吹奏楽で演奏される曲には、クラシックやポップスをアレンジした「編曲作品」と、吹奏楽のために作曲された「オリジナル曲」があります。
今回はそのオリジナル曲に注目!コンクールの自由曲などで人気を集めているものをピックアップし、その特徴や魅力を解説します。
全曲版の音源・動画と併せてお楽しみいただけるので吹奏楽ファンは必見です。

吹奏楽オリジナル曲の魅力とは?

吹奏楽オリジナル曲とは吹奏楽編成のために書かれた楽曲のことで、「オリジナル作品」とも呼ばれることもあります。

吹奏楽オリジナル曲最大の魅力は、それぞれの音色・奏法を生かした旋律や和音によって「楽器の個性」を存分に感じられること。
オーケストラで扱われることの少ないサックスやユーフォニアムなど、吹奏楽ならではの楽器にも注目です。

吹奏楽コンクールの演奏規定と自由曲

吹奏楽業界最大のイベントとして知られているのが、「全日本吹奏楽コンクール」。毎年発表される同コンクールの課題曲には、人気作曲家の委嘱作品や公募作品など、魅力的なオリジナル曲が揃っています。

コンクールでは「課題曲」と「自由曲」の2曲を演奏しますが、『演奏時間は12分以内』と決められています。そのため、自由曲の演奏時間が規定に収まらない場合は、コンクール用に短く編曲された楽譜で演奏することがあります。

吹奏楽オリジナルの名曲8選

ここからは、国内外の作曲家による吹奏楽オリジナル曲を8つ取り上げて、その魅力を解説します。どれもコンクールやコンサートなどで演奏されることの多い名曲です!

全曲版の動画も併せて紹介しているので、ぜひ聴いてみてくださいね。

天野正道|シネマシメリック


タイトルはフランス語で『空想の映画』という意味。架空の映画のサウンドトラックとして作り上げて、それを吹奏楽にまとめ上げるという手法で作曲された作品です。

冒頭の打楽器によるクレッシェンドの迫力、トゥッティのサウンドが作る緊張感は聴き手の意識を強く惹きつけます。作曲者の天野氏は吹奏楽だけでなく、クラシックや現代音楽、CM、アニメ作品など幅広く手掛けていて、映画音楽の分野では日本アカデミー賞音楽賞の受賞歴があります。

シネマ・シメリックはタイトルの通り、「映画音楽」らしい叙情的な展開が特徴的です。もの悲しいメロディ、割れんばかりの力強い低音、疾走感のあるパッセージなど・・・約9分の曲の中でさまざまなテイストが楽しめるおすすめの一曲です。

高昌帥|ウィンドオーケストラのためのマインドスケープ

作曲者の高氏は、全日本吹奏楽コンクールの課題曲を手掛けたこともある人気の作曲家です。

タイトルは『心象風景』のような意味を持ち、約16分の演奏の中で曲想が何度も移り変わる聴き応え抜群な一曲。序盤の低音楽器のユニゾン部分や、曲全体を通して何度も現れるモチーフの掛け合いなど、個々の楽器の音色が魅力的に感じられます。

とくに曲全体で効果的な演奏をしている打楽器パートは必聴。『弓で擦る』といった個性的な奏法が取り入れられているのもポイントです。

鈴木英史|大いなる約束の大地―チンギス・ハーン―


2022年度全日本吹奏楽コンクールの課題曲『ジェネシス』を作曲した鈴木氏の作品です。

モンゴルの英雄チンギス・ハーンを題材にした曲で、アジアの民族的なサウンドが特徴的。曲中に掛け声があるところも個性的で、一度聴いたら忘れられません。

高音楽器が演奏する可愛らしいユニゾンから全体で鳴らすダイナミックなサウンドまで、物語や風景を想像しながら聴くと楽しい曲です。

中橋愛生|科戸の鵲巣-吹奏楽のための祝典序曲

タイトルに入っている「科戸」「鵲巣」という言葉は、風にまつわる言葉・ことわざから付けられました。2004年に発表され、現在もコンクールの自由曲として選ばれることの多い人気の曲です。メロディの美しさ、トゥッティの荘厳なサウンドはホールでの演奏映えが期待できます!

