今年の吹奏楽コンクールは本当に個性的です。
ジャンルも曲の構成も全然違うので、自分のバンドに合った課題曲を見つけるのも楽しい時間になるでしょうね。

今回取り上げる課題曲Ⅲ「メルヘン」は、誰もが知っている大ベテランの吹奏楽作曲家・酒井格先生の作品です。一体どんな曲なのか?演奏ポイントについて詳しく解説していきます。

案内人

  • 川島光将指揮者・作曲家・編曲家 元・中学高等学校音楽教員、吹奏楽顧問 吹奏楽指導者協会・認定指導員 音楽表現学会会員 K MUSIC GROUP代表 現在はオーケストラ、吹奏楽、合唱、声楽など音楽全般の指導にあたる。

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メルヘン|2024年度吹奏楽コンクール課題曲

この曲のタイトルを見ると物語がある音楽かなと想像しますが、作曲家の酒井格先生はとくに何かストーリーを意識して作曲されたわけではないそうです。

まずは純粋に音楽を聴いて、そこからのインスピレーションを大切にしたいですね。

そして楽譜を読み込むことも、ものすごく重要です。楽譜に書かれていることはすべて作曲家からのメッセージなので、見逃さないように注意しましょう。

全体的な印象としては、これぞTHE 吹奏楽といった雰囲気の曲です。いたるところに「酒井流」のサウンドが聴こえてきます。

作曲家・酒井 格について

酒井先生については、もはや紹介するまでもないでしょう。
「たなばた」や「森の贈り物」など数多くの名曲を生み出した名作曲家です。
現在は音楽大学の客員教授も務めていらっしゃいます。

「好きな吹奏楽作曲家」の人気投票をしたら一位になるのではないでしょうか。そのくらい吹奏楽関係者に愛されている作曲家であると筆者は感じています。

今回の曲も酒井先生らしさ全開の課題曲ですね。演奏ポイントについて詳しく見ていきましょう。

演奏のポイント

長年吹奏楽に関わっている人ほど、この課題曲を選びたくなる気がします。演奏する側も聴いている側も、両方楽しめる曲となっています。

この楽曲は、どのパートも活躍できる部分があり、団員全員にとって満足度の高い演奏ができるという点が最大の特徴です。

これは学校現場ではかなり重要なことです。なぜなら、パートのレベルや活躍具合にあまりにも差があると、中には飽きてしまう子が出てきて部内の関係が悪くなることもあるため。このことからも、本作品は音楽的にも教育的にも大変優れていると言えるでしょう。

注意点を上げるならば、目まぐるしくテンポが変わるので個々のテンポ設定を明確にしておく必要があります。また、拍子や調性も次々と変わっていくので、最初は焦らずゆっくり楽譜にチェックをいれていきながら譜読みをするようにするとよいでしょう。

詳しく解説していきます。

出だしからC

出だしはAllegro vivaceです。生き生きとした演奏をしましょう。出だしの6小節間はまさに「吹奏楽」らしさ全開の部分です。

Marcato(マルカート)となっていますので、4分音符が重くならないように注意しましょう。2小節目のシンコペーションは、前の音の処理が大切です。短く切ることで2拍目の裏の音をクリアに入れることができます。ポップスでもよく出てくるこの演奏スタイルは、しっかりとマスターしておきましょう。

打楽器について、スネアはとくにスラーなどのアーティキュレーションを書かないのが普通です。そのため、スコアを見て自分の動きがどのパートと同じなのかを把握し、そのアーティキュレーションにそろえる必要があります。

3小節目はフルート、クラリネット、アルトサックスと同じですね。

4小節目のティンパニも、「酒井節」全開な雰囲気。目立つところですので、しっかりRL(どちらの手で演奏するか)を明確にして叩き方を統一しましょう。

Aからは和声の移り変わりをしっかり意識して演奏しましょう。強弱は大きな波のイメージで。Aで大きな波がきてその波が何小節かかけてひいていくイメージです。

Aの3小節目のアルトサックスソロは、テンポルバートに近い雰囲気でたっぷり聴かせましょう。

Bからはまた出だしのテーマが戻ってきます。雰囲気をパチッと変えたいところ。

Bの4小節目のように、同じ動きで今までと音が違うパッセージは難しいですね。フルート、クラリネットは指まわりの練習をしっかりして、違和感が出ないように注意しましょう。

