昨年は吹奏楽コンクール初となるライブ配信が大変話題になりましたね。
本記事では、2022年度吹奏楽コンクールの予習として2021年の金賞団体と、金賞ではないけど注目を集めた団体の演奏を振り返ります。よりいっそう今年のコンクールが楽しみになるだけでなく、演奏の参考にもなるのでぜひ最後までご覧ください!
案内人
- 川島光将指揮者・作曲家・編曲家 元・中学高等学校音楽教員、吹奏楽顧問 吹奏楽指導者協会・認定指導員 音楽表現学会会員 K MUSIC GROUP代表 現在はオーケストラ、吹奏楽、合唱、声楽など音楽全般の指導にあたる。
目次
小平市立小平第三中学校
東京支部・東京都代表の非常に歴史のある強豪校です。
全国大会に15回出場、そのうち10回金賞を受賞しています。
顧問の先生が何度も変わっていますが、どの先生の時期も素晴らしい演奏を聴かせてくれています。良い伝統が引き継がれている証拠ですね。
しかし、2019年にはまさかの代表を逃す大波乱が起きました。2021年はそのリベンジとも言える、納得の全国大会金賞でした。
課題曲III : 僕らのインベンション (作曲:宮川彬良)
当時、大変話題になった課題曲ですね。
しかし、吹奏楽コンクール全国大会高校の部で演奏したのはたった一校だけでした。
さて小平第三中学校の演奏ですが、奇を衒うことなく丁寧に演奏されています。中学生でこれだけ安定した演奏…!音楽性があり、指揮者の先生の曲作りも大変素晴らしいと思います。
自由曲:ル・シャン・ドゥ・ラムール・エ・ドゥ・ラ・プリエール (作曲:松下倫士)
吹奏楽界の中でも大変人気のある作品です。最近はこういったアナウンス泣かせの長いタイトルの曲が増えましたね…!
出だしのソロはもう少し楽器を響かせたいところ。これはやはり力量に差が出てしまいます。しかしながらこの学校はとてもバランスが良い。無理に大きな音を鳴らすことなく、楽器を綺麗に鳴らしているので心地よいです。
課題曲、自由曲とも流れるような自然な音楽の進行に感動しました。これはメトロノームの練習では絶対にできないことですね。指揮者の先生の楽曲分析、指揮法の賜物と言えるでしょう。
鹿児島市立武岡中学校
九州支部・鹿児島県代表の学校です。
もともと九州支部大会では金賞の常連校で、2019年からは2年連続全国大会出場。そしてどちらも金賞という快挙を成し遂げています。
2021年はなんと、通常の半分ほどの人数となる26人での金賞です。
これはとんでもない記録ですよ!
課題曲IV : 吹奏楽のための「エール・マーチ」 (作曲:宮下秀樹)
高校の部に比べると、ややパワー不足は否めませんね。やはりこういった曲は鳴らした方が聴こえが良いです。
ただし全体のバランスは大変整えられているので、心地よく感じます。音楽も停滞することなく、自然に進行していますね。
正直、全国大会の舞台でもメトロノームで作ったような音楽がたまにありますが、武岡中学校の演奏は曲が綺麗に流れていてお見事でした。
自由曲:巨人の肩にのって (作曲:ピーター・グレイアム)
全国大会でも多くの学校が演奏をしている人気曲。「巨人の肩に乗る」は「偉大な先人達、またはその功績の上に立つ」という意味の比喩表現で、「巨人」は、アメリカで金管楽器奏法の発展に貢献してきた名手たちを指すとのことです。
この曲はやっぱり大人数で派手に鳴らした方が良いかもしれませんね。
パートのバランスは大変素敵なのですが、楽器も鳴らし切れていないので曲の良さが出し切れていない感じがしてしまいます。
武岡中学校は柔らかいサウンドが武器かもしれません。鬼気迫るような曲よりも、優しく包み込むような曲でも良かったのではと筆者は思います。
しかし、さすが金賞といえるテクニック抜群の演奏でした。
海老名市立海老名中学校
東関東支部・神奈川県代表の学校です。
2021年は念願の初全国大会出場!そして見事金賞という快挙を成し遂げています。
課題曲I : トイズ・パレード (作曲:平山雄一)
とても爽やかなサウンドで、非常にバランスを考えた曲作りがされていると思います。
