今年度から課題曲が4曲になりました。このことがコンクールにどのような変化を生むのか……気になりますよね。
例年の課題曲Ⅴは高校生以上が対象でしたが、今年度は課題曲I〜Ⅳ全て中高共通となり、年齢問わず同じ曲に取り組むことができます。これは、少子化による合同バンドや、地域移行に対応するための対策とも言えるでしょう。
さて今回は課題曲Ⅳです。
他の課題曲と比べて、どういった特徴があるのか、詳しく解説していきます!
案内人
- 川島光将指揮者・作曲家・編曲家 元・中学高等学校音楽教員、吹奏楽顧問 吹奏楽指導者協会・認定指導員 音楽表現学会会員 K MUSIC GROUP代表 現在はオーケストラ、吹奏楽、合唱、声楽など音楽全般の指導にあたる。
フロンティア・スピリット|2024年度吹奏楽コンクール課題曲
「フロンティア・スピリット」には、失敗を恐れずに前進する人を讃えたいという意味が込められているとのこと。これは、コンクールに臨む奏者に向けてのメッセージかもしれません。
こちらの課題曲も、ある程度は各バンドの実態に合わせて対応してくださいとスコアに書かれています。
バンドの人数やパートの偏りなどを考慮して、うまくオリジナルの演奏ができると良いですね。
作曲家・伊藤 宏武について
作曲家の伊藤宏武氏は、ビッグバンド・ジャズを主としていらっしゃいます。
ご自身もサックスをプレイされており、演奏者視点での作曲がなされていそうですね。
さまざまなタイプの経歴をお持ちの方が、課題曲を担当してくださるのは演奏者側として嬉しいですよね。
ジャズならではの和声進行、演奏技法、音楽の流れが期待できますし、低音などの扱いも他の作曲家とは違うこだわりがあるかもしれません。
演奏のポイント
この曲のポイントはズバリ「休符」です。
メロディラインにも休符がありますが、これは決して「音を止める」「休む」ということではありません。フレーズを大きくとらえ、その中に休符、間があると認識してください。
そして休符が書いてあることのもうひとつの意味は、八分休符や十六分休符の次の音の入りをはっきりさせてほしいからです。一般的には休符を書かないところも、丁寧に休符を入れてくださっています。その意味をとらえて演奏しましょう。
全体的には音域なども演奏がしやすい楽譜です(後半ややタンギングが難しいところはありますが……)。特に打楽器奏者のセンスが発揮される曲だと筆者は思います。
大編成での迫力あるサウンドでも、小編成の繊細なサウンドでも、どちらでも楽しめそうな「フロンティア・スピリット」の演奏ポイントについて詳しく見ていきましょう!
出だしからB
出だしは金管のファンファーレのようなスタートです。
一発目のチューバの音が初心者の方にはやや緊張してしまうかもしれませんね。
打楽器パートは完全に独立しています。伊藤氏も書いておられますが、打楽器が音楽の流れを作っています。スネアのリズムをしっかり目立たせましょう。
9小節目からはメロディが木管に移ります。
トロンボーンはとくに強弱記号は書かれていませんが、音量を考えて木管のメロディを聴いて演奏しましょう。
13小節目は、どのパートがどのセクションを担当しているかをしっかり確認する必要があります。同じ動きのパート同士で練習することが効果的ですね。
15、16小節目のクレシェンドfですが、各楽器の「ちょうど鳴らしやすい音域」で書かれています。現場を知っている作曲家ならではのポイントで非常にありがたいですね。
18、20小節目の打楽器がかなり重要。各パートが休符の中に出てきていますが、これはいわゆる「合いの手」です。大きなフレーズを意識して演奏しましょう。
Aからのメロディラインは、まさに先ほど解説した「休符」のとらえ方です。
8小節間の大きなフレーズの流れを意識してください。
スネアも、フレーズの意識が重要です。
パート譜だけ見ていてもわかりにくいので、必ずスコアで音楽の構成や流れを理解しておきましょう。
Bからは音楽の流れが変わります。アーティキュレーションを正確に。
ホルンはアクセントが書かれていますが、裏拍の意識をつけるためのアクセントですのであまり強調しすぎないようにしましょう。
各パートによってダイナミックを変えてある、とても親切な楽譜です。その意図を読み取ってバランスの良い演奏(メロディ、伴奏、低音)を目指しましょう。
