オーストラリアで最も権威あるピアノコンクール「シドニー国際ピアノコンクール」。世界から有望な若手が参加し、いわば登竜門として、音楽界において重要な位置付けにあります。ピアノ奏者のプロフィールで、この大会にて第○位獲得といった記載を目にしたことのある方も多いのではないでしょうか。
そんなシドニー国際ピアノコンクールは、2023年に第13回の開催を迎えます。本記事では大会の概要や日程、課題曲などを紹介します。
目次
シドニー国際ピアノコンクールとは?
シドニー国際ピアノコンクールは、世界的に有名な国際ピアノコンクールのひとつです。
創設は1977年で、1988年の第4回大会以降は4年に1度開催されています。また、1978年に世界国際音楽コンクール連盟へ加入しており、オーストラリアのみならず南半球全体の中でも、最も実績と権威のあるコンクールです。
開催地のシドニーはオーストラリアにおける文化・芸術の中心地で、同大会の決勝は世界遺産でもあるシドニー・オペラハウスで行われることが通例となっています。
大会のレベル
シドニー国際ピアノコンクールは、世界を目指す若手ピアニストの登竜門として知られています。
過去の入賞者の中には、複数の国際コンクールで受賞経験を持つピアニストも珍しくありません。また、世界中から数多くの応募があるものの、事前選考を通過して本大会に参加できるのは30名ほどであることから、極めてレベルの高いコンクールといえるでしょう。
過去の主な入賞者
第12回大会優勝:アレクサンダー・ガジェヴ
イタリア出身のアレクサンダー・ガジェヴは、オンラインで開催された第12回大会(2021年)で優勝しました。
シドニー国際ピアノコンクール以外にも、数々のコンクールで入賞していて、2021年の第18回ショパン国際ピアノコンクールでは第2位およびクリスチャン・ツィメルマン賞を受賞。いまヨーロッパで最も注目されているピアニストの一人です。
日本でも、2015年の第9回浜松国際ピアノコンクールにて弱冠20歳で優勝し、これをきっかけに広く名前を知られるようになりました。現在までに何度も来日公演を行っており、日本国内の主要なオーケストラとも共演を果たしています。
第11回大会優勝:アンドレイ・ググニン
ロシアのアンドレイ・ググニンは、第11回大会(2016年)で優勝しました。
当コンクール以外にも、2013年ベートーヴェン国際コンクール第2位、2014年ジーナ・バッカウアー国際コンクール優勝など、多数のコンクールで上位に入賞しています。
彼のレパートリーはソロから交響曲まで幅広く、これまでに20カ国以上でコンサートを行うなど、世界を股にかけて活躍しているピアニストです。
第10回大会優勝:エイヴァン・ユー
エイヴァン・ユーはカナダ出身のピアニストで、第10回大会(2012年)で第1位および聴衆賞を含む9つの特別賞を受賞し、一気に世界な注目を集める存在になりました。
ヨーヨー・マやラファエル・フリューベック・デ・ブルゴスといった世界的な音楽家やオーケストラと数多く共演しており、その実力は高く評価されています。
2023年には第13回シドニー国際ピアノコンクールが開催!