学校によっては編成に偏りがあるところが多いですが、上手くパートの音量をコントロールしていますね。
出だしは、やや「合わせる」ことに意識がいきすぎて各楽器本来の音色が出し切れていない気がしますが、少しずつ安定感が出ています。
縦の線もしっかり合っていますが、音楽の作りがやや予定調和な気がするので、指揮に合わせて作っていくサウンドを目指しても良さそうですね。
自由曲:吹奏楽のためのエッセイII (作曲:福島弘和)
山形県立山形東高等学校吹奏楽部、委嘱作品です。
出だしのサックスソロは、もっとのびのびと大胆に表現しても良かった気がしますが、堂々とした演奏で素晴らしいですね。
音楽が全て「合っている」だけでも十分凄いのですが、どうしてもメトロノームで音楽が進んでしまっている感じがしてしまいます。ピッチを合わせることはもちろん大事ですが、楽器の音色を作り出すのもとても大事です。
全員が楽譜から音楽を読み解いて、自分たちにしかできない音楽作りにチャレンジするのも面白いと思います。
北上市立上野中学校
東北支部・岩手県代表の学校です。
全国大会は5回出場、そのうち2回金賞を受賞しています。
2015年からは全国大会の常連校となっていますね。こちらの学校は自由曲に毎回海外作品を選ぶのも特徴となっています。
課題曲II : 龍潭譚 (作曲:佐藤信人)
課題曲Ⅱは高校の部では、全国大会で一校も演奏されませんでしたね。
出だしの雰囲気がとても素晴らしい!繊細にサウンド作りをされています。木管パートが特にうまいですね。
音楽の流れがメトロノームな感じがして吹奏楽らしいのですが、さらに楽譜から音楽を作っていけるとより魅力的な演奏になるのではないでしょうか。
各自の演奏技術はかなり高いと思います。指導されている先生方、それに応える生徒さんの関係が素敵ですね。
自由曲:華麗なる舞曲 (作曲:C.T.スミス)
「フェスティヴァル・ヴァリエーションズ」と並ぶC.T.スミスの代表作で、かなり高度なテクニックが要求されます。これを演奏できる中学生って…冷静に考えると凄いことですよね。
冒頭から超絶技巧の連続です。
ここまで弾けるようになるには、かなりの練習が必要だったのではないでしょうか。テクニックは文句なしでピカイチでしょう。
最後は演奏者も指揮者もノってきているのが分かります。
かなり高度なテクニックが要求されるゴージャスなこの曲を演奏し、観客を楽しませるサウンドが作れる上野中学校。グレイト!
柏市立酒井根中学校
東関東支部・千葉県代表の超ベテラン学校です。
全国大会は16回出場、そのうち14回金賞を受賞という輝かしい歴史があります。
3年連続全国大会出場により不出場(3出制度)の年以外は、2002年からずっと全国大会に出場しています。2006年から連続金賞記録を更新中!
課題曲II : 龍潭譚 (作曲:佐藤信人)
出だしの雰囲気がとても良いですね。
各パートの音色が中学生とはとても思えないです。
全体の曲作りも本格的ですが、個人のスキルがかなり高い。さすが関東を代表する超ベテラン校ですね。聴いた瞬間に演奏スキルが頭一つ飛び出しているのが分かります。
音楽にビート感があり、ただ流れてしまうだけの音楽とは違って躍動感があるのも素敵です。
課題曲というより、演奏会の中の一曲のように聴いている側を楽しませてくれます。
自由曲:彩雲の螺旋~吹奏楽のための (作曲:中橋愛生)
ベテラン人気作曲家:中橋愛生(なかはし よしお)先生の作品。「さいうんのらせん」と読みます。
彩雲は仏教の世界において吉事の前触れとされる五色の雲のことだそうです。かなり演奏解釈が要求される曲のようですね。
出だしからかなり難しい曲です。課題曲に続いて躍動感あふれる演奏になっています。打楽器の安定感も抜群です。
筆者個人的には、課題曲・自由曲が似た雰囲気の仕上がりだったので、少しサウンドを変えた曲も聴いてみたかったですね。
静かな部分もこれだけ聴かせられる中学校は他にないでしょう。演奏会に足を運んでみたくなりました!
