楽的でシンプルなところが特徴的です。だからこそ緊張感のある作品となっています。
自然体であることを大切にする瀧本さん。その繊細な音色で楽曲を表現しています。
オーボエ 山本楓
3回もの予選と本選を経験し、第88回日本音楽コンクールのオーボエ部門で第1位に選ばれた山本楓さん。
本選はプログラムを全て自分で決めるリサイタル形式でした。自由曲の選曲もセンスを問われるところですが、どんな演奏をしたいか、どんな演奏を届けたいかという想いも大切です。
音楽に対する情熱はもちろん、努力とプレッシャーに打ち勝つ精神力が功を奏したのでしょう。丁寧に手作りされたリードと同じように、オーボエと真摯に向き合ってきたからこそ優勝を掴み取ることができたのです。
声楽 小堀勇介
小堀勇介さんは過去に2回予選敗退を経験し、3度目の正直で第88回日本音楽コンクールの声楽部門で第1位に輝きました。
美しいテノールで難曲を歌い上げる素晴らしい歌唱力の持ち主です。日本国内に限らず、海外でも活躍されています。
本選ではロッシーニのシンデレラを披露。細かい音符が並び技巧的な装飾が特徴的で、高音が求められます。
小堀さんは優しく柔軟な歌声で美しい高音を響かせ、観客を沸かせました。
まとめ
日本でトップクラスの実力者たちが集まる日本音楽コンクール。最近では素晴らしい才能を持っている学生が次々と入賞しています。
上記で挙げた有名奏者たちもこれからの活躍が期待される若い世代ばかりです。そんな演奏者たちが観客を魅了し、感動へと導く音楽を作り上げることができるのは、自分自身がそれ以上に音楽を楽しんでいるからといえます。
演奏会とは違い、他者からの評価が強く伴うコンクール。そんな張りつめた空気の中、堂々とした姿勢でこれまでの努力を最大限出し切れるかどうかは、まさに自分との戦いです。
優れた演奏技術にプレッシャーに負けない強い精神力、自分にしかできない音楽を奏でる芯の強い人こそが素晴らしい結果を残すことができるでしょう。
そして優勝を勝ち取ったときには、今までとは違った世界が目の前に広がっているかもしれません。