12月になるとあちこちで耳にするクリスマスソング。

聴くだけでわくわくする華やかなオーケストラ曲や厳かで雰囲気のある声楽曲など、クラシック音楽にはクリスマス気分を盛り上げる曲がたくさんあります。

当記事では、クリスマスの定番曲としてコンサートやBGMに使われている有名クラシック曲を厳選してご紹介します。

メロディは知っていても曲名を知らないことが意外と多い、クラシック音楽。理解を深めて聴くとよりいっそう楽しめるでしょう。

案内人

  • 笹木さき音楽大学の短期大学部で作曲とジャズピアノを専攻。現在は芸術専門図書館で司書として働く傍ら、ライターとして活動中。

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チャイコフスキー/組曲「くるみ割り人形」(The nutcracker suite)

「くるみ割り人形」はチャイコフスキーの三大バレエ作品のひとつで、1892年に作曲されました。
クリスマス・イブの不思議な出来事にまつわる物語であることから、クリスマスコンサートのプログラムに選ばれることの多い曲です。

当時、急な演奏会の依頼を受けたチャイコフスキーが新作として発表するために、作曲中だったバレエ音楽を演奏会用組曲に仕上げたと言われています。

クラシックファン以外にも聴き馴染みのある『行進曲』『金平糖の精の踊り』『花のワルツ』などを含む全8曲構成で、クリスマスの幻想的な雰囲気を盛り上げてくれる楽しい組曲です。

ヘンデル/オラトリオ「メサイア」より ハレルヤコーラス

「メサイア」は、ヘンデルの作品の中で最も親しまれている曲のひとつです。
特にハレルヤコーラスは有名で、クリスマスをはじめとするキリスト教の祝祭の季節に耳にすることが多いでしょう。

ソプラノ、アルト、テノール、バスの独唱と合唱とオーケストラで演奏されるこの曲は、1741年の作曲当時から現在まで世界中で愛されてきました。

ヘンデルはオペラなどの劇場音楽を得意とした作曲家で、手掛ける作品はエンターテイメント性や演奏効果を重視していたと言われています。

メサイアも劇場で演奏されることを前提としていて、曲の明快さや旋律の美しさが魅力的な作品です。

キリストの誕生から受難、復活までを1曲で表していることから、クリスマス時期の風物詩としてたびたびコンサートで演奏されます。

シューベルト/エレンの歌 その3(Ellens Gesang Ⅲ)「アヴェ・マリア」

1825年に作曲されたシューベルトの歌曲で、歌詞の冒頭に出てくる「アヴェ・マリア」のタイトルで広く知られています。

少女エレンが湖畔で聖母像に祈りを捧げる情景を歌っている歌詞は、W.スコットによる叙情詩「湖上の美人」によるもの。

ピアノ伴奏の音形が特徴的で、伸びやかな旋律が美しく覚えやすいことから歌曲以外にもさまざまな楽器で演奏されています。

特に有名なのはドイツのヴァイオリニスト・ウィルヘルミが編曲した「ヴァイオリン独奏曲 ハ長調」。

静かで優しい雰囲気がクリスマスにふさわしい一曲です。

バッハ,グノー/アヴェ・マリア(Ave Maria)

この曲は、バッハの平均律クラヴィア曲集・第1部・第1番の前奏曲を引用した宗教的歌曲です。バッハの旋律を移調して伴奏部に使い、その上にグノーが新たな旋律を重ねました。

作曲者のグノーはフランス・ロマン派の作曲家で、宗教音楽や歌劇音楽の作品を数多く生み出した人物です。

「アヴェ・マリア」のタイトルを持つ曲はいくつもありますが、グノーの作品は特に有名であると言えるでしょう。

バッハ/カンタータ第147番「心と口と行いと生命と」(Herz und Mund und Tat und Leben)より コラール「主よ人の望みの喜びよ」

この曲はピアノやヴァイオリンなどの独奏で耳にする機会が多いですが、元は声楽の作品です。

全10曲で構成されるバッハのカンタータ147番の第6曲と第10曲にあたるコラールで、一般的に知られている「主よ、人の望みの喜びよ」というタイトルは、英語によるタイトル(Jesus, Joy Of Man’s Desiring)から生まれたもの。

