音楽を志す人にとってのコンクールは、キャリアアップに繋がる重要なイベントです。
一方、音楽ファンにとっては、新しい音楽や演奏家を知るきっかけとなる場でもあります。

今回ご紹介する「武満徹作曲賞」は、今後の活躍を期待される作曲家が発掘されることもあり、音楽ファンにとっても非常に注目度の高いコンクールです。

  • 一体どんなコンクールなのか?
  • 過去にどんな人が入賞しているの?
  • 審査員ってどんな人?

今回は、武満徹作曲賞2023の概要や本選演奏会など最新の情報について解説していきます。
現代音楽に関心のある人はもちろん、新しいジャンルの音楽を聴いてみたい人もぜひご一読ください!

武満徹作曲賞とは?

武満徹作曲賞は東京オペラシティ文化財団が開催する現代音楽のコンクールです。

その名称は芸術監督として東京オペラシティの音楽事業にたずさわった作曲家の武満徹に由来します。

審査の対象となるのは協奏曲を除くオーケストラ作品で、作品の応募は満35歳以下に限られていることから、若手作曲家の登竜門と言われています。

世界各国の若い世代に新しい音楽作品の創造を呼びかける武満徹作曲賞は、毎年1人の専門家が独自の観点で審査を行うユニークな作曲賞として世界的にも有名です。

作曲家・武満徹の人生や音楽については下記記事をご参照ください。

過去の審査結果と受賞者

武満徹作曲賞は1997年に創設されてから、年に一度のペースで開催されています。

若い世代の創造的な作品が生み出される武満徹作曲賞は、現代音楽シーンの動向を知る上で注目しておきたい作曲賞のひとつと言えるでしょう。

ここでは、直近3年間に行われた武満徹作曲賞の審査結果と受賞者を紹介します。

2022年度

順位

受賞者

作品名

第1位

室元拓人

(日本)

ケベス ─ 火群の環

第2位

アンドレア・マッテヴィ

(イタリア)

円の始まりと終わりの共通性

第3位

オマール・エルナンデス・ラソ

(メキシコ)

彼方からの冷たい痛み

メフメット・オズカン

(トルコ/ブルガリア)

管弦楽のための間奏曲《無秩序な哀歌》

第1位に選ばれた室元氏は東京藝術大学音楽学部作曲科の卒業生で、現在は同大学院音楽研究科修士課程作曲専攻在学中です。

これまでに平松良太、小倉啓介、鈴木純明の下で作曲を学び、2022年度武満徹作曲賞第1位のほか、第37回現音作曲新人賞入選、第90回日本音楽コンクール第3位、第11回JFC作曲賞入選など数々のコンクールで受賞、入選を果たしました。

2022年度の武満徹作曲賞では、現代音楽界において最も影響力がある作曲家の一人と言われているイギリスのブライアン・ファーニホウが審査員を務めました。ブライアン氏は、1984年フランス芸術文化勲章シュヴァリエ受章、2007年シーメンス音楽賞を受賞しており、音楽の発展を支える人物として国際的な評価を得ています。

2021年度

順位

受賞者

作品名

第1位

根岸宏輔

(日本)

雲隠れにし 夜半の月影

第2位

ジョルジョ・フランチェスコ・ダッラ・ヴィッラ

(イタリア)

BREAKING A MIRROR

第3位

ヤコブ・グルッフマン

(オーストリア)

TEHOM

ミンチャン・カン

(韓国)

影の反響、幻覚…

第1位に選ばれた根岸氏は、日本大学芸術学部音楽学科作曲・理論コース(作曲)を卒業後、同大学大学院修士課程に進学。伊藤弘之に作曲を師事しています。

2020年には第37回現音作曲新人賞および聴衆賞を受賞し、同年に第31回朝日作曲賞を受賞。受賞作品の『混声合唱とピアノのための組曲「遠望」』は、終曲『智慧の湖』が2022年度全日本合唱コンクールの課題曲に選ばれ、多くの合唱団に演奏されました。

2021年度の武満徹作曲賞では、室内楽・オーケストラと幅広い分野で多くの作品を手掛けるフランスの作曲家パスカル・デュサパンが審査員を務めました。パスカル氏はリヨン国立管弦楽団をはじめとする多くの団体や音楽院、音楽祭などでコンポーザー・イン・レジデンスとして活動しており、特にオペラの分野で国際的な評価を得ています。

