【SNSとクラシック】新時代のピアニスト、ティファニー・プーンの挑戦(2)

前回の記事:【SNSとクラシック】新時代のピアニスト、ティファニー・プーンの挑戦(1)

④音楽の力を信じて 〜クラシック音楽の変化と伝統〜

Tiffany Poon – Rachmaninoff Sonata No.2, Op.36

 21世紀にクラシック音楽を弾き続ける意義とは何か。社会になにか大きな事件が起こった時、その問いはよりいっそう切実なものになります。Tiffanyは2017年10月5日、フェイスブックに次のような投稿をしています。

“I’ve been silent for a few days because I couldn’t think of anything constructive to say about the recent tragedies. Of course I wanted to say “I wish there will be world peace someday” – but that just didn’t seem appropriate. Nothing I say would have been enough. It wouldn’t have eased the pain and suffering.
But at the same time, I didn’t want to seem like violence and injustice have silenced me. So with this post, I encourage every single one of you to send love to your family, friends and loved ones, whether it’s helping them with whatever needs, writing them a nice note, giving them a hug, or playing music for them. Xo.*8

(訳:ここ数日沈黙していたのは、最近の悲劇について建設的なことをなんら言えるとは思えなかったから。もちろん「いつの日か世界平和が訪れますように」と言いたかったけれど、そうするのが適切だとは思えなかった。どんなことを言ったところで、十分ではなかっただろう。痛みや苦しみも癒すことはなかっただろう。
でも一方で、暴力や不正が私を沈黙させたとは思われたくなかった。だからこの投稿をきっかけに、あなたがた一人ひとりが家族や友人、愛する人に向けて、どんな形であれ手助けしたり、感謝の言葉を書き送ったり、ハグしたり、音楽を奏でたりして、愛を伝えてください。)

「悲劇(tragedies)」とは2017年10月1日のラスベガスにおける銃乱射事件のこと。かくも途方も無い暴力を前に音楽に何ができるのか。Tiffanyは、無力感にさいなまれながらも、一人の音楽家として、ラフマニノフの音楽に、言葉にならぬ思いを託しました。

Tribute to JFK

 暴力に対して音楽で答えたTiffanyの言葉と音楽とは、20世紀を生きた一人の音楽家を思わせます。1963年11月22日、当時のケネディ大統領がダラスで凶弾に倒れたとき、彼の友人であった指揮者レナード・バーンスタインLeonard Bernstein (1918-1990)は、マーラーの交響曲第2番「復活」を演奏することによって、暴力に対抗し、希望の「復活」へと人々を鼓舞しました。そのとき、バーンスタインは次のような言葉を残しています。

“We musicians, like everyone else, are numb with sorrow at this murder, and with rage at the senselessness of the crime. But this sorrow and rage will not inflame us to seek retribution; rather they will inflame our art. Our music will never again be quite the same. This will be our reply to violence: to make music more intensely, more beautifully, more devotedly than ever before. And with each note we will honor the spirit of John Kennedy, commemorate his courage, and reaffirm his faith in the triumph of the mind.” *9

(訳:私たち音楽家は、みなさんと同様、この殺人に対する悲しみと、犯罪の愚かさに対する怒りとで呆然としています。しかし、この悲しみと怒りが私たちの復讐の念に火を付けることはない、むしろ私たちの芸術に火を付けることでしょう。私たちの音楽は以後、同じものではあり得ません。暴力に対する私たちの答えは、こうです。音楽を、かつてなく、もっと力強く、もっと美しく、もっと懸命に奏でること。そして、私たちは、その一音一音を以って、ジョン・ケネディの精神を讃え、彼の勇気を記念し、知性の勝利への彼の信念を再確認するのです。)

バーンスタインは、スター指揮者として、クラシック音楽と人々をつなぐ橋となった音楽家でした。「クラシック音楽の喜びを共有したい」という彼の熱意は、伝説的なテレビ番組「The Young People’s Concerts on CBS」 (1958–1972) に結晶しました。バーンスタインはクラシック音楽の魅力を伝える手段として、テレビという、時代を象徴するメディアを味方にしたのです。

