わたしたちが「ソナタ」ということばを耳にするようになったのは、いつ頃からだろうか?音楽に関した話題でなくても、ちらりと耳にしたことはあるのではないかと思います。
韓国のドラマ「冬のソナタ(邦題)」は、日本でも一大ブームになりました。ドラマは初恋がテーマであり、出演者の演技の光り具合、主題歌の切ないメロディが、当時の日本の視聴者に見事に受け入れられました。この「冬のソナタ」は「冬ソナ現象」とまで言われ、音楽に関連していない人でも「ソナタ」という言葉を耳にする一因になりました。

【ソナタ】って何ぞや?

さて、「ソナタ」とは一体何ぞや?
日本語では「奏鳴曲(そうめいきょく)」と言い、何ともキレイな言葉ではありませんか。器楽(楽器だけで演奏する)曲の「音楽形式」の用語のひとつ。ソナタの詳細を述べると『厳格で細やかな成り立ち』があるのですが、難しい音楽言葉を使わずとも簡単に言ってしまえば「朝昼夜の三つの生活時間(楽章)」で成り立っている曲の形式、と言葉を置き換えて表現することができます。ネット上で「ソナタ」を調べるとさまざまなサイトが出てきますがあまりにも多いので、参考までに下記まとめサイトをご参照ください。
https://kotobank.jp/word/%E3%82%BD%E3%83%8A%E3%82%BF-90235

「ソナタ形式」という名称だけでもむずかしそうな響きを感じてしまいますが、思ったよりは簡単です。
先ほど書いた「朝昼夜の三つの生活時間(楽章)」で大ざっぱに説明すると
「朝(第一楽章)→起床、ご飯を食べる、歯磨き、活動・昼(第二楽章)→休憩、ご飯を食べる、活動再開・夜(第三楽章、または最終章)→活動終了、ご飯を食べる、歯磨き、就寝」が主なパターンです。
これに体調(調性)を加えたり(気分良い→明るい=長調、悪い→暗い=短調)、感情(強弱やテンポ)を加えたり、(わくわく、ウキウキ、イライラ、しょんぼり等など)、「朝昼夜の三つの生活(楽章)」にスパイスを肉付けしたものと言えます。

本来のソナタ形式の定まった基本的な形としては

1:提示部
   +
2:展開部
   +
3:再現部

と呼ばれる大きなひとつの枠組みがあるのですが、この1~3の中に楽章の細やかな曲のドラマが入っているというわけです。
この基本的な枠組みを楽章ごとに味付けをしたものが「ソナタ」です。

いつからあるものなのか、ちょっとは気になる【ソナタ】

歴史としては、1600年頃からと推測されているようです。
中〜後期バロック時代の作曲家で主にスカルラッティ・バッハ(※1)ハイドンの曲の名前に多く見られます。

この時代のソナタは(※2)「早→遅→早」という曲の早さの定型がありました。この形が変化していくのは、古典派時代の作曲家の頃からになります。
特にベートーヴェンの作ったソナタは「遅→少早→早(月光)」もありますが、正直なところ決まった形はありません。

後には「早→早→遅→早」という四楽章構成のものもあるからです。既にこの時期から、ソナタの形の変化が始まっていました。古典派後期と重なるロマン派前期あたりから、器楽曲は「何かをモチーフにした曲(表題曲)」が増えて来ていたため、ソナタの形は決まりがなくなりつつありました。

(※1:厳密に言うと、ハイドンはバロック後期から古典派初期の中間時期になります)
(※2:本来、音楽用語として「早→急、遅→緩」と書いて表現しますが、ニュアンスをわかりやすくするために敢えて変えています。)

ソナタの種類。そしてどんな楽器のものがあるのか?

各時代によってソナタの種類は違いますし、完全固定されているものではなかった…と言うほかないでしょう。なぜなら、バロック音楽から現代音楽まで、時代の流れとともに作曲者によって様々に形を変えてきたためです。

バロック時代の「教会ソナタ」「室内ソナタ」「トリオソナタ」から始まりましたが、現在は器楽独奏のために作られた「(ここに楽器の名前が入る)ソナタ」が主な呼称となっていました。
「教会ソナタ」という名前なのに、特に教会のために作られたわけではない曲もあり、「室内ソナタ」なのに「トリオソナタ」の副題を持つソナタもありました。ソナタの名前を冠していても本来のソナタ形式を使って作曲されたものよりかけ離れてるものも多く存在します。

楽器としては、器楽のために書かれたものがほとんどです。バロック時代はチェンバロによるソナタ、古典派期以降はピアノソナタが多くを占めています。他の器楽で代表的なものは「ヴァイオリン・ソナタ」「チェロ・ソナタ」「フルート・ソナタ」「ホルン・ソナタ」などがあります。様々な楽器、編成によるソナタがありますが、特に「ピアノ・ソナタ」の曲の数の多さは相当なものです。

ライターによる独断と偏見のソナタをご紹介

終わりに、個人の独断と偏見による、至高のソナタを是非ご堪能ください。

1.スカルラッティ「Sonata in c major, K. 159」

スカルラッティのソナタは短く、形式も「二部構成」で成り立っています。まさに「初期のソナタ」とも言えます。ピアノの前身であるチェンバロを使用しているので、装飾音(トリル)の美しさが際立ちます。

