カノンと聞けばクラシックの名曲『パッヘルベルのカノン』を想像する人が多いでしょう。誰もが一度はピアノで弾いてみたいと思う名曲の一つと言っても過言ではありません。

実は、カノンはピアノ初心者から上級者まで、それぞれのレベルに合わせて演奏を楽しむことができます。そのため、ピアノを始めたばかりの人でも「まだ早い…」なんてことはないのです。

そこで本記事では、パッヘルベルのカノンのおすすめピアノ楽譜を難易度別にご紹介します!さらに、より演奏を楽しんでいただけるよう、カノンについての解説や、演奏のコツについて詳しく解説していくのでぜひ参考にしてみてください。

案内人

  • 古川友理名古屋芸術大学卒業。 4歳よりピアノを始め、伊藤京子、深谷直仁、奥村真の各氏に師事。 地元愛知県三河地方を中心に器楽、声楽、合唱伴奏者として活動する傍ら、島村楽器音楽教室等でピアノ講師として勤める。

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そもそもカノンとは?

カノンとは、同じメロディを複数の声部で異なるタイミングから追随する楽曲形式のことです。複数の独立した声部から成るポリフォニー音楽の一種で、タイミングをずらしながら印象的な旋律が各声部に現れます。

日本語では「輪唱」と訳されることもありますが、全く同じ旋律が繰り返される輪唱に対し、カノンは和声や曲の進行に合わせて旋律の音やリズムが一部変えられる場合があります。

パッヘルベルのカノンは、規則的な形式美だけでなく、コード進行の美しさも魅力の一つ。「D-A-Bm-Fm-G-D-G-A」のドラマチックかつ心地よい和声進行は「カノン進行」と呼ばれ、バロック以降のクラシック作品にとどまらず、現代のJ-popや洋楽などさまざまな楽曲に取り入れられています。

たとえばわかりやすいのが、スピッツの『チェリー』のAメロ部分です。カノン進行が繰り返されているのがおわかりいただけるでしょうか?

ピアノ演奏カノンの難易度はどのくらい?

パッヘルベルのカノンの正式名称は『3つのヴァイオリンと通奏低音のためのカノンとジーグ ニ長調』です。曲名からもわかる通り、ピアノ独奏のための作品ではありません。

そのため、ピアノで演奏する場合はヴァイオリン3パートと主にチェンバロなどの鍵盤楽器が担当する通奏低音のパート、計4つのパートを10本の指で同時に奏でる必要があります。

このように考えるとハードルが高く感じるかもしれませんが、ご安心ください!パッヘルベルのカノンは、原曲がピアノ作品でないからこそ、編曲版のピアノ楽譜も多種多様。さまざまな難易度別に楽譜があるので、習い始めたばかりの方やお子さまから、中・上級者まで自分のレベルに合った楽譜で演奏することができるのです。

カノンの無料楽譜

無料楽譜ダウンロードサイトIMLSPにて、無料でカノンの楽譜を手に入れることができます。ひとまず、なんでもいいからカノンを弾いてみたい!という方はこちらの楽譜を活用してみるのもいいでしょう。

IMLSPの使い方については下記記事をご参照ください。

カノンのピアノ楽譜おすすめ:①初級・子供向け

ここからは、さまざまな難易度のパッヘルベルのカノンの楽譜を、演奏動画とともにご紹介していきます。まずは、シンプルでありながらカノンの雰囲気を充分に楽しめる初級・子供向け楽譜をご紹介します。

ぷりんと楽譜(アレンジャー:安田 すすむ)

左手は全音符のみ、メロディを演奏する右手も非常にシンプルにアレンジされた初級向け楽譜です。原曲は調号♯2つのニ長調ですが、調号なしのハ長調にアレンジされているため、ほぼ白鍵のみで演奏できます。音名のふりがな付きで、独学で取り組む方にもおすすめです。

【ピアノ楽譜ソロ】パッヘルベルのカノン(J.Pachelbel)

Piascore(アレンジャー:anytimePIANO)

こちらもハ長調のアレンジ。左手の音域がやや広く跳躍も含まれますが、すべての音に指番号が記載されているので、指使いに迷うことなくスムーズに練習を進められるでしょう。

カノンのピアノ楽譜おすすめ:②中級

ある程度両手奏に慣れてスムーズに譜読みできるようになったら、調性とリズムが原曲により近い中級レベルのアレンジに挑戦してみましょう。

Piascore(アレンジャー:Kazumasa Aramoto)

アルペジオの和音から始まる、バロック音楽らしさを感じられるアレンジです。7連符の装飾音や16分音符の旋律、三和音の連続などが含まれ、充実した響きを楽しめます。

ぷりんと楽譜(アレンジャー:大宝 博)

