子供の習い事として昔から人気の高いピアノ。長く楽しく続けていくには、教室選びや先生との相性だけではなく、楽譜選びも非常に重要です。

「子供たちが興味を持ってくれる楽譜はどれ?」
「どうやって選べばいいの?」
そんな疑問にお答えするべく、ピアノ講師である筆者の経験も踏まえて、楽譜選びのコツをご紹介します。

案内人

  • 古川友理名古屋芸術大学卒業。
    4歳よりピアノを始め、伊藤京子、深谷直仁、奥村真の各氏に師事。
    地元愛知県三河地方を中心に器楽、声楽、合唱伴奏者として活動する傍ら、島村楽器音楽教室等でピアノ講師として勤める。

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目次

子供のピアノ練習用楽譜の選び方


子供のピアノ練習用楽譜を選ぶときに注目してほしいポイントは以下の3つです。

  1. ピアノを始める年齢やレベルに合っているものを選ぶ
  2. 複数の楽譜を併用する場合は、進度や進め方の方向性が同じものを選ぶ
  3. 挿絵が多いものや歌詞付きのものを選ぶ

一見、ピアノの練習と関係あるの?と思うこともありますが、知識や技術を詰め込ませることだけが教材の役目ではありません。次項から詳しく解説していきます。

ピアノを始める年齢やレベルに合っているものを選ぶ

2~3歳でピアノを始めるなら、絵本のような楽譜がおすすめ。読み聞かせのようにレッスンすると、ピアノに触れたい、音を聞きたいという気持ちを引き出すことができます。

ある程度会話ができるようになる4〜5歳の子供には、1音、または2音など少ない種類の音で作られた短い曲を集めた楽譜がおすすめです。

導入の楽譜選びがしっかりとできれば、その後進めていく楽譜は上達や理解度のスピードで決めていけるのでそこまで難しくはありません。

複数の教材を併用する場合は、進度や進め方の方向性が同じものを選ぶ

テクニックの本、メインテキスト、ワークブックなどを併用する際は、進め方が統一されたものを選びましょう。

例えば、メインテキストは中央ド(真ん中のド)から両手を使って進めていくスタイルなのに、ワークブックはト音記号の音だけ(右手で弾く範囲のみ)となると、子供たちが学ぶ範囲が広がり過ぎてしまいます。

この場合は、進め方や進度を揃えて学べる同シリーズのテキストとワークを併用したり、思い切ってワークの導入を見送ることも選択肢のひとつです。

挿絵が多いものや歌詞付きのものを選ぶ

挿絵なんて…と思うかもしれませんが、楽譜を開いてまず子供たちが興味を示すのは、音符ではなく可愛いキャラクターやお花の絵。これは筆者がレッスンをしながら何度も経験していることです。

お家でも開きたくなる楽しい・可愛い楽譜であることは、子供たちの興味を惹きつける楽譜の条件として大切なポイントです。

また、歌が好きな子供には、歌詞付きの曲が多く含まれている楽譜を選んであげましょう。歌い方の工夫で譜読みの練習にもなりますし、白を手拍子しながら歌うのも効果的です。

【初級】子供のピアノ練習におすすめの楽譜

ここからはおすすめの初級楽譜をご紹介します!
一曲一曲が短く、集中力がない子供でもサクッと進められる楽譜をピックアップしました。

はじめてぴあのをならうこのために ぴあの どりーむ [幼児版]・1|学研プラス

淡く優しい色合いのイラストで女の子に大人気の楽譜です。
全9巻のシリーズで、同シリーズのワークブックやレパートリー集も出版されていて併用にも便利。幼児版は音数が非常に少なく、指が独立して使えない3~4歳以下の子供にぴったりです。

ト音記号とへ音記号の譜読みの進度のバランスが良いので、左手で弾くことやへ音記号の読み方をスムーズに学べます。

ピアノ ひけるよ!ジュニア 1|ドレミ楽譜出版社

このシリーズには子供たちの馴染みのある曲がいっぱい!
こちらも、中央ドから徐々に弾ける範囲を増やしていくスタイルで、音が少ないながらも補助伴奏なしで1人で素敵に一曲を完成させられるアレンジとなっています。

