非凡なる「普通さ」

アムランの音楽は、聞く者に「好き」「いいなぁ」という素朴な感情を抱かせることのできる、いい意味で「普通さ」、親しみやすさを持っているのが大きな魅力だと思います。並外れた演奏技術があるのに、「近寄りがたい天才」という感じを抱かせない「普通さ」。

こうした「普通さ」は今や逆説的ですが「非凡」なものとなりました。現代のピアニストは軒並み優れた技巧を持っており、「すごい」と思わせるピアニストは多くいますが、「好き」という素朴な感情を抱かせてくれる演奏にはなかなか出会えません。しかも、コンクールという殺伐とした空間では、どうしても技巧の見せつけ合いになってしまいます。

そのなかで、コンクールの結果にこだわらず、愛着ある曲を豊かな音楽性で演奏することを選んだアムランの姿勢には、大器の片鱗を感じずにはいられません。彼は1位のチョ・ソンジンに比べると、華はないかもしれません。本人もグレン・グールドやマルタ・アルゲリッチのような、作曲家をも食ってしまうような強烈な個性を持った「特別な」ピアニストにはなれないと言っています。しかし、アムランには非凡なる「普通さ」があります。彼の温かみのある音色と、大きな体を丸めて楽しそうに音楽に没頭する姿は、これから少しずつ世界中の人々の心を魅了していくことでしょう。

ショパンコンクール ファイナルステージ

Piano Concerto in F minor Op. 21(第2番)

第2番を弾いたのはアムランだけ。第1番を弾いたことがなかったことや、音楽性が自分にあっていると思い、第2番を選んだそうです。コンクールで勝つためではなく、自分の弾きたい好きな曲を弾く、という姿勢は、アムランの選曲と演奏からひしひし伝わってきます。重々しいオーケストラの伴奏とヤマハの中低音が演奏に緊張感を与えています。

<シャルル・リシャール=アムラン資料集>

おそらくあまりまとめられていないであろう、シャルル・リシャール=アムランに関するインターネット上の資料を集めました。*2017年7月中旬時点

受賞者記念コンサート

Nocturne in B major Op. 62 No. 1

予選第1曲に選んだノクターン。コンクールの緊張から解かれたアムランの、暖かくのびのびとした美しい歌は、やはり非凡なものを感じさせます。私のお気に入り。

Ballade A flat major Op. 47

4つのバラードのなかから、演奏効果の点で他に譲る第3番を選ぶのが、アムラン流。冒頭のチェロを思わせるしっとり朴訥とした語り口が上手い。

Chopin and his Europe(2016年)

Piano Concerto in F minor Op. 21

ここではヤマハではなく、スタインウェイを弾いています。やはりスタインウェイもいいですね。個人的にはコンクールの演奏よりも、伸びやかでダイナミックなこちらの演奏を好みます。歌い口が自然で素晴らしいですね。

Polonaise in A flat major, Op. 53(いわゆる「英雄」)

Mazurka in B minor, Op. 33 No. 4


ショパン生誕の206周年記念コンサート(2016年)

Sonata in B minor Op. 58

アムラン得意のソナタ3番の別ヴァージョン。使用ピアノはスタインウェイ。良い演奏には違いありませんが、コンクールの演奏には及ばないか。アムラン、ちょっと太った?

Ballade in A flat major Op. 47

やはり3番を弾くアムラン。個人的にはヤマハの音色の方がこの曲にはあっていると思います。

ソウル国際音楽コンクール(2014年)

Rachmaninov – Concerto No.2 in C minor, Op.18

ラフマニノフの2番。アムランはこのコンクール第3位。

<インタビュー編>

・Web記事
ジャパンアーツによるインタビュー
https://www.japanarts.co.jp/news/news.php?id=1715

PTNAによるインタビュー
http://www.piano.or.jp/report/02soc/chopin_con2015/2015/10/27_20375.html

ピアノの惑星Journalのインタビュー
http://www.piano-planet.com/?p=1634
楽屋話めいた話が紹介されていて面白い。
「ショパンはきっと、社会に適応できた人ではなかったと思います。孤独で、不安を抱えていたということは、彼の作品にたくさん内包されている人間の感情からもわかります。コンクール中にふと、ショパンは彼の音楽がこんなにたくさんの人に楽しまれているということはすばらしいと感じているだろうけれど、コンクールというオリンピックか競馬のような場で演奏されていることや、ソロ作品がこんな大きな会場で弾かれていることは、彼の想定外だろうなとは思いました。」(アムラン、ショパンを語る)

・動画(英語)
コンクール前のインタビュー

非常にしっかりとした音楽観を語っています。たとえば、ショパンについて次のようなことを語っています。
“I think playing Chopin brings out the best in yourself […] I think when I hear someone play Chopin I can really figure out who they are.”(ショパンは弾き手から最良のものを引き出す。誰かがショパンを弾いているのを聞けば、その人がどんな人かわかるね。)

コンクール後のインタビュー

一次ラウンドの緊張した心境が語られています。リパッティの言葉をフランス語で引用するところにも注目。以下、インタビューからの引用。
“Don’t use the music for yourself give it to people, serve it people, that’s my motto.”(「音楽を我がために用いるな。人々に与え、奉仕せよ」これが僕のモットーです。)
“It’s all about balance.”(バランスが肝心だね。)
“When they announce the results two days ago it feels like, you know, there was before and after really clear-cut”(二日前、結果が発表されたとき、もう、なんというか、「それ以前」と「それ以後」が出来た感じだね、はっきりとね。)

2016年のショパン生誕祭でのインタビュー

Webサイト>

個人ホームページ(英語/フランス語)
http://www.charlesrichardhamelin.com/
レパートリー情報が興味深い。室内楽のレパートリーが広かったり、ガーシュインの「ラプソディー・イン・ブルー」も入っていたり。ラヴェルのピアノ協奏曲も聞いてみたいですね。

Facebook
https://www.facebook.com/charlesrhamelin/

青柳いづみこ氏のブログ記事
http://ondine-i.net/column/2859
(青柳先生なので当然だが)文章がうまく、演奏評も的確。おすすめの記事。

伊熊よし子氏のブログ記事
http://blog.yoshikoikuma.jp/?eid=237157
ワルシャワでは「テディベア」という愛称を付けられていたそう。それを聞いて喜ぶアムラン。

Charles Richard-Hamelin: 5 pieces that changed my life(英語)
http://www.cbcmusic.ca/posts/18310/charles-richard-hamelin-5-pieces-changed-my-life
ショパンのピアノソナタ第3番への思いが語られています。
“the jury members said the final round was a little disappointing — I guess by that point, everybody was tired”(審査員の方々は、ファイナルステージはちょっと期待はずれとおっしゃいましたが、僕が思うに、もうみんな疲れてたんだろうね。)

ショパンアルバム(ソナタ第3番、幻想ポロネーズ、ノクターンOp.62)

Charles Richard-Hamelin: Live (ベートーヴェン、エネスコなど)

ショパンコンクールの録音