2024年、今年もやってきました!
吹奏楽コンクールに向けて本格的に動き出す時期です。
課題曲・自由曲選びは、どの団体にとっても重要なことですよね。
今年度から課題曲Ⅴが廃止、また「中学校の部」ではなく、「中学生の部」となり、地域クラブや複数校の合同チームも参加できるよう規定が改められました。
さて毎年多くの団体が演奏する課題曲といえば、やっぱりマーチですよね!
今年はどのようなマーチなのでしょうか。
早速解説していきましょう。
案内人
- 川島光将指揮者・作曲家・編曲家 元・中学高等学校音楽教員、吹奏楽顧問 吹奏楽指導者協会・認定指導員 音楽表現学会会員 K MUSIC GROUP代表 現在はオーケストラ、吹奏楽、合唱、声楽など音楽全般の指導にあたる。
目次
行進曲 「勇気の旗を掲げて」|2024年度吹奏楽コンクール課題曲
第33回朝日作曲賞受賞作品であるこちらの課題曲。例年は吹奏楽課題曲といえば4/4のものが多かったのですが、今年は2/2となっています。
ベーシックなマーチスタイルですね。
そしてもう一つのポイントは、小編成でも演奏可能なようにを意識して作成されていることです。各パートが完全に揃っていなくても演奏できる課題曲となっています。
しかし、だからこそ難しい部分もあります。求められるテクニックとしてはそれほど高くない楽譜ですが油断は禁物です。
作曲家・渡口 公康について
2011年にも吹奏楽コンクール課題曲に選ばれた実績がある作曲家です。
実は数学科・情報科の先生で、学校に勤務する傍ら作曲活動をされているそうです。先生のお仕事といえば忙しく大変なイメージがありますが、その中で作曲をされているというのはものすごい事ですよね。
学生の頃は吹奏楽部で打楽器を担当されていたという事ですので、その辺りの経験が曲作りに活かされているのでしょうね。
演奏のポイント
まずこの曲の全体のポイントとしては、「楽器の組み合わせ方」と「音量バランス」です。
吹奏楽で使用される楽器にはそれぞれ特徴があり、音色が混ざりやすい楽器とそうでない楽器があります。
吹奏楽コンクールというとピッチを合わせることだけに重きをおきがちですが、実は音色を混ぜることがとても大切です。
そしてパート人数に隔たりがある学校は、音量バランスを考えないとかなり困った演奏になってしまうでしょう。
ちなみにこの曲は楽器の活躍具合に若干差がありますので、パートによってはやや物足りなさを感じてしまうかもしれませんね。
それでは楽譜に沿って順番に解説をしていきます。
出だしからAまで
まずは前奏のユニゾンのところ。
ピッチを合わせるのも大事ですが、ポイントは音のニュアンス、音形を揃えることです。
低音楽器ほどより短く演奏して音が残らないように注意です。フルートやピッコロなどの高音域の楽器のニュアンスに合わせてください。
そして悩ましいのが、このグロッケン。
この後もたくさん登場しますが、グロッケンってかなり音が残っちゃいますよね。曲の味付けとしてグロッケンは大変良いのですが、変に目立ってしまわないよう注意です。
3小節目の2拍目は何も書いてありませんがダイナミクスはffぐらいで。ここでユニゾンだった音が和音に変わるので、その和音をしっかり聞かせて和声進行を明確にしましょう。
トリルのある楽器は合わせにくいですが、しっかり練習をして細かいところまで揃えましょう。
この曲全体に言えることですが、トランペットに自信のある団体はこの課題曲を選ぶと良いかもしれませんね。
Aからの第1マーチはトランペットを中心としたメロディです。サックスやクラリネットはトランペットにニュアンスを合わせると良いでしょう。
そして伴奏系は定番中の定番です。低音が頭打ち。ホルンとスネアが裏打ちです。全体を通してホルンの活躍がやや少ない気がしますね。
13小節目からはメロディにハモりができて厚みが増します。ハモリパートの人数が少ないのでしっかり演奏してほしいですが、長めに演奏してしまうと音が残って目立ってしまうので注意です。
BからD
Bからは、メロディにフルート、ピッコロが加わりさらに音色が豊かに。こういったところで違いが出せると音楽的に素敵ですよね。
全体的にこの楽曲のピッコロの音域、表記についてはやや疑問なところが……。最後以外は全てフルート1と同じ譜面(実際は1オクターブ上)となっています。
ここでのもうひとつの主役はトロンボーン(ユーフォ、テナーサックスを含む)です。2分音符ですが、長くなりすぎてスラーのようにならないように注意しましょう。合いの手としてパリッと演奏したいですね。