後のヨハネを宿している妊婦の元を聖母マリアが訪れ、主の栄光を語る情景が歌われていて、キリスト教の祝祭の時期に演奏されることの多い曲です。

原曲のカンタータを忠実に再現したピアニストのマイラ・ヘスによるピアノ独奏版が有名で、プロのコンサートでもたびたび演奏されています。

讃美歌/「荒れ野の果てに」(Angels We Have Heard On High)

日本でもクリスマス時期になると街などでよく流れているため、「タイトルは知らないけどメロディは知ってる!」と感じる人が多いでしょう。

18世紀フランスで歌われていた踊りのための民謡が元となった賛美歌で、「グロリア」というタイトルでも知られるポピュラーなクリスマスソングです。

繰り返し出てくる『グロリア・イン・エクセルシス・デオ』という歌詞は「天高きところにいる神に栄光あれ」という意味のラテン語で、他国語でもそのまま歌われることが多い有名なフレーズです。

アンダーソン/そりすべり(Sleigh Ride)

「そりすべり」は、クリスマスに聴きたいクラシック曲を紹介する上で外せない一曲です。

作曲者のアンダーソンは20世紀アメリカの作曲家で、クラシックの中でも通俗的なものを指す「セミ・クラシック」の大家として知られた人物。聴いていて楽しくなるようなキャッチーな曲を多く残しています。

曲全体にわたってスレイベル(鈴)やウッドブロックなどの打楽器の音色が印象的で、そりで遊ぶ情景が生き生きと表現された陽気な曲です。

コレッリ/合奏協奏曲 第8番 ト短調「クリスマス」(Concerti grossi No.8 g-Moll “Fatto Per la Notte di Natale”)

合奏協奏曲(コンチェルト・グロッソ)はバロック時代のイタリアで起こった重要な器楽様式で、独奏楽器群と合奏楽器群の技巧や音色の対比が楽しめる構成になっています。

コレッリ作曲の合奏協奏曲「クリスマス」は「クリスマス協奏曲」とも呼ばれ、全12曲の合奏協奏曲集の中で最も広く知られています。

クリスマスの真夜中のミサのために作られた曲で、冬の夜の静けさからキリストの降誕を祝う歓喜の瞬間まで、全6楽章の曲の中に多彩な音楽表現が感じられる一曲です。

モーツァルト/アヴェ・ヴェルム・コルプス(Ave verum corpus)

「アヴェ・ヴェルム・コルプス」は、モーツァルトの妻であるコンスタンツェの療養を世話してくれた合唱指揮者のアントン・シュトールのために作られた作品。モーツァルトが亡くなる半年ほど前の1791年に作曲されました。

混声四部合唱に弦楽器、通奏低音(オルガン)を加えて演奏されるわずか46小節の短い曲ですが、自然な転調や半音階の多用に晩年のモーツァルト作品の特徴が見られる魅力的な曲です。

中音域の穏やかな音調や四分音符を基調としたシンプルで規則的な旋律は、素朴かつ単純でありながら、聴く人の心を穏やかになだめてくれるでしょう。

リストやチャイコフスキーがそれぞれピアノと管弦楽に編曲していることからも、名曲として認められていることがわかります。

ワルトトイフェル/ワルツ「スケートをする人々」(Les Patineurs Valse)

「スケーターズ・ワルツ」というタイトルでお馴染みの曲です。

作曲者のワルトトイフェルは『フランスのワルツ王』と称される作曲家で、指揮者としても活躍していました。

付点二分音符や四分音符を中心としたおおらかな旋律は上品で覚えやすく、当時から人気を集めていたようです。

19世紀後半のパリで流行していたスケートをテーマにしたこの曲は4つのワルツで構成されていて、生き生きとした力強さや、ゆっくりと大きく揺れ動く優雅な音楽の表現がとても楽しく感じられます。

クライマックスの総奏は華やかで、クリスマスの賑やかな雰囲気を盛り上げてくれる色鮮やかな楽曲です。

まとめ

賑やかで楽しげな曲、静かな癒しの曲、しっとりとした優しい雰囲気の曲など、クリスマスに演奏されるクラシック曲にはさまざまなバリエーションがあります。

ぜひあなたも音楽を通して、この季節ならではの特別な雰囲気を満喫してくださいね。