1988年の第4回大会以降、4年に1度開催されてきたシドニー国際ピアノコンクールですが、近年はコロナ禍の影響で開催年が調整されやすくなっています。
1年の延期を経て2021年にオンライン開催された第12回に続き、2023年には実地審査を含む第13回の開催が決定しました。23年4月の時点で応募期間は終了していて、本大会参加者を選出するための事前選考が行われているところです。
第13回シドニー国際ピアノコンクールの流れ
第13回シドニー国際ピアノコンクールでは、映像による事前選考で32名の本大会参加者が決定されます。
2023年6月に開催予定の本大会は、予選・準決勝・決勝の3つの審査段階に分かれていて、予選では準決勝進出者を12名、準決勝では決勝出場者を6名選出します。
第13回シドニー国際ピアノコンクールの課題曲
当コンクールでは、本大会の予選・準決勝・決勝のそれぞれに課題曲や演奏規定が設けられています。詳細は以下の通り。
予選
予選は一次審査と二次審査の2段階に分かれています。指定の課題曲はなく、下記の規定を満たしていれば自由に曲を選ぶことができます。
審査段階 |
演奏時間等 |
選曲に関する条件 |
一次審査 |
20分間のリサイタル形式 |
プログラムは2人以上の作曲家の作品で構成すること |
二次審査 |
30分間のリサイタル形式 |
プログラムには第一次審査とは異なる作曲家の作品を含み、かつ2人以上の作曲家の作品で構成すること |
準決勝
準決勝も2段階に分かれています。
一次審査
一次審査はピアノ独奏で、課題曲はありません。下記の演奏規定を満たしていれば自由に曲を選ぶことができます。
演奏時間等 |
選曲、その他のパフォーマンスに関する規定 |
70分間のリサイタル形式 (アンコール、プログラム紹介を含む) |
・プログラムは2曲以上の作品で構成すること ・演奏者自身が選んだテーマを中心として選曲を行うこと ・リサイタルの冒頭、または曲間に口頭でプログラム紹介を行うこと(使用言語は英語を基本とするが、母国語が英語以外である場合はこの限りでない) ・プログラムには短いアンコールを含めること |
準決勝の一次審査では、演奏者としての技術だけでなく「プログラム構成の意図」や「聴衆とのコミュニケーション」といった、音楽家に必須といえる周辺能力も審査されます。
二次審査
二次審査では、室内楽の伴奏が付きます。課題曲は「ヴァイオリンとピアノの作品」と「チェロとピアノの作品」の2グループに分けて設定されています。
演奏者は事前に各グループから1曲ずつ選んで準備するものの、実際に準決勝で演奏できるのはどちらか一方のみ。どちらのグループになるかは、準決勝進出者が決まった時点で通知されます。
◆グループ1(ヴァイオリンとピアノの作品)
作曲者 |
曲名/作品番号 |
・ベートーヴェン ・マスネ(マルタン・ピエール・マルシック編) |
・ヴァイオリンソナタ 第7番 ハ短調/Op. 30 No.2 ・タイスの瞑想曲 |
・シューベルト ・クライスラー |
・ヴァイオリンとピアノのための二重奏曲 イ長調/D.574 ・ラ・ヒターナ (ジプシーの女) |
・ブラームス ・ポンセ(ハイフェッツ編曲) |
・ヴァイオリンソナタ 第2番 イ長調/Op. 100 ・エストレリータ (小さな星) |
・エルガー ・エルガー |
・ヴァイオリンソナタ ホ短調/Op.82 ・ラ・カプリシューズ (気まぐれな女) |
・R.シュトラウス ・クライスラー |
・ヴァイオリンソナタ 変ホ長調/Op. 18 ・美しきロスマリン |
・ラヴェル ・ガーシュウィン(ハイフェッツ編曲) |
・ヴァイオリンソナタ ト長調 ・『ポーギーとベス』より「なんでもそうとは限らない」 |
◆グループ2(チェロとピアノの作品)
作曲者 |
曲名/作品番号 |
・ベートーヴェン ・パガニーニ(P.フルニエ編曲) |
・チェロソナタ第2番ト短調/Op.5 No,2 ・「エジプトのモーゼ」の『汝の星をちりばめた王座に』による序奏、主題と変奏曲(ロッシーニの「モーセ」の「汝の星をちりばめた玉座に」による幻想曲) |