また、和音としての役割もとても大切です。例えば34小節目の2拍目のように、ユニゾンから急にここだけ和音のようなところがあるので注意です。しっかりとセクションとして和音を目立たせたいですね。
Cからは第2マーチですね。
ここではsub mfとなっていますが、王道マーチではこのように音をいったん落としてあげていく演奏手法が主流となっています。
それを楽譜で表すとこのようなイメージになりますが、可能であれば過去の有名なマーチの曲をいくつか聴くとイメージが湧くかと思います。US Marine Bandなど有名な演奏団体からしっかり学んでいきたいですね。
ここでの打楽器演奏は変に目立ってしまわないように音量に注意です。
メロディラインを揃えることはもちろんですが、ここでもトロンボーン(ユーフォ、テナーサックスを含む)が大活躍!マーチらしさが際立ちますね。
EからF
EからTrioです。
定番のTrio前の転調がないのもこの曲の特徴でしょうか。
サックスとクラリネットの音色を混ぜて、豊かな音色のメロディラインを作りましょう。
ここはできればコントラバスのピチカートがほしいですよね。うまくベースラインで表現してほしいです。
スネアの演奏には注意。機械的にならないようにし、バスドラと合わせてひとつの楽器のように演奏しましょう。
ここでもトロンボーンが大活躍。ハーモニーの流れで音楽を作っていく大変重要なパートです。課題曲じゃなければホルンで代用してあげたいですね。
Fからはメロディにフルート、オーボエが加わります。よりメロディラインの音色が豊かになりますね。グロッケンをうまく調和させましょう。
GからH
Gからの和声進行はクラシックでは禁断の和声進行といえる部分です。
ポップスでは当たり前に使われているので特に違和感はないですが、あまり深く考えずサラッと演奏する方が良いでしょう。
転調をしているので、どこがカデンツかを見極めることも大事です。
Gの3小節目の2拍目はまさにFコードに向かってのC7の和音ですね。ここはカデンツなので強調したいところですが、トリルがついているパートがあるので注意です。
ここのグロッケンのトリルは飾りと割り切って実際に練習の中でトリルの回数や音量を決めていきましょう。
Hからはピッコロソロ。これはやはりフルートではなくピッコロで演奏したいですね。有名なマーチでも出てくる重要なピッコロソロです。
ここはとにかくピッコロが目立つように音量バランスを考えて演奏しましょう。スネアのちょっとした合いの手(128小節目など)は、少し目立たせても面白いです。
より難しいのはIからですね。フルートとピッコロのtuttiです。
Hではクラリネット、サックスに加えてIではトランペット、ユーフォが入ります。音量バランスとしてはピッコロ、フルートの邪魔にならないように注意です。
やはり吹奏楽のトランペットというのはオーケストラとは違い、とにかく柔らかく溶け込む音色が求められることが多いですね(もちろんオーケストラ曲でもありますが)。
そして再びトロンボーンのハーモニー。ホルンは頑なに裏打ちです(少し退屈になってしまうかも……)。
Jから終わりまで
Jでは第2マーチの反復が出てきます。そしてKからは形式どおりのTrioの反復。部分的に打楽器を目立たせるとよりマーチらしくなってきますね。
各セクションでユニゾンが多いですが、トランペットやトロンボーンが出過ぎないように注意です。特に人数に偏りのあるバンドは気をつけましょう。全体のバランスを考えて演奏する必要があります。
Lからは再びトロンボーン(ユーフォ、テナーサックスを含む)が大活躍!これは作曲家の好みもあるのでしょう。スネアが出過ぎないように注意です。
最後の装飾音でスネアと木管セクションを合わせるのは難しそうです。スネアはあくまでサラリと演奏しないと、最後の最後で締まりが悪くなってしまいます。綺麗に終わらせたいですね。
全体としてはマーチの形式に沿った典型的なマーチではあります。プロの演奏を聴くと演奏しやすくうまく仕上がっていますが、人数や演奏レベルに偏りがあるバンドは要注意ですね。
まとめ
吹奏楽の課題曲といえばマーチ、と言われるぐらい長年マーチが課題曲となっています。
マーチをより深く知りたい方は、王道であるスーザをはじめ素敵なマーチがたくさんあるのでぜひチェックしてみましょう。吹奏楽課題曲のマーチしか知らないというのは、勿体なすぎますよ。
吹奏楽課題曲は参考音源だけを聴いて選ぶのではなく、実際に楽譜を見て音を出してみて決めましょう。自分のバンドに合う課題曲を見つけることが大切ですよ。