Bの6,7小節目は、先ほどと同じ波のイメージ。1小節間でその波が来ているのがわかるでしょうか。波の頂点がティンパニであらわされていますね。そしてそのままCに突入して、波の頂点がずれて2小節目のあたまに来ています。まるでジェットコースターに乗っているかのような楽しい音の波です。

Cの3小節目はmeno mossoで「今までより遅く」です。テンポの変化も大事ですが、音色の変化を表すことも大事です。

Cの5小節目から低音となっていますが、しっかり目立たせましょう。こういった部分で音楽をより立体的に表現することができます。

DからG

Dから再びAllegro vivaceです。スネアが新しいリズムを刻んでいますね。この部分の音楽の柱となる大事なリズムです。正確にテンポ正しく演奏しましょう。

Dからはアーティキュレーションの変化がたくさんあります。
今までと同じ音でもアーティキュレーションが違うことがあるので、正確にとらえるようにしましょう。

Eからはトランペットにミュートをつけるなどして、音色の変化を求められています。音楽がいろいろな方法で展開していっていますね。

打楽器にタンバリン追加です。細かい刻みのタンバリンなので指先で叩くようにしましょう。Eの5小節目からはfでアクセントもついていて、シンコペーションをより強調する形になっています。

Fからはアクセントがさらに付いて、ひとつひとつの音がより強調されます。今までの柔らかい音楽から一転して、ここからは固く華やかな音が求められています。

Fの5小節目では曲の中ではじめてffが出てきます。トゥッティでとてもゴージャスな音が鳴る部分です。このあたりの楽器の鳴らし方を熟知した作曲は、「さすが!」の一言。演奏しているほうも聴いているほうも、気持ちが良いですね。

Gは4小節しかありませんが、この4小節で音楽の雰囲気を変えなくてはいけません。大きく盛り上がったあとは、まるで花火が打ちあがったあとのように少しだけの余韻で静かになります。

急なAdagioで、ppで、さらにdolceです。静かで優しい音楽で気持ちを整えます。ただし、急な転調をしていますので、演奏者は油断しないように!

Hから最後

ここからは拍も変わりさらに目まぐるしく音楽が変化していきます。

まずHはワルツです。3拍子だからといって、メトロノームで3拍子を刻んでしまうのはおすすめしません。ワルツは大きな1拍子の中に3つパルスがあると考えましょう。1拍目にエネルギーがきてあとは衰退していきます。「ブン、チャッ、チャ」の『ブン』がエネルギーのある部分です。

Hの5小節目のようにクレシェンドで1拍目に向かうエネルギーも生まれます。この音楽が自然に作れると素敵ですよね。これを機に、ワルツを聴いて学んでみるのもおすすめです。

Iからは再び4/4となります。TempoIで、雰囲気が再びパチッとなりますね。

Iの5小節目は再びトゥッティでゴージャスなサウンド!音型を揃えるのが難しいですね。低い音は音が残らないようにしましょう。

KからはMaestosoです。ティンパニがものすごく重要。出だしをはっきり出してあとは裏方にまわりましょう。

Kの3小節目からの音楽の流れが目まぐるしいですね。poco rit.で、accel.で、Allegro vivace。複雑そうですが、音楽の流れを作っていけば自然に表現できます。これは指揮者、指導者側が明確な音楽を提示して奏者を引っ張っていきましょう。

2拍3連符はちょうど他のセクションが3連符を作っているので、3分割しやすいですね。

Lからはまさかの6/8です。まだまだ音楽(メルヘンな世界)は終わりません!poco meno mossoなので、少し落ち着いて演奏しましょう。

6/8のキャラクターもしっかりイメージしたいですね。分かりやすい例をあげるなら、グリーンスリーブスのような雰囲気でしょうか。

Mからまた4/4で一気に最後まで駆け抜けていきます。クレシェンドで4小節目でffです。スネアのロールをしっかり聴かせたいですね。

Nの5小節目のティンパニは、まさに「酒井ワールド」。フルート、クラリネットの16分休符のあとの入りが遅れないように注意です。

まとめ

課題曲Ⅲは、一曲を通して様々な世界を見せてくれる「メルヘン」な曲でした。
吹奏楽ファンにとってはうれしい課題曲となりましたね。

ややエネルギーのいる曲なので、大編成の団体が選ぶことが多いかもしれません。どのパートも活躍できるということは、逆を言えばどのパートも欠かすことができないということです。

まさに個々の実力を発揮するにはもってこいの楽曲。コンクールだけでなく、演奏会でも活躍しそうな音楽ですね!