この曲はソロパートや速いパッセージが多く、木管楽器が特に難しい印象を受けました。元々この曲は陸上自衛隊中央音楽隊の委嘱により作曲された作品なので、木管楽器以外も演奏には一定の技術が要求されるでしょう。

真島俊夫|三つのジャポニスム

作曲者の真島氏は吹奏楽界で最も著名な音楽家の一人です。オリジナル作品だけでなく、ジャズやポップスなどの編曲作品も多く手掛けたことで知られています。

この曲は東京佼成ウィンドオーケストラの委嘱作品で、発表から20年以上たった現在も変わらぬ人気で演奏され続ける名曲です。日本的なテイストを西洋音楽の技法で組み立てた作品は当時珍しく、海外でも高い評価を受けました。

『鶴が舞う』『雪の川』『祭り』の三楽章からなる組曲構成で、全体の演奏時間は15分を超える大曲です。パーカッションには和楽器が多数使われていて、鶴の羽ばたきの表現に扇子(あるいは団扇)を使うなどユニークな演奏指示も取り入れられています。

デイヴィッド・ギリングハム|ウィズ・ハート・アンド・ヴォイス


主に吹奏楽編成の楽曲を手掛けることで知られているアメリカの作曲家・ギリングハムの作品。曲の冒頭は静かに不安げな動きで始まりますが、音が重なり合い、勢いを増していくサウンドはまさに圧巻!多彩な打楽器の音色と金管の高らかな響きが特に印象的で、吹奏楽の魅力がふんだんに詰め込まれた作品です。

この曲はアメリカにあるアップル・ヴァレー高校バンドの委嘱作品で、校歌にも用いられている古いスペインの聖歌『Come, Christians, Join to Sing(クリスチャンよ来たれ、共に歌おう)』が主題となっています。

フィリップ・スパーク|宇宙の音楽

元々はブラスバンド(金管合奏)のための曲で、作曲者であるフィリップ・スパーク自身の手で吹奏楽編成へ編曲されました。

作品の元になったのは、ピタゴラスが唱えた「天球(天体)の音楽」です。(宇宙は音階の周波数比と同じ法則で支配されていて、個々の惑星は回転しながら固有の音を発して宇宙全体が和音を奏でている、という考え)

序奏と連続する6つのセクションには「t=0」「ビッグバン」「孤独な惑星」「小惑星帯と流星群」「宇宙の音楽」「ハルモニア」「未知」という宇宙にまつわる副題が付けられています。

静かなソロパート、怒濤の連符、ダイナミックなサウンドなど…さまざまな表現で「宇宙の創生から未来」を描いたこの曲は、数あるスパークの吹奏楽作品の中でも屈指の難曲。曲の終盤、バンド全体が奏でる音の厚みが宇宙の壮大なイメージを見事に表わしています。

クロード・トーマス・スミス|ルイ・ブルジョワの賛歌(賛美歌)による変奏曲

この曲は、ワシントン海兵隊軍楽隊の委嘱作品で、バンドの指揮者だったジョン・ブルジョワ大佐と同じ名前を持つ作曲家ルイ・ブルジョワが発表したメロディを用いています。

曲のタイトルからは「ゆったりとした荘厳な曲」のイメージが浮かびますが、速いパッセージや細かいリズムなどが散りばめられている難曲です。

煌びやかで賑やかな序章からゆったりとしたコラール、そして変奏部分へ…緩急があって派手で聴き応えがある点がコンクールで人気を集めている理由かもしれませんね。

まとめ

紹介した曲は難曲揃いですが、どれも吹奏楽コンクールなどで演奏されている曲です。実際に曲を聴いてみると、日本の吹奏楽のレベルの高さに驚かされますね。

軍楽隊にルーツを持つ日本の吹奏楽は時代と共に移り変わり、演奏される曲のバリエーションも増えています。

流行のポップスやクラシック編曲も素敵ですが、吹奏楽のために作られたオリジナル作品はいつの時代も必聴です!