山形市立第六中学校
東北支部・山形県代表の強豪校です。
全国大会は4回出場、そのうち1回は金賞を受賞しています。
2021年は悲願の全国大会金賞を受賞しました。邦人作品に積極的に取り組まれている学校です。
課題曲IV : 吹奏楽のための「エール・マーチ」 (作曲:宮下秀樹)
出だしのファンファーレが爽やかで気持ち良いのですが、ややパートのバランスが気になりました。編成に偏りがあるのかもしれません。中音域がもう少し聴こえてきても良いと思います。
課題曲はマーチと書いてあっても、実際マーチとして演奏するのは難しいですよね。ついテンポが緩んでしまったり、推進力がなくなってしまったり。しかしながら非常に柔らかいサウンドで演奏されていたので、聴いていてとても心地よいです。
自由曲:ル・シャン・ドゥ・ラムール・エ・ドゥ・ラ・プリエール (作曲:松下倫士)
こちらもアナウンス泣かせの長いタイトルですね…!
打楽器のダイナミクスが迫力あって良いですね。ただ、その流れに金管の人数が追いついていないと感じてしまいました。曲の雰囲気を変えるのは、ダイナミクスだけでなく音色もカラッと変えていきたいところですよね。
細かいテクニックは凄く上手い!こんな難しいパッセージでも当たり前のように演奏できちゃうのが、全国大会のレベルが高い証拠ですね。
やはりこのぐらい難しい曲を選曲しないと全国大会の舞台には上がれないのでしょうか。
中学生とは思えないような凄い演奏でした。
生駒市立生駒中学校
関西支部・奈良県代表の長い歴史のあるレジェンド校です。
全国大会は14回出場、そのうち金賞を10回受賞という凄い快挙を成し遂げています。
実はそんな強豪校も2014年~2018年は支部大会止まりで全国代表には選ばれていませんでしたが、2019年から2年連続全国大会出場、さらに2年連続金賞と絶好調です!
課題曲I : トイズ・パレード (作曲:平山雄一)
出だしから非常に和音の響きが綺麗ですね。聴いている人を一気に惹きつけます。きっと普段からハーモニーにこだわった練習をしているのでしょうね。
音楽の流れが少し後ろに感じることがあります。特に、合いの手や繋ぎの部分は自然に合わせられると良いでしょう。
テンポを共有するには、体感リズムを共有することが大事です。また、必然的なテンポになっているかというのも、音楽を作る上で大事な要素かと思います。
自由曲:ドラゴンの年 より (2017年版) (作曲:スパーク)
こちらは高校の部でも演奏されることが多い人気曲。中学生でこの曲が演奏できるのは凄いですよね。スコアを見るだけで、もう頭がクラクラしてしまいます…。
出だしから大変な曲です。
カチッと演奏できれば良いのですが、なかなかそうはいきません。おそらく楽譜を音にするだけで大変な練習が強いられるでしょう。一曲演奏しただけでもバテてしまいそうですね。プロはこういった曲を一日に何曲もこなすんですから、やはりすごい。
しかし、中学生でこの曲を演奏できたことは本当に凄い。もしこの曲を演奏会でも披露するなら、音色や和音、リズムのアップダウンなどにも時間をかけたいですね。打楽器のダイナミクスはお見事でした!
北斗市立上磯中学校
北海道支部・函館地区代表の強豪校。全国大会は7回出場、全て金賞という凄まじい学校です。
吹奏楽指導者として有名な中條淳也先生が顧問を務めています。
課題曲III : 僕らのインベンション (作曲:宮川彬良)
全体的な音のまとめがさすがですね。パートのバランスがとても良いです。
ピッチがやや不安定なときがありますが、この曲は転調を繰り返すので音程を取るのが難しいんですよね。指揮者の裁量が難しい曲なので、筆者ならつい避けてしまうかもしれません…。
後半の盛り上がりはさすがです!