2.バッハ「Sonata D major BWV 963」

バッハは、鍵盤楽器によるソナタを4曲しか書いていません。室内楽ソナタは多く書いていますが、器楽独奏のソナタは僅かです。全五楽章から成る曲。

3.ハイドン「Sonata in D major (Hob. XVI: 24) 」

チェンバロからピアノに移行する時代に書かれたピアノソナタです。軽快でリズミカルな曲。全三楽章。

4.モーツァルト「Piano Sonata No 11 in A – Major, K.331 (300i)」

第3楽章の「トルコ行進曲」があまりにも有名。モーツァルトのピアノソナタで最もポピュラーな曲と言えます。全三楽章。

5.ベートーヴェン「Sonata No. 14 in C sharp minor op. 27 no.2 」

「月光」という副題がついているピアノソナタですが、元々の曲名は「幻想曲風ソナタ」。第一楽章から順々にテンポが上がっていく構成になっています。全3楽章。

6.シューベルト「Sonata in A minor, D 845.」

「のだめカンタービレ」で使用された曲。揺らめきもありながら力強い大曲。35分を超えている長編のピアノソナタです。全4楽章。

7.ショパン「Sonate No. 2 in B flat minor Opus 35」

ショパンはピアノ曲を数多く書いていますが、ソナタは意外にも3曲のみです。全4楽章。有名な「葬送行進曲」が第三楽章にあります。

8.シューマン「Piano Sonata No. 28 in A, Op. 101」

情熱的な旋律が耳に入り、激情のように速く流れていくのに心地好い感覚が残ります。全四楽章。

9.リスト「Sonata B Minor」

生涯で唯一作曲されたピアノソナタです。静寂のように始まり、大きな嵐を経て、そして静かに音が終わります。※3)単一楽章のソナタ。

10.ワーグナー「Piano Sonata in B-flat, Op. 1, WWV 21」

オペラの王とも言われているワーグナーですが、ピアノソナタを3曲作っています。この曲もオペラのような雰囲気があり、とてもおもしろい曲になっています。全四楽章。

11.ブラームス「Sonata for two pianos op. 34b 」

2台ピアノ用のソナタ。元々は弦楽五重奏曲だったものをブラームス自らが2台ピアノ用に編曲し直しました。全四楽章。

12.シベリウス「Piano Sonata in F Major, Op. 12」

全三楽章から成るピアノソナタ。分散和音が美しく、柔らかくも華麗な旋律を奏であげています。

13.スクリャービン「Piano Sonata Nr. 9 (Black Mass Sonata)」

作曲者自身が「この曲には悪魔がいる」と言ったとか。無調性、半音階の旋律が特徴的。映画音楽にも流れそうなイメージも感じられます。※3)単一楽章のソナタです。

14.ラフマニノフ「Piano sonata No.2 in b-flat minor, op.36 」

全三楽章。快速で優雅、派手さが印象の強い作品。この曲に関しては1913年版(オリジナル)、1931年改訂版(広く演奏されているのはこちらの版)、ホロヴィッツ版の3種があります。(この演奏についてはホロヴィッツ版)聴き比べても面白いかも知れません。

15.ストラヴィンスキー「Sonata for two pianos」

2台ピアノ用のソナタ。バレエ音楽が有名なストラヴィンスキーですが、ピアノ曲の美しさも一品です。全三楽章。

16.ベルク「Piano Sonata Opus 1」

※3)単一楽章のピアノソナタ。師事していたシェーンベルクの影響か、半音階と全音階技法(十二音技法)を用いた楽曲になっています。

17.プロコフィエフ「Piano Sonata No. 7 Op. 83」

「戦争ソナタ三部作」の第二曲目。全三楽章から成るピアノソナタです。時代背景の戦争(第二次世界大戦中に書かれた)のイメージが反映された曲と言えます。特に最終の三楽章は7拍子で、圧倒的な重厚な音で終わります。

18.ショスタコーヴィチ「Sonata no. 1 op. 12 」

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現代ソナタのスタイルを持つ楽曲。

※3)単一楽章で、構成としては6つに分かれています。様々な技法が組み込まれた難解なピアノソナタです。

19.矢代秋雄「Sonate pour piano 」

現代ソナタであり、無調性と十二音技法が随所に散りばめられている楽曲です。無調による旋律とクラスターの響きは圧巻。全三楽章。

20.ラウタヴァーラ「Piano Sonata No. 2, Op. 64, “The Fire Sermon”」

現代ソナタ、全三楽章。とても呪文ぽいです。「火の説法」という副題ですが、まさしく火の勢いを無調性と現代技法で表した一曲です。(そして、これがライターの一番のお気に入りです…)。

(※3:いくつかに分かれて曲としては作成されているものの、それをひとつに圧縮したものを呼びます)

まとめ

ソナタは決してむずかしいクラシックの一形式ではありません。曲を聴いているうちに「朝昼夜の三つの生活時間(楽章)」が感じられるものが出てきます。もしかしたら「朝昼夜」が逆転したり、混乱しているような曲もあるかもしれません。しかし、それらも時代の移り変わりと共に生きてきた「ソナタ」なのです。