CからE
Aで出てきた音楽が展開されていきます。
フルート、クラリネット1、グロッケンパートは音量注意です。
特にグロッケンは音が残りやすいので、マレットを変えるなどして工夫しましょう。
Dからは低音に細かい動きが出てきます。音の立ち上げをよりクリアに。
スネアもかなり細かい音が出てきますが、音の骨格をとらえてすべての音を同じ音量で叩くことのないようにしましょう。Dの4小節目を例にすると、楽譜上は細かい音符ですが、音の骨格は4分音符がふたつ並んだ楽譜です。
拍の頭にエネルギーが出ますが、そこ以外は衰退していくのが基本です。
タン タタ ・ タタタ タン
スネアの演奏が重く感じる場合はこういったところに原因があるかもしれませんね。
74小節目から転調しています。ここのカデンツをしっかり意識しましょう。
アーティキュレーションでテヌートが細かく指示されています。この部分はセクションでしっかりハーモニーを作るようにしてください。
78小節目のトリルもしっかり揃えたいですね。グロッケンをトリルにしていないあたりがさすがですね。伊藤氏は現場をよく分かっていらっしゃる。
EからG
Eからはトランペットとユーフォニアムのソロです。ふたつの音色を混ぜて、優しい音色にしましょう。ユーフォニアムの深い音にトランペットを溶け込ませるイメージです。
Fからメロディが違う楽器に受け継がれます。フルートとクラリネットですね。ここでも音色を混ぜる意識が大切です。打楽器は音量を抑えて、音楽を支えてあげてください。
Gから音楽がガラリと変わります。アクセント、スタッカートというかなりこだわった表記です。臨時記号をうっかり見落とさないように注意しましょう。
ティンパニとグロッケン、スネアが同じ動きというのも、やや珍しい気がします。ここでもグロッケンは無理なトリルがなくてよいですね。
132小節目からのトランペット、ホルンのタンギングは、やや難易度が高いかもしれません。シングルではなくダブルタンギングが有効でしょう(トリプルタンギングでもできれば可)。ちなみに、「ホルンはタンギングが難しい場合は8分音符でも良い」との作曲者からの注意書きもあります。
Hから最後
Hからまた転調します。
曲全体を通してフラット系の調性というのも、演奏のしやすさを意識したからでしょうか(シャープ系は、フルートなどの楽器は演奏しやすいですが、B管やF管の楽器にとってはやや演奏しにくいですよね)。
Hからテーマが戻ってきました。音程が上がっているのでより開放感や高揚感が増すように作曲されています。Hからの打楽器もその調性の違いをしっかり感じましょう。強弱記号では表せない躍動感がほしいところ。
153小節あたりからの臨時記号に注意です。楽器によってはやや出しにくかったり、ピッチの揃いにくい部分があります。
そしてIに向かってのエネルギー。cresc.でrit.です。
Iの1拍前とIの最初の音はカデンツです。このハーモニー進行がバチッと決まるとかっこいいですね。
IからはMolto Grandiosoとなっており、テンポも設定されています。あまり壮大に演奏しすぎると音楽が停滞してしまいますので、あくまで速度記号の範囲での演奏にしておきましょう。
170小節目からはいよいよフィナーレ。ユニゾンから音がパート内で別れたときにしっかり音量を増してハーモニーを作りましょう。ユニゾンで頑張りすぎると後半の盛り上がりが作れなくなるので注意です。
JからはTempo primoで、元の速度に戻ります。全体の音楽の流れを認識して曲作りを行うと良いですね。スネアのアクセントの位置にも注目。RかLかの使い分けをしっかりしてください。
最後の2小節をしっかり揃えて、壮大に終えることができると良いですね。
まとめ
基本に忠実で、学校現場を意識した取り組みやすい課題曲だと思います。
バンドによって大きな個性を出しやすい曲ではないですが、大編成でも小編成でもしっかり聴かせられる音楽を創ることができるでしょう。
メトロノームだけで練習するとやや味気ない曲になってしまいますので、何度もお伝えしたように大きなフレーズでとらえることが大切です。分かりやすく楽譜にフレーズを記しても良いかもしれません。
今年の課題曲は4曲とも全然違うタイプの曲です。
どの学校がどの課題曲を選ぶのか……コンクール当日の演奏が今から待ち遠しいです!