自由曲:交響曲第2番《江戸の情景》 (作曲:チェザリーニ)
スイスの人気作曲家、チェザリーニの作品ですが、恥ずかしながら筆者はこの曲を知りませんでした。
交響曲第1番『アークエンジェルズ』は有名ですが、日本を題材にした作品があったんですね。打楽器の使い方や旋律が、所々日本の音階のようなものが使われています。
課題曲よりもかなり仕上がっていて、演奏者も指揮者もこの手の激しい音楽が大好き!というのが伝わってきました。
これも中学生が演奏するとは考えられないような曲です。超絶技巧だけではないテクニックが要求されます。
まずこの曲に目をつけた指導者が凄いですね!熱のこもった大変素敵な演奏でした。
宝塚市立中山五月台中学校
関西支部・兵庫県代表の関西トップと言われているレジェンド校です。
全国大会は17回出場で2021年は銀賞でしたが、毎年名演を残しています。
少子化で大編成が組めない学校が増えましたね。この学校も小編成ですが、その人数差をもろともせず素晴らしい演奏を聴かせてくれました!
課題曲IV : 吹奏楽のための「エール・マーチ」 (作曲:宮下秀樹)
中音域のピッチが怪しいです。ピタッとハマるハーモニーにしたかったですね。
ダイナミクスの作り方は素晴らしいのですが、ところどころズレが目立ちます。金管楽器が特に不安定かもしれません。
人数の少ない中、音量を揃える作業はかなり大変ですよね。
大人数の学校とは違い、限られたメンバーで勝負する学校は本当に音楽作りに苦労しているでしょう。そんな中、毎年全国大会に出場している中山五月台中学校はやっぱり凄いと思います。
自由曲:シンフォニックバンドのための《パッサカリア》 (作曲:兼田敏)
この曲が生まれたのは1971年。今でもこういった正統派な曲をコンクール自由曲に選んでくれる学校があるのは嬉しいですね。
作曲は日本の吹奏楽の発展に大きく貢献してくださった兼田敏先生です。日本の吹奏楽作品の代表作といっても過言ではないのではないでしょうか。
派手な曲ではありませんが、ものすごく奥が深くて素敵な曲です。中山五月台中学校でも、個人個人がとても素敵な演奏をしています。
もちろんプロの演奏と比べたら、まだたくさん課題はありますがそれでもここまで中学生が表現できるのはすごいことです。
結果は銀賞でしたが、聴いている側はとても印象に残ったのではないでしょうか。
羽村市立羽村第一中学校
東京支部・東京都代表のレジェンド校です。
全国大会は13回出場、そのうち6回金賞を受賞しています。
顧問の玉寄勝治先生は、明星大学の指導者としても有名ですね。
課題曲IV : 吹奏楽のための「エール・マーチ」 (作曲:宮下秀樹)
出だしからびっくり!中学の部ではなかなか聴けないゴージャスなサウンドでスタートしました。
ピッチが合って倍音が生まれると本当に豊かなサウンドになりますよね。しっかりとアーティキレーションも揃っていて、よりマーチらしい演奏になっています。
課題曲マーチは楽譜自体はあまりマーチといえる作りにはなっていませんが、指導者がこの曲をマーチらしく仕上げてくださっていますね。
軽さだけでなく重さも出して、本来の”マーチ”が生まれた演奏です。素晴らしい!
自由曲:吹奏楽のための神話(天岩屋戸の物語による) (作曲:大栗裕)
こちらは昔から愛されている吹奏楽の名曲。題材はタイトルに書いてあるように「天岩屋戸(天岩戸)」の物語に基づく交響詩的作品です。
課題曲とは全然タイプの違う曲ですね。
チューバがかっこいい!これはチューバ奏者なら一度は吹いてみたい曲なのではないでしょうか。
曲作りもかなり凝っています。ちゃんと曲が自分たちのものになっていますね。
ただし、個人の技量がかなり問われる曲なので、細かいピッチや表現力にはどうしても差がついてしまいます。最後の方はややバテ気味だったかも…?
結果は銀賞でしたが、大変素敵な演奏でした。
まとめ
中学の部は少子化の影響を大きく受けていますね…。だからこそ選曲がものすごく大事になってきます。
課題曲も含め、どういった曲が自分たちに合っているかよく考えないといけません。
今は編曲許諾も出しやすくなったので、いろいろ自分たちの学校に合わせてカスタマイズするのも良いかもしれませんね。
常に新しい形を模索し続ける中学の部。2022年も新たな学校、新たな曲に出会えるのが楽しみです。