同シリーズにはワークブック、テクニック用テキストもあるので、併用してのレッスンも可能です。

発表会でも立派に演奏できる曲ばかりなので、ピアノが弾けたという喜びと達成感を実感してもらえます。

バスティンピアノベーシックス ピアノ(ピアノのおけいこ)プリマーレベル・レベル1|東音企画

日本人の子供たちにとっては馴染みのない曲調・メロディーの曲が多いですが、どの曲もひとひねり効いたおしゃれなものばかり。
ジャジーなリズムなどが早い段階で登場するので、ノリの良さやリズム感の良さを伸ばしてあげることができます。

ピアノを効果音のように使う動きのある楽曲が多いので、集中力が続かないちょっとやんちゃな男の子にもおすすめです。


【中級】子供のピアノ練習におすすめの楽譜

初級で学んだピアノの基礎を土台に、さらに表現力や演奏技術を磨く練習ができる楽譜をセレクトしました。

4期のバロック・古典・ロマン・近現代 ピアノ名曲集③|学研プラス

ピアノ曲は、バロック・古典・ロマン・近現代の4つの時代に分けられます。

メロディーラインの層で音楽が紡がれるバロック時代、伴奏とメロディーの役割が明確になり始める古典派、表現の幅が広がるロマン派、不協和音やピアノを打楽器的に使う新しい響きが新鮮な近現代。
この曲集では、それぞれの名曲をバランスよく勉強することができます。

①~④にレベル別に分かれていて、①、②は見開き2ページで完結するやさしい曲が多く、初級楽譜としてもおすすめです。
③、④は発表会曲として、そしてコンクール課題曲としてもメジャーな曲が多数収録されています。

ピアノ名曲110選 グレードA|ドレミ楽譜出版社

誰でも一度は聴いたことのある名曲ばかりが厳選された名曲集です。
グレードA・B・Cそれぞれレベル別に110曲収録されており、Aはバイエル後半からソナチネ後半程度となっています。

有名曲ばかりなので、知っている曲を弾けた時の喜びは子供自身が上達を実感できるきっかけとなり、ピアノを続けるモチベーションにもつながります。

プレ・インベンション J.S.バッハインベンション-の前に|全音楽出版社

幼児用楽譜や初級楽譜では右手と左手の役割がはっきり分かれているものが多いため、いきなりポリフォニー(左右どちらともメロディーラインを奏でる様式)の曲を与えてしまうとパニックに陥る子供も多くいます。

そんな時におすすめしたいのがこの曲です。プレ・インベンションはポリフォニーの導入にぴったり。「バッハの曲は難しいから弾きたくない」と苦手意識を持ってしまう前にぜひ挑戦してみてください。

【有名曲】子供のピアノ練習におすすめの楽譜

ピアノを習っていく上で、誰もが一度は手にする王道のピアノ曲集をご紹介します。

ブルグミュラー25の練習曲|全音楽譜出版社

ブルグミュラーによる25曲の短めの曲が集められた一冊です。
曲調のバランスが良く、全てを一通り練習していっても飽きない構成となっています。

ある程度譜読みがしっかりできるようになり、手の形も気を付けながら指を動かせるようになった頃に取り入れるのがおすすめです。

ソナチネアルバム1|全音楽譜出版社

ソナチネというのは、ソナタ形式で書かれた曲の中で規模の小さいもののことを指します。
一曲が性格の違う複数の楽章で成り立っているのも特徴です。

曲の形式、楽章間で共有されているテーマなど、ただ曲を弾くだけではなく一歩踏み込んだ指導を始める際の入り口となる楽譜のひとつとして、昔から変わらず親しまれています。

J.S.バッハ インヴェンションとシンフォニア|全音楽出版社

バッハの曲は難しくて弾きにくいと苦手意識を持つ子供は少なくありません。
しかし、複雑な曲である分、自分で楽譜を読み解く力が身につきます。

コンクールを目指す子供や、生涯ピアノを弾きたいと思っている子供であればバッハの作品から得られるものはかなり大きいでしょう。
曲の構成やテーマの重なりなどの説明を加えながらポリフォニーの理解を深めるために重要な楽譜です。

【テクニックを育てる】子供のピアノ練習におすすめの楽譜

ピアノを楽しく、自由な表現で弾けるようになるためには、弾く時の手の形や指の使い方が重要です。
そこで、テクニックを育てることに特化した練習曲をご紹介します!メインの楽譜にプラスする形で、効果的に取り入れてみてくださいね。

