「クリスマスのクラシック音楽」どこまで知っていますか?

2018/11/27
クラシック

12月に入ると、夜の街には山下達郎さんの『クリスマス・イブ』や、ワム! の『ラスト・クリスマス』などのクリスマス・ミュージックがいっせいに流れはじめます。もちろんクラシック音楽も、このときとばかりにクリスマス楽曲をメインプログラムに組んだ演奏会が各地で開かれますが、さてクリスマスとは? え、そんなの決まってるでしょ、イエス・キリストの誕生日(降誕日)なんでしょ、という声が聞こえてきそうですが、ことはそう単純ではアリマセン。今回は、クリスマスのクラシック音楽トリヴィアについて。

クリスマスは12月25日ではなかった?

さてクリスマスですが、ほんらいこの日は人類の救い主としてイエス・キリストがこの世に「降りてこられた」、「この世に顕現された」とされる日で、彼の誕生日、というわけではありません。そもそもイエスがいつ生まれたのかはまったくのナゾで、原始キリスト教会時代の教父たちのあいだでも秋じゃないの、とか春じゃね? と意見が分かれていました。

ローマ帝国内の原始西方教会では、はやくも336年以前からローマの太陽神ミトラの祭日である12月25日に降誕祭を祝っていたようです。ミトラ祭というのは、この日を境に春に向かって太陽が復活することを祝う、いわば冬至のお祭り。現在のクリスマスは353年ごろ、教皇リベリウスが主イエスのご降誕を祝う日を12月25日にすると決めたことがはじまりだと言われています。しかし東方教会側は当時、いまのローマカトリックやプロテスタント諸派を含む西方教会とはクリスマスがズレており、現在「主イエスがこの世に現れた日[主の公現 / 顕現日]」と呼ばれる1月6日にクリスマスを祝っていました。その後、東方教会もローマ教会にならって12月25日に変更したと言われ、現在は両教会とも12月25日をクリスマスとしてお祝いしています。

ちなみに「クリスマス」はもともとギリシャ語の「キリストのミサ[Χριστούγεννα]」の意味で、ドイツ語では「ヴァイナハテン[Weihnachten]」、フランス語では「ノエル[Noël]」と呼ばれます。とくにノエルは主の降誕を祝う素朴な俗謡をアレンジした小曲のタイトルにもなり、この時期のフランスの教会ではフランスバロックの作曲家ダカン(1694-1772)の『新しいノエル集』に収められたノエルがよく演奏されます。このダカン、バッハとのチェンバロ競演対決前にそそくさと退散して帰国したことでも知られるルイ・マルシャンお気に入りの弟子で、マルシャンの後継として王宮付きオルガン奏者に、その後ノートルダム大聖堂オルガン奏者にのぼりつめた人です。

ルイ=クロード・ダカン『オルガンまたはクラヴサンの新しいノエル集(c.1740)』から「グラン・ジュとデュオのノエル」
オルガン独奏:ヴァンサン・ブーシェ

 

クリスマスのお祝いは「クリスマス・イヴ」からはじまる?!

そこでまたギモンが。「クリスマスがどういう日かはわかったけど、なんかその前日のほうが盛大にお祝いしてない?」。これは古代ユダヤの暦と関係があります。
現在、一日のはじまりの時刻は午前零時となっていますが、イエスの生まれたころのガリラヤ南部地方のユダヤ系民族は太陰太陽暦と呼ばれる独自の暦を使っていました。このユダヤ暦では一日の開始時刻が真夜中ではなく、前日の日没時間、つまり月の出の時間でした。そのためその影響を受けているキリスト教会ではいまでも日没後の典礼が重要視され、クリスマス前日の24日の夕方の礼拝から事実上のクリスマスに入る、というわけです(ローマカトリックではクリスマスと復活祭、聖霊降臨祭の三大祝日には前日の夕方・深夜・朝の典礼を行うという決まりをいまも守っています)。

ローマカトリックでクリスマスのお祝いの佳境に入るのが、イエスの降誕は夜中だった、という福音書の記述にもとづく真夜中のミサ。この特別な典礼のために作曲されたのが、ダカンとおなじ時代に活躍したフランスの作曲家シャルパンティエの『真夜中のミサ』です。

マルカントワーヌ・シャルパンティエ(1643-1704)『真夜中のミサ(1690)』から
演奏:ル・ミュズ・ガランテ、テルヌ聖フェルディナンド少年合唱団ほか、指揮:ジャン=フランソワ・フレモン

 

「アドヴェント」と「クリスマスの12日」

一般にクリスマス期間というのは12月25日から数えて12夜目、年明け1月6日の「主の公現日」までを指します。日本ふうに言えばいわゆる「お正月」というわけですが、欧米では通常、元日(キリスト教会暦では「主の命名日」)以外はお休みではありません。
音楽関係では、贈り物が一日ごとに増えていくという楽しい数え歌の「クリスマスの12日」があります。これは昔、クリスマスから公現日まで贈り物を交わす風習があったことの名残りの遊び歌。ポルトガルでは子どもたちがプレゼントをもらうのはクリスマスではなく、いまも公現日の1月6日、という古い習慣が残っている地方があります。

「クリスマスの12日」は教会暦では降誕節と呼ばれ、降誕節前をアドヴェント、待降節と呼んでいます。最近、日本でもアドヴェントカレンダーを見かけることが多くなりましたが、このアドヴェント[Advent]は、ラテン語の「到来する」という意味で、救い主イエスの到来を「待ち望む」ということで待降節と訳されています。待降節は昔、東方教会系のクリスマスの1月6日に受洗する人が、それ以前の40日を断食などの清めの期間として過ごしたことがはじまりだとか。その習慣が5世紀ごろに西方教会にも入ってきて、いまのようにクリスマス4週前の日曜から開始される期間を待降節として位置付けるようになったと言われています。

この拙文の最後に、筆者が待降節でもっとも好きなオルガンコラール前奏曲を聴いてみたいと思います。バッハの『オルガン小曲集』の巻頭を飾る一曲、「いざ来ませ、異邦人の救い主よ BWV 599」です。みなさんもお気に入りのクラシック音楽を味わいつつ、楽しいクリスマスを過ごされてはいかが?

バッハ「いざ来ませ、異邦人の救い主よ BWV 599」
オルガン独奏:ヴォルフガング・ツェラー

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