時を経てTiffanyもまた、SNSというメディアを通じて、クラシック音楽と人々をつなぐ橋になるべく挑戦を続けています。「音楽を、かつてなく、もっと力強く、もっと美しく、もっと懸命に奏でること」というバーンスタインの精神は、新たな時代を生きる音楽家に受け継がれようとしているのです。

Tiffanyの旅はまだまだ始まったばかり。私たちもSNSをフォローしたり、動画を評価したり、コメントしたり、Patreonで支援したり、様々な形でその旅を応援することができます。

さて、新時代のピアニストTiffany Poonは、これからどんな音楽を聴かせてくれるのでしょうか。もしかしたら、彼女が日本で演奏する日も近いかもしれません。

Tiffany Poon – Chopin Nocturne Op.27 No.2 (2018)

*8 https://www.facebook.com/tiffanypoonpianist/videos/1570982749659287/

*9 https://nyphil.org/~/media/images/about-us/Times-of-Strife/times_of_strife_bernstein_on_jfk.ashx?la=en (バーンスタインの手書き原稿。1963年11月25日。)

 

⑤おまけ ティファニー・プーン Q&A

TiffanyのQ&A動画からダイジェスト版をお届けします。

<質問>ズバリ、何時間練習しますか?

2時間から3時間。最高6時間。何時間練習するかはそれほど問題にならないとのこと。そうそう、「一日の音楽の勉強を終えてつかれを感じたら、もうそれ以上、無理に弾かないように。悦びもいきいきした気持もなしにひくくらいなら、むしろ休んでいる方がいい。」とはシューマンの言葉。*10

<質問>イヌ派?ネコ派?

イヌ派からネコ派に転向したそう。インスタグラムには、友人のネコPeanutの写真がアップされています。

https://www.instagram.com/p/BYih9WuAmFs/?taken-by=tiffanypianist

ところで、動画やインスタグラムには時折、ぬいぐるみのブタさんが登場します。

https://www.instagram.com/p/BgENtDsF887/?taken-by=tiffanypianist
https://www.instagram.com/p/Bd8GHt6ARks/?taken-by=tiffanypianist

 

<質問>ピアニストは小さい頃何を弾いてたの?

ピアニストが幼少期にどんな曲を弾いていたのか、誰しも気になるところ。Tiffanyはそんな疑問にも答えています。

Tiffany Talks: Beginner Pieces? + ANNOUNCEMENT

可愛い表紙の子供向け教本からバッハのインベンション、ベートーヴェンのソナチネなど、Tiffanyもまた、多くのピアノ学習者と同じ道を通ってきたのですね。チェルニーや、クラーマーの練習曲も登場しますが、楽譜はピカピカ、開けば中身は真っ白。全然弾かなかったようです。親近感が湧くのは私だけ?

・15年ぶりの「エリーゼのために」

お店のピアノを見ると、昔習った曲を弾きたくなるのが人の情。Tiffanyもやっています。曲はご存知「エリーゼのために」。弾くのは15年ぶりとのことですが、その出来や如何に。

First HK Meet Up, Food, No Chopin?! | Tiffany Vlogs #03 (6:12~)

こちらはトイピアノを叩く2歳のTiffany。

https://www.instagram.com/p/BWcyIF2guZN/?taken-by=tiffanypianist

鍵盤に夢中になる姿はあまり変わっていないような…

 

*10 『音楽と音楽家』吉田秀和訳 岩波文庫 2007年

参考:
ホームページ:http://tiffanypoon.com/(開くと音楽が流れます。音量注意。)
YouTube: https://www.youtube.com/channel/UCJCQQIPzVfLpZTfiKIP3KQg
Twitter: https://twitter.com/Tiffanypianist
Facebook: https://www.facebook.com/tiffanypoonpianist/
Instagram: https://www.instagram.com/tiffanypianist/
Patreon: https://www.patreon.com/tiffanypoonpianist

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