左手の変則的なリズムや3連符によってロマンチックな雰囲気を味わえる、美しいアレンジです。バロック作品の形式美を残しつつも、自由度の高い編曲となっています。

【ピアノ楽譜ソロ】カノン 〜美しく響くピアノソロver.〜(J.パッヘルベル)

カノンのピアノ楽譜おすすめ:③上級

ヴァイオリンと通奏低音で演奏される原曲に近い演奏を目指したい方には、上級向けアレンジに挑戦しましょう!難易度は高めですが、複数の声部が重なり合うことで生み出される美しいハーモニーを楽しめます。

kokomu(アレンジャー:CANACANA family)

右手のメロディの中に和音や重音、16分音符の連続が含まれている上級者向けアレンジです。メロディの横の流れを大切にしながら、メロディとその他の部分で音量や音質を弾き分けることで、よりバロック音楽らしい演奏に仕上がります。

ぷりんと楽譜(アレンジャー:斎藤 雅広)

J.S.バッハの『シンフォニア』や『平均律ピアノ曲集』を演奏するときのような、声部を弾き分けるテクニックを要するアレンジです。難易度は非常に高いですが、今回ご紹介した中で最も原曲の響きに近い編曲と言えるでしょう。

【ピアノ楽譜ソロ】パッヘルベルのカノン(Johann Pachelbel)

ピアノカノンを上手に演奏するコツ

カノンを演奏する際に押さえておくべきポイントは、どのような難易度・アレンジの楽譜でも共通しています。

カノンをピアノで美しく演奏するためのポイントは以下の3つです。

フレーズのまとまりを感じる

最初に押さえておきたいポイントは、フレーズを感じて演奏すること。まとまりを意識することで、規則的で美しい和声の流れや、それに沿って展開されるメロディの重なり合いがより際立ちます。

カノンでは、「D-A-Bm-Fm-G-D-G-A」のカノン進行を一つの音楽的まとまりとして、曲が展開されていきます。実際の楽譜を見てみましょう。

こちらの楽譜では、2小節でカノン進行1セットとなっており、フレーズを示すスラーが付けられています。

同じ楽譜内の別の箇所を見てみると、スラーが1拍ごとに付けられています。これは、演奏時のニュアンスを表すもので、フレーズのまとまりを示すスラーではありません。

パッヘルベルが残した楽譜にスラーは書かれていないため、ピアノ譜に記されているのはアレンジャーが加筆したもの。アレンジによって4小節でカノン進行1セットとなっている場合もありますが、1セットで1フレーズという考え方は変わりません。

特にスラーが書かれていない場合は、自分で書き加えたりフレーズの変わり目に線を引いたりして、一瞬でまとまりが把握できるようにしておくとよいでしょう。

左手のリズム・テンポを安定させる

カノンといえば、何度も繰り返される穏やかなメロディラインが印象的ですよね。旋律を奏でる右手に意識が向きがちですが、実はベース音を含む左手のパートを安定させることが重要なポイント。ピアノで演奏する際に左手が担当するのは、バロック音楽において曲の支えとなる通奏低音(低音部の旋律)のパートなのです。

曲の進行とともに左手のリズムや音域が変化しても、「レーラーシーファーソーレーソーラ」のベース音の流れは変わりません。

カノン形式を美しく演奏するためには、この規則的なベース音のリズムを正しく刻むことが不可欠です。安定感のある演奏に仕上げられるよう、左手のベース音とメロディのみを取り出して両手奏の練習をするのもおすすめです。

強弱をつけて表情豊かに演奏する

カノンに限らず、バロック時代の作品の楽譜には古典派やロマン派以降の作品のように強弱が細かく記譜されていないのが一般的です。しかし、アレンジャーの考える最適な強弱記号が書き加えられていることもあります。

カノンでは同じコード進行が繰り返されるため、単調な演奏になりやすいのも特徴の一つ。

強弱記号や表現記号がほとんど書かれていない場合や、より表情豊かな演奏に仕上げたい場合は、音価が長い(全音符や2分音符)部分や音域が低い部分はpやmp、リズムが細かい部分や音域が高い部分はmfやfにするなど、強弱を工夫してみましょう。

まとめ

ピアノで演奏してみたいと憧れる方も多い『パッヘルベルのカノン』。原曲が同じでも、調性やリズムの切り取り方、音の重ね方などのアレンジの違いによって曲の印象が大きく変わります。

ぜひ、難易度や弾きやすさだけでなく、音の響きや曲全体の雰囲気にも注目して、ご自分に合った楽譜で演奏を楽しんでみてくださいね。