2020年度

順位

受賞者

作品名

第1位

シンヤン・ワン

(中国)

ボレアス

第2位

デイヴィット・ローチ

(イギリス)

6つの祈り

第3位

フランシスコ・ドミンゲス

(スペイン)

MIDIの詩

第4位

カルメン・ホウ

(イギリス/香港)

輪廻

第1位に選ばれたシンヤン氏は中国出身の作曲家で、現在はアメリカのピッツバーグを拠点に活動しています。中国の四川音楽学院で学士号、アメリカのマンハッタン音楽院で作曲と音楽理論を専攻し修士号を取得。伝統的な中国の芸術や西洋の芸術から幅広くインスピレーションを得た創作活動を行い、これまでに複数の作曲賞を受賞しています。

2020年度の武満徹作曲賞では、作曲家、ピアニスト、指揮者として活動しているイギリスのトーマス・アデスが審査員を務めました。トーマス氏は、作曲家としては、英国ロイヤル・オペラの委嘱作品の『テンペスト』(2003)を含む3作品がロイヤル・フィルハーモニック協会大規模作品作曲賞を受賞。指揮者としては、ニューヨーク・フィル、ロサンゼルス・フィル、ボストン響など世界的に有名なオーケストラを指揮するなどマルチに活躍する人物です。

2023年度の本選演奏会は5月28日(日)に開催!

武満徹作曲賞には2つの審査段階があり、譜面審査を通過した作品は本選演奏会で実際に演奏されます。

2023年度の審査員とファイナリスト

毎年1人の作曲家が審査員を務め、独自の判断で審査を行う武満徹作曲賞。
そのユニークな審査方法は他に類がなく、多くの音楽関係者が武満徹作曲賞の結果に関心を向けています。

2023年度は、世界各国の応募者の中から4名のファイナリストが選出されました。

審査員

2023年度の武満徹作曲賞で審査員を務めるのは、日本の作曲家・近藤譲です。
近藤氏はイギリスのダーティントン・サマースクールで作曲講師、オランダのガウデアムス国際作曲コンクール等で審査員を務めるなど、国際的な音楽発展を支える人物です。

ハーバード大学やケルン大学を始めとする欧米の大学に招かれて講演を行ったり、アメリカのイーストマン音楽院の特別客員教授を務めたり、次代を担う音楽家の育成にも深くたずさわっています。

国内では、エリザベト音楽大学、お茶の水女子大学大学院、東京藝術大学で長年にわたって教鞭をとりました。現在は昭和音楽大学教授、お茶の水女子大学名誉教授および日本現代音楽協会理事長を務めています。

ファイナリスト

2023年度の武満徹作曲賞でファイナリストとなったのは以下の4名です。

作曲者名

作品名

ギジェルモ・コボ・ガルシア(スペイン)

Guillermo Cobo Garcia

Yabal-al-Tay

(Yabal-al-Tay for symphonic orchestra)

マイケル・タプリン(イギリス)

Michael Taplin)

Selvedge

(Selvedge for full orchestra)

山邊光二(日本)

Koji Yamabe

Underscore

(Underscore for orchestra)

ユーヘン・チェン(中国)

Yuheng Chen

tracé / trait

(tracé / trait für Orchester)

2023年武満徹作曲賞結果

2023年武満徹作曲賞の結果は以下のようになりました。

第1位

マイケル・タプリン(イギリス)

第2位

ギジェルモ・コボ・ガルシア(スペイン)

山邊光二(日本)

第3位

ユーヘン・チェン(中国)

まとめ

若い世代から作品を募り、1人の専門家が独自の視点で審査を行う武満徹作曲賞は、そのユニークな審査方法によって世界的な注目を集めている若手作曲家の登竜門です。

審査員の感性によって受賞作品の傾向も異なるため、毎年違ったタイプの作曲家が評価を受けるところも、武満徹作曲賞の魅力と言えるでしょう。

現代音楽に関心のある人はもちろん、普段はクラシック音楽を中心に聴いている人も、武満徹作曲賞を通じて新しい音楽や作曲家に触れてみてはいかがでしょうか?