ドヴォルザーク、と聞くと皆さんはどんなイメージを抱くでしょうか?

有名どころでいくと、交響曲第9番「新世界より」は、CMのタイアップとして起用されたりテレビのBGMで耳にしたりと、今や誰もが知っている名曲ですね。

ドヴォルザークはチェコの片田舎で誕生した音楽家で、1841年9月8日生まれの乙女座。

実家がお肉屋さんと宿屋だったので、お父さんは家業を継がせるつもりで音楽家への夢を何度も諦めさせようとしたようですが、その度に邪魔が入り(ドヴォルザークにとっては幸運!)その計略もうまくいきませんでした。音楽家として食べていけるようになるまでは波乱も多かったようですが、やはり運命には抗えなかったのでしょうね。

ちなみにドヴォルザークさんの容姿はこのような感じです。

こちらかなり険しい顔ですが、実際のドヴォルザークはかなり楽天的で、また愛国心に溢れた性格だったようですよ。同じ時代を生きていたブラームスやチャイコフスキーとも仲が良かったみたいです。

そんなドヴォルザークには、私の知っている音楽家の恋愛エピソードの中、一際素敵な物語があります。
まずはこちらをお聴きください。

作品84「4つの歌」より “ひとりにさせて”(Lass’ mich allein)

なんとも言えない清らかな歌曲ですね。

彼は24歳頃、金属細工商チェルマーク家の2人の娘の音楽教師を務めていたのですが、そこで、姉妹の姉でありソプラノ歌手のヨゼフィーナ・チェルマーコヴァーに、人生で初めての恋心を抱きます。

結局ドヴォルザークの初恋は実らなかったのですが、ヨゼフィーナへの想いを音楽に変えてその年に多数の歌曲を彼女の為に書いたようで、この“ひとりにさせて”もその頃に書かれた曲のひとつです。そして、数々の歌曲のなかでヨゼフィーナが一番気に入って、よく歌っていたのがこの曲だったとか。
誰かの為にこんなに素敵な歌曲を捧げるなんて…。
本当に、心からヨゼフィーナを愛していたのでしょう。

さてその後、31歳になったドヴォルザークは、ヨゼフィーナの妹のアンナ・チェルマーコヴァーと再会。二人の関係は恋愛へと発展し、その年の秋にめでたく結ばれます。めちゃめちゃスピード婚ですね!

ヨゼフィーナの話はもう終わり???
チェロ協奏曲はどこで出てくるの???と、お思いの皆さん。ご安心ください。このエピソードはまだまだ終わりません。

アンナとの結婚から20年弱経った頃の1892年~1895年にかけて、ニューヨークの音楽院理事長から院長就任のスカウトを受け、ドヴォルザークはアメリカへと渡ります。

余談ですが、交響曲「新世界より」が作曲されたのもこの時代です(1893年)。アメリカの黒人の音楽が故郷ボヘミアの音楽に似ていることにインスピレーションを受けて、「新世界
から故郷ボヘミアへ向けて作られた作品だったとか。

話を戻します。ドヴォルザークはこのアメリカ滞在中に、「新世界より」をはじめ数々の名曲を生み出しました。

そのなかのひとつが、今回のお話のメイン「チェロ協奏曲」です。
クラシックの世界ではドヴォルザークのチェロコンチェルトを略してドヴォコンと呼ばれ親しまれています。
ボヘミアの音楽と黒人霊歌やアメリカン・インディアンの音楽を見事に融和させている傑作で、チェロプレーヤーのみならず多くのクラシックファンから愛されています。

あるチェロ奏者から依頼を受けて作曲に着手したのが、チェコへ帰国直前の1894年。
それから数カ月かけてこの曲を書き上げたのですが、制作の最中に、ドヴォルザークの元にある知らせが届いたのでした。

初恋の相手であり、妻アンナの姉、ヨゼフィーナが危篤

この知らせがドヴォルザークの心をどれだけ大きく揺さぶったかは計り知れません。
過去に、燃え上がるように愛し、多くの歌曲を捧げた人の悪い知らせが、この後、彼の作曲に多大な影響を与えます。

第二楽章には、彼女の大好きだった歌曲“ひとりにさせて”のメロディーが織り込まれていたり、
ドヴォルザークは、彼女へのとめどない想いを込めてこの曲を作りました。

その後、チェロ協奏曲は完成し、彼はチェコに家族で帰国を果たすのですが、そのわずか1カ月後に、ヨゼフィーナは息を引き取ってしまいます。

「ドヴォコン」の完成まで

そしてヨゼフィーナの死後、ドヴォルザークは一度完成させたチェロ協奏曲の3楽章のコーダの部分に、第1楽章の回想と、再び歌曲の旋律を織り込むなどして手を加え、4小節しかなかった部分を60小節にまで拡大しました。

作品改変後、ドヴォルザーク自身のピアノ伴奏で依頼主のチェロ奏者が試弾した際、「ソロパートが難しすぎる」と言って修正の提案を申し出たのですが、ドヴォルザークはこれを断固拒否。
さらにはカデンツァの付け加えを提案してきたことに大激怒したそう。一音たりとも変えさせまいと思ったのでしょうか。よっぽどこの作品に対して思い入れが強かったのでしょうね。

ドヴォルザークのチェロ協奏曲は全3楽章から成っており、その1楽章冒頭も大変印象的。
静かな前奏で始まり、徐々に壮大に。オーケストラの音楽がたっぷりと演奏されたあとで初めて、チェロのソロ旋律が力強く、歌うように流れ込んできます。これがまた心を鷲掴みにされるような響きでたまらなく切なくなるんです。

ドヴォルザークの愛国心とヨゼフィーナへの想いがこれでもかというくらいにつまった最高傑作。
それでは、若くしてこの世を去った天才チェリスト、ジャクリーヌ・デュ・プレのダイナミックな演奏でお聴きください。

Jacqueline du Pré, Dvořák Cello Concerto in B minor op.104
ジャクリーヌ・デュ・プレ チェロ協奏曲 ロ短調 作品104

いかがでしたでしょうか。
なんとも言えない哀愁の漂うドヴォコンの魅力を、より深くお伝えできていたら嬉しいです。

最後に、歌曲“ひとりにさせて”を、チェロ独奏で演奏されたものをご紹介します。
チェロの深みのある優しい音色に心が溶かされそうな感覚になるくらい、良いです。とても。

“Lasst mich allein” cello solo

ドヴォルザークはこの他にも、楽器やスタイルを問わず素晴らしい作品をたくさん生み出しているので、良かったらあなただけの名曲を見つけ出してみてくださいね♪