全訳ハノンピアノ教本|全音楽出版社

指慣らしの教本として昔から定番のハノン。
ピアノ教師であったハノンによって考案された60の練習で、5指をバランスよく使った練習曲によって手の形や指の形、打鍵する力などを養っていきます。

リズム、強弱、テンポを変えるなど、先生や親が練習の仕方をガイドして、子供が飽きずに練習できるようサポートしてあげましょう。

こどものツェルニー100番 効果的な24曲でしっかり身につくテクニック|全音楽出版社

ベートーヴェンの弟子であったピアニスト、ツェルニーによって作曲された練習曲は、どれもピアノ学習者たちの定番の練習曲として昔から親しまれています。

ツェルニー100番は、それぞれのテクニック面の課題に合わせて抜粋で進めていくことが多いのですが、この教本ではあらかじめ克服したい課題とともに重要な曲をピックアップしてくれています。
また、見開きページで完結するよう構成されているので、飽きずに進められるのも嬉しいポイントです。

表現のためのピアノテクニック キャロリン・ミラー ピアノスポーツ1|全音楽出版社

一曲一曲が短く、課題をひとつずつクリアしながらテクニックを育てられる楽譜です。

おすすめポイントとしては、バスケットやサッカーといったメジャーなスポーツの技や動きに曲が例えられ、ユニークなイラストも添えられているところ。

テクニックを磨けばもっと自由に楽しく弾けるんだということを伝えながら、スポーツの動きの話題も織り交ぜ楽しくレッスンに取り組むことができます。

楽典の知識を付けるのにおすすめのワークブック

ピアノを習う際に楽譜と併用したいのが、楽譜の決まり事や音符の書き方などを自分で書いたり覚えたりして学ぶワークブックです。
練習曲で説明するよりも、実際に自分で書いたり問題に取り組みながら学ぶ方が覚え方のスピードが断然早い!ぜひ併用してみてください。

いちばんやさしい3歳からのソルフェージュ 解説付き|ヤマハ

歌いながら楽しく楽典要素を学べるワークブックです。
5歳からの教材もあり、それぞれ『へおんきごう編』との2部構成となっています。

子供がピアノに向かうことに飽きてしまったとき、音符を書く練習や色塗り、歌に切り替えるなど、レッスン中の気分転換に使うこともできます。
解説付きなので、家で楽譜について教えてあげたい親御さんにもおすすめです。

ジュニアクラスの楽典問題集|ドレミ音楽出版社

小学生の子供には、問題集でたくさん問題に答えながら音楽に関する知識を身につける教材を取り入れましょう。

この問題集では、学校の音楽で習う内容とも重なる部分があるようで、実際に筆者がレッスンを担当した生徒から「学校でみんなに教えてあげたんた!」とうれしそうに報告してくれたこともありました。

レッスンで先生に指摘されたり楽譜に注意書きされた内容より、自分で問題に取り組んだり書く練習を何度もした内容の方が、記憶の中により深く刻まれます。

みんなだいすき!リズムのほん1|学研プラス

書いて覚えるのでは無く「動いて覚える」教材です。
音符や休符がリンゴの数で表された可愛らしいイラストで説明した後は、リズムを叩いて音符や休符の形と長さを結び付けていきます。

リズムを覚えられると同時に一定の速さで叩くテンポ感も養うことができるのも嬉しいポイントです。

「ピアノの練習は家でやりたくないけど、リズム練習ならやりたい!」と夢中になってくれる生徒も多いことから、子供ウケは間違いありません。筆者イチオシです!

楽しく弾けることが最も大事!


子供に合った楽譜を選び、進度に合わせて教材を適切に組み合わせていくことは、ピアノの上達に大きく影響するのは確かです。
しかし、一番大切にしたいのは「楽しんで弾けているかな?」ということ

「覚えて!練習して!」と無理やりピアノに向かわせるのではなく、ピアノを続けていきたいと思えるような環境づくりをしてあげることが最も大切です。

そのためにも、子供のやる気を引き出し、楽しんでピアノに向き合ってもらえるような楽譜選びを心がけましょう。

まとめ

子供向けのおすすめ初級・中級楽譜、楽典のワークブックをご紹介しました。
どれもピアノ講師である筆者イチオシです。

「これの次はこれ!」と型にはめずに、子供の個性や進度に合わせて柔軟に対応し、ピアノの楽しさをより感じさせてあげられる楽譜選びを心がけましょう。