・メンデルスゾーン ・クライスラー |
・チェロとピアノのためのソナタ第2番ニ長調/Op.58 ・リーベスライド |
・ショパン ・フォーレ |
・チェロとピアノのためのソナタ ト短調/Op.65 ・ロマンス/Op.69 |
・ブラームス ・ポッパー |
・チェロとピアノのためのソナタ第2番ヘ長調/Op.99 ・紡ぎ歌/Op.55 No,1 |
・ラフマニノフ ・エルガー |
・チェロとピアノのためのソナタ ト短調/Op.19 ・愛の挨拶 ニ長調 |
・ショスタコーヴィッチ ・ラフマニノフ |
・チェロとピアノのためのソナタ ニ短調/Op.40 ・ヴォカリーズ ホ短調/Op.34 No.14 |
決勝
決勝も2段階に分かれていて、演奏者は課題曲をシドニー交響楽団と共演します。
一次審査
一次審査の課題曲は18世紀以前のピアノ協奏曲で、演奏者は下記の作品から1つを選んで演奏します。
◆決勝 一次審査
作曲者 |
曲名/作品番号 |
J.S.バッハ |
チェンバロ協奏曲 ニ短調/BWV1052 |
ベートーヴェン |
ピアノ協奏曲 第1番 ハ長調/Op.15 |
ベートーヴェン |
ピアノ協奏曲 第3番 ハ短調/Op.37 |
モーツァルト |
ピアノ協奏曲 第17番 ト長調/K.453 |
モーツァルト |
ピアノ協奏曲 第20番 ニ短調/K.466 |
モーツァルト |
ピアノ協奏曲 第22番 変ホ長調/K.482 |
モーツァルト |
ピアノ協奏曲 第24番 ハ短調/K.491 |
モーツァルト |
ピアノ協奏曲 第25番 ハ長調/K.503 |
モーツァルト |
ピアノ協奏曲 第27番 変ロ長調/K.595 |
二次審査
二次審査の課題曲は、19世紀または20世紀のピアノ協奏曲で、演奏者は下記の作品から1つを選んで演奏します。
作曲者 |
曲名/作品番号 |
アダムス |
センチュリー・ロールズ |
バーバー |
ピアノ協奏曲/Op.38 |
バルトーク |
ピアノ協奏曲 第2番/Sz.95・BB101 |
ベートーヴェン |
ピアノ協奏曲 第4番 ト長調/Op.58 |
ブラームス |
ピアノ協奏曲 第1番 ニ短調/Op.15 |
ショパン |
ピアノ協奏曲 第2番 ヘ短調/Op.21 |
ガーシュウィン |
ピアノ協奏曲 ヘ長調 |
グリーグ |
ピアノ協奏曲 イ短調/Op.16 |
リスト |
ピアノ協奏曲 第2番 イ長調/S.125 |
プロコフィエフ |
ピアノ協奏曲 第2番 ト短調/Op.16 |
ラフマニノフ |
ピアノ協奏曲 第1番嬰 ヘ短調/Op.1<改訂版> |
ラヴェル |
ピアノ協奏曲 ト長調 |
サン=サーンス |
ピアノ協奏曲 第5番 ヘ長調/Op.103 |
シューマン |
ピアノ協奏曲 イ短調/Op.54 |
チャイコフスキー |
ピアノ協奏曲 第2番 ト長調/Op.44<改訂版> |
第13回シドニー国際ピアノコンクールのチケット情報
第13回シドニー国際ピアノコンクールのチケットは、インターネットから購入できます。
本大会の予選・準決勝。決勝の全公演通しチケットは、2023年3月6日から販売が開始されていて、1公演ごとのチケットは4月11日から一般発売が開始予定です。
なお、決勝のあとにシドニー・オペラハウスで行われる授賞式は入場無料ですが、チケット制が導入されています。
第13回シドニー国際ピアノコンクールの結果
コンクールの結果は、詳細が分かり次第、当サイトにて紹介予定です。
まとめ
第13回シドニー国際ピアノコンクールの優勝者は、シドニーに始まりメルボルン、ブリスベン、アデレード、キャンベラといったオーストラリアの各地でリサイタルを開催する予定です。
優勝者でなくとも、このコンクールをきっかけに世界で認知され、活躍の幅を広げるピアニストが生まれることが予想されます。2023年7月22日頃に発表されるコンクールの結果もぜひチェックしてくださいね。